
2025年9月時点で、万博会場・夢洲に乗り入れていた定期旅客船は以下の通りだ。
ユニバーサルシティポート~夢洲(ユニバーサルクルーズ)
ユニバーサルシティポート~夢洲(岩谷産業)
中之島GATEノースピア~夢洲(ユニバーサルクルーズ)
堺旧港~夢洲(ユニバーサルクルーズ)
淡路交流の翼港~夢洲(パソナグループ)
夢洲桟橋から万博西ゲートへはシャトルバスに乗る。ユニバーサルシティポートは、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の近くにある。大阪市内中心地に近いのは、中之島GATEノースピアしかない。しかも、中之島に乗り入れている船舶会社は、ユニバーサルクルーズしかないのだ。
さて、旅客船はどの程度、利用されているのだろうか。万博協会発表の大阪・関西万博来場者輸送実績(4月13日~8月9日)を用いる。万博来場者輸送実績は、交通手段別に利用割合が示されている。4月13日~8月9日における1日平均利用客での船シャトルバスが占める割合は、0.18%(1日平均240人)である。全交通手段の中で、船シャトルバス(旅客船)が最も利用率が低い。
週別で見ると、4月13日週~6月29日週までは、0.1%台~0.2%台で推移。7月6日週~8月3日週までは、0.3%台だった。
旅客船低迷の理由は運賃にある。ユニバーサルクルーズ運営の定期船の運賃(往路)は、ユニバーサルシティポート~夢洲間が2,000円、中之島GATEノースピア~夢洲間が2,400円だ。さらに、岩谷産業の水素船「まほろば」だと、ユニバーサルシティ~夢洲間(片道)は3,000円だ。いずれも、鉄道よりも倍以上もする。
旅客船の運賃が高額な理由として、夢洲桟橋の使用料金が挙げられる。万博協会発行の「夢洲北岸浮桟橋利用の手引き」によると、夢洲北岸浮桟橋の利用料金は、20,000円(小)~38,500円(大)もする。岩谷産業の船「まほろば」の定員が、150名であることを考えると、桟橋使用料の割高感を実感できるのではないか。
これでも、7月1日から値下げとなった。6月30日までのユニバーサルクルーズの運賃(往路)は、ユニバーサルシティポート便は2,800円、中之島便は3,300円だった。また、値下げと同時に、西ゲート優先レーンを設けた。その効果もあってか、先述したように、7月6日週から0.1%プラスとなった。
先ほどのデータを見ると、地味な印象がある夢洲直行の旅客船だが、実際は異なる。夢洲に乗り入れる岩谷産業の「まほろば」は、日本初の水素で動く旅客船なのだ。つまり、「動くパビリオン」といえる。万博への定期船の中で、「まほろば」の利用実態が気になった。実際に乗船して、「まほろば」の利用実態、ならびに魅力と課題を探ってみた。
「まほろば」は毎日運航ではなかった。ユニバーサルシティ~夢洲間の運航は、火曜日、金曜日、土曜日に限られた。そして、天候に左右される。私は9月13日の乗船を試みたが、天候不良により、欠航・キャンセルとなった。この日は雨は降っていなかったが、波浪注意報が発令されていた。係員に聞くと「頻繁に天候不良により欠航はない」とのことだった。船体の大きさのせいか、新技術のせいか、わからないが、天候には左右されやすい、といえる。
9月20日、ようやく「まほろば」に乗船した。ユニバーサルシティポート13時35分発、夢洲行きの便だ。ユニバーサルシティポートで待っていると、「まほろば」は滑るように船着場に着いた。先述したとおり、「まほろば」は水素船、つまり水素燃料電池船である。燃料電池で発電した電気とプラグイン電力のハイブリッドで航行する。燃料電池では、水素と空気中の酸素の化学反応により、電気を生み出す。そのため、エンジン音はなく、船体から匂いはしない。
「まほろば」に乗り込んだのは、70~80人といったところ。万博とセットにしたツアー客も見かけた。「まほろば」の定員は150名のため、乗船率は50%~60%といったところだ。想像以上に乗船客は多かった。
13時35分、「まほろば」が出航した。入港時と同じく、エンジン音がなく、安治川を滑るように航行する。アプリで計測すると、時速は16キロほど。「まほろば」の最高時速は約20キロのため、最高時速に近い速度で航行していることがわかる。
※筆者撮影
しばらくすると、天保山渡船場を通過した。大阪市には市が運営する渡船場が、8ヵ所もある。天保山渡船場はそのうちの一つだ。安治川を渡り、市民の足として親しまれている。渡し船は「まほろば」よりも小型である。ちょうど、昭和と令和の旅客船の共演といったところだ。
※筆者撮影
「まほろば」は海遊館を横目に、大阪湾へ出た。ユニバーサルシティポートを出て25分後の14時ちょうどに夢洲船着場に着いた。万博会場のせいか、「まほろば」の周辺では、海上保安庁のモーターボートが見られた。船着場から西ゲートの間はバス輸送だった。バスは水素バスではなく、一般的なエンジン車であった。
「まほろば」は思いのほか人気を博しており、正直言って驚いた。冒頭に述べた船シャトルバス(旅客船)の低迷は、旅客船そのものの低迷というより、輸送力の問題もあるのだろう。また、「まほろば」は毎日運航ではないことも大きい。
「まほろば」に乗船すると、水素船が走り回る大阪の姿も見たくなる。一方、課題も見えてきた。ひとつ目に中之島にある船着場の調整が必要なことだ。本来、「まほろば」は中之島~ユニバーサルシティポート間、ユニバーサルシティポート~夢洲間を航行する予定だった。しかし、中之島GATEサウスピアにおいて、技術的な問題が発生し、「まほろば」の中之島乗り入れは幻となった。「まほろば」公式ホームページには、「安全航行のため就航を断念」とある。中之島GATEサウスピアがオープンしたのは2025年4月のことだ。岩谷産業側と十分な調整がなされてきたのか、なぜ直前に運行中止になったのか、疑問が残る。
先ほどの夢洲船着場の使用料の高さもあるが、各所の調整の難しさが付きまとう。
※筆者撮影
二つ目はコストだ。やはり、ユニバーサルシティポート~夢洲間、片道3000円は高い。現在は物珍しさから乗船しているが、運賃の高さを考えると、普段使いは難しい。これは「まほろば」の製造コストも関係するのだろう。3月24日付けの日本海事新聞において、岩谷産業は「まほろば」の課題として、製造コストを挙げている。なお、東京での海上通勤輸送「TRY舟旅通勤」の運賃は、片道900円である。
三つめは大阪市内の中心地に船着場を設置できるか否かという点だ。中之島GATEノースピアは、JR大阪環状線野田駅の近くにあるが、どちらかというと大阪市内の西の外れに位置する。淀屋橋や肥後橋に「まほろば」が乗り入れると、おもしろい。
いずれにせよ、「まほろば」自体は本当にすばらしい船だった。海上交通の可能性を広げる存在になるのではないか。
(撮影・TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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