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データ分析・生成AIは土台づくりからはじめる『データマネジメント仕組みづくりの教科書』を読む––マスクド・アナライズの書評1本勝負

         

データ分析が話題になり、データサイエンティストがセクシーな職業と言われたのも大昔。当時から問題となっており、そして生成AIブームになっても共通の悩みがあります。組織におけるデータの管理は昔も今も問題となっています。経営者は費用をかけたデータ基盤が活用されず不満を持ち、現場の担当者は使いにくいデータを利用する気も起きず、情報システム部門は苦労の割に文句ばかりで疲弊するという構図があります。このような状況に陥っている企業も多いのではないでしょうか。そこで今回紹介する書籍「データマネジメント仕組みづくりの教科書」を参考にして、会社全体が一つのチームとしてデータ活用に取り組む土台作りを目指していきましょう。

本書はこのような構成となっています。

Chapter1 「今日の残業」をゼロにするデータ活用術
Chapter2 「最後の砦」の番人から価値創造の「司令塔」へ
Chapter3 経営の羅針盤をデータで示す
Chapter4 データマネジメント 「仕組み化」の「全体像」
Chapter5 7つの武器 データ活用プロセス管理
Chapter6 7つの武器 データアーキテクチャー管理
Chapter7 7つの武器 マスターデータ管理
Chapter8 7つの武器 データセキュリティー管理
Chapter9 7つの武器 データ品質管理
Chapter10 7つの武器 メタデータ管理
Chapter11 7つの武器 データガバナンス
Chapter12 AIの真価を引き出すのは
Chapter13 AIに仕事を奪われるのではなく
Chapter14 データ活用を文化に変える

データの重要性は増すばかり

これまでのデータサイエンティスト、ビッグデータ、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール、見える化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、生成AIなどの話題がありますが、共通点はデータが重要であることです。一方でデータ活用に必要な準備が進まず、環境づくりがおろそかになっていました。こうした背景には組織として業務担当者、データ管理者、経営者という異なる立場における取り組み不足がありました。本書では三者の溝を埋めるため「One Team(ワンチーム)」として形を提示しながら、組織としての土台づくりから必要であると示しています。立場は異なってもそれぞれ取り組みが必要であり、データ活用を「他人事」から「自分事」と捉える重要性を示しています。

データ活用が進まない組織にありがちな例として、Excelで関数などを使わず面倒な手作業を繰り返したり、データ入力作業は手間がかかるため敬遠されるなどの事例が挙げられています。このような価値を生まない作業に囚われて、データ活用や価値創造に進めないという状況は見覚えがあるでしょう。こうした状況に対する処方箋として、本書では特徴的な考え方を紹介しています。データ活用の司令塔になるための三つの心得として、「データの守りを極める」「活用の質を見抜く」「ムーブメントを仕掛ける」という点が解説されています。それぞれ「データの品質や安全を守る」「データ活用で定量・定性でアプローチ」「先駆者を育てて文化を醸成する」という目的が掲げられています。まず何をすべきかという活動指針として、わかりやすい目標と言えるでしょう。

一方で組織の縦割り・サイロ化によって、データ活用が進まない現状もあります。そこで経営者が明言してデータの壁を取り払うなど、事例を交えて解説されています。こうしなければ多角的に分析できる環境が作れません。勘と経験に頼る組織もありますが、人材は異動や退職などのリスクがあり、事業継続のためには属人性を減らすことも必要です。こうした能力を育成するのは大変で、時間もかかります。いわばデータ管理を進めることは、人材育成を行いながらノウハウの再現を実現を目指すことであり、データ整備によって短時間で実現することも期待できます。 また、昨今話題に上がる生成AIに学習させるデータとしても、社内で正しく準備しなければいけません。こうしたデータ環境を整備することで、声が大きい人や社内で影響力が強い人の意見が通るのではなく、客観的な事実に沿って意思決定できる組織につながります。

データマネジメントを仕組み化する7つの武器

ここまで解説した目標となるデータ環境づくりを実現するべく、7つの武器が紹介されます。それぞれ「データ活用プロセス管理」「データアーキテクチャー管理」「 マスターデータ管理」「データセキュリティー管理」「データ品質管理」「メタデータ管理」「データガバナンス」について、解説されています。これらの解説ではレストランやF1レースに置き換えて説明するなど、経営者や業務担当者などにもわかりやすく説明されているのが特徴です。データ活用は情報システム部門やエンジニアだけでなく、社内全体で取り組む必要があります。こうした背景もあり、役職や業務を問わず幅広い立場の人にとって読みやすく理解が進む点が本書の強みであります。

おかげでデータマネジメントとしてPDCAサイクルによる改善を繰り返して価値を持つデータを残すというサイクルも伝わりやすく、データが増えすぎる点の問題を回避するなど注意点も把握できます。その上でデータ活用、分析、学習を実現する組織づくりについては、図を入れながら詳しく解説されています。エンジニア向けの技術的な内容も含まれますが、普段はデータと関わらない人にとっても、「データ基盤とはどんな環境なのか?」「データ基盤にどんな準備が必要か?」などのイメージが伝わる図解が多いので、経営者や業務担当者からの要望に対して説明するために用いても良いでしょう。こうした説明に必要な手間を省くという意味でも、本書は価値があります。さらに組織全体における取り組みとして、データを集めるだけでなく、データを集めて価値あるものを作る仕掛け作りについて一連の解説が行われています。合わせて、社内向けガイドラインとして文書化についても解説されています。こうしたルール化や文書化を行うことで、「誰が何をすべきか」「困った時はどうすべきか?」などの疑問に答える準備にもなります。こうした意味で文書化は重要です。

組織全体におけるデータ活用は掘り下げて解説されており、アーキテクチャの設計思想など技術的な概要や、マスターデータとトランザクションデータの解説、データ標準化における決められた形でのデータ管理など、技術的な要素も含めて解説されています。特に手間のかかるデータクレンジングにおける表記ゆれや欠損値の扱い、名寄せやマッチングなど、社内の既存データベースに起因する課題点も紹介されています。前述のように技術的な内容はエンジニア以外の人にもわかりやすく書かれており、イメージを掴むには十分です。エンジニアにとっては必要に応じて、技術書などを参照すればよいでしょう。重要なのは、経営者、業務担当者、データ管理者という異なる立場においても、お互いが理解できる共通認識を作ることです。

現在も将来も必要なデータ整備

昨今における情報漏えい対策やサイバー攻撃や不正アクセスなどを考慮して、安全性についてもページを割いて解説されています。安全性は重要ですが、ルールで縛りすぎて不便になれば、現場のデータ活用を阻害してしまいます。適切なコントロールとしてのアクセス権限や、個人情報や機密情報の適切な扱いも検討すべきでしょう。安全性という観点からは、間違ったデータによる間違った回答が起こる点も考慮されており、古いデータや間違ったデータの発生も避けられません。そこでデータの品質管理として、利用者が安全に使える状態を適切なコストで確保することを解説しています。こうした現実的な解決策を提示することで、理想論に偏りすぎず現場で実現できるプランを提示している点も本書の特徴です。

メタデータやデータガバナンスなど、旧来のデータ管理では言及されなかった分野にも解説が割かれており、今の時代に必要なデータ基盤における知識を取得できます。データをより便利かつ安全に利用するには必須となる項目なので、理解が必要です。現在のIT事情に合わせた内容として、AIの真価を引き出すために整備されたデータが重要となる点も1章を割いて言及しています。2024年頃から生成AIに自社の独自データを学習させる取り組みが増えており、問い合わせや業務支援などにおける利用が注目されています。一方で期待された性能が出せず、原因にはデータの品質に問題がある事も指摘されています。さらに「AIエージェント」と呼ばれるAIが自律的に業務を行う仕組みも期待されているものの、こちらも同様に質の良いデータが必要不可欠です。そのためのデータが社内で正しく管理されておらず、生成AIの活用が進まない背景もあります。ここまで説明したデータ整備は、生成AI時代においても重要であることが伝わります。将来において人間でしか再現できない特殊な技術を再現したり、成績の良い営業担当の話し方を分析するなどの取り組みを生成AIで実現するためにも、本書におけるデータ整備の重要性が伝わっていると思います。

データ整備によって無駄な仕事から解放される

昨今の論調として「AIに仕事を奪われる」という懸念があります。AIの進化で人間が行っている仕事がAIに取って代わられるという現象です。一部においては既にAIは人間の能力を上回っており、こうした不安を感じるのも当然でしょう。一方で、人間が行う必要がない作業も多いのが現実です。例えば毎週行われる営業会議のために、売上や費用など複数のデータを集めてコピーと貼り付けを繰り返しながら資料を作るのは人間が行うべき作業でしょうか。単純で繰り返し行われる作業は人間がやるべきことではありませんし、あなた自身がやるべき作業でもありません。このような作業はAIに任せるべきですし、データ整備を行っておけば必要なデータをすぐに取得することができます。さらに初心者には難しいデータの可視化・見える化に加えて分析まで事前に行っておけば、会議において精度の高いデータを元に話し合いができます。本来時間を割いて取り組むべき業務とは、人間でなければできない業務ではないでしょうか。デスクワークが中心のホワイトカラーにおける生産性の低さが問題視されますが、価値を生まない単純作業に時間を取られている面もあります。データを整備しておけば、集計、可視化、分析などをAIが自動的に行ってくれます。人間はデータだけでは見えない部分を発見したり、AIでは行えない取引先へのフォローなどを行うべきでしょう。そしてデータやAIは人間の仕事を奪うのではなく、人間がデータやAIを活用してより大きな成果を出すためのパートナーという立場です。

本書では最後にリーダーシップによって人を動かしながら、日々の業務に取り組む読者を主人公として紹介しています。今までの当たり前に疑問を持たずこなしてきた業務において、データが整備されていれば新たな形で取り組むことができます。もっと楽に、もっと楽しく、もっと有意義に働くためには、データ整備がカギになると言っても良いでしょう。本書の作者は株式会社データ総研の社長とシニアコンサルタントです。長年に渡って企業におけるデータについて携わってきた立場として、現場や情報システム部門だけでなく経営者の視点に沿って書かれています。技術ばかりでなくビジネスだけでなく、それぞれの立場においてバランスよく理解できる説明となっており、冒頭に説明したように社員全員が読みやすい内容となっています。そして今や会社で仕事を進めるうえで、直接間接問わずデータと関わらない人はいません。社内のあらゆる人材が関わるデータにおいて、今一度真剣に取り組むためのきっかけとして業務や役職を越えて立場で、「データマネジメント仕組みづくりの教科書」を一読すべき時代が到来しているのです。

データサイエンティストブームの頃、データ基盤の整備を提案しました。
第三次AIブームの頃、データ基盤の整備を提案しました。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)ブームの頃、データ基盤の整備を提案しました。
そして生成AIブームの現在、データ基盤の整備を提案しています。
今こそ逃げずに、データ基盤の整備に向き合うタイミングなのです!

データマネジメント 仕組みづくりの教科書
小川 康二 (著), 仲程 隆顕 (著) – 2025/9/19

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特集|マスクド・アナライズの書評1本勝負

“データサイエンス界の東京スポーツ”がリングイン!

覆面AIコンサルタントのマスクド・アナライズが、巷に溢れる書籍を現場目線でジャッジ。AI・データ分析プロジェクトの最前線で戦ってきた男が選ぶ、本当に使える一冊はどれだ?

流行りの技術か、本物の知見か――忖度無用のガチンコ書評、一本勝負!

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