自社のIoT化に着手したいけれど、予算はかけられない。
そんなとき、役立つのがRaspberry Piです。IoTに興味を持つ方なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?しかし、どんなことができるのか、思わぬつまずきはないかと手を出せずにいる方もまた多いはず。
そこで本記事ではRaspberry Piとはなにかという基本から、できること、始める際の注意点まで、ラズパイスターターキットともいうべき知識をまとめてご紹介します!
Raspberry pi(ラズパイ)はイギリスのラズベリーパイ財団によって開発されたプログラミング教育用の小型コンピュータです。
その価格は非常に安価でなんと600円台(5米ドル)から購入することができ、最新モデル・搭載メモリー最大の「Raspberry Pi 4 Model B 4Gバイト」でも6,000円代(55米ドル)で手に入ります。
2012年2月に発売開始されたRaspberry Piは、リーズナブルで小型にも関わらず通常のクライアントPCとしての利用から電子工作まで活用の幅が広いという利点から教育機関のみならず人気を博し、2019年2月時点で累計出荷台数2,500万台に達しました。
特にセンサーやモニターと組み合わせることで簡単かつ低コストにIoT機器の開発を進められるということで、ものづくり業界で盛んに用いられています。
最初に紹介するのは「キュウリ選別用AI」にRaspberry Piを利用した事例です。
静岡県で年間出荷数63トンの小規模キュウリ農家を営む小池誠さんは、長さ、太さ、曲がり具合、傷などによってキュウリを分類する作業に長い時間が割かれることを課題と感じていました。
そこで開発されたのがRaspberry Pi3とWebカメラ、制御用ソフトウェア「OpenCV」、機械学習ソフトウェア「TensorFlow」などを組み合わせた“キュウリ選別用AI”。
上の映像はその試作3号機です。
モニターテーブル上にキュウリを置くだけで「等級」「正確さ」「長さ」が瞬時に判別・表示されます。認識率は8割近く、1.4倍の作業スピードアップにつながったとのこと。
小池さんは自サイトWorkpilesにてRaspberry PiやTensorFlowを活用したさまざまな試みを発表しています。
愛知県碧南市で自動車部品の製造を行う旭鉄工株式会社は、生産設備から稼働状況や生産個数、停止時間といったデータを取得する「サイクルタイムモニター」「iスマートあんどん」といった機器を自作し、年1億円以上の労務費の削減といった成果につなげました。
そのデータの受信機として活躍していたのがRaspberry Piです。
同社の木村哲也社長は秋葉原でラズパイ本体と教本を購入し、試行錯誤を繰り返して一歩一歩工場のIoT化を進めたとのこと。大がかりなコストをかけなくても地道に取り組むことで理想的なIoT環境を迅速に構築できる好例といえるでしょう。
以下の動画にて工場内でIoTシステムが活用される様子を確認できます。
現在では安定性や耐久性の観点からラズパイではなく産業用のゲートウェイを使用しているそうですが、実験段階においてラズパイはコスト・スピードの面からも理想的なツールだったと言えるでしょう。
旭鉄工株式会社とそのIoT化の歩みについてより詳しく知りたい方はコチラをご参照ください。
ここまでで「早速ラズパイを購入しよう!」と思い立った方に向けて、スタート時に知っておくとよいポイントをご紹介します。
ラズパイ本体だけを手に入れたからといってIoT機器の開発が進められるわけではありません。起動させ、開発を進めるには以下のような周辺機器が必要です。
すべてが一台ずつに対して必要というわけではなく、キーボード、マウス、ディスプレイ(テレビ)、HDMIケーブルなどは使いまわせます。また、Raspberry Pi 4 Model Bなどのモデルは設定後、Bluetooth接続・無線LAN接続も可能です。Raspberry Piのケースは絶対に必要なものではありませんが、基盤がむき出しのためあった方が無難でしょう。
周辺機器と本体を手に入れたら、公式サイトからOSをダウンロードし(ダウンロードページ)初期設定を進めることになります。
ラズパイで電子工作を行うには、プログラミングを避けては通れません。ラズパイの開発で用いられるプログラミング言語には以下のようなものがあります。
ラズパイでプログラミング学習を始める際、有用なのが「Scratch」というRaspberry Piの公式OS「Raspbian」に標準装備されたプログラミング言語です。通常プログラミングは「print()」といったテキストを記述することで行われるのですが、Scratchは開発画面でアイテムをドラッグ&ドロップするだけでプログラムを作成できます。
実際の開発ではテキストベースの言語が必要になってきますが、初心者がプログラミングの基礎の基礎を学ぶには便利です。
ラズパイはリーズナブルな価格にして高性能なコンピューターですが、産業用PCほどの安定性は持ちません。
特に電源周りとSD/microSDによるメモリー管理に脆弱性があるため、遅延や停止が許されない制御機器などには用いられない傾向にあります。そのためラズパイは、失敗のリスクが少ないPoCや見える化で用いられることが多いです。
またネットワークにつながっている以上、ラズパイにはサイバー攻撃リスクも存在します。2019年6月にNASA(米国航空宇宙局)のJPL(ジェット推進研究所)から研究データが盗まれた事件は、JPLのネットワークに無許可でラズパイが接続されていたことで起こりました。
このような事態を防ぐためには、ラズパイの運用ルールと管理体制をしっかりと構築しておく必要があります。
IoTを安価・簡単にDIYしたい方の強い味方、Raspberry Piの基本をご紹介しました。
もともとは教育用機器として作られたラズパイですが、2016年時点で400万台中の200万台と半数が産業用として用いられています。その流れを組んで、産業界で使いやすいようスペックも更新されてきました。
ぜひまずは簡単なDIYからでも、Raspberry Piをはじめてみてください!
(宮田文机)
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