CxOと総称される役職は、企業のさまざまな業務領域の責任者として、組織内部の調整に当たるものが多い。例えばCFOなら財務領域、CIOは情報システムや情報活用、CDOはデジタル、そしてCHROは採用を含む人事労務をそれぞれ担当。COOは、それらのバランスを調整し、日々の業務執行の責務を担う立場だ。そして最終的な方向決めや意思決定を行うのがCEOだ。大企業の場合は、会長がCEO、社長がCOOを兼務するケースもよく見られる。
幅広い業種の経営・事業戦略、営業、マーケティングなどのコンサルティングを手がける株式会社リブ・コンサルティングの常務取締役である権田和士氏は、noteで『CRO Hack』を運営するなど、CROの啓蒙活動を積極的に行っている。同氏は、CROという役職の重要性について次のように話す。
「COOとCROはどちらも会社全体を見る立場ですが、COOは『内部最適』の視点が強いのに対して、CROは『外部最適』の視点が強い点で大きく異なります。現在は、市場の環境が目まぐるしく変化しています。企業は既存の市場や顧客に過剰に依存するのではなく、顧客創造に取り組んで新たな成長の源泉を開拓していく必要があります。そのためには、組織の内部最適に閉じていては何も始まりません。自社が顧客や市場からどう見られているのかを知り、ターゲットと定めた顧客に向けた価値を創造し、最終的に自社の収益に結びつけるには何をすべきかを考える。そのためにCROは、社内の各領域や事業部門に横串を通し、レベニューという全社的な目標の達成に導いていく役割を担っているのです」
そもそも権田氏が、CROという存在に着目した背景には、自身の20年以上にわたるコンサルタントとしての経験を通じて、レベニューの重要さを実感したことがあるという。前職のコンサルティング会社では、執行役員として部門のレベニュー全体の管理を担い、2012年に創業役員としてリブ・コンサルティングの設立に参加してからは、マーケティングやセールスも含めて「どうやって数字をつくるか」に全力を注いできたと明かす。
「これから会社をつくっていこうというときに、何が一番の課題かというと、どうやってレベニューを伸ばすか、いかにグロース(成長)するかです。経営効率を考えるのはもう少し安定してからの話で、最優先事項はどうやって売り上げを伸ばしていくか。それは本当に時間との闘いで、例えるなら、手渡された砂時計の砂が落ち切るまでに、ある程度の地点まで到達しなくてはいけない。そして到達したら、少し大きくなった砂時計が手渡される。この連続です」
スタートアップや中小企業は、その日その日に稼ぎ出した収益を、次の打ち手に投資していかなくてはならない。CROはそのための陣頭指揮をとるリーダーであり、なおかつ戦略にレベニューという燃料を投下し続ける役割でもある。そのため「最適な燃料の投下先」を判断する力が必要となる。
「アメリカ留学中にコンビニエンスストアを利用したとき、店員の対応に不便さ(不満)を感じ、日本のコンビニエンスストアは圧倒的にオペレーションに優れていると感じました。これはコンビニエンスストアに限った話ではなく、3年間の滞在期間中におけるあらゆる顧客対応で実感するものでした。日本企業は一般的にオペレーションをとても大切にしています。では、日本企業の方が経営的に優れているのかというと、必ずしもそうとはいえないでしょう。この違いはどこにあるか、それは『経営判断』にあると気づきました。日本では、店員の対応に「いまいち」な点があれば、すぐに『社員教育をしよう』となりますが、アメリカの方は、『他に優先すべきことがあるから、そのままで良い』と、ROI観点から割り切っているのです。全ての課題に満遍なく対応するのではなく、優先順位をつけ、優先度の高いものに投資を集中させているのです。その判断自体がいいかどうかは別として、このような選択と集中こそ『経営力』であり、多くの日本企業に不足している視点だと思います」
CROが考えた市場戦略や対顧客戦略を、社内の各事業部門に落とし込んでいく際には、「RevOps(レブオプス)」と呼ばれるアプローチが効果的だ。RevOpsとは「レベニューオペレーション」の略であり、「組織全体の収益増加」などと訳される。RevOpsでは、営業や販売、企画、マーケティング、そして経理・財務といった各業務部門が連携しながら、売り上げや収益の増加に向けて取り組む、全社横断的なアプローチが特徴的だ。
「CROが何か顧客に対して最適なアプローチを考えて、各業務部門に協力を要請しても、RevOpsの認識がないと、部門ごとに『点』で顧客と接するばかりで、いくら部門を増やしても単純な『足し算』にしかなりません。そうではなく、全部の業務部門が足並みをそろえて連携・協業することで『掛け算』を生み出し、面で顧客に向き合うことが顧客価値の最大化につながります。そのためにどうしたらよいかを考えるのもCROの仕事です」
CROのリーダーシップのもと、顧客価値を高めて収益の最大化につなげていくRevOps組織。だがRevOps組織なるもの、日本ではまだまれな存在だ。とりわけ大企業では、既存の縦割り組織ががっちりと各自のテリトリーやリソースを守っており、一口に全社横断の連携といっても実現は容易ではない。RevOps組織の具体的なイメージは、どのようなものなのだろうか。
「RevOpsが注目されるようになった背景には、やはり時代の変化があります。例えば営業部というのは『現在の売り上げ』が第一で、将来の売り上げをつくるためのR&Dのような部門は持っていませんでした。営業企画部や営業推進部はあるものの、基本は現在の売り上げ促進を支援する役割でしかありませんでした。」
ところが時代が変わり、モノが売れなくなってきた。そこで、慌てて営業企画部や営業推進部が営業部をサポートしようとしても、なかなかうまく機能しない。「そこでRevOpsのための組織が、新たに必要になってきたというわけです」と権田氏は説明する。
とはいえ、いきなり全社横断の組織をつくるのは難しい。これからRevOpsにチャレンジしようという場合、どのような手順で始めるべきだろうか。権田氏は「営業企画や売り方の開発を行う、営業の実験的組織をつくるとよいでしょう」と提言する。もともとRevOpsは、収益最大化のための全社的戦略をつくっては試し、効果を検証して、その結果を次の戦略にフィードバックするという、いわばレベニュー戦略のPDCAサイクル的なアプローチだ。
「実験チームなら、失敗を恐れず試してみることができますし、そういう体制があれば、今後どんな新しい課題が来ても、慌てずに対処法を実験すればいいのです。そうして少しずつ現在の価値の最大化を試みていく。目の前の小さな売り上げを稼ぐ仕事ではなく、未来の大きな売り上げをつくっていく組織を会社内に持つのです」
特に、日本の大手企業の営業企画部というのは、営業現場に頼まれた資料や提案書作成のような仕事に忙殺されている例が頻繁に見られる。それを今後はRevOpsの視点から、未来につながる仕組みやビジネスモデルをつくる方向へと変えていく必要があると、権田氏は強調する。
さらに権田氏は、RevOpsの実験組織をつくる上で有効な「武器」として、デジタルデータを挙げる。例えば営業の場合、営業担当者の経験値や顧客ネットワークはさまざまであり、どうしても属人化に陥るリスクや、部署内でのサイロ化やブラックボックス化を招きがちだった。それがデジタルデータを中心にした運用となれば、容易に、そしてほぼリアルタイムで情報の共有・活用が可能となる。閉じ込められていたデータが開放されれば、全社の誰でも必要なデータを取得して、顧客や業務が今どんな動きをしているのかを把握できるようになる。
権田氏は、営業の生産性向上に資する具体的な道筋も提示する。
「営業の生産性を向上させる際の主なハードルは何でしょうか。私は、主に『目に見えない』要素と『相手が人間である』という事実、この2点を挙げます。これらの課題を解決するために考案したのが、『購買心理×セールスステップ』モデルです。(上図の通り)横軸にはカスタマージャーニーを、縦軸には購買心理のプロセスを配置しています。このモデルは、調査・データ分析の結果から得た、『人(の趣向や状況など)はそれぞれ異なるが、商品を購入する際の心理的プロセスはある程度、プロセス化することができる』という気づき(発見)をもとにしています。いわゆる営業の秘訣のようなもので、顧客の購買心理のステップに合わせてセールスステップを進めることが、成功への鍵となります。
この顧客の購買心理のステップ一つとっても、ブラックボックスを解消しようとさえ思えば解消できるし、営業やマーケティングの最適解を高い精度で得られるようになっていきます。この結果、セールスという役割にはこれまで関わりがなかったような多彩なデータがRevOps視点で集まってきます。そうした新たな現象が、さまざまな企業で起き始めています。この膨大なデータをうまく活用しながら、いかに社内の世代間・部門間ギャップを超えてRevOpsを展開していくかが、CROを含む他の経営陣にとっても非常に重要になってくるでしょう」
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/工藤 編集:野島光太郎)
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