宮西 京華(みやにし けいか)
保険会社で事務職をやっているデータマネジメント担当。歌い手動画を見るのが好き。
松田 紗友里(まつだ さゆり)
マーケティングが専門でSQLが得意。データ分析担当。ゲームやアニメが好き。
今林 健介(いまばやし けんすけ)
新設のデータ活用推進部署の部長。おいていかれないように勉強中。ゴルフや登山が好き。
データマネジメント解説、連載の第12回が始まりました。
さて、組織のMVVを決める集中討議が始まりました。今回の話はMVVの中でも「バリュー」を決める時の話です。
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会議室のホワイトボードには大きく「MVV」と書かれていて、その周りには「Mission」「Vision」「Value」といった単語が並んでいる。
視線を彷徨わせていると、司会役の松田先輩が柔らかな笑みを浮かべながら議論を進めていく。
前回の会議で「ミッション」を何とか決めたので、今回はその続きとして「バリュー」を定めることになった。
会議室のホワイトボードには「Value」とだけ書かれ、その下には何も書き足されていない真っ白な空間が広がっている。
司会進行役の松田先輩が柔らかい声で話を切り出した。
「さて、最後にバリューを決めましょうか」
松田先輩は、見た目も性格もふんわりしているけれど、話す内容には一貫性があり、頼りがいがある先輩だ。それに比べて私はというと、みんなが何を話しているのかさえわからない状況だ。
「バリューって……なんですか?」
思わず素直な疑問が口をついて出た。先輩は私の反応を予想していたかのように微笑むと、ホワイトボードに向かいながら説明を始めた。
「バリューというのは、組織として大切にしたい価値観のことよ。簡単に言えば、私たちがどんな行動基準で働いていくべきかを定めるものなの」
行動基準。それを聞いて、少しだけイメージが湧いてきたけれど、まだどこか曖昧な感じが残る。
「たとえば、正直さやチームワーク、挑戦する姿勢とかね。我々の部署が業務を進める上でどのような行動基準が大事かを皆で考えるのが今回の議題よ」
と松田先輩は続けた。
なるほど。組織として大事にしたい行動基準か。
自分自身の行動基準って何だろうと考えた瞬間、頭に浮かんできたのは、推し活と仕事のワークライフバランス。
私は仕事を大切に思っているし、ちゃんとやりたい気持ちもある。でも、それと同じくらい、いやもしかすると少しだけそれ以上に大事なのが、私の「推し活」だ。
私にとってのバリューは、推し活に尽きると言っても過言ではない。
「宮西さん、何か思いついた?」
松田先輩の声で、現実に引き戻された。
「あっ……まだ考え中です!」
とっさに答えたものの、頭の中では推し活の具体的な場面が次々と浮かぶ。ライブ会場の熱気。推しが私を見てくれたかもしれない一瞬の感動。そんな瞬間が、私の人生にどれだけの彩りを加えてくれているか。
でも待て。これを会議で話すわけにはいかない。少し焦りながら、自分が組織のために考えられる「バリュー」について無理やり頭を巡らせる。
「チームワーク……ですかね?」
何とかひねり出した意見に、松田先輩が優しく頷いてくれる。
「いいわね。チームワークは確かに大事。特に私たちのようなデータ利活用推進部署では、いろいろな人と協力しないと進まないから」
その言葉に少しだけホッとした。
議論が進む中で、メンバーが次々と意見を出し、ホワイトボードの空白が少しずつ埋まっていく。
会議が終わるころには、組織としてのバリューが大体固まっていた。けれど私にとっての大事なものは何も変わらない。「仕事も大事、でも推し活も大事」。それが私の行動基準であり、価値観だ。
自分の中のバランスを保ちながら、このデータ利活用推進という未知の世界で、一歩ずつ進んでいけばいい。そんなことを考えながら、私はホワイトボードに書かれたバリューの言葉をぼんやりと眺めていた。
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バリューは、どのような価値観を大切にして行動するかを示す指針であり、日々の活動や意思決定の根幹を支えるものです。
組織全体として共有する価値観であるバリューは、言葉にすると抽象的ですが業務を進める上での具体的な行動に結びつきます。
宮西さんが自分自身のバリューとして想像した「推し活と仕事のワークライフバランス」は、日々生活する上で自分にとって何を重視して行動するのかに結びつきます。
仕事が重要であることはもちろん理解しているけれど、それと同じくらい、自分の好きなことや楽しみを大切にしたい。
その想いを持つことで、自分自身の生活の中にバランスを見出し、前向きに取り組むエネルギーを得ることができます。
これこそがバリューの役割の一例であり、組織としてバリューを策定する際も、同じ考え方が適応されます。
「組織のエネルギーの源泉はどこにあるのか」「どんな価値観に基づいて意思決定をするのか」を明確にすることで組織として前向きに取り組むことができます。
たとえば、「チームワーク」というバリューは、組織としての一体感を重視することを示すものです。
また、「挑戦する姿勢」というバリューは、失敗を恐れずに試行錯誤を重ねる勇気と、それを支える環境を組織全体で作り上げることを示すものです。
バリューを策定するプロセスでは、単に言葉を並べるだけでなく、その言葉が具体的にどう行動に結びつくのかを意識することが重要です。
宮西さんの「仕事も大事、推し活も大事」という発想は、バランスを保ちながらエネルギーを高めるという観点で、個人のバリューとしてとてもわかりやすいものです。
組織が持つべきバリューは、より広い視点から考える必要があります。それは、個人の価値観の総和ではなく、組織全体を一つにまとめ、共通の方向性を示すものでなければなりません。
宮西さんが会議の中で少しずつ考えを深め、自分の価値観と組織の価値観を重ね合わせようとする姿は、まさにバリュー策定のプロセスを象徴していると言えるでしょう。
バリューを明確にすることで、メンバーそれぞれが組織の一員としての自覚を持ち、共通の行動基準を共有できる。これこそが、バリューを策定する意義なのです。
よしむら@データマネジメント担当
IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持ち、現在もデータマネジメント担当している。データマネジメント業界を盛り上げるために、経験を通して得た知識の発信活動を行っている。
本記事は「よしむら@データマネジメント担当」さんのデータマネジメントを学べることをコンセプトの4コマ漫画「AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編」のコンテンツを許可を得て掲載しています。
保険会社で事務員として働く宮西さんは、会社がAI時代に対応するために新設したデータ部門に突然配属されました。事務員からデータマネジメントのリーダーへと成長していく宮西さんの奮闘記を描いた物語。
本シリーズ「データ組織立ち上げ編」では、宮西さんがデータ利活用組織を立ち上げるまでの挑戦を描きます。IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持つ著者「よしむら@データマネジメント担当」さんが豊富な経験を基に執筆しています。データ組織の一員の皆様には、ぜひご一読ください。
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