宮西 京華(みやにし けいか)
保険会社で事務職をやっているデータマネジメント担当。歌い手動画を見るのが好き。
データマネジメント解説、連載の第18回が始まりました。
データマネジメントの推進計画を作るためにデータマネジメント成熟度アセスメントを行うことにした宮西さん。
システム部門と業務部門からもらった情報をまとめ、アセスメントを行うことで、やっと会社の現状を可視化することができました。
・・・・・
机の上に、システム資料と業務資料を並べた。
画面にはアセスメントシート。セルが真っ白に並んでいるその姿は、まるで試験開始前の答案用紙みたいで、ちょっとだけ胃が痛くなる。
「さぁここからが本番だな」
深呼吸をひとつして、私は椅子に深く座り直す。いまからやるのは、データマネジメント成熟度アセスメントの評価。これまで集めてきた情報をもとに、11の評価軸について、現状を数値で評価していく。
その11の軸ってやつがまた難解で「データガバナンス」「データ品質」「メタデータ」絶対一度では覚えられない系の名前がずらり。
でも、松田先輩が全部を完璧に理解する必要はなく、その軸が何を意味しているかを把握して、今の状況を映すだけでいいと言っていた。
だから私は、目の前の資料を片っ端から開きながら、ひとつずつ評価を始めた。
初めてのアセスメントは、松田先輩と一緒にとりかかる。
「えっと、ガバナンスって、そもそも何なんですか」
「ルールの仕組み、かな。誰が決めるのか、どうやって守らせるのか、そういうこと」
「そういうの、ありそうな気がするけど、実態は部門によって勝手にやってる印象です」
「うん、それも一つの気づきよ。組織全体でルールが共有されてるか、それとも各部門でバラバラか。それが成熟度の判断基準の一つになるから」
「じゃあ2ですかね。仕組みはあるけど、全社統一ってほどじゃない、みたいな」
「その感覚でいいと思う」
先輩がそう言ってくれると、不思議と不安が軽くなる。
次はデータウェアハウスとビジネスインテリジェンス。資料にはDWHとかBIとか難しい言葉がいっぱい出てきたやつだ。
「この項目って、システムの構成図を見ればいいんですか?」
「構成図だけじゃなくて、どういう考えで設計されてるかが見えるといいね」
「なるほど、そうなるとシステム間で連携しているだけで統一した設計思想を感じないですね」
「それなら1か2かな。表面的な連携はあっても、全体を通しての方針が弱いってことになるから」
私はしばらく画面と資料を行き来して、やっぱり2にする。少しずつ慣れてきた気がしてくる。
次はデータ品質。完全性とか可用性とか…ナントカ性とかいっぱい出てきたやつだ。
「先輩、データ品質が確保されているって、具体的にどういう状態のことを言うんですか」
「そうね、データが正しいって保証されてるかどうかね。たとえば、数値の入力ミスをチェックする仕組みがあるか、とか、定期的に不備がないかチェックされてるかとか」
「なるほどチェックはあるけど、定期的かというと、そうでもないような」
「じゃあ、それは2かもね。やってるけど、ルールとして定着してないなら、それはまだ初期段階」
私は少しだけ唸ってから2を選んだ。
そのあとは、メタデータ、参照データとマスターデータ、データセキュリティどれも聞いたことがあるような、ないような言葉のオンパレード。でも、最初よりは要領がつかめてきた。先輩がそばでぽつぽつヒントをくれるおかげで、なんとか頭の中の霧が晴れていく感覚がある。
「メタデータって、データのデータって意味ですよね。なんか意味わからないんですけど」
「たしかにね。たとえばこのデータはいつ作られたかとか、どの部門が管理してるかとか、そういうデータに関する説明の情報が整ってるかどうかを見ればいい」
「あ、そう考えるとかなりバラバラですね。担当者の属人的な知識で運用してる感じだし。これは2ですね」
「うん、良い判断だと思う」
データセキュリティのところで、ちょっとだけ自信が持てた。アクセス権限の管理は比較的しっかりしていて、ログも残してるってインフラ系の人が言ってた。ここは3にしてみる。
ひとつずつ進めるたびに、世界の輪郭が少しずつ見えてくる。さっきまでは呪文にしか思えなかった単語たちが、徐々に意味を持ち始める。
そして、最後の軸「データアーキテクチャ」。これは迷った。会社の青写真と呼べるようなアーキテクチャはほとんど見かけなかった。
「先輩、ここって評価低くなっちゃいますね」
「それも現状を知るという意味では、大事な成果よ。むしろ正しく低く出せたなら、それは立派なアセスメント」
私は、なんとなく自分の背中をポンと押されたような気がした。最後のセルに1と打ち込む。ようやく全部の項目が埋まった。シートを保存して、画面を閉じる。
「できました!」
「おつかれさま。ちゃんとできたわね。これで、次の一歩が踏み出せるわよ」
評価の数字は決して高くはなかった。でも、そこには確かに、現実があった。そして、自分で判断したという自信が、少しだけ残った。
私はようやく、スタートラインに立てたんだと感じていた。
・・・・・
データマネジメント成熟度アセスメントはどこまでも深掘りできてしまうものなので、時間とアウトプットのバランスを見極める判断力が重要です。
成熟度アセスメントの項目は幅広く、それぞれに対して詳細を探ろうとすれば、関係する部署へのヒアリング、システムのログ調査、規定類の読み込み、実運用との照合と、いくらでも手を広げられます。
アセスメントは、理想をいえば完璧に調査して、正確に成熟度を測るのが一番です。
しかし、現実的にはかけられる時間は限られており、アセスメントによって計画を立てることが本質だという視点を持っておかないと、調査そのものが目的化してしまいます。
宮西さんのように初めて担当する立場では、つい間違ってはいけない、全部理解しないといけないと考えてしまいがちですが、実際には今わかっていること、まだ調査が必要なことを区別し、必要なら仮の判断を置いたうえで先に進む判断も必要です。そうした進め方の決断が、データマネジメントの第一歩であり、同時にとても実践的な能力です。
宮西さんがシートの最後までたどり着けたのは、完璧を求めすぎず、今出せる現実的なアウトプットを意識できたからだと感じています。
アセスメントは、あくまでも変化の出発点を知るためのものです。完璧を目指すよりも、行動のための地図を描くイメージで、ある程度の粗さを許容しながら進めることで、次のアクションへとつなげていく。それが、成熟度アセスメントの現場的な進め方だと考えられます。
よしむら@データマネジメント担当
IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持ち、現在もデータマネジメント担当している。データマネジメント業界を盛り上げるために、経験を通して得た知識の発信活動を行っている。
本記事は「よしむら@データマネジメント担当」さんのデータマネジメントを学べることをコンセプトの4コマ漫画「AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編」のコンテンツを許可を得て掲載しています。
保険会社で事務員として働く宮西さんは、会社がAI時代に対応するために新設したデータ部門に突然配属されました。事務員からデータマネジメントのリーダーへと成長していく宮西さんの奮闘記を描いた物語。
本シリーズ「データ組織立ち上げ編」では、宮西さんがデータ利活用組織を立ち上げるまでの挑戦を描きます。IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持つ著者「よしむら@データマネジメント担当」さんが豊富な経験を基に執筆しています。データ組織の一員の皆様には、ぜひご一読ください。
本特集はこちらへメルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。
30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!