2018年3月、中国から驚くようなニュースが流れてきました。
それは中国が「犯罪予知システム」を導入したことです。つまり、犯罪者が犯罪を実行に移す前に逮捕できるようなシステムを中国は国として導入したことを意味します。まるで1998年に公開された「エネミー・オブ・アメリカ」のような超管理社会が現実のものとなったのです。
このシステムを導入するメリットとして中国政府は、「犯罪を未然に防ぐことができる」という点を強調しています。しかし、このシステムの最大の問題点は「中国からの独立を考える人のいる、新疆ウイグル自治区のみに適用されている」ことです。また、未然に犯罪者として逮捕する基準についても公開されていないため、「独立運動に加担した人(またはしそうな人)を対象にしたシステムなのではないか」という疑念を払しょくすることができません。たしかに、ウイグル自治区の独立に関して一部の過激派がテロを起こすことはあり、それを未然に防ぐことは重要でしょう。しかし、中国のような一党独裁体制がこのシステムを導入することによって、必要以上に人権が侵害されてしまう「人畜管理」になることが心配されています。
そもそも、まだ起こっていない犯罪は罪に問われるのでしょうか。
刑事裁判は「疑わしきは罰せず」という原則で成り立っています。どれほど怪しい人物がいても実際にその人が犯人である証拠、もしくは自白がなくてはえん罪の可能性が捨てきれないからです。この原則は真犯人を逃してしまう可能性もそれなりにありますが、それ以上にえん罪事件を抑止するための防波堤として機能しています。つまり、刑事裁判では、原則的に犯罪を起こしていない段階(脅迫等は相手に対して外傷を与えていないかもしれないが、精神的または物理的なダメージや損害を与えている場合、罪になる)では誰も罪に問われないのです。
しかし、急速に増えているテロ事件については無差別に一般市民が大量に犠牲になるケースも少なくないため、実行に起こす前であっても逮捕するべきであるという議論がされているのも事実です。日本でも実際に「テロ等準備罪」の成立にあたっては一般市民のプライバシー保護の観点から、国会でも大きな議論がなされました。しかし、起こしていない犯罪について逮捕するべき権限をあまりにも強めてしまうと、私たちの生活において冗談のひとつもいえなくなるような息苦しい社会になってしまう可能性もあります。もちろん、犯罪の発生を未然に防ぐことは大切ですが、どこまでがセーフでどこからがアウトなのか分かりやすく明確に線引きすることが重要だといえるでしょう。
中国のシステムは「ビッグデータ」を収集し、怪しいと思われる人物に目を付けて逮捕するという方法です。ビッグデータとはインターネット上にある膨大なデータのことを指します。これらのデータは上手く活用できれば、さまざまな物が結び付けられ現在の私たちの生活は非常に便利なものになると期待されています。一方で、このようなビッグデータ活用については個人情報の問題が発生する可能性を含んでいます。個人情報は市町村や国ですら、特定の目的以外で活用することを禁止しているからです。
犯罪を抑止するためとはいえ、警察や国が勝手に情報にアクセスし、個人のプライバシーを監視してもよいのでしょうか。最悪のシナリオとしては表現の自由すら許されない世の中になってしまうかもしれません。また、どれほどシステムが完璧なものであっても、最終的に逮捕する決断を下すのは人間です。世の中には残念ながらえん罪事件というのも枚挙にいとまがありません。そのような状態で行われる、ビッグデータの活用については疑念を抱かれても仕方がない面もあるのではないでしょうか。
犯罪を未然に防ぐという目的はとても素晴らしいものです。
しかし、大切なのは民主的なプロセスを経てシステムを導入することだといえるでしょう。一人の独裁者または一つの政党のごり押しによって、これらの技術を導入するのは人権という面で不安があります。そのためには、民主主義の基本的な考え方である国民主権、「つまり国民一人一人が政策を決める権利がある」という認識を強くもち、システムを監視することが大切なのです。
さもないと、何も悪いことをしていない自分自身が、気が付くと牢屋に入れられている社会が現実のものとなってしまうかもしれません。データやツールの進化によって便利になるのは良いことですが、結局使いこなすのは人間です。国民一人一人が危機意識をもって社会やモラルと上手く融合させることが大切だといえるでしょう。これは空想の中の物語ではなく、すでに現実社会で起こっている話だということを忘れてはなりません。
(データのじかん編集部)
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