About us データのじかんとは?
※インタラクティブセッション「データ分析プロによる未来会議:データが形作る世界」の内容を要約し再構成したもの。
モデレータ:
日本シーサート協議会 理事長/SBテクノロジー株式会社 北村達也 氏
パネリスト:
三井物産セキュアディレクション株式会社執行役員 関原 優 氏
株式会社グロースX執行役員 マーケティング部門 兼 コンテンツ部門責任者 松本健太郎 氏
LINEヤフー株式会社 Data Protection Officer 中山剛志 氏
北村達也 氏(以下、北村):今は企業のDXというレベルではなく、すでに第4次産業革命のさなかにいるという認識が必要だと思います。第4次産業革命はメンタルパワーがデジタル化される革命であり、そのキーテクノロジーはデータ駆動です。蓄積されたビジネスのデータをもとにインテリジェントな解析・分析によって、よりよいビジネスや社会をけん引していくデータ駆動型社会へと進みつつあります。この社会ではCPS(Cyber-Physical System)、IoT、ビッグデータ解析、AIといった概念が重要ですが、これらを含む事例の1つに、関原さんの取り組んでいるスマートシティがあると思います。
関原 優 氏(以下、関原):私は千葉県柏市の柏の葉スマートシティのデータプラットフォームに、個人情報の取り扱いなどが適切に行われているか審議するデータ倫理審査会のメンバーとして関わっています。スマートシティでは、例えば、AIカメラを設置して、住民が街で倒れたらそれを検出し、警備員が駆けつけるような仕組みが考えられています。また病院とホテルが連携して検診を受ける前に健康状態をヘルスメーターなどで管理しながら、検診の準備をする仕組みなど、いろいろな取り組みが行われています。
そのようにさまざまな方法で得られたデータを駆動させるには、データをどう扱うのかが非常に重要です。一方、データが間違っていないかを判断するために、ベースとなる情報を蓄積していく必要もあります。
北村:データ駆動社会の一例として、観光客の人流のうち何パーセントが自分の店に入ってくれたか、そのうち何パーセントが実際に買い物したかをカメラで捉え、画像解析結果を自社保有データと連携して予測を立てたり、改善効果を計測したりしているケースがあります。これはデータの用途(目的意識)がはっきりしています。しかし一方で、データを取られる側の観点では、「自分の情報が取られるのは嫌だ」という側面もあると思います。この観点で、松本さん、いかがでしょう。
松本健太郎 氏(以下、松本):私は、マーケティング領域でデータサイエンスの仕事をしています。今の事例では、当然、お客様がデータ取得を許諾している前提だと思いますが、利用者(消費者)とデータを活用する側の両方の立ち位置から考える必要があります。例えば、先般イスラエルの空爆に関するフェイク動画が流れましたが、一部メディアがフェイク動画だと報道する中、実際にはフェイク動画ではないという説も流布されました。こうなるとデータの整合性を担保するために、誰が正誤の判定をするのかはますます難しくなっていきます。
もう1つの問題もあります。分かりやすい例では、オンラインで買い物をすると関連商品の広告が表示されるといった体験です。技術知識がない多くの人には、「何だか気持ちが悪い」と思われているかと思います。以前からの問題でしたが、いまだに有効な解決の手段がありません。
つまり、データが正しいか間違っているのかを誰が担保するのかという問題と、そのデータを使ってビジネスを駆動にする企業側が、ユーザーにどう還元するか、説明責任を果たすかという問題に対して、最適解が見つかっていない現状です。
北村:確かに、どんなにセキュアなシステムをつくっても、そこに取り込んだデータが正しいかどうかは検証できないという、ブロックチェーンのオラクル問題などもありますね。
松本:その通りです。2018年に大阪北部で地震があったときに、Twitter(現X)で大阪ドームの天井が割れているという写真が出回りました。見る角度によっては割れているように見えますが、実際には割れていなかった。写真はフェイクではなかったが、写真につけられたラベルがフェイクだった。これを機械学習するとき、写真を学習すると正しい情報ですが、写真につけられたタグを一緒に学ぶとAIの処理結果がフェイクになってしまいます。結局は、ユーザーから取得したデータを学習する側が、フェイクかどうかを正しく判断できなければ、処理結果としての情報がフェイクや使えないものになりかねないのです。
北村:非常に難しい問題ですが、実際データをたくさん集めたり、それをカーナビなどに活用したりしている提供者の立場から、中山さん、いかがでしょうか。
中山剛志 氏(以下、中山):私はLINEヤフーのDPO (データ・プロテクション・オフィサー)として、会社のデータ利活用を独立した第三者的な立場で監視し、ユーザー目線で助言する役割を担当しています。ディスインフォメーションなどを含む情報がニュースやメッセージングサービスなどを通じて拡散されていくことは、非常に深刻な社会課題です。これに対してプラットフォーマーがどう社会的責任を果たしていくかは、とても重要なポイントと捉えています。
一歩後ろに下がって考えると、データの利活用についての問題の1つは、現場で社員が日々業務をする中、一人一人が大きなリスクテイクをしている可能性について、会社が十分に理解していないことかもしれません。データドリブンの事業を展開するには、その理解は欠かせません。データカンパニーの経営は日々発生していく新たなリスクを理解する必要があると思います。例えば不祥事が発生し会社が社会的責任を問われたとき、一番重要なのは社長がそのリスクを知っていたかどうかです。記者会見で社会が納得できる責任ができるかどうかは非常に重要なポイントだと思います。データガバナンスができているか否かが問われています。
北村:データ利活用にガバナンスを効かせるというお話は、自社のデータの場合には理解しやすいですが、社会の中のデータは「公共財」ともいえます。データを活用して社会がよくなるのであれば、それはそれでいいという見方もできます。
関原:実際にビジネスの観点ではデータはどんどん利活用したいのですが、どこまでやっていいのか、ルールが明確でないことが問題です。データ取得の前に同意をとることは大前提ですが、どこまで同意をとればよいのか。
諸外国でもルールがまだ定まってない領域が非常に多い中で、例えば、私が関わっているスマートシティでは、 健康データを取る際には、ポイント還元という形で参加のベネフィットを提供しています。また直接的なメリットだけでなく、自分が提供したデータが街づくりや医療の充実などに役立てられるという目的を掲げて、「よりよい社会を実現するためにデータを預ける」というイメージを描いてもらえるような仕組みづくりをしています。
あくまで企業の営利を追求するのではなく、最初に示した目的への同意をいただいた中でデータを利活用すること、そして途中で変化する部分があれば、その都度、最初の合意の延長線上で取り直す必要があります。ルールがない中でも、次に何をしたいかを目に見える形でアナウンスしていくなどして、データ活用の正当性を確保してきた足跡を残しつつ、理解してもらえる状況をつくることに努めています。
北村:今は一歩ずつ反応を確認しながら進んでいる状況ということですね。松本さん、海外事例もご存知でしたらお教えください。
松本:中国のECで買い物をすると、それをもとに類似商品をレコメンドするだけではなく、傾向から病気のリスクを判断して保険をレコメンドするアプローチがありますが、これは問題ではないかという指摘があります。このケースで私が感じたのは、自分のデータをベースに、自分が意識していなかったことを提案されたとき、得られるベネフィットが自分の想定よりも低い場合に反発が起きるということです。
例えば、ロボット掃除機は部屋の形状などを解析し、メーカーはその解析データをもとにして機能を開発します。このようなケースは、ユーザーとしてもうれしいと思います。データを提供したことによりユーザーとしてのベネフィットが得られ、人生・生活が豊かになると思えれば、データ提供の許容度も上がるでしょう。一方で、データ提供しても付与ポイント1円分のみで他に納得感がないとなれば、自分のデータをそんなものに使われたくないと考えることでしょう。
また2017年から2018年ごろ、中国のAIが強かったときに、提供したデータが当局に監視されるということで利用のモチベーションが低かったのですが、やがて提供者側のメリットが周知されると、プラットフォームが浸透していきました。このように、浸透の鍵は、何のためにデータを使うのかを最初の段階でどれだけ提示できるかではないでしょうか。半面、データ活用側からすれば、いつ十分なデータが集まるか分からない状況で具体的なベネフィットを示すのは難しく、バランスをとることの難しさがあるかと思います。
中山:当社は合併時にLINEとヤフーのプライバシーポリシーをどうやって1つにするか、非常に複雑で中にいても分かりにくい議論を半年間やりました。同じインターネットやモバイルサービスであっても、それぞれ今までの経緯や考え方があり、その内容は異なります。ユーザーはこの新しいプライバシーポリシーに同意を求められますが、幸いに今のところ大きな批判はありません。一方で、同意いただいたとしても、ユーザーが予期できる範囲内でわれわれがデータを使っているかどうかの心配は残っていると思います。同意を得たからといって安心できる事業者はいないでしょう。
私はユーザーの予期する範囲内でしかデータは使えないと思います。GDPR(EU一般データ保護規則)では、同意を求める場合には、明確に個別の事項に対して自由意思での同意がなければ無効です。かつ、ユーザーはいつでも同意を撤回できるし、自分のデータを消去するため事業者に対して権利行使することもできます。EU以外の諸外国でもこうした考え方を参考にしており、その方がデータを活用する企業もユーザーも分かりやすいのではないかと思います。
北村:実情として、ユーザーは何に同意するのか分からないまま「同意する」ボタンを押しています。関原さんもそのようなイメージはありますか。
関原:もちろんルールが明確になればそれに従えばよいのですが、現時点ではルールがありません。ユーザーの理解が得られる範囲をしっかりと議論し、記録も残して努力義務を果たしてきたことを示すことが大事だと思います。
北村:データを守る観点では、スマートシティの場合に特別なことはありますか。
関原:環境を整備してアクセス制限・監視、アプリケーションの脆弱(ぜいじゃく)性をなくすなど、一通りのことは当然やっていますが、非常に難しいと感じるのは、データは1つの企業や団体で使うのではなく、プラットフォーム化してシェアして使うという点です。複数の企業が、それぞれ同意を取った上で共有されたデータですが、そのデータの管理責任が各社にあるので、適切に管理されているのかを担保するのが難しい。もう、データは1社だけが使う時代ではなく、複合的な利用環境全体で見る視点が必要です。技術的に対応できる部分、ルールで対応する部分、運用をデザインする部分などいろいろあります。先ほどの「どこまで許容してもらえるか」という点は、倫理審査会で審査しています。同時に、セキュリティ的な要素や個人情報管理という観点でも、それぞれ専門家のメンバーが参加する体制をつくっています。
北村:データを守るという観点で、利用者(消費者)側から見るとどうでしょうか。
松本:最近はAI画像生成が気軽にできるようになり、「イラストのテイストが明らかに私に似ている」という主張がインターネット上で盛り上がった事例がありました。スマートフォンやパソコンで創作したコンテンツがいつの間にかクローリングされてAIに学習され、知らぬうちに使われている場合は、自分がデータを提供していることすら意識することができません。
先ほども指摘がありましたが、ユーザーは早くサービスを使いたいので、データ利活用の条件をよく読まずに同意ボタンを押しているケースも多く、いずれIT消費者運動みたいなものが起きるのではないかと想像しています。
北村:自分のデータは自分でコントロールできるような仕かけにしておくことが最も安心ですが、それでは社会的に(利活用の)効率が悪くなりそうです。大量のデータを保有するLINEヤフーではいかがですか。
中山:セキュリティ関係では2つのポイントがあります。1つは、データはどんどんシェアされていく現状があり、そのような中、データが複数の会社でシェアされたとして、ユーザーが予期する安全管理措置がそこにあるのかという点です。
もう1つは、そもそも経営が会社のセキュリティ対策・体制について理解しているかどうかという点です。セキュリティは経営課題だということを、全ての経営者が理解しているのか疑問です。そのため、まずはセキュリティ状況の可視化が、CIOやCISOのミッションだと思っています。経営に関わる者がセキュリティ課題を共有し、会社が管理するデータについて現状を説明する必要があります。
北村:では最後に、これからのデータ駆動社会の未来イメージと課題をそれぞれお聞かせください。
関原:人間の利便性を増していく事業に対して、セキュリティがブレーキをかけるのではなく、後押しできるようにするにはどうすればいいのかを、みんなで考えなければいけません。データだけに着目すると技術的な話になり、多くの経営者にリスクが理解されにくいものですが、「工場止まりますよ」と具体的に言えば重要性は伝わるでしょう。
その上で、ユーザーには未来を語る必要があります。例えば宇宙産業やスマートシティのことなどは理解してもらいにくい部分がありますが、それによってどのようなメリットがあるのか、想像力を刺激していけば理解してもらえ、メリットを得る目的のためにデータがどう活用できるのかを、みんなで議論していくことができるようになると思います。
松本:エレベーターが発明された時代、建物は4、5階建てだったため、「階段でいいではないか」という意見があったはずです。でも、エレベーターがなかったら、おそらくタワーマンションは生まれなかったでしょう。技術の発明時点で見えている範囲だけでなく、その技術で新しくできることは何かをイメージすることが大事です。データ活用にはセキュリティがブレーキとなり、ユーザーの想像力がアクセルになります。新しい技術は、ある程度普及した後にセキュリティが最適化されていくものだと思います。企業はバランスをとりつつ、既存産業で売り上げが抜本的に上がる道を探っていくことで将来につながっていくでしょう。
中山:私は、週末の予定など自分の生活の仕方をChatGPTに提案してもらうなど、人生をイージーに生きられる世界が実現できればいいなぁ、と考えています。日本のITが遅れたのはよくも悪くも多くの人が非常に慎重だったからという面があると思います。ただ、一度みんなが納得すれば、その方向に一丸となって凄いスピードで進んでいける国民性もあります。一人一人がITやこれからのAIリテラシーを高めていくことが未来につながる手段であり、越えてゆくべき山ではないかと思います。そうしなければ、政府が頑張って掲げた未来像は絵に描いた餅になってしまうように思います。これを念頭に置いて、今後も微力ながらリテラシーの啓発活動に時間を費やしていきたいと思っています。
北村:ありがとうございます。よりいっそうの危機感を持って、データ利活用について考える機会となりました。
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