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グッデイ、ヤオコー、オーケー、小売業界3社のデータ活用の現在地–CIO Japan Summit 2023より

小売業の中でも、とりわけ市場の成熟度が高いホームセンター業界とスーパーマーケット業界において、データ活用はどのように進んでいるのか。弊メディア「データのじかん」もメディアパートナーを務める2023年11月8日に開催された「CIO Japan Summit 2023」のパネルディスカッション※では、株式会社グッデイ、式会社ヤオコー、オーケー株式会社それぞれのデータ活用のキーパーソンが登壇。データ活用の取り組み状況を明らかにした。

         

※パネルディスカッション「強豪ホームセンター/スーパー座談会:データ革命×ESG経営の勝ち筋とは」の内容を要約し再構成したもの。

左からオーケー株式会社 執行役員IT本部長 田中覚 氏、
株式会社グッデイ 代表取締役社長 柳瀬隆志 氏、
株式会社ヤオコー デジタル統括部 部長 小笠原暁史 氏

モデレータ:
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長 岸和良 氏
パネリスト:
株式会社グッデイ 代表取締役社長 柳瀬隆志 氏
株式会社ヤオコー デジタル統括部 部長 小笠原暁史 氏
オーケー株式会社 執行役員IT本部長 田中覚 氏

3社のIT環境改善への取り組み

岸和良 氏(以下、岸):ホームセンター業界、スーパーマーケット業界から、3人のキーパーソンをお招きし、現状の課題と解決の方向性を共有いただきたいと思います。まず株式会社グッデイの柳瀬隆志代表取締役社長、次に株式会社ヤオコーの小笠原暁史デジタル統括部部長、そしてオーケー株式会社の田中覚執行役員IT本部長の順でお願いします。

住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長 岸和良 氏

柳瀬隆志 氏(以下、柳瀬):15年前(2008年)に私がグッデイに入社した当時、ITの環境はゼロというよりマイナスの状況でした。2015年からデータ分析の取り組みをはじめ、クラウドにデータを蓄積し、それをBIツールなどで分析するシステム(仕組み)をつくりました。そこで見えてきた課題は、その仕組みをどう活用するのか、業務にどう生かせるのか。つまりシステム側ではなく、マインドなど活用する側(人材)の課題が見えてきたのです。その経験も踏まえ、特に人材育成に力を入れています。

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小笠原暁史 氏(以下、小笠原):私がヤオコーに入社して4年経ちますが、入社当時、スーパーマーケット業界は、IT投資にそれほど積極的ではなかったと思います。当社も、ベンダーに各システムの開発・運用を依存しており、社内の情報システム部には、あまり知見が蓄積されていないと感じました。データ活用の視点から、データをまず自分たちでハンドリングできる環境にしなければならないと考え、AWSの各種サービスを活用し、データを各システムから集めて連携させる環境を構築しました。その流れの中で、AI型の自動発注導入時に、データ基盤を活用し、各種データ収集、シームレスに連携するシステムを開発するなどの取り組みを行いました。
直近2年間では、社内人員のスキルを上げる取り組みに加えて、各分野のスペシャリストを20人ほど採用して、組織の実力値を上げる取り組みを続けています。ただベンダーロックインの解消やデータ活用という部分は道半ばです。今後は、データ基盤のアーキテクチャ高度化に加えて、DWHのSnowflakeへの移行やBIシステムの移行といった取り組みを進めていきたいと考えています。

田中覚 氏(以下、田中):コロナ禍で世の中が変わり、スーパー業界も変わる必要があるといわれる中で、私はオーケーのネットスーパー立ち上げ時に入社しました。入社当時は、昔から使っていた基幹システムが残っていました。保守継続が懸念される老朽サーバーあり、保守サポート切れのパソコンあり、VBやExcelで作成した無数のデータ活用ツールありの環境を、現在も進行中でアップデートしています。
当社は、経営者が設計した店舗オペレーションやデータ(帳票)の見方が継承されていて、それがあったからこそここまで成長できたと思っています。しかし、店舗の規模や数が大きくなっていくと、従来のインフラや人の能力では適切な分析が難しくなっていきます。その部分をテクノロジーでサポートする取り組みを行っています。

株式会社グッデイ 代表取締役社長 柳瀬隆志 氏

3社それぞれの人材育成法

:柳瀬さんから人材育成に注力しているとのお話がありましたが、詳しくお聞かせください。

柳瀬:入社当時は、欲しいデータがあっても、出てくるまでに3、4週間かかる状況でした。2008年から2015年ぐらいまでは、データ活用の課題があるのは分かっていても、どこからシステムに手をつけていいか分からない状況が続いていました。しかし、あるとき他社の方に「クラウドデータベースにBIツールをつなげてみるといい」というアドバイスをもらい、BIツールを触ってみました。書店に並ぶ書籍から「R」や「Python」の使い方を学んだり、統計を勉強し直したりしているうちに、データサイエンスでできることと、小売業の課題との間に共通点が多いことに気づきました。
実際にデータを活用するためには、私一人でなく、社員にも基本的な統計知識やBIツールの使い方を習得してもらう必要があります。社長である私の仕事は、データ分析の基本が分かる人材を育成することだと考え、データアカデミーという社内勉強会を始めました。毎週1回、社内メンバーが持ち回りで講師になり、統計の使い方やAI、機械学習の使い方などを勉強してきました。1年ほど続けると、データ分析の基本が分かる社員が10人ほど育つなど、成果が出てきました。そこで勉強会の内容を研修として体系化し、現在は毎年約10人の社員に勉強してもらう仕組みをつくっています。この仕組みは、外販も始めています。

:ありがとうございます。データ分析の基礎が分かる人材を増やすときのポイントはありますか。

柳瀬:研修を設計する際、統計の知識の要・不要が議論になりました。確かに理論(知識)を身につけても現場で実践できないと意味がありません。そこで、データ分析の概念を知り、その知識と行動がリンクするようなプログラムにしました。またSQL(Structured Query Language)の研修は、自分でSQLを書けば簡単に必要なデータを取り出せるという実例をもとにプログラムを組んでいます。
このような研修を設計することで、日々の業務と直結する知識が身につき、業務の生産性が上がります。すると、業務部門の上長も研修に人材を出してくれます。このようにして、データ分析を社内に少しずつ浸透させているところです。

:結果を出して現場の管理者に学習が役に立つことを理解してもらうことが大事ですね。次にヤオコーの小笠原さんに、統計分析者の教育に関する取り組みについてお聞きします。

小笠原:当社では、数値をベースにした意思決定のPDCAサイクルは回っており、見るべき数値をダッシュボード化する段階まではできていますが、グッディさんのように相関関係などを深掘りすることができるようなシステム化には至っていません。そもそも、社内のITリテラシーは高くないので、まずはITを使いこなすためのベースを整えていく必要があると考えています。
また、新たな分析指標のダッシュボードをつくるにも現状は時間がかかる状態ですので、デリバリーをスピーディーにできるようにするため、DWHとダッシュボードの内製化を図っています。これらを整えた上で、データの変化を捉え、深掘りができるような仕かけをつくっていきたいと思っています。

:人材のスキルを上げる取り組みはいかがでしょうか。

小笠原:ITを使いこなすためのベースとしてExcelやMicrosoft 365をはじめとした基本的なITツールの研修、セキュリティに関するリテラシーを高める研修などを実現できればと考えています。

:次にオーケーの田中さんに、人材やスキルなどの課題感を伺います。

田中:小売業は経験・勘・度胸の世界です。当社もそうした要素もありますが、低価格維持のため、ローコストオペレーションにフォーカスしています。それには廃棄をなるべく出さない、余分な在庫をもたない、納品の頻度もなるべく少なくするなどの必要があります。そこで、「店舗ごとのお客様のニーズに合わせてどのような商品をどれだけ必要かを計画し、適切な量を仕入れる」という部分にデータを活用しようとしています。従来型の経験・勘・度胸で意思決定の強みを補強するため、データを活用し「この期間でこれだけ売る」とコミットできることを数字で示したい。販売力の変化は値下げなどの対応と売る場所を変えることによって起こります。データを使い最適化して、売りたい商品量をいかに売るかということに取り組んでいます。

:今のお話は、経営と現場の全体最適を図るとき、統制をとるためにデータが必要であると受け取りました。現場の反発もあるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

田中:仕入れた商品がどれだけ売れるのかというのは、売り方の問題と商品の魅力の問題です。店長や売り場のチーフはライバル店を気にしていますが、1つの店舗ではその店の過去のデータしか比較できないため、他の店の情報は参照できていません。例えば、ある商品の陳列の仕方で他店舗と売り上げに差があるのではないか、自店舗に置いていない商品でも他店で売れている製品があるのではないかというように、各店舗が渇望するデータがあります。本社サイドは、そのようなデータを適切に現場に提供し、また商品部門として注力したい商品については各店舗の販売実績を共有して、よりよい売り方へと誘導することもできます。

株式会社ヤオコー デジタル統括部 部長 小笠原暁史 氏

ダッシュボードだけで電力使用量削減に成功

:現場のデータ活用のモチベーションを上げるために、グッデイではどのような取り組みをしていますか。

柳瀬:業績が伸びているときは、データを分析して課題をあぶり出そうというモチベーションが起きにくいのが常です。しかし、全体のパイが増えない中で、現場はコストダウンしながら売り上げを高めていく方法について模索しています。「やれることはやっているのに結果に結びつかない」、そうした報われない状況のとき、データ分析が役立ちます。
私はBS(貸借対照表)とPL(損益計算書)を見て、経営的な観点で、「ここのコストが下げられる」とか、「ここにもっとリソースを割けば売り上げが伸びる」というような判断を現場に伝えています。社員には、ここを頑張ったから数字が上がっているというようなグラフを使い、施策の成果をデータで見せています。つまり、意思決定とコミュニケーションのためにデータを活用しているわけです。
コストカットの1つの事例に、電気使用量の削減があります。電気代の値上がり分のコストをどう抑えるかを、昨年の予算会議で議論しました。店舗側にこれ以上の節減の必要性を説明し、行動させるのは難しいという意見もありましたが、私は、どうにかしてコストを下げられる方法を検討したかった。そこで、電力会社から30分ごとの電力データを入手していることに着目し、各店の電気料金をダッシュボードで可視化し、それを毎日チェックするよう促しました。すると、現場でエアコンを省エネモードにしたり、飲料の冷蔵ケースの照明を消したり、無駄な電気を使わない省エネ活動が生まれ、電気使用量が2、3割減った店舗が出てきました。
どこかの店舗でコストダウンした事例があれば、そこのエリアマネジャーが情報を横展開して全体へと波及させます。これを積み重ねていくと、全体として大きな省エネになります。来年の電気料金は億単位の削減が実現できそうです。
モチベーションの観点では、フィードバックループは短い方が、効果がより実感できます。指示を出す側としては、売り上げやコストなどに一番影響があると思われるポイントにフォーカスして仮説を立て、指示をピンポイントで出すようにすることが重要です。

AI型自動発注システムの開発で発注業務が半減

:簡単に取り組めて日常的に気づきが得られるような取り組みが、データ活用を促進する事例でした。ヤオコーでは、どのような事例がありますか。

小笠原:先述したAI自動発注システムは、昨年から全店展開しています。構築前のPoC(概念実証)のときから、MD部門の実現したいこととのギャップがないか、店舗側の納得感や関連する部門の理解が非常に重要だと考え、MD部門の方々とロジックの部分まで一緒に議論して理解を深めていきました。
先ほど田中さんのお話があったように、小売業では発注が業務のメインであり、勘と経験に依存していたところを自動化するのは、非常にハードルが高い作業です。従来のやり方の方が予測の精度が高い場合もありますが、全体の工数を考えれば、AIの方がよいということを現場に理解してもらう必要がありました。現場(店舗)には、「AI自動発注システムは100パーセントではないが6、7割は当たる」と伝えて使ってもらい、徐々に8、9割程度当たるように一緒に育ててもらうかたちで浸透させていきました。その結果、今では自動化率は9割に達し、発注にかかる時間は半減しました。
こうして「データを活用することでこういうことができる」ということを、時間をかけて浸透させることが重要です。例えば、商品がどの棚に置かれているかをデータ化するには店舗の社員やパートナーの方に棚割システムに商品の情報を正しく登録してもらう必要があり、プラスアルファの業務になります。その労力を上回る恩恵が得られるということをセットにして理解を促す必要があると思っています。

オーケー株式会社 執行役員IT本部長 田中覚 氏

さまざまなツールを使ってみることも有意義

:AIなどのツールについて、田中さんはどのようにお考えですか。

田中:BIの世界にもいろいろなツールがあるので、他社のユースケースも参考にして「まずは使ってみよう」という感じで進めるとよいでしょう。当社では、データベースにつなぎ、ノーコードまたはローコードでデータ加工処理をしやすくする「Alteryx」というツールを利用しています。Excelの職人的な帳票の仕組みは継承が難しいですが、このようなツールなら処理の仕組みが分かりやすく、継承や応用がしやすいと考えています。現行の業務の自動化、省力化、属人化を防ぎ標準化するという文脈でこのようなツールを導入してもよいかと思います。また、AI活用の文脈では「Dataiku」というツールを利用するとデータを加工するだけではなく、加工したデータに複数のAIモデルを適用してシミュレーションをすることもできます。例えば、来客予測モデル、季節商品モデル、日配品モデルというように、目的に応じてAIモデルを使い分けることでより精度の高い結果を得ることができます。

:最後に、データ活用に取り組まれている皆様にアドバイスをお願いします。

柳瀬:これからは、生成AIが大事になります。将来的にチャットボットで売り上げ予測や来期の予算策定まで可能になるかもしれません。今できることは、自社データを整理しておくこと、AIの概念、統計の概念を知っておくことです。このベースがないと、AIに問いを立てることができません。そのとき、基礎的な情報(データ)が自分たちの業務にどうやって生かせるのかを考える習慣を身につけることが欠かせません。

小笠原:自社でデータをハンドリングできることが重要であり、サイロ化したデータを簡単に収集して活用できる仕組みが必要です。便利なソリューションが次々に登場しているため、自社で取り組む部分と外部のソリューションを使う部分の見極めが大切だと感じます。

田中:意図的に集めなくてはならないデータはたくさんあると思いますが、複数の目的のデータを一緒に取得する仕組みを考えることがポイントになると思います。また、生成AIを使ってみたり、AIなどの活用事例を勉強したりすると、自分のできることの幅が広がるでしょう。

:本日はありがとうございました。

データ分析のプロが語るデータ駆動社会の未来–CISO Japan Summit 2023より

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