About us データのじかんとは?
——データのじかんでは2020年に、野村泰一さんに取材させていただいています。当時野村さんは、全日本空輸株式会社(ANA)にてイノベーション推進部の部長でした。その後、2022年4月J.フロント リテイリング(大丸松坂屋百貨店の持株会社、以下JFR)に移られ、同社ではグループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナーを務められています。
野村 はい。これまで私は事業会社の人間でしたが、今回でホールディングスの立場となりました。おそらく世間的にはJFRという会社名より、大丸・松坂屋・パルコといったブランド名の方が知られていると思います。しかしブランド名が立っているが故、データ活用の観点では個々の施策が先行してしまい、グループ全体のデータ活用には課題がありました。入社して1年も経っていませんが、今は人材育成や文化醸成も含めたデジタル戦略を取りまとめているところです。
——以前の取材ではANAにおいて「イノベーション推進部 五輪の書」というガイドラインを作成されていました。「風の巻」「水の巻」「火の巻」「土の巻」「空の巻」の章立てで各章にはイノベーション推進に必要なマインドセットが提示されていました。
野村 JFRではそれを「JFR花伝書」にバージョンアップしています。大丸松坂屋の起源は江戸時代で、モチーフにしていた宮本武蔵の兵法書『五輪の書』も江戸時代のものです。今回はあえて室町時代の能楽伝書『花伝書』をモチーフにしました。
デジタルによる変革を起こすには、文化だけなく“実践的”であることが非常に重要です。そこで、花伝書とは別に、人材開発の教育材料として「システム開発のすゝめ」を策定しました。副題は「天は人の上にシステムを造らず」です。
——これまたユニークなタイトルですね。どのような内容なのでしょうか。
野村 ありがとうございます。システム化によって、業務中心の流れは整います。しかし一方、システム化によって人は抑制を強いられたり制約されたりする面もあります。あるいは、つくる側からするとコスト扱いをされるようになるかもしれない。システム(システム化)が、使い手とつくり手双方の成長を止めるようなことがあってはならないと考えています。それを避けるためのデザインが、人材開発には不可欠です。システムはあくまで人のために存在する。その意味で「天は人の上にシステムを造らず」と命名しました。
——一方、サミットプロデューサーの嶋田美佳子氏は、今回データのじかん初登場です。
嶋田 私のファーストキャリアは国際見本市主催会社です。日本でビジネスを展開したい海外企業を対象とした営業・マーケティング責任者として従事しました。その後、日本の大手インターネット会社、ベトナムに本社を置くソフトウエア開発会社、投資コンサルティング会社などを経て、2021年8月にマーカスエバンズに入社しました。マーカスエバンズでは、アジア太平洋地区部門のビジネスサミットのエグゼクティブプロデューサーという立場に就いており、日本・アジア諸国・オーストラリアのビジネスサミットの企画、プログラムの構築などを担当しています。
——CIO Japan Summitでも、プロデューサーを務められています。
嶋田 はい。プロデューサーとして、イベントの根幹をなす大テーマの設定、そこにひもづく主要議題の策定、議長やセッション登壇者の選定、そしてスポンサー企業・聴講者へのプロモーションなど、“0→1”の部分からイベントの企画立案をしています。
——今年も5月17〜18日の会期で「CIO Japan Summit 2023」が開催されます。CIO Japan Summit 2022では、「見直す・新しい風」を大テーマとして、既成概念を崩して今の日本を最適化していくためのIT戦略などが、共有されました。今年のテーマについて教えてください。
嶋田 2023年の大テーマは「IT部門の越境」です。かねてより当社サミットでは、「IT部門の在り方」や「CIOの立ち位置」について示唆してきました。しかし、もはや「企業」「部門」という単位のみならず、「個(個々人)」も越境していかなければビジネスの潮流に乗り遅れてしまうのが実状です。特に「Web3.0元年」「メタバース元年」とも表現されている2023年は、よりシームレスな活動が求められていくでしょう。
個々人が、今いる場所(=部門や業務)から越境し他者とつがなれるか否か。それこそが企業の行く末を決めるといっても過言ではありません。そうしたことを念頭に置きながら、今回のサミット議長を務めていただく野村さんを含め、IT統括をされる立場の方々にダイレクトコールでインタビューを実施して、6つの主要議題を策定しました。
——野村さんは、この「IT部門の越境」についてどのような考えをお持ちですか。
野村 まず前提として、現時点において多くの企業は、デジタルの環境づくりをすでに終えている、もしくは終えていないとしてもどのような環境をつくればいいかは分かっている状態です。しかし、データ活用は進んでいるかというと、そうではない会社も多いかと思います。
今のボトルネックは、プラットフォーム側にあるのではなく、人の側にあるのではないでしょうか。従来のIT部門の役割のままでは、直面しているデータ活用の課題を克服できません。だから、「IT部門の越境」が重要なキーワードになっています。今回の6つの主要議題は、一見ばらばらのように見えるかもしれませんが、いずれもIT部門の越境に集約されていく貴重なテーマです。
——野村さんは、社内の人材に越境を促すときにどのような手法をとりますか。
野村 大勢が集まる研修などでは、参加者に隣の人の似顔絵を描いてもらっています。当然のことながら、最初はみんな嫌がります。制限時間も2分間とかなので、上手く描けるはずもない。描き終えた似顔絵を見せたい人はいるかと聞いても、誰も手を挙げません。挙げる人がいたとしても自信のある絵のうまい人で、ハードルが上がるから他の人はますます挙げられなくなります。
これで何を学べるのか。それは、「未完成でも人に見せる勇気」です。越境の阻害要因になるのは、こうした「クリエイティブ・コンフィデンス」の欠如。すなわち自らの創造性に自信を持てずにいることです。そのことに気づかせてあげることが、越境の第一歩だと思っています。
——改めて、「CIO Japan Summit 2023」の見どころをお聞かせください。
嶋田 本当に魅力的なプログラムを取りそろえました。例えば、基調講演の1つは、紫雲山大泉寺の住職である松浦未知雄さんが登壇します。松浦さんは、世界初のアート御朱印NFTの仕かけ人です。「ITとは一見無関係だけど、実は…」というスパイスを意識して企画しました。
嶋田 基調講演の他にも、実践者によるケーススタディプレゼンテーションを充実させました。いずれの登壇者も、設定されたテーマに情熱を持って取り組んでこられた方ばかり。おそらく業界の方のみならず業界外の方が聞いても面白いセッションになるのではないでしょうか。社会課題に向き合うだけではなかなか未来を描くのが難しい時代です。そのような中で、勇気を絞り出して取り組む皆さんの話は、とても勇気づけられると思います。
嶋田 また今回は「CIO Japan Summit 2023」と同じ会期・会場で、当社グループとしては日本初となるセキュリティに特化したサミット「CISO Japan Summit 2023」(議長:一般社団法人日本シーサート協議会 理事長・北村達也氏)を開催します。デジタルと日常生活がますます切っても切り離せない関係になっている中、個人情報の取り扱いなど、情報セキュリティの守備範囲は広がる一方で、同時に高度化するサイバー攻撃などに対する適切な投資や対策が求められるのは確実です。
こちらのサミットは基本的にセキュリティに関わる議題を設けていますが、業界全体を包括したテーマからそもそも日本において「何が本当の脅威なのか」いうところまで、いろいろな視点を入れてプログラムを組み立てました。
——プログラムを策定する上で、特に意識したことはありますか。
嶋田 IT部門の方は他業種よりも積極的に勉強会などを開くなど、インプットの能力に長けていると思います。他方、アウトプットに関しては、日本人の特性上、苦手意識を持たれている方も多いのではないでしょうか。
新たなデジタル戦略をとるには、会社組織内・組織外で積極発信していく力が何より重要です。サミットのプログラム策定では、インプット・アウトプットの両面を意識しています。
野村 私もアウトプットは非常に重要な視点だと思っています。これまでのIT部門は「上流=ユーザー部門」の要件のみに沿いながら業務を遂行していました。それで誰かから特別に感謝されるわけでもなく、せいぜい「ご苦労様」と言われるだけ。一方、納品したシステムに少しでも欠陥があればユーザー部門に叱責されます。IT部門が発信者となることで、そうした現状もずいぶんと変わっていくでしょう。
嶋田 モヤモヤされているIT部門の方が、少しでも希望や勇気の持てるサミットにしていきたいと思っています。
野村 理屈だけを述べて、満足するのはもう終わりにしましょう。IT部門やCIOの皆さんの具体的な行動を後押しするイベントにしていきます。
嶋田 講演以外に、ネットワーキングの時間を含め、あらゆるところにビジネスチャンスや新しい出会い・新しい可能性のきっかけがあるイベントになっています。そうした部分も含め、是非積極的に参加していただきたいです。
——越境に必要なのは「情熱」と「勇気」。それをひしひしと感じられるセッションを楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
野村 泰一 氏
J.フロントリテイリング株式会社 グループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナー(写真左)1987年ANA入社。インターネット予約やスキップサービスなどANAの予約搭乗モデルをデザイン。2011年ANAを退職し、日本初のLCCであるピーチ・アビエーションの創設に携わり、システム面でビジネスモデルをデザイン。2016年ANAに再入社し、DX推進の責任者となる。データ基盤、ロボット、IoT、AIなどのデジタルテクノロジーを活用したデザイン、デジタル人材の育成などに関わる。2022年4月J.フロントリテイリングに入社。チーフ・デジタル・デザイナーとしてデジタル推進に関わっている。
嶋田 美佳子 氏
マーカスエバンズ エグゼクティブプロデューサー(写真右)
中央大学を卒業後、国際見本市主催会社の海外企画営業・マーケティングマネージャーとして従事。その後、Yahoo! JAPAN、ベトナムのITオフショア開発 ・投資コンサルティングにて営業・マーケティングマネージャーを経験したのち、マーカスエバンズ、アジア地域統括本社に入社。前職での見本市企画・運営のイベント主催経験や、幅広い業界への知識・営業経験を活かし、日本を始めアジア、オーストラリアのIT、財務、マーケティング、製造、HR、医療・ヘルスケアなど、あらゆるビジネス分野の市場調査とビジネスサミット企画に従事。現在は、アジア太平洋地区部門のエグゼクティブプロデューサーとして、マレーシア・クアラルンプールに拠点を置く。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/安田 編集:野島光太郎)
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