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竹中工務店「建設業界におけるデジタル化と企業の新たな可能性」 CIOJapanSummit2021イベントリポ−ト-前編

         

2021年11月24、25日の両日、ホテル椿山荘東京において「CIO Japan Summit 2021」が開催された。CIO Japan Summit 2021はマーカスエバンズが主催する、ITリーダー、ソリューションプロバイダーを対象とした完全招待制のイベント。

VUCAワールドを勝ち抜くためにCIOとして何をするか? 日本の大企業のIT部門の統括責任者が集結! CIOJapanSummit2021

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コロナ禍でたびたび開催延期を余儀なくされる中、待望の開催となった。本記事では、初日の開会講演である株式会社竹中工務店グループICT推進室長の岩下敬三氏による「建設業界におけるデジタル化と企業の新たな可能性」の内容を中心にお送りする。

アフターコロナは、“愛”をベースとした社会が構築される

CIO Japan Summit 2021は主要議題に「アフターデジタルの世界への一歩を踏み出す」「進化し続ける組織へと導く」「新時代を切り開く働き方の多様性」「デジタルが魅せるビジネスの可能性」「CIOが牽引(けんいん)するデジタル人材育成」「新しい制度と歩むセキュリティー」を掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)、デジタル人材育成、セキュリティーの分野から2日間総勢15人のエキスパートが登壇した。

同サミット議長を務めたIIBA日本支部 代表理事の寺嶋一郎氏は、開催挨拶で「コロナ禍で日本のICTの後進性が露見した」と懸念を述べた後、アフターコロナの世界について、「リモートワークはもう逆戻りできない」「ライフスタイルは都市型から田舎型へ」「グローバリズム・新自由主義・経済市場主義が衰退」の3つの特徴を共有。その上で「これからは“愛”をベースとした社会が構築される」と提言した。

特に企業には、これまで以上のDX推進の加速が求められるが、現状の多くは「DXのXがバツ印になっている」と評価する寺嶋氏。コロナ禍で、「予測できない未来に備え、フレキシブルかつスピーディーに対応できるか」「予測できない未来なら、ありたい未来をつくれるか」という、DXの本質というべき2つの課題が垣間見えたという。

IIBA日本支部 代表理事 寺嶋一郎氏

「まずは、人のマインドセットを含めデジタルを前提にした企業に変身し、イノベーションを起こさなければいけない。特にVUCA時代において未来は予測するものでなく構想すべきもの。そのためにも問題解決よりも“課題・問い”、役立つよりも“意味がある”ことが大事です。そして経済価値とともに、いやそれ以上にWell-Beingの視点が重要になります」(寺嶋氏)

竹中の成長戦略。グループで、グローバルに、まちづくりにかかわる

株式会社竹中工務店 グループICT推進室長・博士(工学) 岩下敬三氏

開会講演「建設業界におけるデジタル化と企業の新たな可能性」では、株式会社竹中工務店 グループICT推進室長・博士(工学)岩下敬三氏が登壇した。

大阪市に本社を置く竹中工務店。2020年度売上高は9710億円。スーパーゼネコン5社(大林組・鹿島建設・清水建設・大成建設・竹中工務店)の中でも、「土木事業を行わない建築専業のゼネコン」として数々の施工実績を残してきた。

2025年のグループ成長戦略では、下記のようにグループ一丸となったまちづくりを宣言。

私たちはグループ全体の事業領域を「まち」として捉え、グループ各社が緊密に連携し、「まちづくり」の構想段階から企画、計画、建設、維持運営にいたる「まち」のライフサイクルにおいてステークホルダーとの対話を深め、国内外における様々な課題に取り組み、人々が安心して暮らすことができるサステナブル社会の実現を目指します。 ──竹中工務店ホームページ「グループ成長戦略」より

竹中工務店2025年グループ成長戦略
出典:竹中工務店HP https://www.takenaka.co.jp/enviro/es_report/pdf/2018/p11_14.pdf

成長戦略のキャッチフレーズに「グループで、グローバルに、まちづくりにかかわる」を掲げている。

この成長戦略を下支えしていくのが同社「ICT戦略」だ。登壇した岩下氏は1986年竹中工務店に入社。1987年から竹中工務店技術研究所に配属され、主に耐震構造分野の数値解析に従事した。2003年から企画室、2010年から技術企画本部、2017年からグループICT推進室に移り、現在同室長として同社によるデジタル化推進をリードする。

「かつて当社情報部門といえば各職能の業務を下支えする“縁の下の力持ち”的な存在でした。2017年3月グループICT推進室長に着任した私は、その状況を打破することを社員たちに宣言しました。情報部門はシリコンバレーのスタートアップさながら、社外の先進的なICTを活用し業務そのものを変革するよう社内に働きかけていく存在にならなければいけません。ただの縁の下の力持ちではなく、全社をICTで底上げしながら、人工知能技術・ロボット技術を存分に活用し、先進ICTユースケースをつくって業界を先導するような存在です」(岩下氏)

目指せ、建設業の働き方改革

同社ICT戦略の話の前に、建設産業を取り巻く環境を整理しておこう。

一般社団法人日本建設業連合会『建設業ハンドブック2021』によれば、政府・民間を含めた建設投資額(建築・土木)は、1992年度の84兆円(うち民間49兆円)がピークだった。以降は落ち込み、2010年度にはピーク時の50%程度にまで減少。東日本大震災の復興需要や民間投資の回復でその後若干持ち直したものの、近年はほぼ横ばい状態で2021年度は62兆円(うち民間38兆円)である。

出典:一般社団法人日本建設業連合会『建設業ハンドブック2021

業界に立ちふさがる目下の課題は「生産性向上」だ。コンクリート工事、外装工事、内装工事など、建築施工はいまだ機械化が難しく、ほとんどが手作業の業界だ。労働者1人がどれだけの付加価値の高い仕事をしているかを示す「付加価値労働生産性」を比較しても、建設業は全産業平均を大きく下回り、機械化・ICT化に成功した製造業の半分程度の数値で推移している状況だ。

1990年代後半から製造業の生産性がほぼ一貫して上昇したのとは対照的に、建設業の生産性は大幅に低下した。
これは主として、建設生産の特殊性(単品受注生産等)と工事単価の下落等によるものと考えられる。

出典:一般社団法人日本建設業連合会『建設業ハンドブック2021

「長年にわたり技能労働者に依存した産業でしたが、少子高齢化でもはやそれも限界を迎え『2014年から2025年までに130万人が離職』『10年以内に100万人規模の大離職時代を迎えることが確実視される』とも言われます」(岩下氏)

加えて、建設業者の頭を悩ますのが「建設業の働き方改革」である。2019年4月施行の改正労働基準法では、年次有給休暇の取得義務化、残業時間の罰則付き上限規制などが設けられ、建設業には5年間の猶予期間が与えられたが、いよいよ2024年4月1日から建設業も適用対象となる。日本建設業連合会による「週休2日実現行動計画の策定」「土曜閉所運動」、国土交通省による「改正建設業法における著しく短い工期の禁止」など、業界を挙げた働き方改革の取り組みも始まっている。

これらの差し迫る課題を受けて、岩下氏はこう話す。

「建設投資の横ばい、技能労働者不足、生産性向上、そして働き方改革への対応……。この苦境を打破するには、デジタルの力に頼るしかありません。建築・土木の中でも建設機械を使う土地造成等ではデジタル化が進んでいますが、同じ建築・土木でも建築施工は機械化の困難さゆえ第4次産業革命ではく、これから第3次産業革命の状態です。企業競争力に結び付くデジタル化を全社で整合性をもって進めなければならず、当社においては経済産業省の言う『2025年の崖』にも目を配りながら、デジタル化による業務効率化・業務変革及びそのための人材拡充を進めています」(岩下氏)

会社・業界の変革のため「われわれが汗をかかなければ」

続けて、岩下氏は、「デジタル化による業務の効率化」「デジタル化による業務の変革」「デジタル化人材拡充」について具体施策を紹介した。

①デジタル化による業務の効率化

自社構築から20年以上が経過し複雑化・老朽化していた営業・工事経理・財務・人事にかかるレガシーシステム(ホストシステム)を、2016年から順次クラウドサービス上で再構築した。また、電子決済・電子取引も積極活用し、紙ベースの事務系業務は「データ中心の業務スタイル」へ置き換えた。同時に、グループICT推進室内にRPA推進体制を構築し、全部門対象のRPA導入で定型業務効率化を図った。

以上、事務系業務のデジタル化と並行し、技術系業務のデジタル化施策として「BIM」(ビム)の積極活用を全社で進めている。BIMとはBuilding Information Modelingの略称で「建築のライフサイクルにおいてプロジェクトの3次元デジタルモデルを作成し、その整合性を保ちながらプロジェクトを進める手法」を指す。

「当社の大半を占める技術者の主要業務(設計・施工)においてBIMが活用され、『BIMモデルの属性から多彩なアウトプットを半自動で生成する』『BIMモデルから施工用2D図面を切り出す』『BIMモデルを建設現場にて活用するなど』、革新的な業務効率化を急速に進めています」(岩下氏)

②デジタル化による業務の変革

あらゆるデータを蓄積し、建設業をデジタル変革した姿を、竹中工務店では「Building4.0™」と定義。その実現に向けた施策として、「建設デジタルプラットフォーム」を整備している。同プラットフォームは、データ基盤としてのデータレイク(大量のデータを一元的に集約・蓄積するためのデータ管理システム)・IoT・BI・AI、及び業務を支援するアプリケーションが一体で機能する統合基盤のことである。

「プロジェクトごとに発生する営業・設計・生産準備・生産・FM支援などの業務、さらには人事・経理業務など、当社事業に関係する全てのデータをプラットフォーム上に集約します。それにより、BI・AIによる可視化・分析・予測などで従業員の意思決定をサポート、各種アプリケーションによるデータの高度利活用を進めています」(岩下氏)

③デジタル化人材拡充

目指すべきデジタル人材を「事業分野・デジタル技術分野の双方で専門性に長けたデジタルハイブリッド人材」と位置付け、デジタル人材の全社育成にも取り組んでいる。

「まずは、文化風土改革宣言の策定と目指すべき自立行動および方法論のOJTにより、情報部門の意識変革を行いました。それと同時に各部門を対象としたデジタル人材育成のための能力開発スキルを定義し、人材の育成を推進していきます」(岩下氏)

これら一連のデジタル化について、2022年までに全業務をデジタル化、2025年までにデータ活用の仕組みやデジタル機能の整備を目指す。その後は、データ蓄積とAIモデルの高度化により業務レベルの成熟度を上げていくという岩下氏。製造業で導入・活用が進むデジタルツインについても、「まずは建物単体から始め、都市空間全体にまで拡張させていきたい」と話した。

最後に、これまでを「ITによる単一業務処理の効率化」と総括し、次なるステップを「ICTによる複数業務に関わるプロセス改革」、さらにその先にある将来的な世界を「攻めのICT適用(デジタル変革による事業価値の向上)」と定義した岩下氏は、「デジタルの力で会社の事業効率を高め、そして業界を変えたい、そのためにわれわれが汗をかこう」と、CIO・デジタル担当者に呼びかけた。

 

イベント CIO Japan Summit 2021
開催日時 2021年11月24-25日
主  催 マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミティッド

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/安田  PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)

 

 

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