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「地方ローカル線がピンチ!」の定義はなに? 関東・関西で違いはあるのか?

         

「地方ローカル線がピンチ」という話はよく聞く。しかし、JR各社が地域別に分かれているせいか、居住地以外のローカル線の話題には疎くなりがちだ。そこで、データなどを活用しながら趣味的にピンチに陥っているローカル線の関西・関東比較をしてみたい。

ローカルの「ピンチ」の定義は?

そもそも、どのように「ピンチなローカル線」を定義するのだろうか。一般的に路線の利用実態を示すデータとして「輸送密度」が用いられる。

輸送密度とは1キロあたりの1日平均旅客輸送人員をあらわす。単位は人/日だが、「輸送密度=〇人」という表記もよく見かける。いずれにせよ、1日1キロあたり平均何人乗っているか、というデータだ。輸送密度は別名「輸送断面」と呼ばれることもある。説明文と照らし合わせると「輸送断面」の方がわかりやすかもしれない。

さて輸送密度は「年間輸送人キロ÷営業キロ÷365日」で算出される。ここで見慣れない単位が人キロ(ニンキロ)だ。人キロとは輸送した旅客(人)それぞれに、その乗車距離を掛けわせた数値である。たとえば2人の旅客が、それぞれ10キロ乗車した場合は2人×10キロ=20人キロとなる。

ここで注意すべき点は人キロは長距離路線だと数字が大きく、短距離路線だと数字が小さくなる傾向があることだ。そこで、人キロを営業キロで割ることにより、1キロごとの利用者数で比較するという仕組みだ。

次に輸送密度を使ったピンチなローカル線の定義を見ていこう。現在では国鉄時代に制定された「国鉄再建法」の基準を参考にすることが多い。

国鉄再建法では輸送密度などのデータを用い、全国の路線を「幹線」と「地方交通線」に分類した。さらに「地方交通線」の中でも、「輸送密度が4000人/日未満」の路線は「特定地方交通線」とし、「バス転換が適当」と結論づけた。つまり、ピンチなローカル線は「輸送密度4000人/日」未満となる。

しかし、話はここでは終わらない。「国鉄再建法」が制定されたのは今から約40年前であり、当時は地方でも鉄道需要が高かった時代だった。

現在は過疎化・少子高齢化の影響により、地方では鉄道利用が減少し続けている。現状では「輸送密度4000人/日未満」の路線が多すぎるのだ。

JR西日本・JR東日本は「輸送密度2000人/日未満」の線区別の収支を公表。沿線自治体との協議を通じてローカル線の「在り方」を検討する、としている。

ここではピンチに陥っているローカル線の定義を輸送密度2000人/日未満と定義した上で、話を進めていこうと思う。

JR西日本とJR東日本のローカル線を比較する

JR西日本の関西エリアにおいて、輸送密度2000人/日未満(2019年度)の線区は山陰本線城崎温泉~浜坂~鳥取、関西本線亀山~加茂、紀勢本線新宮~白浜、加古川線西脇市~谷川、姫新線播磨新宮~新見、播但線和田山~寺前である。

JR東日本の関東エリアにおいて、輸送密度2000人/日未満(2019年度)の線区は久留里線木更津~上総亀山、上越線水上~越後湯沢、外房線勝浦~安房鴨川、内房線館山~安房鴨川、鹿島線香取~鹿島サッカースタジアム、烏山線宝積寺~烏山、吾妻線長野原草津口~大前である。

このように関西・関東のピンチに陥っているローカル線を比較すると、いくつかの共通点が浮かぶ。まず、国鉄時代に太平洋側と日本海側を結んでいた路線の一部区間がピンチに陥っているという点だ。

関西では山陽と山陰、瀬戸内海側と日本海側を結ぶ陰陽連絡線、もしくはその一部にピンチなローカル線が多いことに気づく。加古川線、姫新線、播但線がこれに当てはまる。

それでは、これらの3路線の全線がピンチかと言われるとそうではない。山陽側の区間ではそこそこの需要がある。たとえば播但線姫路~寺前間の輸送密度は8000人/日以上(2019年度)もある。

大阪と兵庫県北部を結ぶ特急「はまかぜ」は播但線経由だ。しかし、1994年開業の智頭急行線経由の特急「スーパーはくと」や高速バスに主役の座を奪われ、低迷が続いている。

姫新線や加古川線では特急列車の設定はなく、姫新線に至っては全線を走破する列車すらない。1989年まで姫新線にも急行列車は設定されていたが、高速バスに負け、山陽と山陰を結ぶ役割を終えた。

一方、関東では上越線が当てはまる。上越線も太平洋側と日本海側を結ぶ役割を果たしてきたが、上越新幹線の開業に伴い、現在はローカル輸送に徹している。高崎~渋川間は輸送密度8000人/日以上を超えるが、県境越えの区間は低迷している。

差異点として挙げられるのが起点駅・終点駅どちらか一方の駅が他路線に接続していない「盲腸線」の有無だ。JR西日本の関西エリアの地図を見ると、「盲腸線」に分類できるローカル線は皆無だ。

国鉄時代は三木線(厄神~三木)、鍛冶屋線(野村(現西脇市)~鍛冶屋)、信楽線(貴生川~信楽)など、多数の「盲腸線」のローカル線が存在した。しかし、国鉄再建法によりバスもしくは第三セクター鉄道への転換となった。

一方、関東では2000人/日未満のローカル線において、久留里線、烏山線、吾妻線が盲腸線に分類される。しかし、幸運にも国鉄時代の廃線の嵐を免れた。例えば久留里線は廃線対象区間になったが、京葉工業地帯の発展が望まれることから除外された。

同じ「半島」でも、これだけ事情が違う

 

日本地図を見ていると「紀伊半島と房総半島はよく似ているな」と思うのは筆者だけではないだろう。どちらも太平洋に突き出しており、観光地としても有名だ。また半島の尖端付近の区間はどちらも2000人/日未満のローカル線だ。

紀伊半島へ向かう紀勢本線JR西日本管区(和歌山~新宮)、内房線(蘇我~安房鴨川)も類似しているように思える。先述したように、末端区間は2000人/日未満だ。

しかし、実際のところは大きく異なる。紀勢本線には京都駅・大阪駅と白浜駅・新宮駅を結ぶ特急「くろしお」が運行されている。白浜駅までは約1時間間隔だ。

大阪~白浜間の所要時間は「くろしお」が約2時間30分、JRバスだと大阪駅~白浜バスターミナル間は約3時間30分。大阪~白浜間の所要時間は圧倒的に「くろしお」が有利だ。自家用車でもあまり変わらない。ところが、大阪~新宮間を自家用車で行くと、「くろしお」よりも1時間ほど早く着く(グーグルマップ調べ)。「くろしお」は一気に苦しくなる。

一方、内房線のダイヤを見ると、日中時間帯には東京駅からの定期特急列車はない。平日朝ラッシュ時・夕ラッシュ時に東京~木更津・君津間を走る特急「さざなみ」が運行されているだけだ。東京~君津間の所要時間は約70分だ。

この特急列車の少なさの原因は、木更津と川崎を結ぶ東京湾アクアラインの影響だ。JRバス関東等が運行する高速バスは新宿~君津間を約70分で結ぶ。運賃は圧倒的に高速バスが有利だ。また、館山以南も高速バスが設定されている。

JRグループ全体で見ると「内房線が高速バスに負けた」というよりは、長距離輸送は高速バス、通勤通学・ローカル輸送は鉄道という具合にすみ分けをしているという感じだ。このあたりは紀勢本線とは全く事情が異なる。

しかし、白浜~新宮間を並走する形で高速道路の整備が進んでいる。高速道路の整備後、白浜~新宮間は内房線のように高速バスが長距離輸送を担うようになるのだろうか。それとも違う道をたどるのだろうか。


書き手:新田浩之氏
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。


(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

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