ヨーロッパの真ん中にチェコ共和国という北海道くらいの面積を持つ国がある。首都は「百塔の街」と称せられるプラハだ。プラハ旧市街は世界文化遺産に登録されており、終日多くの観光客で賑わう。
日本では意外と知られてないチェコの一面としては実は「鉄道大国」だということだ。ヨーロッパで「鉄道」というと、まずはフランスやドイツが思い浮かべる人が多いだろうが、チェコだって負けていない。また、列車の予約や市内交通での支払いは日本よりも利便性が良かったりする。チェコ政府観光局の筆者がチェコの鉄道を紹介したい。
チェコの鉄道路線の総距離数(2022年)は9355キロと9000キロをゆうに超える。とは言っても、日本の総距離数は27000キロを超えることもあり、ピンと来ないかもしれない。チェコの面積と同じくらいの北海道と比較する。2024年2月現在、JR北海道の総距離数は約2300キロである。ちなみに、40年前は約4000キロもあったが、乗客減などにより多くのローカル線が削減された。
40年前の4000キロであっても、チェコの9355キロには遠く及ばない。北海道と比較すると、いかにチェコが狭い国土にかかわらず、鉄道網が充実しているか、よくわかるだろう。一方、チェコの鉄道において電化区間は3215キロであり、電化率は34%だ。日本の電化率は67%、ドイツ鉄道の電化率は62%であることを考慮すると、チェコの電化率は低いということになる。
プラハ~ウィーン(オーストリア)、プラハ~ドレスデン(ドイツ)といったICが運行される区間やプラハからブルノ、オロモウツ、プルゼニュといった主要都市を結ぶ区間もたいがいは電化されている。しかし、主要路線以外の多くは非電化で、ディーゼルカーの普通列車が活躍している。ようはチェコの鉄道には非電化ローカル線が多いといえる。
次は利用者を比較してみよう。2022年のチェコでの年間鉄道利用者は約1億6000万人(一部2016年含める)、そのうちチェコ鉄道は約1億5700万人であった。旅客数に移動距離を乗じた人キロ(旅客キロ)は約77億人キロ(チェコ鉄道のみ)だ。
一方、日本での年間鉄道利用者(2022年度)は200億人を超えており、チェコと比較するとけた違いに多い。ちなみにJR北海道の年間利用者数は約1億1000万人であり、チェコの方が多い。とはいえ、鉄道路線総距離を考えるとチェコでの鉄道利用者数は少ない。このあたりは街のつくりや国土の成り立ちの違いがあり、単純に利用者数だけを見て比較するのはナンセンスだろう。
周辺諸国と比較しよう。ハンガリー鉄道は7580キロの鉄道路線を有する。年間利用者数は約1億1000万人、人キロは56億人キロだ。一方、オーストリア鉄道の年間利用者数は約2億5000万人、人キロは約114億人キロだ。チェコの鉄道輸送量は中東欧諸国と比較すると引けは取らないが、旧西側諸国と比較するとまだまだといった感じだ。
一方、チェコは路面電車が強い。首都プラハの人口は約130万人だ。人口だけ比較すると、広島市の人口約118万人に近い。両都市とも路面電車が公共交通機関の主役だ。プラハの路面電車の総距離数は140キロを超える。また、広島の路面電車(広島電鉄)の総距離数は約35キロ(うち鉄道線は16キロ)しかない。プラハの路面電車の年間利用者数は3億7000万人であり、プラハでの公共交通機関利用者数の約3割を占める。一方、広島電鉄の年間利用者数は約5500万人(2018年度)だ。
路面電車に関していえば、チェコは日本と比較にならないほど、路線網・利用者数ともに勝る。
次は切符の購入方法だ。筆者は5回ほどチェコに渡航しているが、正直なところ、チェコの方が日本よりも切符は購入しやすい。まず、チェコの鉄道は全国をカバーする旅客会社、チェコ鉄道の存在が大きい。確かに、REGIO JETやLEO EXPREEといった私鉄はあるが、チェコ鉄道を駆使すればチェコ全土はもちろん、隣国へも簡単に行ける。
チェコ鉄道での切符の購入方法は従来の窓口購入もあるが、オンライン購入が主流だ。チェコ鉄道ホームページや専用アプリから簡単に切符が入手できる。翻って日本を考えると、窓口では統一したシステムに基づき、あらゆる地域の切符が購入できる。ところが、オンラインではJR西日本は「e5489」、JR東日本は「えきねっと」のようにバラバラだ。「e5489」のルールが「えきねっと」にそのまま適用されるかといえば、そうではない。
このように比較すると、少なくともオンライン上では全国統一システムがあるチェコ鉄道の方が利用しやすいといえるだろう。次に購入方法だ。チェコ鉄道専用アプリで発車駅、降車駅、乗車日を入力。チェコでは座席は予約してもしなくてもいいが、オンシーズンであれば座席を指定した方がいいだろう。すべて入力し、決済するとQRコード付きのEチケットが表示される。日本のように乗車券と特急券の区別はない。
しかも、例外はあれど国際列車もチェコ鉄道ホームページ、専用アプリから購入可能だ。なお、チェコ国内の優等列車は座席予約してもしなくてもいいが、国によっては座席指定必須のところもある。ヨーロッパ旅行に慣れていない方は国際列車を利用する際は座席を予約することをおすすめする。改札口はないから、そのまま列車に乗り込み、検札の際に車掌にQRコードを見せればOKだ。実にシンプル、簡単だ。
さらに路面電車はもっと簡単だ。2023年8月にチェコを訪れた際に、筆者は路面電車を利用した。路面電車の車内には券売機があり、タッチ決済式のクレジットカードをかざすと、紙券が発行される。Apple Pay、Google Payも利用可能だ。
チェコ東部の街、オストラヴァはもっと簡単だった。車内にある機械にタッチ決済式のクレジットカードをかざすだけ。それだけで自動的にカードから運賃が差し引かれる仕組みだ。つまり、タッチ決済式のクレジットカードが「Suica」や「ICOCA」といった交通系ICカードになるようなものだ。
市内公共交通機関のタッチ決済式クレジットカードの対応は首都プラハよりも地方都市オストラヴァの方が早かったのだ。ともあれ、チェコに限らずヨーロッパ諸国を訪れる際はタッチ決済式のクレジットカードへの交換を済ませておきたい。クレジットカード発行会社に連絡すると、無料で対応する。
ここまで読んで「チェコに行ってみたい」「チェコの鉄道に乗ってみたい」と思ったら、ユーラシア旅行社が主催するツアー「【新田浩之氏同行】“観光客ゼロ”!?のオストラヴァ・ポルバ地区も訪れるチェコの旅 8日間」をおすすめする。
こちらは、私が同行する添乗員付きのツアーであり、8日にわたってチェコ国内をめぐる。訪問地はプラハ、チェスキークルムロフ、そしてガイドブック『地球の歩き方』に掲載されていないオストラヴァも訪れる。チェスキークルムロフでは1泊する。国内移動は鉄道であり、プラハでは路面電車博物館も訪れる。
日程は4月27日から8日間だ。
著者:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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