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現代社会において、スピードは極めて重要なファクターだ。
製造業では、ひとつの工程にかかる時間を数分の1秒カットするために、多大な研究費用が注ぎ込まれることもあると言う。例えば、ある工程において3分の1秒短縮できた場合、その工程を3回繰り返すと全体で1秒の短縮になる。3万回繰り返される工程であれば、それだけで製造にかかる時間のうち1万秒、つまり2時間46分40秒の時間を短縮できる計算になる。何十万回、何百万回と繰り返される工程の場合には、かなりの時間短縮になるのは明らかだ。
最近では、作業員が行う作業の全てを動画で録画し、品質の向上や時間短縮のために専門家が分析を行っている工場もあるそうだ。
スピードを重視しているのは製造業だけではない。特にクラウド化が進む現代においては、あらゆるビジネスにとって、スピードを軽視することは命取りとなりうる。恐らく、それを誰よりもよく理解しているのが、インターネットが生み出した巨人、グーグルだろう。「スピードはサービス機能の一部であり、スピードを速くすることは新しいオプション機能を追加するのと同じくらいユーザーの利便性を高める効果がある」と「Googleクラウドの核心」の著者の一人であるウルス・ヘルツル氏は言う。
グーグルの共同創業者のラリー・ペイジ氏は、創業当初からスピードを重要視してきた。検索エンジンはもちろんのこと、自社のあらゆる製品やサービスにスピードを要求した。
2007年にグーグルは、検索結果の表示を意図的に遅らせ、ユーザーの行動に変化が出るかどうかを調べる、という実験を行った。設定された遅延時間は100~400ミリ秒(0.1~0.4秒)程度だった。
1秒以下の応答遅延ではユーザーの行動にはさほど影響が出ないのではないか、という予想もあったが、実験結果では、0.1秒遅延しただけでユーザーの検索回数は減少した。検索結果の表示が遅くなることにより、ユーザーは検索行動に消極的になったのだ。わずかな遅延であってもユーザーの行動に影響が出る、ということがこの実験によって明らかになった。人間は、自分が認識しているよりもずっとせっかちなようだ。
グーグルが異常なまでにスピードにこだわるのには彼らなりのロジックがある。人間の寿命をベースに考えた一風変わった計算に基づくものだ。
人間の寿命を70年前後とすると、人の一生はおよそ20億秒という計算になる。例えば、1億人が使用するサービスで、サービス遅延のために毎日ユーザー一人あたり2秒の時間が奪われた場合、そのサービスは1日で2億秒、10日でおよそ一人の一生分の時間を無駄に奪うことになる。年間で36.5人の人生に相当する時間が浪費される計算なり、36.5人の人間の一生を無駄にするも同然だ、とグーグルは考える。
だからこそ、スピードは重要だ、とグーグルは創業当初から主張し続けているのだ。
もちろん、スピードが遅いサービスは人の一生を奪うものに等しい、とするグーグルの考え方は極端であり、全ての企業や仕事にあてはまるわけではないだろう。だが、スピードを重視することに徹底的にこだわってきた企業だからこそ、グーグルは今日の規模にまで成長し得たのではないだろうか。
些細なことだから気にすることはないと取り合わないのか、些細なことだからこそ徹底的に研究し、人の無意識の行動を科学的に分析してサービスに活かすのかは、ビジネスの成否の分かれ目となりうる部分である。企業が他社との大きな差を生み出すための要因は、そのような細部にこそ潜んでいるような気がしてならない。そして、細部へのこだわりの積み重ねこそが真のイノベーションを支える基盤となるのかもしれない。
参考文献: グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ; スティーブン・レヴィ (著), 仲達志 (翻訳), 池村千秋 (翻訳)
(データのじかん編集部)
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