海の家を立ち上げたことで、ITは製造業である、という発想から、ITはサービス業でもある、という発想に頭が切り替わった。より現場を知るために、最初の海の家の半年後にはリアル店舗を出店した。そして、その半年後には再び海の家が始まり、その半年後に2店舗目の唐揚げ屋を出店した。
店舗運営を経営視点で考えた時、軸は2つある。1つはIT化、もう1つは業務効率化、つまり経営改善だ。
経営改善を行う際の最大のコストは食材の仕入れだ。仕入れコストの見直しについて考えているうちに、だったら自分たちで食材を作ればいい、というアイデアに行き着いた。それを実現させるため、徳島県の鳴門市に食品加工の設備を作った。傷がある、形が悪い、大きすぎる、などなんらかの理由で商品基準には達していないが、品質が安定している良質な四国産の食材をそこに集め、飲食店からの需要がありそうな食材加工を開始した。
THE NARUTO BASEは2016年の12月にオープンした。立ち上げる前に構想1年半、準備に同じくらいかけて、賛同してくれる四国の生産者を回って、物が集まるようになってから、物件を探し、物件の内装と食品加工の機材を調達した。鳴門市は四国の陸路のジャンクションとなっている場所で、そこから関西に向けての陸路輸送が行われていたことと、空路も徳島空港まで鳴門市から車で10分程度だったこと、さらに知名度の高い鳴門はブランディングしやすい、という理由からここに決まった。
また、食材調達とITをパッケージングし、NARUTOブランドの食材のみを使い、シェフや料理人がいなくても運営できるようなNARUTOブランドの実店舗も徳島駅付近に新しくオープンさせた。この店舗では、アルバイトの人がマニュアルを見ながら調理すれば誰でも料理が提供できるような仕組みを作っている。そのオペレーションチェックと実験をこの海の家では行なっている。実際、ここの海の家のスタッフは3日も勤務すれば店の全メニューを作ることができるようになる。
テクノロジーに限ったことではないが、これまではコストに見合わなかったり、時間がかかりすぎていたことがタイムリーに、リアルタイムに実現できたり、これまでビジネスだと思われてなかったことがビジネスになってくるのではないかと考えている。そこにはきっと新しいビジネスが生まれる余白がある。UBERや民泊などの空いた隙間をマネタイズするシェアリングエコノミーもIoT技術なしでは実現し得なかったことだ。DTA(Data Trading Alliance・データ流通推進協議会)などデータを流通させることが利益を生み出す、というビジネスモデルも現実味を帯びてきている。TDBCが行っている取り組みにも近い部分があるが、自社にとって利用価値のないデータが、他社にとっては非常に有益なデータとなる場合もあるだろう。
スマートホーム的なIoTや、声による操作、外出先からのリモート操作などがいわゆる便利なIoTの今のイメージかもしれないが、例えば、操作をする人たちの傾向など、その上に溜まっていくものが新たな価値を生み出していくだろう。そのニーズに対して、既存のものよりも優れたソリューションを提供できる可能性も出て来る。
最近の事例でいうと、某Jリーグチームのサポーター向けにアプリからフードの注文・クレジットカード決済が行えるというサービスを、ここの海の家と同じ仕組みでホームスタジアムに導入している。サポーターはハーフタイムに殺到するが、ハーフタイム直前にオーダーしておくと、準備ができたタイミングで通知が届き、行列に並ぶことなくオーダーした商品をピックアップできる。これは利用者にとってベターなソリューションが提供できている一例だ。
海の家の運営は楽しい部分も多いが、ただ楽しんでるだけではない。自分で運営をやってみることで飲食店の経営者と対等に会話できるようになった。数字に関しても、何をいじるとどうなるのかを理解した上で話せる。IT化は手段の一つだが、IT化することそのものに価値があるわけでなく、問題が解決できればなんでもいい。だが、ITの力を借りることで、日本のフードビジネス業界をより効率化したい、という気持ちが根底にある、と千葉氏は締めくくった。
IT化の波があらゆる業界に訪れ始めている、ということは誰の目にも明らかだが、その中でも飲食業界への浸透はスローペースだと言えるだろう。そういう意味では、「IT x 飲食」の領域はまだまだブルーオーシャンだ。
だが、経営者とデータ活用の間にある心理的な距離をいかに縮めていけるかが、ITによる効率化の実現に向けて必要不可欠な要素だろう。そのためには、セカンドファクトリー社のように、自ら現場を作り、現場で汗をかき、頭ではなく身体で業務フローを理解し、ノウハウを蓄積していくことでしか新たな領域は開拓できないのかもしれない。
取材を行った日はおりしも鎌倉花火大会の日であり、鎌倉行きの電車は浴衣姿の人で溢れかえっていたが、伝統的な夏の風物詩である花火という分野にすらも、今やITは当然のように導入されている。
IoTだ、ITだと、キーワードを口にするのは簡単だが、IT会社がITをやっているだけでは不十分な時代が、つまり、IT単体ではなく、ITとはかけはなれた分野の何かと掛け合わせた「IT x ◯◯」が求められる時代が、もうそこまで来ている気がしてならない。
(データのじかん編集部)
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