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民事裁判にもIT化の波到来か? 海外事例にみる裁判手続きのIT化

         

日本ではまだ実感が湧きにくいかもしれませんが、実は民事裁判にもIT化の波が到来しています。

シンガポールや韓国、中国の杭州(浙江省)などではすでに民事裁判手続きのIT化が進んでいるのです。今回は、民事裁判にITを導入している海外の事例を紹介しつつ、日本の民事裁判をIT化するための「3つのフェーズ」について取り上げます。

シンガポールにおける裁判手続きのIT化

シンガポールでは、1990年代後半まで紙の書面を用いた裁判手続きが行われていましたが、1998年に電子システムEFS(Electronic Filing System)が構築されました。2013年からは第二世代として「eLit(Electronic Litigation System)」が導入され、現在も使用されています※1。eLitの登場によって、「e-Filing(e提出)」や「e-Case Management(e事件管理)」、「e-Court(e法廷)」が実現しました。

e-Filingによって訴訟記録が電子化されることになり、記録保管等に掛かるコストを削減できるようになりました。また、弁護士がオンラインで訴訟記録にアクセスできるため、裁判所にわざわざ足を運ぶ必要がなくなっています。

e-Case Managementによって、事件記録も裁判所・弁護士双方で共有することができます。弁護士と裁判官の通常連絡もメールを活用し、裁判期日の調整などをスムーズに行えるようになりました。

e-Courtに関してですが、シンガポールでは法廷でのやりとりは自動録音され、公式な裁判記録となっています。またスクリーン完備の法廷もあり、テレビ会議システムを利用したヒアリングも可能です。とくにシンガポール最高裁では、モニターとパソコンが完備されており、裁判官の席では、複数のモニターで事件記録を見ながら審理することができます。

将来的には、交通事故や相続・財産をめぐる訴訟など争点の少ない案件における自動システムでの和解や、裁判に関する簡単な質問に対するAIでの回答などを推進。さらなるIT化を進めていく予定だとのことです※2。

韓国の裁判手続きのIT化

韓国の裁判手続きに関しても、IT化が進行しています。

e-Filingに関しては、まずは特許法院(特許・実用新案・商標・意匠等の産業財産権に関する審決取消訴訟を専らに扱う機関)での導入からはじまりました。その後、民事通常事件(2011年~)、家事事件・行政事件(2013年~)、破産・再生事件(2014年~)、執行事件・非訟事件(2015年~)と対象を拡大してきました。

e-Case Managementについては、ポータルサイト形式で担当者の関連する事件の情報を見られるようになっています。具体的には「提起した事件の一覧」「各事件の進行状況」「自分に送達された文書の一覧」などです。

e-Courtに関しては、韓国内の各裁判所の一部法廷に電子機器が設置されています。特許法院でも、審理にテレビ会議を導入する動きを進めているとのことです※3。

中国・杭州における司法のIT化

中国では2017年8月にサイバーコート(法廷)が杭州に設立されました。

これは電子商取引紛争など一部の事件のみ適用されるものであるものの、審理にウェブ会議を活用し、提訴から判決の言い渡しまですべてをオンラインで行うことができるそうです。中国は国土が広大であり、審理のために移動コストが掛かります。遠隔地からでも審理に参加できるウェブ会議は、今後普及しそうです※2。

日本の民事裁判をIT化するための「3つのフェーズ」

日本では、民事裁判のIT化に向けて、e-Filing、e-Case Management、e-Courtの実現を目標として掲げています。そのためのプロセスを、以下の3つのフェーズに分けています。

フェーズ1は「現行法の下でのウェブ会議・テレビ会議等の運用」です。IT機器の整備などで現状実現可能なものについては、速やかな実現を目指すことができるでしょう。

フェーズ2は「新法に基づく弁論・争点整理等の運用」です。関係法令の改正によって、制度的な実現が可能になります。

フェーズ3は「オンラインでの申し立て等の運用」です。システム構築のみならず、IT操作・利用に不都合がある人へのフォローや、社会全体への広報など、国民の理解が必要になってきます。

フェーズ1については、機器整備等が実現できれば2019年度からの試行が期待されます。フェーズ2に関しては、2022年度からの開始を目標とし、2019年度中の法制審議会への諮問を視野に入れ検討していくことが必要でしょう。同時に、2019年度中にフェーズ3の実現に向けたスケジュールの策定を行うことが望まれます※4。

まとめ

日本は民事裁判の訴状などの文書を、印刷して裁判所に持参したり、郵送・FAXをしたりしなければならないといいます。世界銀行による2018年のビジネスランキングで日本の司法の利便性はOECD(経済協力開発会議)35か国中23位です※2。IT先進国に追いつくためにも、政府には迅速な対応が求められます。

 (参考記事)
 ※1 裁判手続等のIT化検討会 第2回 議事要旨 | 首相官邸
 ※2 民事裁判にIT化の波 最先端シンガポールを追う ネットで手続き迅速に :日本経済新聞
 ※3 韓国における裁判手続等のIT化進展状況 | 平岡敦、2017年
 ※4 裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ | 首相官邸

(安齋慎平)

 

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