19世紀後半のアメリカでは、肥満は「富の象徴」として扱われていたそうです。
しかし、時代が変わる中、その認識は大きく変わっていきました。科学や医療知識が進歩する過程で、肥満は生活習慣病のリスクを高めることが一般的に知られるようになったのです。
一方で、日本や欧米各国では、飽食が当たり前になり、オフィスから動かないホワイトカラーとして働く人の割合が増える中、いかに適正体重を維持するか、ということへの関心が年々高まっています。
特に最近では、新型コロナウイルス感染症の流行もあり、在宅勤務が広く活用されるようになる中で「健康」を意識したフィットネスや食事の情報をSNSやニュースなどで目にする機会が増えたように感じます。
そこで、健康管理をする上で欠かせない、体重や身長といった指標について、今回は年収という切り口で関係を探っていきます。
滋賀医科大学アジア疫学研究センターの調査では、就業状況、婚姻状況、教育歴、世帯支出などの社会的要因と、体格・栄養摂取・喫煙などの生活習慣などの関連を分析しています。対象となるデータは厚生労働省の2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査です。
調査の結果、65歳未満の女性では、世帯収入や教育年数が低いほど肥満リスクが高いことが明らかになったそうです。
肥満のリスクを世帯年収別に見ると、世帯年収600万円以上と比較して、世帯年収200~600万円未満では肥満リスクは1.70倍に、さらに200万円未満に絞ると2.09倍に増加したそうです。
さらに、教育年数で比較した場合にも、女性では教育期間が10年以上と9年以下と比較した場合、9年以下の(教育期間が短い)方が肥満リスクが1.67倍高いことも明らかになりました。
同調査では世帯年収と炭水化物の摂取量の関係も分析しています。
その結果、男女ともに、世帯年収が少ないほど炭水化物の摂取量(エネルギー比率)が多いということが明らかになっています。
この背景には、おにぎりやパンなど、安価にお腹を満たすことができる食品は炭水化物の比率が高く、金銭的な制限が結果として炭水化物の摂取を増やすことにつながっていると考えられます。
女性において、世帯年収が低くなると肥満リスクが高まる傾向は、イギリス、エセクター大学の研究チームが37~73歳のイギリス人家系の男女を対象に行った調査でも得られています。
しかしこの調査では、単に現状の体重と身長から割り出された肥満リスクと世帯年収を比較するのではなく、遺伝的な肥満リスクと世帯年収を比較しています。
女性では、遺伝学的に確定されたBMIが1SD(4.6)上昇すると、世帯年収が2,940ポンド低下し、窮乏の程度が0.10増大したというのです。
つまり、女性において、世帯年収が低い結果、食生活が限定的になり、肥満リスクが高まるだけでなく、遺伝的な肥満リスクの高さが社会的経済的な地位に影響を及ぼしうるというのです。
女性において体重が世帯年収に影響を与えることが分かりましたが、一方男性では身長と世帯年収の関係が指摘されています。
上述のイギリスの調査では、遺伝的に確定された身長が1 SD(6.3cm)高くなると、正規の就学期間を終了した年齢が0.06年高くなり、専門性の高い職業に就く可能性も高くなったといいます。そして、世帯年収は1,130ポンド高額となり、この傾向は男性でより強力だったそうです。
この結果は日本でも同様で、慶應義塾大学のパネルデータ設計・解析センターによる調査では、正規雇用の男性において、高身長だと年収が高くなり、逆に低身長だと低くなる高身長プレミアムと低身長ペナルティがあることが明らかになりました。
なんとなく「痩せていた方が良い」という認識は多くの人が持っているのではないでしょうか?実際「痩身」や「ダイエット」という文字はSNSや雑誌、テレビなどさまざまなコンテンツで目にします。
しかし、近年では「より痩せていた方が良い」という認識が加熱し、過剰なダイエットによる健康被害も報告されるようになっています。実際若年女性の一割がBMI(体格指数)が18.5未満の低体重だと言います。
例えば、低体重の女性では、2型糖尿病のリスクが高くなることが明らかになっています。
体型と世帯年収について調べる中で、個々人の努力ではどうすることもできない遺伝的要因がその後の人生の経済的、社会的立場に影響することがわかりました。
一方で。こうしたバイアスが強化され、健康のための「ダイエット」が逆に人々の健康を害してしまうこともあるのです。
「痩せる」ことがステータスとなったファッションの中心地、フランスでは、健康被害を憂慮し、2017年に極端に痩せているモデルの活動を禁止する法律が施行されています。
しかし、痩せすぎの問題の根底には「肥満に伴う不利益」があるのではないでしょうか?その場合、対処として、痩せることを禁止するよりも、肥満に対する不利益を排除していくことの方が重要なのではないでしょうか。そして同様のことは身長にもいえます。
組織や個人が、無意識のバイアスをきちんと把握し、フラットに人を評価することを意識するために、定量的な情報によって明らかになった「原因」を取り払うような社会的なシステムが必要なのかもしれません。
【参考引用サイト】 ・アメリカ人が考える、男性の「理想体型」 —— 150年の変化を振り返る ・収入や教育年数が「健康格差」に影響 年収低いほど肥満リスクは上昇 ・身長・BMIが学歴や年収に影響?/BMJ - ケアネット ・身長と体重が賃金に及ぼす影響 ・若い女性の「痩せすぎ」は2型糖尿病リスクに、順天堂大の研究より ・痩せすぎモデルの活動は禁止、ファッションの中心地フランスで ...
(大藤ヨシヲ)
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