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「量子化」とは?量子コンピュータが実用化されたら世界はどう変わる?

         

2025年は記念すべき年ですね! 2025大阪・関西万博の開催? ちょうど、昭和100年に達するから?

このような連想をされたかもしれません。
──しかし、この記事で取り上げたいのは別のトピックです。

2025年は、国際量子科学技術年(IYQ)。ハイゼンベルクの行列力学とシュレーディンガーの波動力学が打ち立てられてから100周年となるこの年は、国連が量子力学の推進と啓蒙を盛り立てる1年と定めたアニバーサリーイヤーなのです。暗号化や機械学習、自動運転など最新のデータ活用やテクノロジーにも深くかかわる量子力学

本記事では、データのじかん的視点で、量子力学や量子化、量子コンピュータといったトピックについてわかりやすく解説します。

「量子力学」とは?

量子力学は、非常に小さな単位で物質やエネルギーの振る舞いを記述する物理学の分野の一つです。現代物理学において双璧をなす相対性理論が宇宙や時間などマクロな世界に深くかかわるのに対し、量子力学は原子や分子、電子、光(フォトン)といったミクロの世界を解明するために用いられます。量子力学が登場する以前の物理学は古典力学と呼ばれます。

量子力学は、ミクロの世界だけでなく、私たちの生活にも密接に関わっています。たとえば、スマートフォン、GPS、MRI(磁気共鳴画像法)といった技術は、量子力学がなければ成り立たないものです。また、量子力学の発展は、宇宙の起源や生命の進化といった、より深遠な問いへの答えを探る鍵にもなると考えられています。

「量子化」とは? 「デジタル化」「サンプリング(標本化)」「符号化」とは何が違う?

 

量子化(Quantization)とは、連続データを離散データに変換するプロセスを意味します。

具体的には、区切りのないアナログデータ(例:音声、映像、センサーのデータなど)を、一定の間隔で区切られた数値(量子化レベル)に丸める過程を指します。このプロセスにより、データをコンピュータが扱いやすい形式で表現できます。たとえば、オーディオ信号の量子化では、連続的な音の波形をサンプリング(一定間隔で値を取得)し、その値を事前に決めた範囲内の近似的な数値に丸めます。

量子とは‟何かの量の最小単位”という意味を持ち、すなわちデータサイエンスにおける量子化とはデータの最小単位を決めるということでもあります。

デジタル化と量子化の違いは?

量子化と同じような意味で扱われることの多いデジタル化は、サンプリング(標本化)、量子化、符号化というアナログデータをデジタルデータに変換するプロセス全体を指します。

サンプリング:
アナログ信号を一定の時間間隔で測定し、連続的な信号を一連の点として取得します。このステップで得られる値はまだ連続値を持っています。サンプリング周波数が高いほど、元のアナログ信号に近い形でデータを取得できますが、処理量が増加します。

量子化:
サンプリングによって得られた連続値を、あらかじめ定めた「量子化レベル」に基づいて離散的な値に丸めます。この際、情報の一部が失われることがあります(量子化誤差)。量子化レベルを増やすと誤差が小さくなり、データの再現性が高くなりますが、必要なデータ量が増えるため、トレードオフの設計が重要です。

符号化:
量子化された離散的な値をバイナリ形式やテキスト形式で表現し、コンピュータで処理可能なデジタルデータとして保存します。この段階では、圧縮アルゴリズムを適用してデータ量を削減することもあります(例:MP3やJPEGなどの圧縮形式)。

コンピュータが現実世界の様々なデータを処理するためには、量子化、デジタル化のプロセスが不可欠です。また、制限のあるCPUの処理能力やストレージやネットワークの負担、消費電力などを軽減しながら効率的にデータ分析やAIのトレーニングを行うためにも、量子化は大きな役割を果たしており、ニューラルネットワークでは、計算効率を向上させるためにモデルやデータを低ビット幅に量子化する技術にも注目が集まっています。

「量子コンピュータ」が実用化されたら世界はどう変わる?

量子コンピュータは、量子力学の原理(重ね合わせや量子もつれなど)を利用して計算を行う新しい種類のコンピュータです。従来のコンピュータが「0」または「1」の状態を持つ「ビット(bit)」を用いて情報を処理するのに対し、量子コンピュータでは「量子ビット(qubit)」を利用します。量子ビットは「0」と「1」の両方の状態を同時に取れるため(量子の重ね合わせ)、複数の計算を並列で実行できます。

量子コンピュータが実用化されると、計算能力が飛躍的に向上し、さまざまな分野に革命的な影響を与えると期待されています。

量子コンピュータがもたらす変化

1. 暗号化技術への影響
現在の公開鍵暗号(RSA暗号や楕円曲線暗号など)は、量子コンピュータの高速な因数分解アルゴリズム(例:ショアのアルゴリズム)によって容易に解読される可能性があります。対策として、理論上盗聴不可能な量子暗号通信やポスト量子暗号(量子コンピュータでも安全な暗号技術)の研究が進んでいます。

2. 機械学習とAIの進化
量子コンピュータは、大量のデータを並列処理できるため、機械学習モデルのトレーニング時間が大幅に短縮されます。特にディープラーニングでは、従来のコンピュータでは計算が難しい大規模なデータセットを効率的に処理可能になります。

3. 自動運転技術の向上
膨大な量の交通データやセンサー情報をリアルタイムで解析することで、安全で効率的な自動運転システムの実現が加速します。また、量子アニーリングなどを利用して組合せ最適化処理を高速で実行することで、エネルギー消費の少ない最適な経路設計や交通渋滞の軽減が可能になるといわれています。

4. 医療と薬剤開発
分子シミュレーションの精度と速度が向上するため、新薬の開発やテーラーメイド医療(患者の遺伝情報や体質に基づく治療法の最適化)の進展が見込まれます。また、診断の精度の向上やよりセキュアな医療情報の取扱いによる医療現場DXなども期待されます

5. 環境問題の解決
気候変動のシミュレーションがより正確に行えるようになり、持続可能なエネルギーや資源管理の新しい方法を見つけやすくなります。さらに、新素材の開発やエネルギー効率の向上に役立つシミュレーション技術が向上します。

このように、量子コンピュータには大きな可能性が見込まれています。もちろん、熱や振動といった環境ノイズに非常に弱い、扱える量子ビットはまだまだ小さいなどまだまだ従来型のコンピュータのように普及するために越えなければならないハードルは存在します。それでも、量子コンピュータが私たちの生活や産業をどのように変えていくのか、2025年以降の進展に寄せられる期待は非常に大きなものとなっています。

終わりに

国際量子科学技術年(IYQ)の2025年、知っておきたい量子化と量子コンピュータの基礎知識についてご紹介しました。すでに量子コンピュータ技術は「ノイズあり中規模量子(NISQ)」と呼ばれる段階に達しており、完全な実用化にはまだまだ数十年単位の時間がかかると見込まれるものの、古典コンピュータとの組み合わせや特定の業務への特化といった形で利用されるのは決して非現実な話ではありません。今後ますます重要度を高めるであろう量子の世界に、今のうちから注目しておきましょう!

(宮田文机)

 

参照元

・100 years of quantum is just the beginning…┃International Year of Quantum Science and Technology ・日本物理学会 2025-2027年記念事業┃一般社団法人 日本物理学会 ・科学雑誌 Newton 2025年2月号┃ニュートンプレス ・「GIGAスクール特別講座~量子力学100年の謎と量子コンピュータへの挑戦!~」の開催について > ご質問への回答┃文部科学省 ・量子化ビット数 【quantization bit rate】┃IT用語辞典 e-Words ・量子化とは┃IBM ・伊神 賢人『量子コンピューターで暗号が破られる可能性、情報資産を守るには』┃日経Xtech ・量子機械学習とは何か?「量子技術」と「AI技術」の可能性をグッと広げる理由とは┃ビジネス+IT ・量子未来社会ビジョン~量子技術により目指すべき未来社会ビジョンとその実現に向けた戦略~┃令和 4 年 4 月 22 日統合イノベーション戦略推進会議(内閣府)

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