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昨今注目を集める「識学」とは? いったいどんな考え方で、マネジメントをどう変えるのか?

         

マネジメントや組織運営の方法として、「識学」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか? それをそのまま社名に冠した株式会社識学は創業から3年11カ月でマザーズ上場。『リーダーの仮面』『数値化の鬼』『とにかく仕組み化』の3部作など、識学に関する書籍も異例の売れ行きを見せています。

本記事では、識学とは何か、どのようにマネジメントに生かすことができるのかについて、その本質に着目してご紹介します。

 「識学」とは? なぜ‟部下を褒めてモチベーションを高める”ことを否定する?

識学とは、モチベーションに左右される構造、ガバナンス不足、社員の離職など、組織に数多く存在する問題を解決し、生産性を高めることを目的としたマネジメント理論です。前述の株式会社識学、特にそのCEOである安藤広大(あんどう・こうだい)氏がエヴァンジェリストとしてコンサルティング事業や書籍の中で活用・拡散することに取り組んでおり、近年注目度を高めています。

識学はそもそものルーツとして「意識構造学」という言葉をルーツに設定している通り、人間の意識の構造を理解し、従来の手探りで構築してきた人間関係やそれを利用したモチベーションの高め方ではなく、仕組みや数値、役割といったロジカルなメソッドで組織運営を行うことを指向します。

たとえば、識学では、‟部下を褒めてモチベーションを高める”ことを否定します。それは、褒めてモチベーションを高める方法は‟褒められるために仕事をする”という意識上の錯覚を生じさせる原因となり、またその方法が選ばれやすいのは‟部下に嫌われたくない”という個人的な心情が影響しているからです。

そもそも会社は社会に対して何らかの価値を提供し、その対価を株主や社員で分け合う形で成り立っています。すなわち、成果を上げて対価を得ること自体が仕事の目的であり、そこに‟褒められたい”、‟嫌われたくない”という個人的な心情が入り込む余地は本来ないはずなのです。

このように識学は仕事や業務の本質に着目するマネジメント法であり、だからこそ「数値化」を重視します。成果とは何か、成果に直結する要素は何かは、数値化とその分析によってしか導き出せないからです。さらに、「仕組み化」により属人化を防ぎ、組織自体を強くすることまでが識学の射程に入っているようです。

 「辛そう」「怪しい」……識学に対するネガティブな反応へのアンサーは?

「厳しくて辛い職場になりそう……」「説教臭くて怪しい」

ここまでの識学の説明を聞いて、そのように感じた方も少なくないのでは? 実際、識学の検索結果が「やばい」「宗教」「怪しい」といったワードとともにサジェストされることを取り扱った株式会社識学スポンサードの記事(新R25)も存在します。

このように識学側からのアンサーとして出された言説も多数存在します。それらを踏まえて、識学的な視点から上記の意見に応えると、「いずれも感情・憶測ベースの判断であり、それらを排除するのが識学である」というものになります。

会社は成果を求められる場であり、その対価として給与が支払われているのだから「厳しい」という意見に応じて成果を追求することを辞めるというのはナンセンスであるというのが識学の基本的な考え方です。もちろん、パワハラや人を追い詰めるような言動・行動は必ず避けられるべきですが、成果を求めなければ業績低下や倒産といった結果に陥る確率が高まるため、結果として全員が不幸になるのではないでしょうか。

このような考えから筆者が想起したのが、アドラー心理学を紹介しベストセラーとなった『嫌われる勇気』の言説です。ビジネスのみならず人間関係全般に対する考えを取り扱った同書でも、相手の感情を操作するため「褒める」のは相手の主体性を考えず左右できると錯覚している点ですべきでない旨が記述されていました。

もちろん、上司と部下は対等であるとする『嫌われる勇気』著者、岸見一郎(きしみ・いちろう)氏の言説と、上司・部下という役割のうえでの上下関係を守ることを重視する識学では違いもあるのですが、感情的なその場その場の判断ではなく本来の目的やできることに立ち返ろうと主張している点では共通しているようにも思われます。

ティール組織など、識学とは水と油に思われる考え方にも、個人の内発的動機を重視するなど重なる部分が見られます。あえて対極的に思える考えとともに参照し、重なる部分を抽出することで、識学の本質的な考えが把握しやすくなるでしょう。

仕事は嫌だけどなくなるのは怖い……心理的なもつれの解決に「識学」は効果的?

2021年3月、電通総研と同志社大学が共同で発表した「世界価値観調査」によると、「たとえ余暇時間が減っても、常に仕事を第一に考えるべきだ」という意見に「強く反対・反対」と答えた人の割合は59.2%で世界で2番目でした(1位はアイルランドの59.9%)。

一方、「働くことがあまり大切でなくなる」ことが「良いこと」と答えた割合は日本は10.5%で77カ国中、下位4位に当たります。

「仕事を第一に考えたくはない(むしろ嫌いだ)けれど、なくなるのは怖い」

そんな心理は我々日本人にとって非常に身近なものではないでしょうか?

もちろん「仕事中は仕事を第一に成果が出るまで頑張り、成果が出たら帰宅して余暇を楽しめばいい」というのが答えだとはわかっているのですが、「成果が出せるだろうか」「成果が出ても嫌われてしまったら……」など、感情や人間関係ベースで考えればさまざまな不安がよぎります。

それらの感情的なもつれをばっさりと解きほぐし仕事に相対するにあたって、識学の断言的な強い言葉や非人間的にも感じられる仕組み重視の姿勢は効果的かもしれない。

そう筆者は考えています。

 終わりに

成果に直結するマネジメント方法として近年注目を集める「識学」について解説してまいりました。個人の内面にしか存在しないモチベーションではなく、誰にでもわかる成果とそれを上げるための仕組みだけを考えればよいというのは、特に過激な言説ではなく当たり前のことに感じられます。

しかし、人間に感情がある以上それを実践するのは容易ではないでしょう。そこで、「識学」という学問の形式で考えをインストールすることが役立つ場合があるのかもしれません。 

(宮田文机)

 

参照元

・識学とは┃株式会社識学公式サイト ・組織運営は「国語」ではなく「数学」 ルールに基づいたマネジメントで人も企業も成長する┃日本の人事部 ・「褒めなきゃがんばれない人」を作る会社は長続きしない 成果を上げ、部下を成長させる「マネジメントの正解」┃logmi ・『数値化の鬼』で著者の私が伝えたかったこと【ベストセラーの生みの親・安藤広大が語る本当の意味】┃識学総研 ・『嫌われる勇気』著者「ほめる上司が部下をダメにする理由」┃日経ビジネス ・【世界価値観調査】国際比較リリース20210322┃電通グループニュースリリース

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