日本の未来はこれからどうなるんだろう?
少子高齢化、社会保障の崩壊など、どちらかといえば不安要素とともにそう考えたことがある方のほうが多いのではないでしょうか?
しかし、2020年2月に出版された『シン・ニホン』で著者の安宅和人(あたか・かずと)氏は「単なる悲観論、それは逃げだ(※)」と喝破します。
AI×データ時代に望ましい未来を創るにはどうすれば良いのでしょうか?
発売10日で7万部を突破した『シン・ニホン』。その趣旨とともに膨大なデータに裏打ちされた内容の一端をご紹介します(安宅氏含むYahoo!ビッグデータレポートチームが2019年に上梓した『ビッグデータ探偵団』(講談社現代新書)の書評はコチラ)。
※安宅和人『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』NewsPicksパブリッシング(Kindle の位置No.19)
『シン・ニホン』の原点は2016年に安宅氏が登壇したTED×Tokyo。
その模様は2020年3月14日現在、Youtubeで見ることができます。
12分弱の登壇で語られるのは「シン・ニホンとは何か」。書籍では1~2章に当たる部分の内容です。
とても面白いときに僕たちは生きているっていうのはいえるかなと思います。ここに生きてるっていうのはもう、やっぱりもう、embraceしないといけない。もう死ぬほどラッキーなことで超面白いときなんですね。確変モードであると。
引用元:『シン・ニホン | 安宅 和人 | TEDxTokyo』3:00~3:08┃TEDx Talks(YouTube)
何が面白いのか。それは、“ビッグデータ/AIが引き起こす現代の産業革命(情報通信革命)”です。データのじかんでも多数紹介(例えばコチラ)していますが、発達した情報技術は新たなサービスを生むとともに人間の生産性を何倍にも高めるといわれています。
18世紀に起こった産業革命後50~100倍に拡大した人間の生産性。同じことが今度は情報通信革命として起こり、すべての産業のあり方が変わると安宅氏は予測しています。
平成20年版 科学技術白書に掲載された文部科学省作成のグラフ(元資料はゴールドマン・サックスが2003年に公表した「Dreaming with BRICs: The Path to 2050」)でも中国やインドの生産性は2000年代から2050年にかけて数十倍に高まることが予測されていますね。(日本は、ほぼ横ばいなのですが……。)
引用元:平成20年度版 科学技術白書 第1部 第1章 2 中国、インドをはじめとするBRICs諸国の台頭┃文部科学省
日本は情報通信革命に乗り遅れ、世界に取り残されてしまうのか?
その危機感への答えが『シン・ニホン』です。
全6章の3章は人材育成、4章は教育、5章は科学技術への投資、6章は環境設計にどう取り組むかへの提言がなされています。著者の安宅氏は内閣府や財務省のシンクタンク・会議で提案を行う立場のため、書籍の内容がこれからの国策に取り入れられる可能性も大いにあるでしょう。
データ×AIの観点から見て今の日本は「黒船来航時」と同様の状況だと安宅氏はいいます。1人当たりの生産性は世界で20位前後とG7のなかでも低迷しており、世界大学ランキングや論文数といった学術分野でのプレゼンスも特に計算機科学分野において低いといわざるを得ない状況です。
引用元:高部英明「日出ずる中国と、没する日本(特集:中国を考える)」┃論座
しかし、だからこそ日本には「伸びしろしかない」と安宅氏はいいます。情報技術革命の第1フェーズに日本は乗り遅れました。が、これから技術が実用性を持ち始める第2フェーズ、新しく生まれたツールや産業が相互に影響しあう第3フェーズがやってきます。
そこで文明未開化の鎖国状態からニコンFや世界初の市販クォーツ時計「アストロン」、ウォークマンや日本車を生み出し世界に冠たる技術大国となったかつてのように大きな巻き返しを測れるかどうかが、数十年後の日本の命運をわかつようです。
イメージを具体的にするために『シン・ニホン』5章「未来に賭けられる国に──リソース配分を考える」の提言をひとつ見てみましょう。
トップ研究大学および主要国研強化費用として国家レベルの基金を設立する。立ち上げ時点の目安運用額は10兆円(※)。運用には世界トップクラスのプロフェッショナルを任命し、年率平均7%の運用益を創出する。運用益の半分は翌年の予算に組み入れ、次世代の遺産として残す。また教育・研究機関への寄付を促進するため免税制度を導入。企業のマッチアップ(従業員やその配偶者の寄付に企業が一定の割合で上乗せすること)を促進する仕組みも設ける。
※日本の科学技術研究費は2016年時点で総額18兆4,326円
安宅氏によると、前述のように日本の学術分野のデータが芳しくない一因は「国力に見合ったR&D(筆者注、Research and Development:研究開発)へのリソース投下ができていない(※)」ことです。
科学技術予算の対GDP比率において日本は韓国、中国、ドイツ、アメリカなどに大きく水を空けられています(2017年時点)。
引用元:科学技術指標2018_1.2政府の予算┃科学技術・学術政策研究所
さらに給与など研究者の待遇が悪いことも日本の特徴のひとつです。なんと2015年時点で教授の平均給与はアメリカの半分程度の水準とのこと。博士課程進学者が生活費に困窮し卒業後も不当に低く扱われる「ポスドク問題」も科学技術分野の進展を大きく妨げていると考えられます。
このような状況を脱するために研究の礎となる基金を底上げしようというのが安宅氏の提案です。「予算はどこから持ってくるんだ」という指摘への回答も第5章にしっかり用意されています。
このようにマクロな視点から行われる具体的な提案が『シン・ニホン』の持ち味です。
※安宅和人『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』NewsPicksパブリッシング(Kindle の位置No.3606-3607)
「本の形をしているが、これは「祈り」なんだと思う」
これは、『シン・ニホン』のamazonレビューで3月14日現在トップに位置する書評(Naoki氏によるもの)のタイトルです。現状のデータだけを見れば暗澹たるものに感じられる日本の未来。
しかし、そこで立ち止まらないのがこの本のユニークさです。
未来を担う若者への投資、日本の持つ“妄想力”、オルタナティブ空間「風の谷」……。薬師寺から風の谷のナウシカまで縦横無尽にアイディアの拠り所を移し、提案される内容は力強さに満ちています。
祈りを祈りのままにしないために。
ぜひご一読ください。
(宮田文机)
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