About us データのじかんとは?
普段はあまり意識しないかもしれませんが、例えば街を歩くとき、耳から入ってくる情報はとても重要です。イヤホンで音楽を聴きながら歩いていると、後ろから近づいてくる車のエンジン音やパトカーのサイレンの音を聞き逃し、危ない目に合ったという経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか?
私たちの生活に重要な役割を持つ耳。実は今、聴覚でデータを理解しようとするプロジェクトが増えてきています。複雑なデータを直感的に理解するために、音に変換することは「ソニフィケーション」(Sonification)と呼ばれ、宇宙や数学の分野では実際に試みられています。
しかし、「データを聴く」とはどういうことなのでしょうか。今回はそんな神秘的なソニフィケーションの世界をご紹介します。
2020年9月、NASAでは「チャンドラX線観測衛星」をはじめとするいくつかの宇宙望遠鏡が観測した「天の川銀河の中心部」のデータをもとに、メロディーを作成するプロジェクトが行われました。
地球から天の川銀河の中心までの距離はおよそ2万1600光年と推計されており、少なくとも私たちが生きているうちは実際に探測することのできない場所です。ですが、NASAの打ち上げた宇宙望遠鏡はそんな遠く離れた場所の光を感知することができます。
NASAはこれまで宇宙望遠鏡から送られてきたデータを変換し、美しい宇宙の画像を作成してきました。それらは大量に公開されているので、見たことがある人も多いかもしれません。今回、NASAは新たに撮影された「天の川銀河の中心部」の画像データを音に変換しています。
NASAのサイトによると、画像データの変換方法は、画像データの横方向を時間とし、縦方向を音の高さ、そして、星の明るさを音の大きさとすることによって、観測された一つ一つの星にそれぞれ音が振り分ける、というものだそうです。最後にそれらの音を同時に左から右に流すことにより、画像データがメロディーに変換される仕組みになっているのだそうです。
このようにしてソニフィケーションされた「天の川銀河の中心部」のメロディーはYoutubeに投稿されています。
あまり聴きなじみのない感じのメロディーではありますが、宇宙を感じるメロディーと言われればそんな気もします。
このように、単純に画像をそのまま見るのではなく、ソニフィケーションしてみることで、対象をまた新たな感覚や視点でとらえなおすことができる場合があります。図鑑を眺めたり、望遠鏡で夜空の星を観察したりするのでは感じることのできない不思議な感覚がソニフィケーションにはあるといえるでしょう。
ちなみに、今回のプロジェクトでは、ほかにも「超新星爆発の残骸」である「カシオペア座A」や「わし星座(M16)」の画像データからもメロディーを作成しています。興味のある方はこちらから飛んで聞いてみてください。
3.14159……。円周率(π)は、無限に続く数として知られています。3000年以上前の古代ギリシアから現代にいたるまで、何人もの数学者がこの神秘的な比率に対して興味を抱いてきました。
そんな円周率を音楽に変換してみたら、どのようなメロディーが生まれるのでしょうか。2011年に「aSongScout」というYoutuberは「Song from π!」という、円周率の並びをピアノの鍵盤に当てはめて制作した曲を投稿しています。
円周率をもとに作曲されたとは思えないほど素敵な旋律ですね。動画にもあるように投稿者さんは円周率を、音階のひとつである「Aハーモニックマイナースケール」にあてはめることでメロディーに変換しています。動画ではそこに左手で和音が付け加えられているので、普通に作曲されたものと言われてもわからないほど完成度が高くなっています。
この曲は区切りのいいところで終わっていますが、もちろん円周率は無限に続いていくわけですから、この曲も無限に続くのだと思われます。もしかしたらジョン・ケージ作曲の演奏に639年かかる曲よりも長い曲になるかもしれません。(9月に7年ぶりにコードが変わる、ということで話題に上っていました。)それにしても美しい旋律が誰にも聞かれずにπの中に秘められていると考えると、不思議な感覚です。
ちなみに、投稿者「aSongScout」さんは黄金比を求めるときに用いる「フィボナッチ数列」でも作曲してもいます。こちらも興味がある方はぜひ聴いてみてください。
宇宙、数学とミステリアスな話題が続いたので、最後はもう少し身近な話題をご紹介したいと思います。
ソニフィケーションをビジネスの現場で活用し始めているのが化粧品業界です。例えば、毛髪データを音に変換し、髪の毛の健康状態を“聴く”ことができるソフトウェアは、将来的に新しいヘアサロンの形になる可能性を秘めた画期的な商品です。
世界最大の仏化粧品会社であるロレアルは、あらゆるものを音楽に変換するアルゴリズム「soniphy®」を開発した井出 音 研究所と共同で研究し、化粧品業界で初めて毛髪データを音に変換することに成功しました。毛髪の状態が音楽となることで、髪の毛の健康状態を直感的にわかりやすくとらえることができるようになるというのがこの技術ですが、どのようにソニフィケーションしているのでしょうか。
私たちの毛髪の表面には、キューティクルと呼ばれる表面構造ありそれらが毛髪を保護していますが、キューティクルにダメージが蓄積されてゆくと、髪の毛の摩擦が強くなっていきます。この摩擦力の強さを高感度のセンサーで読み込み、アルゴリズムが髪の状態を5段階で評価します。そして、髪の状態が良ければより美しいメロディーが奏でられるという仕組みで、データが変換されます。
これは例えば、ヘアサロンなどで用いられるそうです。ユーザーは、まず施術前に髪の状態を“聴いて”現状を確認してから、再び施術後に“聴く”ことで、状態がどれだけ変化したのかを直感的に理解することができると期待されていて、いくつかの店舗ではすでに導入が予定されているとのことです。
私たち日本人は、古くからいろいろな音に耳を傾けていました。
風鈴の音や川のせせらぎ、波の音。音と文化は深く結びつき、様々な印象や感覚と深く結びついています。ソニフィケーションは、そんな音の文化を大切にする私たちだからこそ、新たな視点を見つけるきっかけになるのかもしれません。
【参考URL】 ・ソニフィケーション❙artscape ・Sounds from Around the Milky Way ・銀河系の中心❙宇宙情報センター ・円周率❙Wikipedia ・毛髪データを音に変換❙EL PRODUCE
(織田哲平)
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