最近よく耳にする「AIの民主化」。これは、一言でいえば「誰もがAI技術を使えるようになること」です。GoogleのAI部門の開発責任者であるFei-Fei Li氏が会見で述べて以降、Amazon、Google、Microsoft、IBM などIT大手企業の共通語となりました。
AIが企業にとって大きなテーマとなりそうな2018年は、AIの民主化元年と言えそうです。2018年以降、これまでより幅広い業種の企業や政府機関がAIを利用するようになるでしょう。「2018 Will Mark the Beginning of AI Democratization」という記事によれば、Gartnerのリサーチディレクターを務めるChirag Dekate氏は、次のように述べています。
「2018年を通じて、AIのパフォーマンスは向上し続けるだろう。クラウドオフィススイートや、Amazon Alexa/Siriのようなディープニューラルネットワーク(DNN)ベースの仮想アシスタントなど、アプリケーションやプラットフォームに組み込まれた形でAI機能が入手しやすくなる。それに伴って、製品やサービスへのインテリジェントな会話型インタフェースの統合が進むだろう」
同記事によると、AIの活用は、2018年におけるCIO(最高情報責任者)の最優先課題の上位5つの中に入っているといいます。98カ国3160人のCIOを対象とした同社の調査では、AIに投資を行い、すでに活用している企業は4%程度に留まっていましたが、25%のCIOがすでにAIの取り組みを試験的に行っているか、短期的な取り組み計画を持っているそうです。中期または長期計画を持っているCIOも、全体の21%に達していることが分かっています。AIを導入する企業は、今後も増えていくことが予測できます。
なぜ今、AIが幅広い業種で脚光を浴びているかというと、AIが様々なコンピュータシステムに実装され、あらゆる産業で成果を上げているからにほかなりません。AIの性能が上がり、導入に値するレベルまで到達したということがわかります。しかも、AIを利用できるのは、一部の天才的エンジニアだけではなく、一般的な企業まで広がりました。これは、冒頭で述べたAmazonやGoogleなどの企業が、高性能かつ低価格なAIを提供していることが大きいでしょう。特にAmazonには、「Alexa Skill Kit」と「Alexa voice service」の2つの拡張ツールが用意されています。これを使えば、天才エンジニアでなくともAlexaに追加機能を付与することが可能です。
今後、AIの民主化が進むと、世界はどのようになっていくのでしょうか?
2018年4月、東京ビックサイトで開かれた「第2回AI・人工知能EXPO」。ここで、米AmazonのAlexaマシンラーニングプラットフォームバイス・プレジデントであるRavi Jain氏は、「AmazonによるAIの民主化」という講演を行っています。この中でJain氏は、「AIの民主化」に向けたAmazonの取り組みの1つとして、AIをローカライズすることを挙げています。例えばAlexaは、Echoに話しかけられた「ドリカム」という略語を「DREAMS COME TRUE」のことだと理解し、その楽曲を再生することができます。このような略語は世界各地にたくさんありますが、Alexaはローカル特有の情報を学習することで、どの地域の人にも使ってもらえることを目指しているとのことです。Alexaの例から、AIは今後、世界のありとあらゆる言葉に反応できるようになっていくものとみられ、国境を越えていく方向に進むのではないかと思われます。
なお、AIの民主化については、懸念点もあります。Googleなど特定のIT企業にデータが集まることを不安視する声も多数あります。また、データが偏りすぎて、AIが人種差別などの不適切な行動を起こした例もあります(「Microsoftの人工知能は、なぜ虐殺や差別を「支持」するようになったのか……」)。医療の世界では、AIに判断を任せることの是非も議論されています。
AIは社会構造を変える可能性がある一方で、対処すべき課題も多くあります。「AIの民主化」は、こうした議論とセットで進んでいくことでしょう。SFの世界のようにAIが暴走し、人類が脅かされることのないことを祈るばかりです。
(安齋慎平)
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