思い返せば、2020年代はオフィスでの働き方を再考する時代の幕開けでした。2020年のコロナ禍を経てリモートワークが一般化しましたが、2024年にはその終焉を迎えつつあります。リモートワークツールの大手であるZoom社は対面コミュニケーションの重要性を強調し、従業員の出社を奨励しているとBBCが報道しました。
さらに、2024年9月16日、Amazonの最高経営責任者(CEO)アンディ・ジャシーは従業員向けのメッセージで「新型コロナウイルスの感染拡大前のように、オフィス勤務に戻ることを決定した」と発表しました。このようなオフィス復帰の動きはRTO(Return To Office)と呼ばれ、JPモルガンやゴールドマン・サックスといった大手企業も同様の方針を採用しています。
以前はリモートワークの柔軟性を称賛していた企業も、方針を変更し、出勤状況を追跡すると脅したり、従わない従業員を解雇すると脅したりして、RTOの義務に従うよう圧力をかけ始めているケースもあります。
オフラインという場を意図的に設計したいと考えるマネージャーや経営者も多いですが、実際にどのような点で有益で、期待できる価値は何なのか、そしてそのためにどの程度対面の時間が必要で、どのような設計が必要なのかについては、不明確な点が多いのが現状です。現に、Amazonのケースでは従業員満足度が低下し、離職率も上がっていることが報告されています。
今後のオフィスのあり方はどうなるのでしょうか。世界最大のオフィス家具の見本市ORGATECから見えてきた、これからのオフィスのデザイン・スタイルについてレポートします。
ORGATECは1953年からドイツ・ケルンで開催されている世界最大のオフィス家具の見本市で、2年おきに開催されています。東京でも2022年に初開催され、来年また東京でも開催される他、新たにインドでも開催される予定となっています。
筆者はこれまで、CESやSxSWなどテクノロジーや、スタートアップ、家電、放送機器系の海外展示会にこの10年以上参加してきていますが、ORGATECは初めての参加でした。ここ最近のトレンドを追っているわけではありませんが、初めて参加してみて感じたのが「やわらかな家具」というキーワードです。
「やわらかな家具」とは、色が優しくやわらかな印象であったり、文字通り肌触りがやわらかいことであったり、レイアウトが自在に変えることができる柔軟性であったり、地球環境に優しいという柔らかさであったりします。ひとつひとつ現地の画像を交えながら紹介していきたいと思います。
まずは、わかりやすい流行りの色。自動車でもアースカラーと茶色系や、緑など自然界の色を基にした落ち着いた色合いが人気となっていますが、ORGATECでも、従来の白や黒基調ではないアースカラーの家具が多く見られました。
こちらは緑を基調とした打合せスペース。パーティションの色も緑系でバリエーションがあり、着脱式のホワイトボードも。
茶系でまとめられた、落ち着きがありつつ重厚感があるエグゼクティブスペース。
高級家具メーカー、ウォルター・ノル社のデスクとチェア。アップル本社でもこちらが使われているものだそう。ウォルター・ノルは、アップル本社を設計したノーマン・フォスターがデザインした家具も販売していることで有名なメーカーです。足から背まで一体となった椅子の手すりや、背と一体になった座面がとても快適でした。
見た目が柔らかな色というだけでなく、ファブリックや、吸音材などを活用した文字通り「やわらかな素材」で出来た家具も非常に多く出展されていました。
こちらはモコモコとしてまるで包みこまれるようなソファー。高い背があることで、話し声が周囲に伝わりづらいという吸音効果もあります。
こちらは、パーティションと一体となった、打合せスペース。吸音効果も兼ねていたり、使いやすい位置にコンセントが配置されています。
しっかりとしたパネルとしてのパーティションだけでなく、カーテンのような布地等で空間を仕切る展示も多く見られました。こちらはビニールカーテンで作られた会議スペース。照明によってとても印象的な色彩効果が生まれています。
このブースは吸音材を作ったりしているメーカーのもので、左上に吸音材のパネルが吊るされています。淡い色のカーテンで空間が仕切られているだけでなく、左下の通路部分は日本の養老天命反転地のように、凸凹としていて、上下の変化が楽しめるようになっていました。
3つめの柔らかさは、モジュラー式で、フレキシブルに設置、利用することができるというもの。
こちらのソファは、椅子の切れ目に、板を挿入することで繋げたり、ソファーの上に小さなコーヒーテーブルを取り付けたりすることができるようになっています。
持ち運び自由なホワイトボードも各社から出展されていました。移動式であったり、パーティションとして使ったり、マグネットで自由に着脱できるとういものも。
この本棚は、四角い箱を白い「コの字」型のクリップで固定して繋げていくことで出来ています。地震の多い日本だと、強度が十分ではないかもしれませんが、このような様々なモジュール式の家具が多く展示されていました。
またポータブルバッテリーを活用したとても使い勝手の良いシステムも展示されていました。こちらの製品は、チャージングステーションでポータブルバッテリーをまとめて充電できるようになっており、手軽に持ち運ぶことができるフックがついています。
このバッテリーを取り外してデスク上の窪みにセットすることで、ディスプレイやノートPCに給電できるほか、昇降デスクの電源もバッテリーから供給されます。フリーデスク環境で手軽な電源ソースを提供するだけでなく、オフィス内のデスク配置もとてもフレキシブルなものとなります。
最後に紹介するのが、地球環境にやさしい、サスティナブルな家具。リサイクルした素材を使ったり、リユースをすることを考えるのがほぼ必須となってきているのを改めて感じさせられました。
コーヒーの麻袋をリユースしたチェア。この会社では、他にも病院で手術に使ったゴム手袋をリサイクルして作っている椅子なでも展示されていました。
前述のウォルターノル社のオフィス・チェアー。汚れたらドライクリーニングに出したり、傷んできたら、取り替えることができるファブリックのカバーです。
余談ですが、展示ホールの端ではなく、中央にフードトラックがあったり、オシャレな椅子の休憩スペースが置かれており、これによって来場者も滞留し、コミュニケーションが生まれやすい設計となっていました。今回のケルン滞在では、展示会開催期間中のホテルを直前に予約したにも関わらず、それ程費用が高騰していなかったため、コロナ禍以降、来場者がそれほど戻っておらず、賑いを演出したいということがあったのかもしれません。(コロナ禍前の2018年の来場者数が63000人、2022年は45000人でした)
こちらも来場者にとって優しく「やわらかな」展示会でした。
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