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【書評】 デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析 「デジタル」+「エスノグラフィ」で誰にでもできる 解像度の高い分析手法

         

スマホやパソコンで誰もがインターネットを使って検索をし、位置情報を使って目的地に向かう現代。プライベートをSNSでさらし、自撮り画像や購入した商品や飲食した料理の写真をネットにアップする。自由に誰もが見られる状態でウェブ上に公開されている情報を分析するだけで、人々の嗜好や今興味のある物事、本人すら意識していない欲求までが把握できるのだ。そのため、今や世界中のあらゆる企業がビッグデータを分析し、活用しているといっても過言ではない。

本書「デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析」(博報堂生活総合研究所 宣伝会議 2021)は、単なるビッグデータによる一般的な分析ではなく、エスノグラフィ(行動観察)という新たな観点から分析する手法を詳しく解説する。しかも、マーケティングや商品開発など企業の担当者だけでなく、誰もが活用できる手法としてである。

40年間生活者発想を追い続けた「博報堂生活総合研究所」のノウハウ

著者は、博報堂生活総合研究所の研究員たち。同研究所は生活者発想を具現化するために1981年に発足した。約40年もの間、人間を消費者としてではなく生活者として観察し、分析してきた研究所だ。長年時間をかけて洞察してきたからこそできる長期的な時系列調査と、エスノグラフィを重視している。本書では、生活者発想とは新たに発見した生活者の欲求や変化の兆しを問いに変換して社会に投げかける営みとも言えると解説する。少しわかりづらい表現ではあるが、本書を読んでみれば納得できるだろう。

「エスノグラフィ」の視点と「デジタル」を組み合わせる

マーケティングの分野で、ビッグデータの活用と言えば、一般的なのがデータ・ドリブン・マーケティングと言える手法だ。企業がビッグデータを活用して効果が最大化されそうなターゲットに向けて複数のタイプの広告を配信し、その結果を基にさらに効率的で最適な施策に集中していく。本書でもこのマーケティング手法を優れた手法として評価する。

しかし、データ・ドリブン・マーケティングは、マーケティング手法としては優れていても商品開発・企画開発においては最適な手法とは言えないと断じる。ビッグデータをエスノグラフィの視点で分析し、生活者の隠れた価値観や欲求を発見する手法「デジノグラフィ=デジタル+エスノグラフィ」であれば、今まで以上に生活者の実態を浮かび上がらせることができるという。

誰もができるデジノグラフィ=デジタル+エスノグラフィ

デジノグラフィでビッグデータ解析ができることはわかったが、研究所のプロの研究員でなければ分析ができなければ意味がない。企業がマーケティングや商品開発など企業活動にビッグデータを使っていることは周知の事実だが、一般人がビッグデータの解析結果を天気予報のように日常生活で活用していくきっかけがすでに見え始めているという。


「デジノグラフィ = Diginography」とは?
デジタル空間上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する、生活総研の新しい研究アプローチ。


そこで、本書はデジノグラフィを誰もが活用できる手法として、10種類に分類して紹介する。大きくは、ビッグデータの観察技法とキラーデータの抽出技法であるが、どちらもさらに5つの手法に分類して解説している。

ビッグデータの観察の5の技法

①ボーダーライン分析法
状況が変わる境目を見つける分析法で、年代や気温などによるボーダーラインなどがよく使われる。

②ウェーブ分析法
ボーダーラインがある境目を見つけるのに対して、アップダウンのある波形から周期性を見つけるのがウェーブ分析法だ。

③ホットスポット分析法
特定の日にちや地点、あるいは人などにピンポイントで注目し、それに関連するビッグデータをもとに深堀りして分析する。

④トライブ分析法
調査で見出された特定の健康志向層や高級ファッション志向層といった分類ではなく、ビッグデータならではの行動特性の解析により新しい群れや集団を見つけようとするアプローチをトライブ分析法という。

⑤3Gの法則
ビッグデータの分析に、3つのGを活用する。3つのGとは、Gender(性別)、Generation(世代・年代)、Gossip(ゴシップ・噂話)で、これらを要素として分析にからめる。

キラーデータの抽出の5つの技法

①アジェンダ発想法
人々が注目する議題から、関連するデータを分析する手法。

②ロングデータ発想法
長期的な時系列データが示す変化を分析の起点として活用する技法。

③イベント発想法
災害やスポーツの試合など大きなイベント、消費税増税などの政策実施のような社会的な変化を分析の起点とする技法。

④俗説発想法
世の中で広く知られる俗説や固定観念などを検証する技法。

⑤違和感発想法
個々人の生活の中で発生する違和感や驚きなどを元にデータを分析する技法。

デジノグラフィが暴く隠れた本音と無意識

デジノグラフィで現代の恋愛事情を分析すると、建前ではない男女の本音の意識差が具体的に明らかになる。ウェブ上で公開されているQ&Aサイトのデータを解析し、男女の恋愛に関する悩みや夫婦関係についてひもとく部分は、ビッグデータ解析が我々の日常生活に直結していることをよく表している。不倫や離婚、年齢別の恋の悩みなど、赤裸々な内容をデジノグラフィにより真面目に分析することができるのだ。

恋愛だけでなく、夫婦喧嘩におけるお互いの本音や不満をも分析できると言うから、デジノグラフィのすごさを実感できる。また、無意識に行っている日常の行動により思わぬ傾向が見えてくることもあるという。ここまでくると、デジノグラフィでわからないことはないのではないかと少し怖くさえなってくるが、デジノグラフィを学ぶことにより他人だけでなく自分をも理解することができるのであれば、非常に有用な手法であるのではないか。

デジノグラフィはプロにとっても驚愕の手法

デジノグラフィは博報堂生活総合研究所が約40年にもわたり研究してきた成果の蓄積を凝縮した分析手法である。そして、企業だけでなく一般の人たちにも使える万能性と分析結果の有効性が際立っている。さらに、今までビッグデータ解析を行ってきたデータサイエンティストにも評価されているという。解説されている10種類の具体的な解析技法を元にビッグデータを分析すれば、あなたも今すぐデータ解析が可能なのだ。

ビッグデータ解析がマーケティングや商品開発に非常に有効であることは誰もが認めるところだが、万人に有効であることを明らかにし、その手法を詳しく解説する書籍は今まで見たことがなかった。そういった意味で、本書「デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析」は、ビッグデータの価値と可能性を改めて一段上のレベルに引き上げた功績があると感じる。

 

 

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