生活における消費においてインターネットの活用が加速する中、多様かつ大量の消費行動データがこれまでにないスピードで取得されるようになっています。さらに人工知能技術の向上も追い風となり、様々な企業や団体によって膨大な情報が高速で分析、発表されるようになりました。こうして分析されたデータは「オルタナティブデータ」と呼ばれています。
そうした中で投資家たちによる投資判断においても公的機関による大局的な統計データだけでなく、SNSの投稿や位置情報、決済情報などを複合的に分析したオルタナティブデータが活用されるようになってきています。
今後、景気を先読みするためには必須となるオルタナティブデータについて、今回は深堀していきます。
冒頭でも紹介した通りオルタナティブデータとは、人工知能(AI)や機械学習(ML)技術向上に伴って収集、分析が可能になったデータです。従来の政府や企業の公式な統計や決算などのデータ(トラディショナルデータ)と比較して粒度が細かい、膨大な量のデータのため、大きな経済の流れを汲むよりも、より局所的なものごとを判断する際に重要になります。
従来はどんな事業についても一律同じデータセットが分析に活用されていましたがオルタナティブデータの登場によってより事業の特性の合わせた分析が進んでいます。
そうした経緯もあり、最近では欧米を中心にオルタナティブデータを重視する機関投資家が増えており、その流れは日本でも生まれつつあります。なお、機関投資家とは、生命保険会社や信託銀行、普通銀行といった各種金融機関など、大量の資金を使って株式や債券で運用を行う大口投資家のことを指します。
しかし、オルタナティブデータと一口にいいますが、その種類は様々。ここではデータの種類とその内容についてご紹介します。
データの種類 |
データの説明 |
POSデータ |
小売店のレジなどで商品の売買が行われた際に記録されるデータ。どんな商品がどのくらい売れているのかや購買者の年代や属性をデータとして記録している。POSはPoint of Salesの略語。 |
GPSデータ |
GPSで取得した人々の密集度合いから特定の場所の混雑度を推計したり、道路の混雑状況を記録したりしている。 |
Webサイトのトラフィックデータ |
特定のWebサイトのPVの変動や来訪する人々の属性を記録している。いつ、どんなタイミングで人々がそのWebサイトの情報に興味を持つのか、などが分析できる。 |
SNSの口コミ情報 |
特定のキーワードについてSNSの投稿をテキスト解析したデータ。 |
欧米ではすでに広く活用されているオルタナティブデータ 。
実際、アメリカの金融サービス企業、データマイナーが2018年に行った調査によると、欧米ではファンドなどの運用担当者の約8割が「オルタナティブデータ」を活用しているそう。また、アメリカの調査サイト、調査サイトのオルタナティブデータ・ドット・オーグによると、オルタナティブデータを提供する専門の企業も過去10年間で急激に増加し、2018年には2008年より4倍の400社強となったということです。
また活用の広がりに合わせ市場も拡大。オルタナティブデータの市場は2017年の一年間で72%成長。2020年には投資家によるデータ購入金額は推計で約17億ドル(約1800億円)と急成長した2017年の4倍超まで増加する見通しです。
世界でオルタナティブデータの活用が進む中、新規にオルタナティブデータを活用する際にどのような課題があるのでしょうか?
まず一つ目としてあげられるのが、活用事例の不足です。オルタナティブデータの活用の実態は表に出ることが少ないため、どんな企業がどんなデータを使っているのか、を知ることが難しいのです。
また、オルタナティブデータは目的によってどのように分析するか、が非常に重要で、生データの状態のものも多く、データの状態が統一されていないため、データを活用できる人材が必要不可欠です。しかし、国内の活用が少ない中、なかなか人材が育たない、見つからない、という課題もあります。
その他にも、活用事例の少なさからなかなか予算が出ないという課題やデータが高価なためどのように選定すれば良いのかわからない、あるいはデータの質を担保することが難しいといった課題も根深くあります。
局所的かつ柔軟にデータを分析、予測できるオルタナティブデータですが、データの入手や人材の確保のための金銭的な負担が大きくなることも少なくありません。また、入手の難しいデータは数億円に達することもあるそうで、データにお金をかけられる、つまりすでに莫大な資産を持っている投資家ほど資産を生み出しやすくなる可能性があります。
こうした構造によって経済格差の拡大がさらに加速する懸念がされています。
一部の機関投資家が富を蓄えることが本当に世界の経済において良いことなのか、検討した上で情報の流通をどのように整備するべきなのか、じっくり考えていく必要があるのかもしれません。
技術の発達とともに広がりを見せる「オルタナティブ・データ」。まずは活用、と動く前になんのために、どのようなデータが必要なのか、データを分析・管理する人材はいるのか、など様々な要素について熟考する必要があるのかもしれません。
【参考引用サイト】 ・ αを導く、最新のオルタナティブデータ|日本経済新聞社 ・ 日本におけるオルタナティブ・データの活用 - KPMGジャパン ・ オルタナティブデータ、市場規模3年で4倍: 日本経済新聞 ・ 機関投資家 初めてでもわかりやすい用語集 SMBC日興証券
(大藤ヨシヲ)
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