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DXは、“総合格闘技”。株式会社プレイノベーション代表取締役、菅家元志(かんけ・もとし)氏はそう語る。
――株式会社プレイノベーション設立のきっかけについて教えてください。
「きっかけになったのは2011年3月の東日本大震災でした。当時大学4年生で大学院への進学を控えていた私は故郷福島で震災後のボランティア活動に参加し、『もっと踏み込んで地元の力になりたい』と考えるようになりました」
その思いは、2013年5月に株式会社プレイノベーションの立ち上げとして結実した。
1期目の大きな取り組みが、東北最大級の「屋内遊び場」の企画・広報のサポート。震災により奪われた“思いっきり遊ぶための場所”を子どもたちに提供するための取り組みだ。
「そのお仕事を通じて、遊ぶことはつまり生きることだと実感しました」
そんな思いから生まれたのが、Play(プレイ・遊び)× Innovation(イノベーション)を表す社名、「株式会社プレイノベーション」なのだという。
菅家さん曰く、遊ぶためには3つの間(ま)──時間・空間・仲間──が必要となる。そしてそれは、現代社会において、かつてに比べ少なくなってきているという。
「昔のように空地が減り、遊びに使える時間や友人も減ってきています。しかし、遊びを豊かにすることは人生を豊かにすること。福島に遊びにまつわる問題意識を持った人材が集まっていたこともあり、その知見やネットワークを生かして何か世の中にとって新しい価値や仕組みをつくれないかと考えました」
――株式会社プレイノベーションは、どのようにLocal DXに携わっているのでしょうか?
「ITをつかったビジネスづくりのプロフェッショナルとして、企業のDX支援や新規事業創出に取り組んでいます。最初は教育・福祉領域が中心でしたが、今では地域交通や建設などさまざまな事業ドメインで企業を支援しています」
自らも経営者として組織づくりに取り組み、またさまざまな企業の事業支援に携わるなかで、長期的な目線できめ細かく「伴走者」として企業のDXにコミットすることを大事にするようになったと菅家氏は話す。
運営母体である組織自体がデジタル化されていなければ、ITを使った新規事業立ち上げは難しい。ビジネスチャット、ファイルストレージの導入、メールアドレスの新規発行からPCの選定まで、ときに泥臭い足元のデジタル化支援にも、10年近く前から取り組んできた。
「そんな風に目の前にある必要なタスクをやっていたんですが、気がついたら世の中でそれを総じてDXと呼び始めていたので、時代が追い付いてきた、というか僕らがやっていたことにDXという今っぽい名前がついた感じです」
――創業以来の10年でDXブームが到来し、競合他社など貴社を取り巻く状況は変化しましたか?
「地元に根差した老舗ITベンダーをはじめ、Webマーケティングなどに強みを持つベンチャー企業の役割は大きくなってきているように感じます。しかし、企業経営や経営者の悩みに深く寄り添うDX支援を行う企業は、郡山や福島では弊社以外にはまだまだ多くありません」
企業経営は事業運営と組織運営の両面で構成される、と菅家氏。現場との目線合わせに苦慮する経営者も少なくない状況において、重要なのは「なぜやるのか(Why)」から考えることだという。
「どんなに経営者がやりたくても、現場の理解や信頼が得られなければDXは進みません」
社内の体制づくりやオペレーションの整備など状況が整うまでじっくりと、長期的な目線でプロジェクトを進めるのがプレイノベーション流。状況が整うまでプロジェクトをストップし、数年越しに再開したケースもあるのだとか。
「それがやれるのが、地元企業のいいところなんじゃないでしょうか」
――そもそもなぜ、Local DXは必要なのでしょう?
そう尋ねると、菅家氏から飛び出したのは“ラーメン”の話。喜多方ラーメン、白河ラーメン……福島県は言わずと知れたご当地ラーメンの激戦区だ。
「私は日本の良さのひとつが“文化の多様性”だと思っています。福島県のラーメンの多様性を支えているのは、事業者であるラーメン屋さんですよね?」
各地域に個性的な事業者が存在するからこそ、特色のあるコンテンツが生まれた。それは、CtoC、BtoB、商品・サービスなどの種別を問わない。そんな多様性を守る手段の一つとしてビジネスプロセスをデジタルにリデザインする取り組み──DXが重要なのだと菅家氏は言う。
「また、単純にこのままでは地域インフラは保てません。今でさえ、高齢人材の方々の頑張りで何とか維持できている状況なんです」
人手不足が喫緊の課題となっている状況で、Local DXは不可欠なものとなりつつある。
――10年以上Local DXに向き合う中で、どのような課題や難しさが浮かび上がってきましたか?
「弊社note記事(※)にも書いたのですが、泥臭く地道な取り組みは不可欠です」
アプリを開発したい、業務生産性を高めたい、DXに取り組みたいがそもそも何をすればいいのかわからない……。企業のニーズは千差万別であり、明確な答えが存在しない場合も多い。
「会社経営と同様、DXの支援も総合格闘技」と菅家氏は話す。
「ただWebサイトをつくるだけなら自社開発でもできます。私たちが関わる意味は、『何をすればいいのかわからない』『複雑すぎてプロジェクトマネジメントができない』といった経営者の悩みに寄り添って、言語化や意思決定のお手伝いをすることにあると思うんです」
たとえば、プレイノベーション社がとある民宿のDXに携わった際は、オーナーの特性を生かした事業コンセプトの新規立案にまで踏み込んだ。創業支援から業務改善まで、クライアント企業に並走する粘り強い取り組みは、「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2019ジャパン東北地区大会 チャレンジング・スピリット部門大賞」「第26回東北ニュービジネス大賞 奨励賞」など栄えあるアワードの受賞につながっている。
※実践から見えてきた、地方×DXの生々しい課題とニーズ┃株式会社プレイノベーション / PLAINNOVATION, Inc. 公式note
――貴社がDXと並列して取り組んでいる『探究ソリューション』について教えてください。
「『探究ソリューション』は、“お客様の答えのない問題の答えを一緒に探しに行く”事業です」
プレイノベーション社は『DXソリューション』と『探究ソリューション』の主に2種類の事業を手掛けている。前者は、ここまで取り上げたようなDX支援を行う事業だ。WEBサイト制作・運営や業務改善・システム導入支援、現状分析から具体的なロードマップ立案までトータルサポートするDX推進プラン策定プログラム『デジビズ』など、要望に合わせてさまざまなサポートが提供される。
一方、後者の『探究ソリューション』では、経営ビジョン/戦略開発や新規事業開発、探究コミュニティ構築・運営など、DXの枠を超えた経営上の問題解決に取り組む。
「たとえば、2022年に立ち上がったコミュニティ『Fukushima & Company』では、政府統計、シンクタンクの予測レポートといったデータを活用して未来を描き、そこで私たちはどうあるべきかを経営者・起業家などのテーマオーナーと全国のバーチャル社員で「探究」しています」
『Fukushima & Company』のメンバーは経営者、公務員、会社員などさまざま。その取り組みをSNSなどで知った他地域のビジネスパーソンやコミュニティからは、「真似したい」「コラボしたい」といった声が寄せられはじめている。
――『Fukushima & Company』は「世の中の探究人口®を増やす」ことをテーマとして掲げています。探究人口とはどのような人々なのでしょうか?
「私は“問題=理想と現状のギャップ”と定義しています。そしてその解決方法には以下の3種類あると考えています」
1.実行型問題解決:問題も解決策もある
2.創出型問題解決:問題はあるが解決策がない
3.探究型問題解決:問題も解決策もない
そして、実行→創出→探究と進むにしたがって、その解決の難易度は高まると菅家氏は話す。
「ふわっと『新機軸のことがやりたい』といわれても、事業者としてどうしたいのか、本当にやるべきことは何かなど、ビジョンが描けていなければ本質的な問題解決には至りません。探究型問題解決は、それを一緒に話すことからはじめるんです」
そして、そんな答えのない「問いづくり」から問題解決に挑める人材こそが探究人口だ。
「福島県は探究先進地域なんです」と菅家氏。
東日本大震災や原発事故の被害を受けたことで、福島県民は否応なく答えのない問いに挑むことを強いられた。プレイノベーション社はその土地で一貫して探究型問題解決に挑みつづけた。そのノウハウやナレッジを持つ探究人口の輪が広がれば、福島のみならず、日本全体の問題解決のあり方にも変化が生じるだろう。
出典:Fukushima & Company β版
――「探究型問題解決」を行うためのコツやノウハウにはどんなものがありますか?
その質問に対し、菅家氏が取り上げたのが「チーム学習」と「問いのデザイン」。
「チーム学習」とは、クライアント企業の経営者や社員、取引先、さらには他ソリューション企業などを巻き込み、ワンチームで問題解決に取り組むことだ。
「答えのない問題に一つの視点だけで挑むのは不可能です。対話を通してワンチームになり、みんなで学んでいかなければなりません」
「問いのデザイン」は、まさにその対話において相手の悩みやモヤモヤ、やりたいことを引き出し、好奇心を刺激するような問いかけを行うこと。そこで重要なのが臆することなく“自分の知りたいことを聞くこと”だという。
「私は経営・経営者や新規事業に興味があるので、その話を聞くわけです。すると、だんだんその人の個性やスタイルが見えてきたりして、チームとしての盛り上がりや文化の醸成にもつながります」
また、“Why”からはじまる「良質なプロセス」を意識することや、「クイックでスモールな検証を行うこと」も探究型問題解決の重要なポイントとして挙げられた。詳しくはプレイノベーション社サイトの特設ページでも取り上げられている。
――11期目に入り、アップデートした貴社の「MVV:Mission/Vision/Values(※)」に込めた思いについて教えてください。
「私は、今後の人間が果たす役割は『探究』と『創造』だと思っています。より良い世の中の実現という目的に向けて人間の探究力、創造力を解き放つことができれば、環境・エネルギーといった人類の問題や、地域社会の課題の解決はもっと進むのではないでしょうか」
そして、人間による探究力・創造力の発揮を助ける手段としてDXがあると菅家氏は語る。
「良い意味でAIに仕事を奪われたほうがいい」と菅家氏。旧来の雑事やルール、仕組みから解放されることで、人間はより本質的な課題に向き合えるようになる。
その実例が、2019年に13歳以下の肥満傾向児率がワースト1位となった福島県の児童の健康問題を解決すべく、プレイノベーション社が開発した『食育モンスター』だ。カードゲームのプレイを通して食育について楽しく学べることを狙ったコンテンツで、郡山市内の小学校の家庭科や県内の食にまつわるイベントなどで活用されている。2019年3月には、そのカードセットを郡山市内の児童500名に配るためのクラウドファンディングも成功した。
医師や栄養士、農家など多様な人材で構成されたワンチームで「子どもたちの健康」というテーマの探究型問題解決に挑み、カードゲームを通した食育というアイディアが生まれ、形となった。
こうして自社プロジェクトでも探究型問題解決を実践しながら、日本、世界の探究人口を増やし、世の中を豊かにすることにプレイノベーション社は挑んでいる。
※…
・Mission:世の中の問題解決を加速する
・Vision:探究力と創造力が解き放たれている未来へ
・Values:
─Always Explore & Create 常に探究し創造する
─Ownership as a Pro プロとしてのオーナーシップを持つ
─Invest in Collective Intelligence チームの知性に投資する
─All for Social Evolution すべては世の中の進化のために
引用元:企業理念┃株式会社プレイノベーション / PLAINNOVATION, Inc.公式サイト
――最後に、自社もDXに取り組みたいと考えている読者へのメッセージをお願いします。
「DXとは、会社をよりよくするためのきっかけであり、アクションです。そしてその起点になるのは、『自身や自社をどうしたいのか』という問いかけです。デジタル化の具体的な方法は餅は餅屋で我々のような専門家に任せてしまってもよいでしょう。経営者にとって大切なのは、これからの世の中を予測し、そのためのビジョンやアクションについて考えることです。そのために時間やお金をかけつつ、よいチームづくりにも取り組むことをおすすめします」
VUCA時代と呼ばれる現代、問題も答えも存在しないテーマに挑む「探究型問題解決」の重要性はかつてなく高まっているはずだ。DXという総合格闘技に、10年以上前から挑んできたプレイノベーション社の知見を生かし、ぜひ貴社も探究人口の創造に取り組んでみてはいかがだろうか。
菅家 元志 氏
株式会社Plainnovation(プレイノベーション)代表取締役
1987年福島県郡山市生まれ。2013年に慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)修了。中高生のころに企業経営に興味を持つ。2013年に故郷・郡山市で株式会社Plainnovation(プレイノベーション、以下省略)を創業。教育・ITに特化した事業を行っており、現在は子育てに関する様々な情報を配信する子育て情報メールマガジン配信サービスや幼児向けお絵かきアプリ「おえかきマジックコレクション」、お絵かきプロジェクションマッピングサービス、教育・子育て関連の新規事業プロデュース、システムの開発・運営受託等を事業展開している。また、NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク(福島県郡山市)企画部長、NPO法人DASH設立(福島県伊達市)理事、福島キッズ「元気×夢」復興応援プロジェクト2016実行委員会副委員長と多岐にわたり活動されている。
(取材・TEXT:宮田文机/撮影:コンセプト・ヴィレッジ/編集・ディレクション:データのじかん編集部 田川薫)
「データのじかん」がお届けする特集「Local DX Lab」は全国47都道府県のそれぞれの地域のロールモデルや越境者のお取り組みを取材・発信を行う「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる継続的なプロジェクトです。
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