セキ技研のDX推進の特徴といえば、なんと言っても本格的に活動を始めてから実現するまでのスピード感である。まずは取り組みのステップと推進体制、その成果について確認してみよう。
①スモールスタートで改善実績を積み重ねる
②組織の変革に向けて基礎地盤を固める
③トップダウンのDX方針と現場に寄り添うDX推進
④DX事業を展開
関代表取締社長
・ビジョン、経営戦略としてのDX方針を打ち出す
石原事業部長
・DX方針の綿密な計画への落とし込む
山崎DX推進課長
・現場へのヒアリングとDX方針・計画を踏まえた経営陣と現場の橋渡し役を担う
・事務作業の自動化により、月142時間、年間約1700時間を実現
・設備データ、コンプレッサーの稼働可視化による改善
・年間約2000件の社内稟議書に関わる業務をデジタル化し、生産性を向上
・DX推進、データベース推進支援などのソリューションを提供する「DX事業」の創出
※設備データの可視化改善による生産性向上例
※コンプレッサー稼働可視化による改善例
このような取り組みと体制、そして成果を生み出すまでにどのような変遷を経てきたのだろうか。セキ技研のDX推進活動をめぐる年表を確認してみよう。
できごと | |
2003年 | 石原健太郎氏がアルバイトとしてEMS事業部に入社。以降、業務と並行して個人でシステムの開発などを行う。 |
2015年 | 関将人氏がホテル業界から転職し入社。EMS事業部に配属。 |
2016年 | 石原氏がEMS事業部長に。出荷、生産管理、在庫管理などのシステムを自ら構築する。 |
2019年 | 関氏がFA事業部長に。自ら業績データをまとめて毎月の社内朝礼で発表する。 |
2020年 | 経営の中枢メンバーの世代交代が起こる。関氏が取締副社長に就任。本格的な社内のデジタル化推進をスタート。 |
2021年 |
DX推進室を設立。石原氏が室長を兼任。BIツール「MotionBoard」を導入。EMA事業部の生産データの可視化が実現。 |
2022年 |
山崎氏が経営判断に必要な情報をデータベース化するためのプログラムを構築。 |
2023年 |
計画を2年間前倒し、DX事業を立ち上げる。 |
2024年 | 関氏が代表取締役社長に就任。 |
2020年以降はもちろん、その約10年以上前に入社した頃からシステム構築を手掛けていた石原氏や異業種から後継者候補として帰ってきた関氏から見えたどんぶり経営だった会社の雰囲気。そして本格スタート後に参画した山崎氏の取り組みについて、大川が聞いた。
セキ技研株式会社 EMS事業部長 石原健太郎氏
大川:
「セキ技研に入社する前のキャリアと入社直後の環境について教えていただけますでしょうか」
石原健太郎EMS事業部部長(以下、石原氏):
「セキ技研に入社してから20年以上経っているので、3人のなかでは私が一番社歴は長いですね。今はEMS事業部の責任者をやらせてもらっています。前職ではFAの機械製作の制御エンジニアをやっていたのですが、どうしてもシステム系に入りたくて一年間独学で勉強した後、セキ技研のアルバイトとしてEMS事業部に入社しました」
大川:
「セキ技研のEMS事業部の現場を見続けてきてこられたかと思うのですが、入社当時はどのような環境だったのでしょうか?」
石原氏:
「ほぼアナログに近かったですね。例えば、現品票を発行するだけも半日かけて毎ロットエクセルに手入力して印刷していました。あとはバーコードが付いているにも関わらず、出荷履歴などのログを手書きで残していました。そのような作業を私自身が担当していたので入社してすぐに『改善の予知があるぞ』と思っていました」
大川:
「当時はWindows95や98の世代ですから、世間的にもビジネスシーンでパソコンを一人一台持っている時代ではなかったですよね」
石原氏:
「はい。ただ、システムについて勉強していたので、会社でパソコンを一台与えてもらって『こういうのを作ってくれ』という要望に応えていました。アルバイトなのに会社で一番良いパソコンを使っていましたね(笑)」
大川:
「アナログ環境だったにも関わらず、かなり前向きに捉えていたように感じます」
石原氏:
「そうですね。ログの手書きなどに関しても『この状況なら自分のフィールドを活かせるな』と感じていました。また、先代の社長は『失敗してもいいからやってみろ』という方針だったのも大きかったです。アルバイトの頃から業務は7割で残りの3割はシステム構築などをさせてもらっていました。まずは自分の業務改善からスタートしたのを覚えています」
大川:
「なるほど。DX推進室を立ち上げる前から、すでに石原さんは個人でデジタル活用に取り組み続けられていたわけですね。セキ技研がデータドリブン経営から脱却する以前、EMS事業部ではどこまでデジタル化やIT化が進んでいたのでしょうか?」
石原氏:
「現場に溢れている帳票の電子化と、データの可視化には取り組んでいました。ただ、生産データの収集や連携までは、十分に手を付けられていませんでした。また、帳票の電子化についても当時の上司が『タブレットではなくバーコードリーダーでできる』と言って、自分で開発しようとしたケースもありましたね。結局、実現できませんでしたが。このように技術屋の考えと現場が求めているものの乖離には、長らく頭を悩ませていました。他の人も『デジタルによって生産性が改善される』という認識がなかったわけではないのですが、インフラとなるシステムを個人の業務の中で管理する体制であり、リソース的に改革が困難だったことは慢性的な課題でした。この状態は、山崎さんが入社されるまで続いていましたね」
セキ技研株式会社 代表取締役社長 関将人氏
大きな転機を迎えたのは、後継者候補として関将人氏が入社した2015年である。
関将人代表取締役社長(以下、関氏):
「当時社長だった父の病気がきっかけとなり、ホテル業界から転職して入社し、しばらく石原さんもいるEMS事業部の現場で働いて勉強していました。入社時の業績は好調だったものの、すぐに中小企業の製造業にありがちな『KKD(経験・度胸・勘)』に陥っているために、悪化していく状況を肌で感じていましたね。そしてその大きな要因として、データを収集・活用していないからこそ『判断材料』がないことだと考えていました。収益のデータすら経理や一部の経営層しか握っておらず、情報を共有してもらうとしても紙でしか渡してもらえない状況でしたから。だからこそ、データやファクトベースで意思決定・行動するための変革が必要だと考えていました」
※関氏が実行した変革を進めるための組織づくりの3要素
大川:
「後継者ではあるものの、自社や業界を知るために修行する立場だったと思いますが、当時からどんぶり経営脱却のためにどのような行動をしていたのでしょうか?」
関氏:
「データ・デジタル活用の必要性は当初から周囲に訴えていましたし、実際にデジタル推進室を立ち上げる数年前からコツコツできる範囲で取り組んでいました。私がFA事業部の事業部長になって以降は、顧客・製品別のデータ活用による営業活動の効率化や現状把握のために業績データをグラフ化して、毎月の朝礼で発表していました、ただ、当初の反応は芳しくなかったですね」
大川:
「DX推進室が設立する前から、関さんも石原さんも個々で具体的な行動まで起こしていたのですね。それでも、なかなか変革できなかったのは人や社内文化に起因するのでしょうか?」
関氏:
「そうですね。職人集団ならではのKKD文化や『データは分析ではなく保管するもの』、という認識が深く根付いていました。このような背景もあって、私は技術的なことよりも経営者として変革を進めるための組織の下地をつくる必要があると考え、ビジネスリーダー型の人材を見つけることにも注力していました。石原さんや現在のFA事業部の責任者の方がその代表例ですね。あとは職務分掌や権限、企業ミッションを設定して、推進者(有志)が動きやすい環境も構築しなければなりません」
大川:
「経営者として、組織インフラの整備を進めていったというわけですね。ハレーションも起こるかと思いますが、変革を進める中で辞められた人もいたのですか?」
関氏:
「はい。辞めていった人と、山崎さんという新たな人材が入社してくれたことが大きなブレイクスルーとなりました。私は本格的にDXに取り組み始めて以降、方針やその取り組みの成果を社内に広報し続けました。DXはもちろん、あらゆる改革を進めるうえで『組織の壁』や『心理的抵抗』は避けられません。最後は当事者が乗り越えるしかありませんが、経営者がしつこく広報し続ければ、反発する社員も諦めて従うか会社を辞めるかのどちらかになるのでしょう」
大川:
「関さんと石原さんのお話を聞いていると、山崎さんへの期待感が最初からかなり高かったように感じます。片手間ではなくプロという立ち位置や求められる役割を担う人材というのも明らかですし『ドラえもんが来た!』と思われていたのでは?」
山崎哲也DX事業戦略室室長(以下、山崎氏):
「そうですね。社長からも『期待が天にも上る』と言われていましたから(笑)。ただ、実は私は前職で金融系のシステム開発を主に扱っていて、入社時点では製造業の知識はゼロでした。ですから入社直後のセキュリティがゼロで、そもそもルールがないという会社の状況に驚愕するくらいギャップはありましたね」
大川:
「金融ど真ん中からのシステム開発からだと、アーキテクチャや開発フレームワーク、文化も大きく異なりますよね」
山崎氏:
「ITへの認識のズレが大きくて『全部できる』『完成品がでてくる』といったまさしくドラえもんのような感覚の人も少なくないのですが、実際は社員の方々にも手を動かしてもらわないといけません。一緒に協力してくれる体制づくりから始めるところが、ギャップを解消するうえで一番大変でした」
大川:
「なるほど。それも踏まえてこれから様々な施策を打ち出していくと思うのですが、知らない場所、環境でDX推進を始める第一歩を踏み出したときのDX推進やデジタル化のポリシーがあれば教えてください」
山崎氏:
「最初は各部署をぐるぐると回って、足で稼いで改善要望を積極的に収集することです。吸い上げた情報をコンサル的な立ち位置で洗い出して開発まで持っていくという意識で向き合っていましたね」
大川:
「RPA・VBAの導入によるデータ管理の自動化や社内稟議書の作成・申請のデジタル化、BIツール(MotionBoard)による生産・営業データのリアルタイム可視化など、まさにDXど真ん中の施策を実現していますが、山崎さんが最初に手掛けた施策や成果物はどんなものだったのでしょうか?」
山崎氏:
「最初に手をつけたのは社内ポータルサイトの作成ですね。正直、最初から期待はされていたものの具体的な使命はありませんでした。私もまだ何をすべきか模索している最中だったので『とりあえず作ってみるか』という勢いで作成しました。ポータルサイトをただ作っても誰も見てくれないだろうということで、掲示板を作成してコミュニケーションが取れるように工夫してみたりしましたね」
セキ技研株式会社 DX推進課⾧ 山崎哲也氏
大川:
「関さんや石原さんのように、できることから小さく始めたのですね。そのポータルサイトをきっかけに現場から声が上がってくるようになったのでしょうか?」
山崎氏:
「いえ、一番大きなターニングポイントは『お弁当発注システム』の開発でした」
大川:
「面白い! お弁当の発注ですか!」
山崎氏:
「はい。従来は紙にお弁当の要不要を書いて担当者が集計して業者に送っていたのですが、その集計タイミングが早すぎて食いっぱぐれてしまうケースがありました。ほかにも日付けがずれていたり、記入欄を間違えて人のモノを勝手に頼んでしまうなど、ちょっと分かりにくい箇所が多かったので、発注システムを勝手に作ってしまったんですよ。みんなためというか、自分のためというのが正直な動機です(笑)」
大川:
「具体的にはどのようなシステムで作ったのでしょうか?」
山崎氏:
「居酒屋でよくあるタッチパネルのタブレットで操作する仕組みです。社内はデジタルで注文情報を管理し、外向けにはFAXで送れるようにしました。そのタブレットをタイムカードの打刻機と同じ場所に置いてみました」
大川:
「社内の反応はどうでしたか?」
山崎氏:
「最初は批判がすごかったですね。管理部からは『システムが動かなかった場合はどうする?』とか『絶対にミスはないのか』と言われました。実際、システムが動かなくなってしまったときもあったのですが、こっそり私が操作してロボットが動いたかのようにリカバリーしていました。信用を失ったら終わりだと思っていましたから」
大川:
「なるほど。それでも最終的には信頼を勝ち取ったから、ターニングポイントになったということですね?」
山崎氏:
「はい。皆さんが使う弁当システムが『安定している』と認識してもらったことで、次の施策や工程に進みやすくなったのは間違いありません」
大川:
「DXというとハイレベルなデジタル化とか仕事のやり方を変えるといった文脈で語られることが多くて、一般的にはすごく大変だと思うのですが、石原さんにとって『お弁当の注文がデジタルになる』という変化はどのように捉えていましたか?」
石原氏:
「全員にとって身近なお弁当の発注という行動をデジタル化したことは、いわゆる抵抗勢力とされる人たちの変化へのハードルを下げられたと思いますね。ほかにも発注したときにドラゴンクエストのレベルアップ音に似た音が出る仕組みになっていたので、注文すれば周りの仲間から『レベルが上がったな』と声を掛けられるなど自然な会話が生まれましたし、使う側としては変に身構えずに受け入れられた印象でした」
大川:
「めちゃくちゃ面白いですね! そのレベルアップ音は最初から実装していたんですか?」
山崎氏:
「いえ、出勤時間の打刻機の周りには人が多くて発注したかどうか分かりにくいという意見があったので、音を改善した結果ですね。似たような観点の取り組みはいくつかやっていまして、例えば打刻漏れのメールを新潟弁で知らせるツールを開発したこともありました。こちらは県外出身の社員からのクレームで立ち消えになりましたが(笑)」
大川:
「レベルアップ音や方言メールのように機能充足性の観点では要らない機能を搭載することについて、関さんはどのように捉えていらっしゃいますか?」
関氏:
「『よくやった!』と思いますね(笑)。お酒の席でも良く話すのですが、私たち3人はそのようなテーマがすごく好きで、一つアイデアがでるともっとこうした方が面白いんじゃないかと話が止まらなくなるんですよ」
取材時の様子。実際の社内会議でもMotionBoardを用い、データをリアルタイムに可視化し、迅速な経営判断に活用している。
大川:
「これまで伺ったそれぞれのスタート地点からセキ技研のDX推進活動が始まり、現在の立ち位置になっているということですね。現状は、早くも『一周回った』状況といえますが、今後の目指すべき形などはあるでしょうか?」
山崎氏:
「これまで現場から上がってくる依頼や要望は『作業時間を削減する』という目的に帰結するものがほとんどでしたが、最近は品質向上やミス防止といったより高度な需要が高まってきていると感じています。このような現場の要望に答えながら、効果が出た施策の外販につなげられる作り込みも行っていきたいです」
石原氏:
「設備の状態の可視化はある程度、実現できています。今年度は人の動きの可視化に取り組みたいですね。個々の能力やスキルの差を感覚的には理解していますが、より定量的に測って評価に結び付けられるようにしていきたいです」
関氏:
「社員をさらに顧客志向・社会志向にしたいというのが、私が一番目指しているところです。とかくものづくりとなると、内向きな自分たちの『ハウ』に寄ってしまいがちです。その考え方を転換して、顧客フローや顧客ビジネス、社会課題に目を向けられるエンジニアや社員を増やして、新しいビジネスモデルの構築を目指していきたいです」
大川:
「ありがとうございます。数年前までどんぶり経営だったと思えない目標で、DXという意味では一周回っている環境なのだと強く感じました。これからの展開にも注目していきたいです」
聞き手 大川 真史
ウイングアーク1st株式会社 データのじかん主筆
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)日本鋳造協会DX推進委員会アドバイザー、鋳造IoTLT共同主催、東京商工会議所ものづくり専門家WG座長、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG副主査、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAなどを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
執筆 藤冨 啓之
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
「データのじかん」がお届けする特集「Local DX Lab」は全国47都道府県のそれぞれの地域のロールモデルや越境者のお取り組みを取材・発信を行う「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる継続的なプロジェクトです。
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