「デジタルスキル標準とは?」
「デジタルスキル標準が定義された背景や対象者が知りたい」
デジタルスキル標準に関してこのような悩みをお抱えの方も多いのではないでしょうか?
デジタルスキル標準とは「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」の2種類で構成されるDX時代における人材像を定めた指針のことです
本記事では、デジタルスキル標準が定義された背景や、「DXリテラシー標準」「DX推進スキル標準」を学ぶ対象者、デジタルスキル標準の分類について詳しく解説しています。デジタルスキル標準に関する知識をつけたい方はぜひ参考にしてください。
デジタルスキル標準とは、日本におけるDX人材の不足に対処すべく策定された個人の学習や企業の人材育成・採用の指針のことです。以下ではデジタルスキル標準の成要素である以下の2つの概要を紹介します。
それぞれの概要の詳細を確認していきます。
DXリテラシー標準とは、すべてのビジネスパーソンが身につけるべきDXに関する能力・スキルのスタンダードのことです。
社会、顧客価値、競争環境などが変化するなかで押さえたい新たな「社会人の常識」とも言い換えられるでしょう。DXリテラシー標準をすべての人材が履修することで、DXに関するアンテナを広げ、DX推進人材と協業したり、データやデジタル技術を用いたビジネス上のアイディアを考えたりできるようになることが期待されています。
DX推進スキル標準とはデジタルスキルを活用し、DXを実際に推進する人材(DX推進人材)に求められる能力・スキルのスタンダードのことです。
DX推進人材はビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ、ソフトウェアエンジニア、デザイナーの5類型に分類されています。それぞれの人材を的確に育成・採用、配置したうえで、お互いに、あるいは非DX推進人材と連携できる環境を構築することで、企業ひいては日本はDXを適切に推進できることが期待されています。
「DX推進スキル標準」の人材類型の定義
このように、デジタルスキル標準は主に、「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」という2つの資料で構成されていることを押さえておきましょう。
デジタルスキル標準が定義された背景には以下の3つの理由が挙げられます。
それぞれの詳細を確認します。
近年、ChatGPTをはじめとするAIの自動生成技術が大きく進化し、私たちの日常生活や仕事に大きな変化をもたらしています。企業はAIの技術を取り入れて生産性を高めたり、社会の問題を解決する手助けをしたりすることに期待が寄せられています。
デジタル変革(DX)を進める上で、このようなAIを上手く使いこなし、安全に運用する能力がますます重要になっています。仕事をする上でのデジタルスキルや知識が大きく変わりつつあり、それを学ぶことの重要性も高まっていると言えます。
経済産業省はデジタルスキルの基準を設け、人材育成に力を入れています。これは、日本がデジタル分野で人手不足に悩んでいるためです。
スイスの国際経営開発研究所が出した「世界デジタル競争力ランキング2023」では、日本は63カ国中32位にとどまりました。特にデジタル技術の専門知識を持つ人材の競争力は、ほぼ最下位の63位で、日本のデジタル化の遅れの大きな原因の一つであることがわかります。
デジタルスキル標準はデジタル田園都市国家構想の実現のために作成された背景もあります。
第1回デジタル田園都市国家構想が開かれたのは、第1次岸田内閣発足直後の2021年11月のことです。同内閣が掲げる「新しい資本主義」のコンセプトに基づき、都市部だけでなく、地方も含めたボトムアップ型の成長をビジョンとし、そのための柱として「デジタル人材の育成・確保」を打ち立てています。
そのKPIとして掲げられているのが以下です。
・2026年度末までに、デジタル推進人材230万人育成を目指す。
引用元:デジタル人材の育成・確保┃デジタル田園都市国家構想
この計算根拠として用いられているのが、社会学者ロザベス・モス・カンター教授の「黄金の3割理論」と社会学者エベレット・M・ロジャーズ教授の「イノベーター理論」となります。それぞれ、デジタル田園都市国家構想実現会議の若宮内閣府特命担当大臣提出資料にて、下記のように定義され、計算に用いられています。
・黄金の3割理論:組織・コミュニティの構成員の30%が変革すると、その組織・コミュニティの文化が変わる。 デジタル社会の推進に必要な人数 引用元:デジタル人材の育成・確保に向けて(若宮大臣提出資料)_デジタル田園都市国家構想実現会議(第3回)議事次第、1ページ┃内閣官房 |
上記の理論をデジタル人材の不足数の計算に当てはめることが妥当かには、議論の余地があるようです。しかし、確かにデジタルリテラシーが社内に少しずつ定着していけば、どこかで組織の文化が変わる一線を超えることになるはずです。
このような3つの理由を背景にデジタルスキル標準は定義されたのです。
本章では、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準を学ぶ対象者を紹介します。
DX推進人材に関しては5つの人材に分けられますので、ぜひ参考にしてください。
DXリテラシー標準の対象者は、すべてのビジネスパーソンです。
本来、ビジネスパーソンという言葉は、企業で働く人やビジネスを営む人など、さまざまな職業を含む総称です。男性の場合は「ビジネスマン」、女性の場合は「ビジネスウーマン」とも呼ばれます。
しかし最近では、ビジネスパーソンとは「デキるビジネスマン」という意味で使われることが一般的になっています。つまり、成果を出せる能力を持ち、自己主導で行動できるビジネスマンや、意識が高く仕事に取り組むビジネスマン、仕事ができるビジネスマンという文脈で「ビジネスパーソン」という言葉が使われるのです。
DX推進スキル標準では、DXを推進するための中心的な役割を担う人材を対象としています。
DX推進スキル標準を学ぶ主な対象者は以下の5つの職種の人材です。
DXリテラシー標準では、ビジネスパーソン1人ひとりがDXに関するスキルを身につけて変革に向けた行動を取れるようになることがねらいとされています。
DXリテラシー標準を構成する4分類は以下の通りです。
項目 |
詳細 |
マインド・スタンス |
急速に変化する社会において新しい価値を生み出す基礎となる考え方 |
Why |
なぜDXが必要なのかを理解するために身につけておくべき知識 |
What |
DXにはどのようなデータや技術があるのか知っておくべき知識 |
How |
DXに関するデータや技術を利用するための方法や活用事例、留意点 |
以下でDXリテラシー標準を構成する4分類の詳細を確認してDXスキルを高められるようにしましょう。
最初に、「マインド・スタンス」が重要です。これは、DXを推進する上での心構えや姿勢に関する部分です。オープンマインドで変革を受け入れる意識や失敗を恐れずにチャレンジする姿勢、常識にとらわれない発想、常に学び続けることへの意欲が求められます。
企業文化としてこれらのスタンスを醸成することが、DXの持続的な成功に寄与します。DXは単なる技術導入ではなく、組織全体のマインドセットの転換も含まれています。
次は「Why」です。「Why」とは、DXの背景や目的を理解し、実施する理由を明確にする段階です。なぜDXが必要であるのかを理解することは、企業全体のビジョンや戦略を一致させるために不可欠です。
学習の指針としては、以下の3項目が定義されています。
これら3つの変化を学習してビジネスパーソン1人ひとりが社会・経済の変化について知り、DX推進の必要性を各自が理解することが学習のゴールです。
次に「What」についてです。ここでは、具体的に何をするかを定義します。例えば、どのような技術、プラットフォーム、ツールを導入するか、どのような業務プロセスを改善したいのかを明確にします。
このフェーズでは、デジタルツールやテクノロジーのリストアップや、それらがもたらす価値の確認が重要です。具体的な目標設定と成果の測定基準を設けることで、DXの進捗状況を定期的に評価することが可能となります。
最後の「How」の段階では、実際にどのようにDXを進めるかを詳細に設計します。ここで重要なのは、プロジェクトマネジメントの手法や、変革を進めるためのロードマップの作成です。
具体的に、どのように技術を導入し研修を実施するか検討していきます。また、その過程で想定させる課題の克服方法も検討しておきましょう。
DX推進スキル標準では、DX推進人材を5つに分類しています。
以下では、それぞれの人材の役割を確認していきます。
ビジネスアーキテクトとは、企業の経営や事業を推進する上で必要なDX戦略を考え、全体を設計する人材です。担当分野によって下記に分類されます。
企業や事業の全体を設計する重要な人材となります。DX推進スキル標準におけるビジネスアーキテクトの主な役割は、デジタルを通じてビジネスに関する設計を行うことや社内の協働関係の構築です。
デザイナーとは、サービスを提供する側の開発意図やユーザーニーズを理解し、分かりやすくかつ使いやすいシステムやサービスをデザインする人材のことです。
デザイナーは主に下記に分類されます。
DX推進スキル標準におけるデザイナーの主な役割は、顧客のニーズに合わせて社内で取り扱う製品やサービスに関するデザインを行うことです。
データサイエンティストとは、デジタル変革を推進するために、膨大なデータを集めて分析し、その結果をビジネスに取り入れるための体制を築く専門家です。
さらに、分析結果を基にして経営の意思決定を支援する役割も担います。 データサイエンティストは以下の3つに分類されます。
データの収集・分析し、ビジネスに取り入れるために必要な人材となります。DX推進スキル標準におけるデータサイエンティストの主な役割は、自社や自組織の競争力の向上につながるデータの活用の実現です。
ソフトウェアエンジニアは、デジタル変革を進めるために必要なシステムやプログラムを作る専門家です。
ソフトウェアの企画から作成、そしてメンテナンスまでを手がけています。ソフトウェアエンジニアは主に以下の4つに分類されます。
DX推進スキル標準におけるソフトウェアエンジニアの主な役割は、競争力の高いソフトウェアの開発スキルです。
最後に紹介するDX推進人材は、サイバーセキュリティです。 サイバーセキュリティとは、インターネット上での外部攻撃からコンピューターシステムや情報を守る専門家のことです。
会社で取り扱うコンピューターシステムやデータを守るための対策を立てます。サイバーセキュリティは主に以下の2つに分類されます。
DX推進スキル標準におけるサイバーセキュリティの主な役割は、DX推進に伴うデジタル環境のリスクによる被害の抑制です。
DX推進スキル標準では、DX推進人材が共通して身につけるべきスキルや知識を下記の5つに分類しています。
項目 |
詳細 |
ビジネス変革 |
・ビジネスモデルの構築 ・戦略の立案 ・実行のための企画 ・マーケティングスキル ・デザインスキル (ビジネス変革を実現するためのスキル) |
データ活用 |
・データ活用の技術 ・AIに関する知識 ・統計分析 |
テクノロジー |
・ソフトウェア開発の手法 ・フィジカルコンピューティング ・先端技術 ・テクノロジートレンド |
セキュリティー |
・情報セキュリティ体制の構築、運営、マネジメント |
パーソナルスキル |
・リーダーシップ ・コラボレーション能力 ・チーム運営能力 |
DX推進人材は自身の職種の専門的スキルだけでなく上記の共通スキルも高めていく必要があります。
DXリテラシー標準とDX推進スキル標準では、対象となる人材のスコープやレベル感が大きく異なります。それぞれ、どのように使い分ければよいのか悩まれる企業も少なくありません。
以下では、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準の学習のポイントを紹介します。
引用元:新たなDXリテラシー標準の検討について2022年3月11日資料2 第4回検討会資料┃経済産業省
DXリテラシー標準はビジネスパーソンの必修スキルであり、ITにまつわる試験のなかでも初歩的な『ITパスポート』(詳しくはコチラ)や、2022年4月より高等学校の共通必履修科目となった『情報Ⅰ』とその内容には重なる部分も多いです。
そのため、それらの受験やテキストの利用がDXリテラシー標準を身につけることに直結しやすいと考えられます。
引用元:「デジタルスキル標準」をとりまとめました!┃経済産業省
一方、「DX推進スキル標準」はDXリテラシー標準を身につけていることを前提として、いかに専門人材となるのか、あるいは専門人材を活用するのかという観点でつくられています。そのスキルはより細分化され、さらにa・b・c・d・zの5段階で重要度の重み付けまでなされています。
すでにDX推進人材として学習や仕事をはじめている方、あるいはDX人材の活用に悩む経営者の方にこそ「DX推進スキル標準」は役立つでしょう。
DXリテラシー標準、DX推進スキル標準の両方を対象に、学習者向けのポータルサイトとして作成されたのが『マナビDX』です。コチラのデータのじかんDirectの記事でも取り上げられている通り、『マナビDX』ではデジタルスキル標準に即したプログラムが用意され、動画や講座、「マナビDX Quest」などの実践教育・研修といったコンテンツの窓口となっています。
デジタルスキル標準は、実際の学習プログラムに生かされなければ意味がないといっても過言ではありません。そのために公式で用意された『マナビDX』の利用がおすすめなのです。
デジタルスキル標準に関するよくある質問を4つ紹介します。
それぞれの解答を確認してデジタルスキル標準に関する悩みの解決に役立ててください。
デジタルスキル標準に関する資格は、多岐にわたります。例えば、ITパスポート試験や基本情報技術者試験などを取得することで高いITスキルを身につけられます。
これらの資格は、基礎的なデジタルスキルを証明するためのものであり、企業の採用条件や昇進条件としても使用されることもあります。
デジタルスキル標準に関する情報は、情報処理推進機構(IPA)の公式ウェブサイトで確認することができます。IPAのサイトでは、デジタルスキル標準に関する詳細な説明や、試験のガイドライン、参考資料などが提供されています。
また、更新内容についても定期的に発表されています。これにより、常に最新のデジタルスキル要求を把握することができます。
デジタルスキル標準について知りたい場合はこちらを参考にしてください。
デジタルスキル標準に関連するテストも多数存在します。例えば、先ほど触れた情報処理技術者試験のほかに、具体的な技術やツールに関する認定試験もあります。
テストを受けることが、自分のスキルレベルを客観的に把握できるため就職活動やキャリアアップにおいても大いに役立ちます。
デジタルスキル標準を組織の研修プログラムに取り入れるためには、まず現状のスキルレベルを評価することが重要です。
そして、各職種や役割に応じたスキルマトリックスを作成し、それに基づいて適切な研修プランを作成します。また、研修プランの作成時の際はIPAの資料や認定試験を基にすることも一つの方法です。
また、研修でeラーニングツールやオンラインコースを活用することで、効率的な学習を提供できるでしょう。なお、研修により習得したスキルが実務に役立つよう企業としてサポートを行うことも重要です。
経済産業省の委託のもと、ボストン・コンサルティング・グループが作成した『令和3年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(民間企業におけるデジタル人材育成コン テンツ提供及び人材活用状況に係る調査)調査報告書』では、事業者規模が大きくなるほど、デジタルリテラシー人材の割合が少なくなることを示すデータが紹介されています。
今後、更なるDX化の推進に備えて、社内のDX化は必要不可欠なものとなるでしょう。デジタルスキル標準を基にDX人材の育成・採用を進めて企業競争を優位に進めていきましょう。
(宮田文机)
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