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岐阜市、つくば市が「DST EVIDENCE AWARDS 2024」大賞を受賞。デジタル大臣平将明氏がトークセッションでEBPM推進の鍵を示唆

人口減少、高齢化など厳しい状況に直面している日本において、エビデンス(合理的根拠)にもとづく政策形成「EBPM」(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の重要性が高まっている。政府もEBPMを推進しているが、国内においてエビデンスとして採用に足るデータ自体がまだ乏しく、社会実装に向けてより多くのエビデンスを共有していく取り組みが極めて重要となる。そのような背景の中、優れた事例やエビデンスを募集、表彰することでEBPM社会実装の促進を図る「DST EVIDENCE AWARDS 2024」が開催され、岐阜市とつくば市それぞれの取り組みが大賞を受賞した。

アカデミアと経済界がタッグ結成! 社会課題が“発生する前”にエビデンスによって解決を図る。 日本のトップランナーが集結する 一般社団法人Data for Social Transformationが発足

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アワード開催が引き寄せる日本のEBPMの夜明け

「DST EVIDENCE AWARDS 2024」は、経済界とアカデミア、自治体の三者が協力しエビデンスにもとづく社会変革に取り組むことを目的とする「一般社団法人Data for Social Transformation」(以下、DST)が主催するもので、今回が初開催となる。

7月9日~10月10日にかけて、エビデンスを社会実装し課題解決に寄与した取り組み「アクション部門」、社会保障領域における課題解決につながり得る研究で社会に実装できる可能性がある取り組み「エビデンス部門」、同様に課題解決につながり得る研究アイデア「アイデア部門」の3部門で募集。合計41件の応募があり、一次審査の結果選出されたファイナリストが、11月19日のアワードイベントでプレゼンテーションを行った。

ファイナリストピッチ及び審査に進んだ団体一覧(50音順)

冒頭のあいさつでは、DST代表理事を務めるオイシックス・ラ・大地株式会社代表取締役社長の髙島宏平氏が「世の中には、われわれと同じようにエビデンスを使って社会を変革しようという志を持つ人が、多く存在します。そうした皆さんと活動をたたえ合うことで、『エビデンスが当たり前の社会』を一緒につくっていきたいという思いで、このアワードを開催しました。日本における『エビデンスの夜明け』となるような機会にしたい」と、開催趣旨を述べた。

DST代表理事を務めるオイシックス・ラ・大地株式会社代表取締役社長の髙島宏平氏

ファイナリストによるプレゼンテーションに先立ち、DST共同代表理事で、アワードの審査委員長を務める慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏は「今日のプレゼンの中に、日本の未来を変える手がかりがあると思う」と、期待を述べた。

アワードの審査委員長を務める慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授の宮田裕章氏

大賞2つ、優秀賞6つ、特別賞としてデータベース構築賞5つが決定

プレゼンテーションの持ち時間は4分30秒で、各プレゼン直後に審査員による質疑が行われた。

ファイナリストによるプレゼンテーションの様子。写真は、岐阜市副市長の阿部一臣氏

審査の結果、アクション部門大賞は、岐阜市の「ビッグデータ・AI解析で子どもを守る、地域で守る通学路安全対策ワークショップ」が受賞。エビデンス部門大賞は、つくば市の「新規要介護認定を受けた高齢者の疾病パターンの分類と予後の関連」が受賞した。なお、アイデア部門の大賞は該当なしだった。

●岐阜市「ビッグデータ・AI解析で子どもを守る、地域で守る通学路安全対策ワークショップ」

「7~8歳の死傷者数が多い」「事故の約6割が学校から200~500mの間で登下校中に発生」などのデータから、事故を未然に防ぐ官民連携の通学路安全対策プロジェクトを立ち上げた。特徴は、EBPMと住民自治をかけ合わせた活動になっていること。車両走行データと交通事故統計データに、AI解析による事故発生リスクの評価を加え、危険個所の見える化(マッピング)を実施。そこに、ワークショップで住民などが把握している危険個所の情報を重ね合わせることで、危険個所を洗い出した。その後の安全対策と優先順位の決定についても(危険度)得点形式にするなど、ワークショップ内で合意形成が図られた。これらの活動を通じて、住民のEBPMへの理解が高まると同時に、行政を含め地域全体で子供たちを守り・育む意識の向上にもつながった。

アクション部門大賞に輝いた岐阜市の副市長阿部一臣氏(右)

●つくば市「新規要介護認定を受けた高齢者の疾病パターンの分類と予後の関連」

医療介護サービスの質と効率の向上のためには、高齢者の特徴を理解することが必要だが、高齢者は複数の疾患を抱えており、それら組み合わせによる特徴は捉えにくいことが多い。そこで、医療レセプトデータや要介護認定情報データ、被保険者台帳データを使い、疾患の組み合わせによるサブタイプ(亜型)を同定し、各サブタイプと予後の関連を明らかにする研究を行った。この結果をもとに、各サブタイプに有効なケアの種類を検索・評価しやすい環境を構築でき、エビデンスを元にした個別ケアの提供が実現。◉◉◉◉◉さらにサブタイプを自動同定するアプリケーションを開発し、効率的なケアを提供による社会保障費の適正化にもつなげている。◉◉◉◉◉今回用いられた医療レセプトデータは全国共通のため、他の自治体でも同様に分析を実施しやすいなど、横展開の可能性も期待できる。

エビデンス部門大賞のつくば市国民健康保険課の鈴木愛氏(中央)、つくば市長の五十嵐立青氏(右)

その他、アクション部門優秀賞にアストラゼネカ株式会社、岩手県、岡山県が、エビデンス部門優秀賞にDeSCヘルスケア株式会社、横浜市立大学准教授の金子惇氏が、アイデア部門優秀賞にパーソルホールディングス株式会社が選ばれた。

また、ファイナリストには選ばれなかったものの、課題解決のためにデータベースを堅実に構築している点を高く評価し、5団体が「データベース構築賞」として表彰された。

アワードの最後には、審査員を代表して慶応義塾大学総合政策学部教授の中室牧子氏が「全体を通じてレベルの高さに驚きました。今回、社会保障領域だけでなく、さまざまな分野におけるエビデンスを見せていただき、どのように社会実装につなげていくかを考える機会になり、感謝いたします」と総評した。

審査員を務めた慶応義塾大学総合政策学部教授の中室牧子氏(中央)

続けて、宮田氏は「大賞の岐阜市は、市の交通安全を考える中で住民を巻き込んだ取り組みにしたことを高く評価しました。政府や自治体が示すエビデンスだけでなく、住民一人一人が当事者意識を持って考えることが、これから重要なキーワードになるでしょう。またつくば市の取り組みは、それ自体が介護保険の在り方を変えていく期待を抱かせるものでした」と選定の理由を説明、さらに全てのプレゼンテーションに対して評価を述べ、締めくくった。

総評を述べる宮田氏

平将明デジタル大臣などがEBPM推進の鍵を示唆

第2部の「基調セッション」では、スペシャルゲストに内閣府特命担当大臣(規制改革)、デジタル大臣、デジタル行財政改革担当、国家公務員制度担当、サイバー安全保障担当の平将明氏を迎え、福岡市長の高島宗一郎氏、品川区長の森澤恭子氏が参加。さらにDSTからは、モデレーターとして常務理事の﨑田恭平氏(前日南市長)と、髙島宏平氏が加わった。

内閣府特命担当大臣(規制改革)、デジタル大臣、行政改革担当、国家公務員制度担当、サイバー安全保障担当の平将明氏

冒頭では、平氏がDSTの掲げる「エビデンスにもとづく社会改革の取り組み」に関連して、政策立案におけるエビデンスの重要性に言及し、重要なポイントとして「エビデンスとエピソードをどう融合させて政策をつくっていくか」を強調した。例えば、国会で、政府に対して「ある事態が起きていて、早急に解決策を講じるべきだ」という意見が出されたとする。だがその課題に対する捉え方は、立場や主張によって異なるため、政策立案も個々の議員あるいは政権の考え方に左右されがちだ。

「政策を決めるプロセスを、いかにエビデンスにもとづいたものにしていくかが、『実効性のある政策』をつくる上で問われています。これがEBPMであり、DSTの基本的な考え方にも通じるものです」(平氏)

ではEBPMを今後促進していく上で、どのような課題があるのか。DST髙島(宏平)氏のこの質問に対して平氏は、まず個人情報保護の問題を挙げる。元々日本の個人情報保護法は、EUのGDPR(EU一般データ保護規則)と相互の十分性認定を行う必要性から制定されたと同氏は経緯を説明。その上で両者の間には、大きな違いがあると指摘する。

「ひとくちに個人情報保護といっても、EUは守るべき部分は守りながら、業界やテリトリーごとにデータの利活用法を明確に定めています。一方で日本は、保護の部分が先行して利活用に関する法律が追いついていない。まさに私はこの部分の担当で、今後内閣官房のデジタル行財政改革で積極的に検討していこうと考えています」(平氏)

加えて平氏は、データ利活用における「協調領域と競争領域」の課題にも触れる。具体的には、協調領域にデータを持つ企業が、それを適切に提供できる仕組みをどのようにつくるかだとしてこう続ける。

「そのために、今後は経済団体などと一緒に議論を重ね、データを持っている企業がそれを外部に提供しやすいように、協調領域と競争領域を分けたデータ利活用のための法整備を進めたいと考えています」(平氏)

東京都品川区では、AIによるデータ分析の試みを積極的に推進中

現在、全国でEBPMの促進に取り組む自治体が増えてきている。東京都品川区で区長を務める森澤恭子氏は、最新の取り組みとしてAIによるデータ分析の試みを紹介する。

「全区民アンケートの結果をAIで分析し、補正予算を組みました。EBPM推進のために、民間から課長職として人材を招いて取り組みを進めています。このAI分析もそうですが、今後はデータアナリストの皆さんとの連携を深めて、さまざまなデータを分析しながら、事例を積み上げていきたいと考えています」(森澤氏)

東京都品川区区長の森澤恭子氏

昨年度のAI分析の実績に、区内に拠点を置くアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWS Japan)が関心を寄せ、同社からの提案をもとに現在はアンケートの分析ツールの開発に取り組んでいると、森澤氏は明かす。

「外部の方との取り組みを広げる一方で、私たち職員のEBPMに対する理解を深めることも大きな課題です。今後はそのための啓発や教育に加え、人材育成にも注力していきたいと考えています」(森澤氏)

医療データの分析をもとに保健医療施策を策定する福岡県福岡市

続いて福岡県福岡市市長の高島宗一郎氏は、EBPMの試みとして、医療データをもとにした保健医療政策を紹介。同市では、65歳以上で要介護になった人のデータを、行政が保有する検診データや病院が持っている医療データとかけ合わせ、九州大学と共同でデータ解析を行った。

「この結果、医療データから読み取れる属性と、要介護になる可能性の因果関係が非常に強いことが明らかになったため、これをもとに福岡市の保険医療の具体的な施策をつくっていきました」(高島宗一郎氏)

福岡県福岡市市長の高島宗一郎氏

また現在は、子ども行政へのデータ利活用にも取り組んでいる。学校や児童相談所など行政の各部門が持っているデータを一元的に利用できる仕組みを構築。さらにそれを分析・活用できるアルゴリズムを開発して、自治体がこれまでアプローチできなかった子どもたちにも、施策の適用を広げていきたいと高島氏は語る。

セッション終盤では、観客席から岐阜県美濃加茂市市長の藤井浩人氏や、群馬県前橋市市長の小川晶氏も加わり、各自治体での取り組み報告や平デジタル大臣との、熱気にあふれる質疑応答が行われた。

この場を通じて各首長から寄せられた意見や要望に対し、平氏は「国としてはガバメントクラウドや、そこで利用するアプリケーションなど、各自治体が個々の課題に注力できる環境を提供していく。デジタル庁は皆さんの取り組みに常に寄り添っていきたいと考えているので、ぜひご協力をお願いします」と呼びかけ、セッションを締めくくった。

イベント終了後の集合写真

アフターパーティも開催され、情報や意見が交換された

 

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