まずは首都圏にある大学だ。ここでは、一般的に難関私大と言われている早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学、学習院大学の各種データを見ていく。
基本的に2024年度入試(一般選抜)合格者の都道府県出身者別データを参照するが、青山学院大学に関しては入手できなかった。そのため、青山学院大学は2025年3月卒業予定者の都道府県出身者別データを利用した。また、立教大学のデータは共通テスト利用の合格者は含んでいない。
この記事では入試合格者における関東出身者(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川)と東京都出身者の占める割合を算出した。結果は以下の通りである。
早稲田大学:関東79.2%(東京都39.9%)、慶應義塾大学:関東77.9%(東京都41.2%)、上智大学:関東85.2%(東京都47.6%)、明治大学:関東80.5%(東京都35.4%)、青山学院大学:関東80.8%(東京都30.1%)、立教大学:関東88.5%(東京都38.0%)、中央大学76.4%(東京都35.4%)、法政大学:関東81.1%(東京都33.0%)、学習院大学:関東89.6%(東京都33.8%)
ここで注目したいのが東京都出身者の割合だ。興味深いことに「早慶上智」(早稲田、慶應義塾、上智)と「GMARCH」(明治、青山学院、立教、中央、法政、学習院)との間で、割合に差が生じている。
なかなか偏差値の比較は難しいが、河合塾が発表している2025年度入試難易予想ランキングによると、経済・経営・商学系の最高偏差値は早稲田70.0、慶應義塾67.5、上智・明治・立教が65.0と続く。
純粋に偏差値だけを比較すると、早慶が別格で、後に上智以下が続くという構図になっている。単純に考えるなら、所得が豊かで教育に力を入れられる東京都民が受験にも有利、という感じだ。
一方、「早慶上智」というブランドはあるものの、上智は偏差値だけを見ると早慶と肩を並べているかというと、少し苦しい面もある。しかし、東京都出身者だけを見る限り、「早慶上智」というブランド、そして「MARCH」との壁はまだ生きていると感じだ。
2点目は関東出身者の割合が最も低い大学が中央大学という事実だ。何も情報がないと「偏差値が低い大学は地方出身者が多いだろう」と考えがちだが、実はそうではない。中央大学法学部の高偏差値(62.5)は言わずもがな。他学部は法政と肩を並べる感じだ。
なぜ、中央大学は地方出身者が多いのだろうか。『早慶MARCH大激変「大学序列」の最前線 』(朝日新書)の著者である小林哲夫氏は中央大学が地方出身者に支持される理由として、本キャンパスが多摩にあることを指摘している。つまり、多摩は都心よりも家賃が安く、地方出身者にとっても暮らしやすい、というわけだ。
また、大学受験は勉強だけでなく、情報収集も重要だ。いくらオンラインが発達したとはいえ、やはり生情報に勝るものはない。地方と首都圏の情報格差、教育格差も影響しているのだろう。
しかし、後述するが、そもそも首都圏は地方での入試に積極的ではない。
有名私大に同じ地域圏が集中するという現象は首都圏だけなのだろうか。ここからは関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)の2024年度入試(一般選抜)合格者の都道府県出身者別データを確認したい。ここでは、関西出身者(滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県、大阪府、兵庫県)が占める割合を算出する。なお、関西学院大学はデータを入手できなかったため、関西大学、同志社大学、立命館大学の3校に絞る。結果は以下の通りだ。なお、同志社は共通テスト利用入試は含んでいない。
・関西大学:関西78.3%
・同志社大学:関西59.5%
・立命館大学:関西46.7%
驚くべきことに、京都市に本キャンパスを置く同志社大学と立命館大学は実に4~5割の合格者が関西圏以外から来ているのだ。実は両校は愛知県からの受験者が多いのだ。愛知県出身の合格者数は同志社が1,730名(12.4%)、立命館が3,817名(12.2%)となる。立命館大学にいたっては愛知県出身の合格者数は京都府(3,014名)、兵庫県(2,709名)よりも多いのだ。
愛知県と京都府は地理的に近い。東海道新幹線なら京都~名古屋間は35分だ。また、偏差値で見ると、愛知県には同志社、立命館を上回る私立大学が存在しない。特に法・政治系では愛知県で最も偏差値の高い私大は南山、中京だが、52.5しかない。一方、同志社は60.0、立命館は55.0である。よりレベルの高い環境を求めて、愛知県から京都府へ進学することは十分に考えられる。
一方、関西大学は大阪府に本キャンパスを持ち、地理的に愛知県から離れている。関西各府県から通いやすく、関西出身者の比率は高い。関西大学のみとエビデンスは弱いものの、有名私大において同じ地域圏出身者が占める割合が高いという現象は何も首都圏だけではない、ということがわかる。
地方出身者の比率が高いか、低いか。それは地方に受験会場を設置するか否か、という点がひじょうに大きい。たとえば、中央は全国9都市で受験でき、学部別の受験も全国7都市で実施されている。一方、早稲田や慶應義塾は地方会場を設けておらず、本学のみでの実施だ。
先述した首都圏の大学で地方受験が認められている大学は明治、青山学院、中央、法政のみである。しかも、明治、青山学院は学部ごとの入試は本学のみの実施だ。地方会場の有無でも、「早慶上智」と「MARCH」との間で差異が生じていることがわかる。
一方、関西、同志社、立命館は積極的に地方会場を設けている。しかし、先ほど見た通り、関西は関西圏出身者の比率が高い。
このように見ていくと、地方会場を設けて、急に地方出身者の比率が高くなることは考えにくい。地方出身者でも学びやすい環境づくり、安価な学生寮、地方出身者に大学の魅力を伝える広報など、地方出身者の比率を高めるには様々な施策を打つ必要があるのだろう。
もちろん、首都圏の大学も地方の学生を見捨てているわけではない。ライバルの早稲田と慶應義塾はタッグを組んで、全国各都市で「早慶合同説明会」を開催した。中央も独自に学外進学相談会を北海道から九州にかけて開催した。
大学は本来、多様なバックボーンに出会える貴重な教育の場であるはずだ。東京と地方の教育格差を是正するためにも、都会の大学は何かしらの施策を打つべきではないだろうか。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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