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SNSを通じて誰でも議論を交わすことができるようになった昨今。労働、貧困、育児、婚姻など、さまざまなカテゴリーで格差を生み出す、多様な社会課題があることが浮き彫りになってきました。
そうした社会課題を解決する第一歩が「共感」です。
さまざまな手法で発信された「社会課題」に共感し、手を差し伸べる人が増えることで、支援制度など、格差を解消するための基盤が整っていきます。
一方で近年、議題に上がるようになったのが「共感されにくい」人々が抱える社会課題についてです。
テロ・紛争解決スペシャリストであり、著者『共感という病』を手がけた永井陽右さんのコラム「共感にあらがえ」では当時20代だった永井さんが「共感」への違和感を綴っています。
永井さんは内戦が続く、アフリカ・ソマリアで紛争に対峙し、問題解決に奔走する中で「被害者よりも忘れ去られている加害者側に目を付けることが問題解決において不可欠である上に費用対効果も高いということ」に気づいたと言います。
一方で、現実で支援がなされるのは非戦闘員の子どもや女性がほとんど。そこで、永井さんは紛争のなかで、ギャングやテロリストとして、紛争の当事者となった人々を支援するように。そこで共感への問題意識が芽生えたといいます。
一度加害者として社会で認定されてしまった人が抱える問題は、多くの場合「自己責任」として処理されがちになり、課題解決に向けての動きに協力を得づらいのです。
また、共感されやすいマイノリティはマーケティングや広報に使われ、人々を扇情する目的で利用されてしまうことも少なくありません。
共感の格差は単なる対立関係だけで生じるわけではありません。人類学者の磯野真穂さんと、評論家の與那覇潤さんの対談「コロナ禍に人文学は役に立つのか?」では、コロナ禍が浮き彫りにした共感格差の一例として、医療関係者と飲食店経営者の対比があげられています。
コロナ禍において、感染対策と経済が天秤にかけられ、つねに苦しい決断を迫られる状態が続いています。
コロナ禍初期の感染を抑制することが社会全体で求められた時期においては、多くの人が医療関係者に共感し、飲食店経営者は酒の提供や時短営業を求められ、辛い状況下にあったにもかかわらず、その辛さを声に出すことすらはばかられる、という環境にありました。
一方で対談以後、2022年夏には、数万人の感染者が出て、医療が逼迫。複数の県で医療非常事態宣言がなされ、医療関係者が日々その苦労や辛さを発信していました。しかし、長期間にわたる「自粛」に人々が気疲れする中で、医療現場の声とは裏腹に、行動制限を求めるような非常事態宣言には繋がりませんでした。
共感されやすい辛さは社会に受容され、課題解決に向かって行動が起こる一方で、共感されづらい辛さはそれを発信することすらためらわれる状況に置かれてしまいます。また、同じ立場で同じような辛さを発信しても、社会が変容し、共感されづらくなった場合には全く異なる受容の仕方になるのです。
2022年9月には、個人ブログ「データをいろいろ見てみる」において、アメリカの大手メディア10社のTwitterアカウントからマイノリティグループごとの言及数を計算した結果、共感されやすい「LGBT」は1万回弱の言及を獲得しているのに対し、「ブルーカラー(労働階級)」や「白人」といった共感されづらいマイノリティグループへの言及は100回未満だったことが明らかになりました。
ブログでは、メディアによる報道の不平等な分配が共感されづらさや孤立を加速している可能性を指摘しています。そして、こうしたメディアから取り残された人々に共感し、共感されることがドナルド・トランプ大統領の台頭に繋がったのではないか、と考察されています。
共感は、必ず不平等に生じます。一方で個々人が、誰に、何に共感し、何に共感しないのか、というのは思想・良心の自由として制限されるものではなりません。
しかし、「共感」によるバイアスによって課題解決がすすむどころか阻害されてしまうこともあります。そうした中で公的機関や制度において、社会課題をいかに「共感」というものと切り離し、問題解決に必要な基盤を整えていくのか、が重要になるのかもしれません。
【参考資料】 ・<01>世界最悪の紛争地から考える「共感」の限界 | 朝日新聞デジタルマガジン&[and] ・<02>見過ごされる“共感されにくい人たち” どう救うべきか? | 朝日新聞デジタルマガジン&[and] ・第1回 パチンコと居酒屋と「共感格差」 | 磯野真穂×與那覇潤「コロナ禍に人文学は役に立つのか?」 ・新型コロナ第7波 病床ひっ迫 自宅療養者危機「限界超えた…」 | NHK | WEB特集 | 医療 ・共感格差 | データをいろいろ見てみる
(大藤ヨシヲ)
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