AI、IoT、ビックデータなどのデジタル技術は急速に進化しつづけており、それに伴い企業の業務を支援する様々なITツールやソリューションも登場し続けています。今、多くの企業が取り組んでいるデータ活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)は企業の業務効率化、新たなビジネスの創造などを指します。
ただどんなに有用なデータ基盤やクラウドを導入したとしても、組織や人が使いこなさなければ、データ活用やDX化は一向に前に進みません。データ活用やDX化は人・組織、データ、プロセスにおいて管理者と利用者との橋渡しが必要で、その役割を担う“DataOps”に今、関心が高まっています。
DataOpsとは円滑に企業内のデータを利用できるようにする取り組み(プラクティス)のことです。
主な取り組みとしては以下の3点が挙げられますが、組織的に取り組むことでデータ活用・DX化などが加速し、企業全体の生産性が向上するようになります。
データを活用して生産性を向上させるには、従業員のスキルに依存せずに済むよう、一定のアクセシビリティ(利用しやすさ)を配慮する必要があります。それにはデータ利用者のニーズ、利用シーンを配慮したITツールやシステムの構築がデータ管理者に求められますが、これを知るには両者の意思疎通が必要不可欠です。企業を横断したデータの共有にはデータフローの統合が必要不可欠で、また自動化は利用者にデータ利用の「民主化」をもたらしてくれます。
デジタル技術の発達、データ活用向けのITツールやソリューションが登場し続けているにも関わらず、データ活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)が一向に進まないと感じることはないでしょうか?
データ活用やDX化を経営方針に掲げてはいるものの、実践で効果を得ている企業はまだまだ全体のごく一部です。
これはデータ活用やDX化を導入するにあたり、ITツールの導入やシステムの構築ばかりに目を囚われていまい、円滑に利用するための体制づくり、即ち「DataOps」の取り組みを置き去りにしていることが原因と考えられています。
せっかく業務効率を向上させるITツールを導入しても、誰も使用せず、そのうち忘れ去られてしまうというケースはそれほど珍しいことではないのです。新しく導入したITツールやシステムは利用者側が活用方法を独自で開拓することは実はかなり難しく、データ管理者とデータ利用者が協調して組織的に民主化しなければなかなか浸透するものではありません。
特に導入したての移行期は操作の不慣れなどを理由に個人の判断で従来のプロセスを選択してしまうケースが多く、データ活用を推進する立場の人は、このような課題の対処に悩まされています。データの利用がもともと苦手な人がいることも踏まえ、企業内の従業員のスキルに依存することのない運用への意識の欠落がデータ活用やDX化の最大の落とし穴と言えます。
データ活用やDX化がなかなか前に進まない要因のひとつとして考えられるのが「情報戦略の手段の混同」です。
昨今では、データ活用、データドリブン、デジタルトランスフォーメーション(DX)などデジタル技術を基幹とした様々な情報経営戦略の用語が登場しています。どれもデジタル技術を利用した取り組みなのですが、それぞれの用語がターゲットにしている取り組みを理解しないまま実践してしまい、目的や活動が混同しているケースも実は少なくはありません。
用語 | 内容 |
---|---|
デジタラゼーション | 情報のデジタル化 |
データ活用 | データを利用して日常業務の改善を継続的に図る取り組み |
データドリブン | 様々な種類のデータを収集・分析し、それで意思決定や施策立案する取り組み |
デジタルトランスフォーメーション | デジタル技術を活用した経営の変革や新たなビジネスを創造する取り組み |
これらは全てハウツー(方法)ではなく、概念であるため、正しく運用するにはそれぞれにマッチした「DataOps」を取り組む必要があります。
DataOpsはプラクティス(取り組み)や概念を指す用語です。
そのため、業界・団体で定められた標準やフレームワークは存在しません。
むしろデータの利用は企業内でのユースケースも複雑で多いため、企業の文化や風土にも影響されるので、標準化しにくいのが実情です。
そのため、導入には企業のCIO、CDOは正しく理解した上で自社の文化や風土にマッチした「DataOps」を独自にプランニングするため、
などを明確化しておく必要があります。
企業のデータ運用はデータ発生元、データ管理、データ分析、データ利用者といった流れを組んでいます。データ活用やデジタルトランスフォーメーションは“データ利用者”が実践したり推進したりします。
仮にデータ管理部門やデータ分析部門が存在しない場合、データの収集、加工、蓄積、可視化、分析、予測といった作業を“データ利用者”が独自に行わなければならなくなり、これではメインミッションである意思決定や行動がおろそかになってします。
DataOpsは企業の企業戦略の構想や利益を生み出す部門が円滑にデータを利用できる仕組みや取り組みに位置づけられています。
DataOpsはデジタル技術(ハード、ツール、ソリューション)、コミュニケーション(人・組織)、プロセスの3つを要素としています。データ管理者はデジタル技術のインテグレーションやシステムの構築に長けているものの、実際にデータの利用シーンを知らないためユーザビリティへの意識がどうしても欠落してしまいます。一方、データ利用者は生産性向上、業務改善のアイディアや意欲は持ち合わせているものの、プログラミングやデータサイエンスに疎いため、いざ実践したくても行動に起こせないジレンマを抱えています。
DataOpsはこのような課題を両者のコミュニケーションで解決することを推奨しており、その実践は企業全体の情報活用を統括するCIO・CDOなどが組織やワーキンググループを発足することで取り組みが進むようになります。
DataOpsは“取り組み”であるため、データ利用者、データ管理者、組織で目的が共有されてなければ十分な効果を得ることはできません。推進者は十分に時間とコストをかけ、DataOpsの理解を深めてから実践に臨むべきです。ここではこれからDataOpsに取り組もうとしている企業・推進者が理解を深めるのに有用なサイト、本を紹介します。
繰り返しになりますが、DataOpsは標準やフレームワークを持たない取り組みや概念のことです。
そのため、デジタル技術と経営を融合した情報経営と生産性を生む思想はしっかり理解する必要があり、DataOpsを運用するにあたり、DataKitchen社は同社が公開している「DataOps原則」の理解を強く推奨しています。
DataKitchen社が提唱するDataOps原則(引用元:DataOps Manifesto)
DataOps原則 | 説明 |
---|---|
継続的にお客様を満足させる | 価値のある分析的洞察の早く継続的な提供が顧客の満足につながる |
実用的な分析に重きを置く | 最適なデータ分析の尺度は、正確なデータを強固なフレームワークとシステムに組み込んで洞察力のある分析が提供される程度 |
変化を受け入れる | 最も効率的かつ効果的かつ迅速な対面会話で、進化する顧客ニーズを受け入れて競争上の優位性を生み出す |
チームスポーツ | 分析チームには、常にさまざまな役割、スキル、お気に入りのツール、タイトルがあり、多様な背景と意見が革新と生産性を向上させる |
日々の関わり | 顧客、分析チーム、および経営陣は、プロジェクト全体を通して日々協力して作業する必要がある |
自己組織化 | 最良の分析的洞察、アルゴリズム、アーキテクチャ、要件、そしてデザインは自己組織的なチームから生まれる |
ヒロイズムを減らす | ヒロリズム(英雄主義)を減らし、持続可能でスケーラブルなデータ分析チームとプロセスの作成に努めるべき |
自己反映 | フィードバックと運用統計を定期的に自己反映して運用パフォーマンスを微調整する |
分析はコード | データへのアクセス、統合、モデル化、および視覚化はデータへのアクションを記述したコードで構成されたツールが提供する |
オーケストレーション | 作業の最初から最後までのオーケストレーション(自動化)は、分析の成功を左右する |
再現可能にする | 再現可能な結果の必要性に備え、全てのデータ、ハードウェア、ソフトウェア、ツールの固有コードと構成のバージョンを管理する |
自由に使用できる環境 | 簡単・安全で自由に利用できる技術環境の提供は実験のコストを最小限にする |
単純さ | 作業削減量を最大化する技術は不可欠で単純さは敏捷性を高める |
品質が最も重要 | コード、構成、データの異常やセキュリティ上の問題を自動検出できる基盤の構築と、エラー回避を目的としたフィードバックの継続的提供は必要不可欠 |
品質とパフォーマンスを監視する | 予期しない変動の検出、運用統計の生成を目的に、パフォーマンス、セキュリティ、および品質は継続的に監視する |
再利用 | 分析的洞察の制作効率の側面は、個人、チームによる不要な作業の繰り返しの回避に繋がる |
サイクル時間を短縮する | 顧客ニーズの分析からリリース、リファクタリングまでに要する時間と労力は最小限に抑えるべき |
日本ではDataOpsの取り組みが遅れており、詳しく解説された日本語の書籍は残念ながらまだ出版されていません。そのため、本で学習する場合、海外書籍しか選択肢がないのですが、DataOpsの第一人者が執筆した書籍の理解はこれからDataOpsを実践しようとしている企業にスムーズな実践と大きな付加価値をもたらしてくれます。
「品質を向上させながら分析のサイクルタイムを削減するメソッドとツール」をテーマにしたDataKitchen社のページから無償でダウウンロードできる電子書籍です。同社が提唱する「DataOps原則」をはじめ、DataOpsの基礎、仕組み、担当者の役割の解説、事例の紹介などが学習できます。
出版 | DataKitchen |
---|---|
著者 | Christopher Bergh, Gil Benghiat, Eran Stord |
言語 | 英語 |
形式 | 電子書籍(pdf) |
価格 | 無料 |
「企業のDataOps変革」の流れを記した完全ガイドでDataKitchen社のページから無償でダウウンロードできる電子書籍です。DataOps実践の流れを段階別に学習することができます。DataKitchen社は公開している「The DataOps Cookbook」と併せて読むことでDataOpsについての理解がより一層深まります。
出版 | DataKitchen |
---|---|
著者 | Chris Bergh, Eran Strod, James Royster |
言語 | 英語 |
形式 | 電子書籍(pdf) |
価格 | 無料 |
「実践的DataOps」をテーマに多くの読者から高い評価を得ている書籍です。データ戦略の策定、認識すべき障壁、利害関係者のための取り組みなどを紹介しています。
出版 | Apress |
---|---|
著者 | Harvinder Atwal |
言語 | 英語 |
形式 | ペーパーバック、電子書籍(Kindle) |
価格 | ‐ペーパーバック:3,509円(Amazon) ‐Kindle:4,464円(Amazon) |
ISBN | 978-1484251034 |
今回は「DataOps」についてと理解を深めるためにぜひ活用してもらいたい本を紹介させて頂きましたが、データ活用やDXに「DataOps」が重要な役割を担うことをご理解頂けたでしょうか?
それでは最後に今回紹介させて頂いた要約をまとめとして、以下に記載させて頂きます。
●「DataOps」とは円滑に企業内のデータを利用できるようにするプラクティス(取り組み)のことで、データ活用やDX化に取り組もうとしてもなかなか進まない企業の多くは、この取り組みを軽視しているケースが多い
●「DataOps」は標準やフレームワークが存在しない取り組みのため、実践にあたっては企業が独自で学習、プランニングする必要がある
●日本は「DataOps」後発国のため、まだ一般化が進んでおらず、そのため理論や仕組みを詳しく解説した日本語書籍が出版されていない
●DataKitchen社は良質な本やブログを公開、発信することで「DataOps」の普及に努めている
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