人間にしかできない仕事って何だろう?
近年に入っての生成AIの爆発的な成長と普及を目にしてそんな疑問を抱く方は多くなったことでしょう。そんな話題で持ち出されることの多いキーワードが「創造性」。人間は創造性を駆使して、AIへの適切な指示やその背景となるイメージを生み出すプロデューサーとなるのではないかという予想は多くの方が有力に感じられるのではないでしょうか。
そんな人間の創造性を後押しするフレームワークの一つとして最もポピュラーなものの一つ「KJ法」について、その原典である書籍『発想法』を参考にしつつ、解説いたします!
KJ法はアイディアの発散と構造化を、カードへの書き込みとそのグループ化という物理的なプロセスに落とし込むことで、共創を容易にする情報整理のフレームワークです。文化人類学者でネパール・ヒマラヤの研究における業績でも知られる川喜田二郎氏(1920-2009)が、1967年に著した『発想法』(中公新書)がその原典であり、同氏のイニシャルを取ってK(KAWAKITA)J(JIRO)法と名付けられています。
その必要なものと手順は以下の通り。
・ペン
・カード(ふせんなど)
・ボード(ホワイトボード、黒板など)
1.参加者にテーマを伝える
2.テーマに沿ってブレインストーミングを行う(10~20分程度)
3.カードにアイディアを書き出す
4.カードを同じグループごとにまとめる
5.グループがまとまったら、それぞれの関係を図示し、整理する
6.図解した結果を文章化してまとめる
「3.あらかじめ配られたカードにアイディアを書き出す」の手順は現在では参加メンバーそれぞれによって行われることもありますが、原点たる『発想法』では専任の記録係が自由な討論をリアルタイムで観察しながら、各人の発言を見出しのような形で要約することとなっています。
しかし、現代では時間的制約や参加している実感の醸成、記録係を用意する手間を省くといった目的で、参加者それぞれが自分でアイディアを記入する形で運用されることも少なくありません。また、miroやCanvaといったオンラインホワイトボードツールにもKJ法に適したテンプレートが用意されており(miro/Canva)、なんとKJ-GPTというKJ法用の生成AIアプリも見つかりました。
このように運用形式やツールに工夫は加えつつも、「ブレスト→カードごとにアイディア書き出し→まとまりと関係性を図示→文章化」というKJ法のキモは押さえて活用していきましょう。
KJ法はそもそも、川喜田氏が重視する「野外科学」の考えを背景に生まれました。川喜田氏は科学を「書斎科学」「実験科学」「野外科学」の3つに分類しており、それぞれ、以下のように定義できます。
書斎科学:過去の情報をもとに論理的に推論を行う科学
実験科学:実験を通して観察を行い仮説を検証する科学
野外科学:そのままの自然の観察を通して仮説を生み出す科学
野外科学には実験科学のような厳密な再現性はなく、平たく言えば“現実を観察し、そこからアイディアを発想する”というだけです。「そんなものが科学といえるのか」とあきれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、我々は現実に野外科学の手法を通して仮説やアイディアを生み出していることを川喜田氏は『発想法』中で指摘しています。文化人類学のフィールドワークに当たって、全く言語も通じない異民族の文化や習俗を理解するには、野外科学的手法による観察を駆使することになります。そこから、出来事(ブレインストーミングにおいては主に対話)におけるデータの収集とその分類、構造化を誰でも高度な次元で実施する手法としてKJ法が構築されていったのでしょう。
そのため、KJ法の効果を十分に引き出すには以下のようなポイントを大切にすることが求められます。
ブレインストーミング全般でよく言われることですが、KJ法でも重要なのはアイディアの「質より量」です。「何か有意義なことをいわなければ」と参加者が意識してしまった時点でその空間は「野外」ではありません。KJ法は、参加者のこれまでの経験や知識を含めた広大な荒野を観察し、そこから仮説を生み出すために実施されるとぜひ考えてみてください。
発言と同じく、カードにまとめられるトピックにも制限を設けるべきではありません。いわゆるアイディアのみならずそのヒントや補足説明、一見テーマと関係なさそうな情報も、KJ法ではカードにまとめられる対象となります。また、カードを分類する際も事前に大分類を設定してそこにそれぞれのカードを分類するのではなく、カードを分類し、その内容を観察して適切なタイトルをつける「小→大」の意識が重要です。
カードに書き出し、文章化する段階まで含めるとKJ法によるアイディア出しにはかなりの時間がかかるため、全体の工程を想定したうえで時間配分を決めることが重要です。文章化してからまだ議論すべき箇所が見つかれば、またその部分にテーマをフォーカスし、1からKJ法を行う時間を設けましょう。そうして反復的に行うKJ法を川喜田氏は「累積的KJ法」と名付けています。
KJ法の次に実施すべき手順として、川喜田氏はアメリカ海軍SPO局(Special Project Office)を中心に開発されたPERT法を名指ししています。PERT(Program Evaluation & Review Technique=プロジェクトの評価とレビューの技法)法は、プロジェクトの工程を図式化しその流れと工数を書き入れることで工程管理を容易にするフレームワークであり、今でも積極的に用いられています。
その実施手順は以下の通り。
1.プロジェクト全体の計画を立てる
2.達成すべきマイルストーンを洗い出し、図式化する
3.各作業の「最早結合点時刻(最も早く作業に取り掛かれるタイミング)」「最遅結合点時刻(作業開始のデッドラインとなるタイミング)」を書き込み、各作業の「余裕時間(最遅結合点時刻-最早結合点時刻)」を割り出す
4.「クリティカルパス(余裕時間が0分の経路)」を割り出す
5.費用計算などを行い、プロジェクトを進める
KJ法で問題解決の手順を発想し、実行計画を立てるにあたってPERT法を用いるというフレームワークの組み合わせにぜひトライしてみてください。
アイディアを構造化するための手法としてポピュラーなKJ法についてご紹介しました。その背景には自然をありのままに観察する野外科学があり、だからこそ参加者の自然な発想や何気ない発言をカードに書き留めることが重要なポイントとなります。どんなフレームワークも使い方を誤れば十分に効果を発揮できません。“なぜそれをするのか”を意識しつつ、KJ法やPERT法を使いこなしていきましょう。
(宮田文机)
・KJ法とは?メリットやデメリット、やり方・手順を解説┃東大IPC ・AIを用いたKJ法お助けアプリ「KJ-GPT」┃しぴ研究結社note ・川喜田 二郎 (著)『発想法 改版 創造性開発のために (中公新書) Kindle版』中央公論新社、2017 ・2.収束技法-系列型法[3.PERT法]┃日本創造学会 ・プロジェクト管理におけるPERT図とその構成要素とは?概要や注意点も┃ITトレンド ・図解で思考整理vol.4「PERT(パート)図を使って遅れてはいけないポイントを洗い出す。」┃Future CLIP
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