About us データのじかんとは?
DXを進めたい、いや、それが今の世の中の流れであり、今こそ進めなくてはならない。しかし、いったいどこから手をつけたらよいのかさっぱり見当もつかない。周りを見回してもDXに関する知見を持った人がいない。そのような悩みを抱えていらっしゃる特に中小企業の方は実は多いのではないでしょうか?
DXを進めるための第一歩は何か、どこを目指し、具体的にどんなことをするべきで、どんな考え方が適しているのか、それについてみんなで集まって頭を捻って一緒に考えよう、という内容のワークショップが冬の到来を目前にした北海道の東側、いわゆる「道東」に位置する港町、釧路で開催され、その内容を取材しました。
「デジタル活用人材育成講座 in 釧路」と題されたワークショップは2023年11月21日に釧路フィッシャーマンズワーフMOO二階の「港まちベース946BANYA」において、北海道科学技術総合振興センターの主催、釧路地域DX推進協会の共催によって開催されました。ワークショップの講師を務めたのはデータのじかん編集部の一人であり、データのじかんではお馴染みの大川真史氏。
今回のワークショップのテーマは「デジタル化アイデアワークショップ」。AIやIoT、DXをどのように活用し、具体的にどんな手順でDXを進めていくのか、について座学として教わるのではなく、数名単位のチームでテーブルを囲ってひたすらアイデアを出していく、という非常に実践的なワークショップでした。この記事では、そのワークショップの様子をお伝えしていきます。最後までぜひお付き合いください。
講義を聞く、という形式のセミナーに参加されたことがある方は多いかと思いますが、ワークショップに参加された経験がある方は少ないかもしれません。セミナーを受講することとワークショップに参加することは全く違う体験である、という「そもそもワークショップとは?」というところからまず説明がありました。
ワークショップの場合、自分の頭で考え、発言し、他の人の意見を聞き、それに対しての感想を述べ、一つの考えをたくさんの人を介することにより深めていく、その途中に交流があり、笑いがある、ということが大前提です。参加しない、という選択肢はなく、正解も不正解もないのがワークショップの真髄であり、醍醐味であると言えます。
全員参加型である、という共通認識が取れた直後に同じテーブルの人たちに自己紹介をし、このイベントに期待していることを共有する時間が設けられました。
実際のワークショップを始める前に、まずなぜデジタル化を進めるべきなのか、今現在世の中にあるツールで、簡単に導入できるものはどのようなものなのか、どうすればデジタル技術を役立たせることができるのか、についての説明がありました。
データをデジタル化しただけでは意味はなく、最も重要な事は、人間がデータに基づいて判断・アクションする事であり、そのためにはどのようなデータや行動が必要なのかを模索する試行錯誤(アジャイル)が不可欠である、という前提のもと、M5StackやMyCobot、AI OCR、ChatGPTなどの簡単な紹介、市場に出回っている安価なセンサーや入手先、その他のIoT機器の紹介、それらを使った導入事例や動画の紹介がありました。
それらの事例には、「大型ディスプレイを作業現場の真ん中に置き、いつでも見える状態にしておく」など、従来のデジタル化のハイテクな印象とは異なる、単純ながら極めてわかりやすく、かつ意外なほどに実用的なものも含まれており、これから始まるワークショップにおける参加者のアイデア出しに対する心理的ハードルを限りなく下げる効果があったように感じました。
では、いよいよワークショップの始まりです。
前半のワークショップのテーマは「デジタルな何かを活用して現場の仕事を便利にする」です。つまり現場でやっていることの何かをデジタルを使ってちょっとだけでも便利にする方法を考える、という内容です。ここで大切なのは「具体的な実現方法は考えない」ということでした。
配られた模造紙に上のような図を書き出し、アイデア出しをおこなっていきます。
自分の業務、自分の部署の事務作業、お客さんやパートナーの会社に関わることなど「日常から振り返って考える」「ツールを起点に考える」「事例から考える」、の三つの切り口に基づいてそれぞれ5分ずつ合計15分ほど使って考え、ポストイットにアイデアを書き出していきます。そして考慮時間終了後に同じテーブルの人たちとそれについて話しながら、それぞれのアイデアが当てはまる枠の中にポストイットを貼り付けていきます。このとき、それぞれの人には違う色のポストイットが配られているため、どれが誰のアイデアだったのか、誰がどのくらいの数のアイデアを出したのかが模造紙上で一目瞭然となります。他の人のアイデアを聞きながら何か思いついた場合はそれもポストイットに書き出し、同じように貼っていきます。
テーブル内での共有が終わったら、それを発表し、他のテーブルの人たちとも共有します。今回のワークショップでは、アイデアを最も多く書き出した人が発表を行う、という指定がありました。発表では、日常的な職場でのあるあるネタから、技術的には可能で誰もが不便に思っているのに実現されていない類のアイデアまで様々な発想が続出し、共感と笑いが交互に訪れるような会場の雰囲気の中、一回目のワークショップは幕を閉じました。ここで前半が終了し、一度休憩となります。
休憩終了後は、前半で出たアイデアを実装していくためにはどうすれば良いのか、というのを考えるワークショップが開催されました。
ワークショップを始める前に、デジタル化に成功した事例に見られる共通点、デジタル化の進め方の大原則と呼ばれる過去事例からの知見についての共有がありました。成功した事例には、当事者や現場起点で始まっている、問題を抱えている人と解決する人が同じ、ユーザー自身が使いやすい、あるいは愛着がある、UXが良い、スモールスタートである、など共通した要素があり、「プロトタイプドリブン型開発」が最も成功例が多い、と言われているそうです。
またデジタル人材の育成についても、要求されたことを実現するタイプよりも、実現したいことをどんどんアイデアとして創出でき、それを実現させるための方法を考えられるタイプの人が重要であり、自分で考えて行動できる人が一人でも多く生まれるのであればマネジメント層として、それは全て貴重な財産となる、という話や、時間を経て育ってきた人材が次のステップとして参加できるコミュニティやイベントなどの紹介もあり、いよいよ後半のワークショップが開始されました。
後半のワークショップでは、それぞれの参加者がペンを持ち、自由に自分のアイデアや思考を書き出していく「マインドマップ」という手法を使います。
今回のテーマは「デジタル化を進める」なので、上の図のようにテーマを中央に書き込み、四隅に「企業文化を変える」「人材育成をする」「社外を使う」「 」を書き、〇で囲みます。自分のアイデアに関連するところから線を引き、◯で囲みながら、自分のアイデアについて説明して他の参加者と共有し、いけるところまでアイデアを深堀りしていく、という作業を繰り返します。このときに大切なのは「書きながらしゃべる」「しゃべるときは書く」「同じ人ばかりがしゃべり続けない」の三点です。
十分ほど経過したところで、メンバー交代が行われました。そこまでの段階で最も書き込みの少ない人がテーブルに残り、他のメンバーは別のテーブルへと移動し、残ったメンバーは新しいメンバーにこれまでの話の経緯を説明し、新しいメンバーは新しいテーブルのアイデア出しに参加します。
新しいメンバーを加えてしばらくアイデア出しを行った後、今度はテーブルに残っていたメンバーがチームを代表して発表を行いました。それぞれのチームの発表は、多くの共感と、それ以上に多くの気づきを生み出し、「アイデアがアイデアを呼ぶ」というのはまさにこの状態のことだ、というワークショップの楽しさが実感できる瞬間となりました。
そして、締めくくりに、個人ワークとして、「今週中にやること」「今年中にやること」「今年度中にやること」の三つをノートに書き出し、この上ない具体的なアクションアイデアを持って参加者は会場を後にしました。
新しいことを始めようとするときに大切なのは、まずそれについて多少の知識を得ること、そしてそれについてしばし考えること、その考えを言語化して誰かと共有すること、そしてその共有した考えをお互いに深め合っていくこと、そして実現可能なところに落とし込めたらそれを実行すること。
と、書き出してしまうとどこから見ても当たり前のことしか書いてないように思ってしまいがちですが、ローテクなものの連携が思いがけない成果を生み出すのはDXだけではない、ということかも知れません。DXに限らず新しい挑戦に必要となる要素が凝縮された実用的で濃厚なワークショップでした。ワークショップが進むにつれて参加者の方々の思考回路が開けていく感じは見学しているだけでも、気づきの多いコーチングセッションを眺めているかのような心地のよい感触がありました。
余談ですが、熱々の鉄板皿にミートソーススパゲッティとトンカツをのせた「スパカツ」という食べ物を釧路名物として紹介してもらいランチに食べたのですが、出てきたのはミートソースパスタにトンカツを乗せたような食べ物で、ミートソースもトンカツも好きなのでそれは美味しいに決まっているのですが、ミートソースパスタとカツのチームプレー、あるいは鉄板の存在意義に関しては若干コメントに困るメニューではありました(笑)。そして、釧路は北海道なのにほとんど雪が降らない、というのが今回の最も大きな個人的な学びでした。
(取材・記事執筆・撮影:データのじかん編集部 田川薫)
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