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特集「CIOの履歴書」 CIOが果たす役割は「ドラえもん」 富士通株式会社 福田譲氏

特集「CIOの履歴書」では、CIOとして活躍されている方々の「CIOに至るまでのキャリア」、「CIOの後のキャリア」について迫りCIOのキャリアについて考察するとともに、読者の皆様に「CIOの魅力」をお伝えします。第五弾となる今回は、富士通株式会社でCIOおよびCDXO補佐としてご活躍されている福田譲氏にお話を伺いました。富士通でCIOおよびCDXO補佐を務められ、推進されている「フジトラ(富士通自身を変革する全社DXプロジェクト)」の現況を3合目か4合目に達したところと語る福田氏のこれまでのキャリアやCIOに至った経緯、また、CIOというポジションの魅力、今後の展望についてお伺いしました。

         

CIOに至るまでのキャリアについて

── 福田さんは以前からCIOを目指されていたのでしょうか?

福田氏:実はまさか自分がCIOをやるとは思っていませんでした。今思えばラッキーだったのは、最も経営やビジネスに近いアプリケーションであるERP を扱うSAPという外資系企業に入社したことです。

1つめのラッキーは、ERP(Enterprise Resource Planning)の仕事に携わったことで、自然に「どうITをビジネスの成果に結びつけるか」を考え、単なるITの実装を超えた経営改革や業務改革、カルチャーや人のマインドの変革にどっぷり浸かってきたことです。

ERPを導入しようとすると、経営改革や業務改革が必須です。ゴルフクラブを買い換えたからといって突然スコアが良くなるはずがないように、上達するには道具を変えると同時に日頃の練習や立っている向きを変える、筋力をつけるなど、自分自身を変えることに取り組まなければ、どれだけ道具を新調してもスコアは良くなりません。

ITにおいても、道具だけでなく自分たち自身を変えることが重要です。経営戦略の明確化、業務改革、経営トップとIT部門の連携や距離感、ビジネス部門とIT部門との信頼関係など、多くの重要な要素が機能して、はじめて経営に資するITになります。このようなことをERPの事業を通して長年経験してきたことは、とても役立っています。

ラッキーの2つめは、グローバル企業の様々なステージを経験したことです。SAPという会社は、私が在籍した23年間で約5倍の規模に成長し、かつ真のグローバル企業になっていきました。

ドイツ企業の海外ビジネスの1拠点が日本というレベル感から、CEOを含めて役員が世界各地に散っていて、母国がドイツであること忘れてしまうほど、組織やプロセス・人事制度・カルチャーが本当の意味で1つのグローバル企業になっていきました。

そして、ITは間違いなくそのための戦略的な役割を果たしていました。様々なグローバル化のステージを経験できたこと、お客様として日本企業とお付き合いする中でグローバル企業と日本企業は何が決定的に違うのかを身をもって経験できたことは幸運でした。

── CIOの職責を果たす上で今までのキャリアのどういう点が役に立っているか、他にお感じになっていることがあればお伺いさせてください。

福田氏:スティーブ・ジョブスの話ではありませんが、今までやってきた経験の全てが、結果的に役に立っています。

ベタなところで言うと、顧客フロントの仕事が長かったので、コミュニケーションや相手の視点で物事を考える癖は、社長や様々な経営メンバー、35人いるDX Officerらとの信頼関係づくりや日常コミュニケーションにおおいに役立っています。

ITや様々な改革は部門横断の話が大半です。常に色んな役員と会話したりチャットをしたりしています。あらゆるところに顔を出し、横で繋ぎ、忖度せずに発言することを心がけています。実はやりたくてやったわけではないのですが、営業職を長年経験してよかったなと思います。

また、長年ビジネス側にいた、エンドユーザーの立場だったことも価値になっています。

そんなことを言ったって経営層には通じない、ビジネスの役に立つ価値になるというのはここまで踏み込まないとダメだ等、向こう側(ビジネス側)の景色としてそういう感覚を持っていることは、CIOの職責を果たすうえでおおいに役立っています。

また、ベンダー側の経験が長いため、所属する会社に捕らわれずにみんなの力を結集するためにはどうやって他の会社の方々と接するべきかということにも、経験があります。この会社・この人のために頑張ろうと思うケースと、仕事としては付き合うけれど頑張ろうとは思えないケースと、だいぶ違っていました。相手の立場に立って考える、経営の視点でITを考える、向こう側からの景色が見える、といった、今までの経験はおおいに役に立っている実感があります。

坂本:CIOという言葉が日本に入ってきたのは、ERPが日本に入ってきたタイミングとほとんど同時期だと言われていますが、CIOという言葉だけが入ってきてしまい本来の役割についてはしっかり浸透していません。ERPという言葉と共に輸入されてきたが故にERPを社内に入れることがCIOの仕事のような勘違いから、ITのお守りをする仕事につながってしまっていると言われていると思います。

2000年代の日本企業のERP導入は失敗が多かったと言われていますが、ERP企業の立場からはどのようにお感じになられていましたか?

福田氏:乱暴かつ直接的な表現で恐縮ですが、残念ながら『経営層のIT音痴』と『IT部門の経営音痴』がぐるぐる回ってしまっていたのではないかと思います。

そもそも経営とITの距離が遠いことに加え、IT業界もIT部門側にのみ張り付いたことで、経営や業務面での改革がうまく働かないままにIT投資が行われたことで、ITによる戦略的な価値創出が十分できていないのではないでしょうか。

これは経営とIT の話だけではなく、日本のカルチャーに根ざしていると思っています。

日本のカルチャーは、経営面で良い要素もたくさん持っています。だから世界の100年企業の半分が日本にありますし、カルチャーや国そのものも持続性を持って続いているのだと思います。

一方で、時代の変容に合わせて自らを俊敏に変えていく、経験がないことでもチャレンジして失敗から学びながら新たな価値を生み出す、多様な価値観や多様性を促進・活用する等から遠い日本のカルチャーが、変化の幅と速度が増している経営環境の中で、課題になっているのではないでしょうか。誰にも悪気はないのですが、残念ながら歯車がうまく回っていない中で、それをどう意図して壊していくのかというリーダーシップをCEOやCIOは、“C”レベルとして強力に発揮すべきです。

── なぜ外資系企業から日本企業に移られる決断をされたのでしょうか?

福田氏:今までに申し上げたような自分の経験を、日本企業のために“内側に入って”役立てたいと考えたからです。

富士通では、変革にあたって社員全員が自分のパーパス(目的)を言葉にする取り組みをしていますが、私自身のパーパスも言葉にしました。「日本を、世界を、もっと元気に」というのが私のパーパスです。

よく日本では“失われた20年または30年”と言いますが、違いますよね。”失われた”のではなく、我々自ら”失っている”んだと思っています。私はバブル崩壊直後の1997年に社会人になり、日本が失った20年、30年とちょうど重なる社会人キャリアを歩んできて、日本の景気のいい所を見たことがないと言ってもいいぐらいです。その中で私はたまたま外資系企業に所属し、もがいているもののなかなか変わらない日本企業や日本人、日本の社会を目の当たりにしてきました。少し世界を覗き見て、世界と日本企業はどう違うのかということも腹落ちしている自分なりの感覚があるので、これを日本のために役立てたいと考えました。

今までも日本のために、日本企業のためという意識で働いてきましたが、外からお客様の変革を支援するのではなく、実際に自分自身が中に入って取り組みたいと思いました。

これは受け売りですが、卵って外から強引に割ると目玉焼きになってしまいますが、中から雛が自分で殻を破るとちゃんと生まれますよね。これと同じかなと思っています。外からの提案・支援も大事ですが、オーガニックに日本企業やその組織・ヒトが自らを変えないと本物の変革にはならないので、「一人称」で取り組みたいなと。

もともと転職しようと思っていたわけではなく、前職も楽しくやりがいもあったので、そのまま続けるという選択肢もありましたが、お声がけを頂いたら、意外にすっと腹落ちして「なるほど、中からやる」というのもアリだなと。

── 日本企業を中から変えるという点で、富士通というSIerでありDXを推進する事業体の組織を選択された理由を教えてください。

福田氏:本来富士通は“日本株式会社のIT本部みたいな会社”です。従って、“失った20年、30年”や“デジタル敗戦国”と言われる現況に関わる主要キャストの一社ですよね。前職時代、パートナーとしてもお客様としても付き合いがありましたので、「根本的な課題が山積み」なのは分かっていました。だから私は富士通のオファーを受けました。

同時に純粋なCIOだったら私は引き受けなかったと思います。企業全体の変革に本気で取り組むトップ(CEOがCDXOを兼務)をサポートする”CDXO補佐”の期待と役割があるから、お引き受けしました。CEOの時田から、「本気で会社を変えるから、CDXOの補佐をお願いしたい。”補佐”って格好悪いけど、DXは経営トップが自分でやるべき仕事だと思うから、補佐をお願いしたい」と。

本来はIT、デジタル、データは、会社を変える最も有効な武器の1つです。それにも関わらず、長年に渡って日本でもそれが機能不全に陥っています。変革の手段として、IT/デジタルを経営として有効活用するには、CDXO/CIOをセットで機能させるのが理想的です。従ってCIO職を一緒にお引き受けしました。

ある意味、富士通は「なかなか変わることが出来ない日本」の象徴的な組織です。富士通自身がIT/デジタルによる変革を機能させ、その経験、ノウハウ、人材を通じて、”日本株式会社のIT/デジタル本部”の機能を果たせるようになれば、日本のDXを進展させる1つの要素に出来るのでは、と考えました。「根本的な課題が山積み」ですから、簡単なことではないのは百も承知です。やりがいがありますし、もし予定通り上手くいかないとしても、挑戦することそのものに意義があるミッションだと思いお受けしました。

CDXO補佐及びCIOに就任してからの取り組み

── CDXO補佐およびCIOということで多岐に渡る取り組みをされていると思いますが、具体的にどのようなことに注力されているかお伺いさせてください。

福田氏:富士通自身のDXの第一歩は、「社会の中で富士通はどのような存在になりたいか?」の再定義でした。

5年後10年後も富士通が世界に存在しないと困る、と言われる会社になるために、パーパスを定義しました。富士通のパーパスを、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」と定め、それを実現する会社になるために全面的に自己変革を進める位置づけで、全社DXプロジェクト『フジトラ(Fujitsu Transformation)』を開始しました。

気を付けていることが3点あります。1点目は、「明確に経営トップや経営層がリーダーシップをとること」です。プロジェクトチームを作って頑張れとか、3か月に一度レビューするとか、“福田さん頑張ってね”じゃないよということです。2点目は「現場が主役」、「全員参加型」ということ。3点目は、永続的に自分たち自身を変えることができるよう、「カルチャーそのものを作り替える」ということです。

ステアリングコミッティには、CEO/CDXOをはじめ経営陣がしっかりと入っています。経営トップ直下のCEO室にDX Designerというポジションを作り、専任と兼務を合わせて40人ぐらいのチームを作りました。

2点目の「現場の主役」という点は、「DX Officer」と「DXコミュニティ」の2つが主たるメカニズムです。DX Officerは、リージョンや部門・主要なグループ会社ごとに、各部門のDXのリーダーであり、同時にフジトラのリーダー人材として、約35名をアポイントしました。仕事や業務プロセス、データは、様々な部門を横断して繋がっています。一見すると各部門の課題に見えることも、実は部門の壁やサイロが原因になっていることが多くあります。DX Officerが、各部門それぞれのDXをリードするとともに、横で繋がって部門を横断して解決するメカニズムです。今まで1年半ほど運用してきましたが、ある程度、想定通り機能しています。

もう1つのメカニズムが「DXコミュニティ」です。社内SNS上に作ってあり、富士通グループの社員であれば、誰でも参加できます。富士通を変えようという意識が高い社員が自発的に入ってくれていて、8,000名弱が常に繋がっている状態です。そのうち約500人は、自分の業務時間の一部を使って、自分の意志でフジトラに関わってくれている「フジトラクルー」で、『社員1人1人の自発性を重んじて、みなで進める、全員参加型』にこだわって進めています。8,000人のうち500人というと、相当な数だと思われるでしょうが、富士通はグローバル連結で12万人を超える社員がいるので、まだ全員の自分ごとには出来ておらず、まだ道のりは長いといえます。

下の図は、”両利きの経営”をモデルにした、フジトラの全体像です。

経営から現場まで、”より良い富士通”にするために、富士通をトランスフォームする活動全てを「フジトラ」と定義していますが、その中で、主要なイニシアチブとして約150のテーマに取り組んでいます。

DXというと、何かITに関連した取り組みのように勘違いされることがありますが、必ずしもそうではありません。例えば、人事制度変革、ジョブ型の取組みでは、結果としてグローバル規模で人事システムの刷新を行っていますが、そもそもは人事システムの話ではなくて、『人事制度を変えるためには、ITを使って変えた方が早いし効果的』なのでシステムを刷新しているわけです。経営や業務の改革と、その手段としてのIT/デジタルを、連動はさせますが、取り違えないことが大事です。

経営戦略、事業戦略、新たな事業ブランド作り、組織モデル変革やグループ会社統合、海外のリージョンの再編、人事制度改革、マーケティング改革、顧客セグメンテーションの変更、顧客フロントの職務の再定義、数千名規模のリスキリング、グローバル規模でのプロジェクトデリバリーモデルの変更 etc.. 多くの変革を同時に行っているのは、それらが全て繋がっているからです。

1990年代まで、富士通は他の多くの日本企業同様、急激に成長した時期があります。社内の多くの制度やプロセスがその時期に作られ、相互に作用し合うように最適化され、機能してきました。例えば、人材の多様性というテーマは、人事制度・評価制度・勤務制度や人材育成/登用などの仕組みと、密接に繋がっているわけです。相互に連動し合っている制度や仕組みは、同時に変える必要があります。部門を超えて、同時に様々な変革を行うという意識やメカニズムは、全社規模のDXには欠かせないと考えています。

坂本:私が世の中の技術的な取り組みの中で、一番不足を感じていたことが人事評価制度の見直しでした。デジタル化に取り組むこと自体を評価するモデルや育成、異動の仕組みを見直さない中ではビジネスは変わらないと思っています。

福田さんが入社されるタイミングにおいては、時田社長以外の役員の皆様はどういう状況だったのでしょうか?

福田氏:目の色を変えて変革に取り組むトップを目の当たりにして、役員たちの目の色もどんどん変わっていたように感じます。フジトラの立ち上げに際しても、反対意見は全くなく、皆さんとても協力的でした。今まで通りで良いと思っている役員は1人もいないのではないかと思います。変革への本気度を、実行する背中で語るトップがいる経営チームは、自然と一体化するのではないでしょうか。

── CIOとして既存のシステムのオペレーション改革やレガシーシステムマイグレーションなどのテーマにも取り組んでいらっしゃる状況でしょうか?

福田氏:もちろん取り組んでいます。

富士通も、どこの企業も抱えているような課題を抱えています。例えばITガバナンスの視点で言うと、富士通全体で、グローバルで、本当の意味での全体最適の実現を目指す“One Fujitsu”という取り組みを進めています。今まで、リージョンやグループ会社ごとのIT部門が分かれ、「連携」していた体制から、富士通グループ全体で物理的に1つの組織に統合しました。グローバル全体で約2,000名の組織ですが、部門長はミュンヘンにいるドイツ人にしました。富士通がグローバル経営を強め、マネジメントやオペレーションを高度化するためのITを実現することがミッションですから、自分たち自身をグローバルに最適化された組織・人材にする必要があります。今まで、リージョンや組織・グループ会社ごとに個別に最適化してきたITを、グローバル/グループでの全体最適へと変え始めているところです。エンタープライズアーキテクチャの策定や、経営戦略との連動プロセスやガバナンスを見直す等、試行錯誤な部分もありますが、様々な取り組みを始めています。

また、IT/デジタル/データで新たな価値を創る部門ですから、人材やカルチャーへの取り組みも重要です。

安全運転だけではなく、新しいテクノロジーに喜々としてワクワク・ドキドキで取り組む、新しいイノベーションを意図として生み出せる人材、マインド、行動様式、カルチャーを目指しています。

今取り組まれている活動を通して富士通の変革を進めていくことが、富士通のお客様である日本企業、日本社会を変えていくことにつながりそうな手応えは感じられている状況でしょうか?

フジトラを始めて1年半、「感じ始めたところ」でしょうか。まだ経営数値など、目に見える結果が出ているわけではありませんが、社内の空気は確実に変わってきています。半年に一度のペースで全社員からの「変革パルス」データを取って進展を可視化しています。今までの1年半は、一定の仮説で様々な取り組みを進めてきましたが、数万人規模の「変革パルスの声」を得られるようになったので、データや社員の声に基づく状況把握と施策立案がやりやすくなってきました。

山登りに例えると、今は3合目から4合目あたりでしょうか。正直まだ頂上が見える状況にはありませんが、もう引き返すレベルでもない、後ろを振り返ったら確実に景色が変わってきたなという感じでしょうか。

── 近年ITの重要性についての認識は少しずつ広がってきたのかなと感じているところですが、ITに 明るい経営者も少ないし経営に明るいIT人材も少ないという中で、両方に明るい人材を増やすためには、どのような取り組みが必要だと感じられますか?

福田氏:ITに関わる全ての人が、会社の真ん中で、そして社会の真ん中で仕事をすることだと思います。

元々ITに詳しい経営者なんて、いるはずがありません。従って、経営者にITに関心を持ってもらい、詳しくなってもらうことはCIOのミッションの一部でしょう。「うちの社長は、」などとボヤくCIOがいますが、私は違和感を持っています。ITベンダー、IT企業も、顧客企業のITリテラシーをあげる目線をもっと持てるはずです。全てうまくいったわけではありませんが、前職時代、このような目線でお付き合いさせて頂いたお客様の経営者が、驚くほど変わっていったケースを多く経験してきました。

ITに関心を持たない経営者も問題ですが、そのようにリードできなかったCIOにも問題があります。過去の私自身も含めて、ITベンダー、IT業界にも、その責任の一端があるのではないでしょうか。誰にも悪気は無いが、歯車がかみ合っていないのは確かです。

── 福田さん自身が体験されていないことなのでお答えが難しいかもしれませんが、1つの企業で経験を積まれてきた方が、CIOやCDXO補佐の立場で活躍することは可能だと思われますか?

福田氏:十分可能だと思います。社内人材・社外人材ともに、パーフェクトな人はいません。

自社のことを深く知っているというのは、コインの表側です。裏側から見ると他社のことは知らないということになりますよね。私は前職の経験を持っていますが、逆に富士通への理解が浅いわけです。これは、経営とITの間にも同じことが言えます。現業部門が長いとITの経験が浅く、IT部門が長いと現業の経験が浅い。現実的には、凸凹人材がCIOにならざるを得ないと思います。したがって重要なことは、リーダーシップチーム全体でケイパビリティを確保することではないでしょうか。

例えば私の場合は、日本人の私がCIOなのでIT本部長は海外タレントにしました。彼は富士通が長くて、私は外から来ています。私はビジネスの経験が長くて、彼はIT部門の経験が長い、このようにリーダーシップチーム全体で必要とされる素養は、ある程度カバーできるのです。異なった経験や強みを持った多様な人材が、信頼で結ばれて一つのリーダーシップチームを作ることは、どのような組織・環境でも大事ですよね。IT部門のパフォーマンスを最大化するための「経営視点、マネジメント視点」のリーダーシップが、CEOからCIOに最も期待されていることではないでしょうか。

坂本:おっしゃる通りだと思います。リーダーシップチームにはまさに言葉の表わすリーダーシップがチームメンバーには必要だと思いますが、日本企業にはトップも含めてなかなかないのが現状で、リーダーシップが全社的に描けない組織の中で育ってきた人がリーダーシップチームの一翼を担えるのかが1つの課題としてあると思います。

リーダーシップに関してお考えをお伺いさせてください。

福田氏:誰もがリーダーシップを持っているし、一方でリーダーシップにはフォロワーシップが対で必要です。

人間誰もが1日24時間であることと一緒で、個人が持つ資質を100だとすると、リーダーシップとフォロワーシップを合わせて100だと思っています。リーダーシップを70持つ人は、フォロワーシップは30ということです。リーダーシップに課題があるということは、逆にフォロワーシップが強いということ。組織運営には、リーダーシップとフォロワーシップの両方が必要です。時と場合に応じて、リーダーシップとフォロワーシップのバランスを、タレントの組み合わせや人材育成・配置を通じて、どのように実現するかは日本全体において課題かもしれないですね。

CIOの醍醐味・やりがい

── 最後に、CIOの魅力について教えてください。

福田氏:CIOとしてのモデルの一つはドラえもんだと思っています。

ドラえもんって、のび太がぼやいたり相談したりすると、四次元ポケットから色んなものを出してくれますよね。

のび太から見たら、ドラえもんは、信頼出来て、フレンドリーで、何でも一緒に考えてくれて、喜怒哀楽を共にする存在であり、かけがえのないパートナーですよね。

私が目指しているのは、CEOや他の経営メンバーから、そのように感じてもらえることであり、CIOが果たす役割は「ドラえもん」じゃないかな、と思っています。常日頃から色んなことに興味を持ち、アンテナを張り、社内外のネットワークを拡げ、経営の課題が出てきたときに“じゃあこんなことやってみますか、こんな解き方ありますよ”と言える存在でありたいです。

CIOをやってみてまだ2年ですが、CIOは経営職の中でも「ワクワク・ドキドキ」を経験・体現できるポジションではないかと思います。やりがいと楽しさを両立させ、ITに関係する仕事をしている全ての方々が、魅力的だと感じる仕事にできたら良いな、と思います。

お話を伺ったCIO:福田譲氏のプロフィール

福田 譲(ふくだ・ゆずる)氏
富士通株式会社 執行役員 エグゼクティブバイスプレジデント CIO、CDXO(最高デジタル変革責任者)補佐

1997年大学卒業後、ERPのトップベンダーであるSAP社に入社し、大手化学・石油メーカ担当の法人営業に従事。新規事業の統括や営業統括本部長を経て2014年代表取締役に就任し、2020年3月に退任するまで23年間在籍する。
2020年4月より富士通株式会社 執行役員常務 CIO、CDXO補佐に就任。(2022年4月に執行役員制度変更に伴い現職)


聞き手:坂本俊輔
CIOシェアリング協議会 副代表理事、GPTech 代表取締役社長、元政府CIO補佐官

大手SIerでの業務従事ののち、ITコンサルティングファームの役員を経て、2010年にCIOアウトソーシングを提供する株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーを設立。以降、一貫してユーザ企業のIT体制強化の活動に従事している。2017年からは政府CIO補佐官を兼業で務めた他、IT政策担当大臣補佐官や株式会社カーチスホールディングスのCIOなども務めた。

 
 

本記事は「一般社団法人CIOシェアリング協議会」に掲載された「CIOの履歴書」のコンテンツを許可を得て掲載しています。(インタビュー実施日 2021年5月7日)

 
 

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