今、企業のビジネスモデルをデジタルで変革する‟DX”が建設業界でも進められています。茨城県ひたちなか市に拠点を構え、鉄道工事などを得意とする社員およそ50名ほどの中小企業、大曽根建設も、地方からそんな建設DXに取り組む企業のひとつです。昭和54年に設立された歴史ある企業ながら、「様々な事態に対応できる優秀な技術者の育成」というミッションを掲げ、ドローンやデジタルデバイスの活用など自社の全面的なDXに向けて動き出している同社。
2022年度には「新成長産業創出促進事業費補助金(地域DX促進活動支援事業)※」にコミュニティ構成員である茨城経営者協会から紹介を受け、ITC茨城のアドバイザーである長山氏とDX推進計画策定を実施。この取り組みの成果は、2023年3月の報告会でも取り上げられました。現在はDX推進に向けた活動を進めています。
※……この事業は今年からIbaraki DX Communityへと名称変更され、茨城県の中小企業のDX推進を引き続き支援しています。詳しくは下記のリンクをご覧ください。
データのじかんでは、同社と伴走してDX推進に取り組んだITコーディネータの長山努さんをファシリテーターに迎え、以下の4名のDX推進チームの方々に、その奮闘や工夫、目指すビジョンについて詳しく伺いました。
・株式会社 大曽根建設 土木部部長 坂本康裕さん
・株式会社 大曽根建設 総務部総務課課長 照沼隆夫さん
・株式会社大曽根建設 顧問(総務担当) 大塚司さん
・株式会社 大曽根建設 経理課課長 山崎朋子さん
約半年間、全10回にわたって、DX推進計画書策定に取り組んできた大曽根建設と長山さん。「人材にフォーカスしデジタルとデータを活用することで地域から信頼される建設会社を目指す」というビジョンに向かって、策定されたスケジュールは3つのフェーズに分けられており、現在はフェーズⅡにあたります。
なかでも一つの柱として推進されているのが‟KY活動(危険予知活動)のDXによる安全意識の向上、業務効率化、人材育成”です。KY活動では、現場での事故・災害を防止するために、危険をもたらしかねない「不安全状態」や「不安全行動」について考え、その対策に務めます。
大曽根建設では、そのプロセスにPC・タブレットを導入し、システム上でKY活動報告書の画像を共有することで、ペーパーレス化や情報交換の効率化を実現しました。
──DX推進計画書策定にあたっての最初の話し合いで印象に残ったのが「現場目線」というキーワードです。なぜ御社は現場の従業員の目線を中心に据えたDXを重視されるに至ったのでしょうか?
長山さんの質問に対し、「建設業の主体となる現場の状況が十分にわかっていないという課題感がDX推進側にあった」と坂本さんは語ります。つづけて、長山さんとの話し合い初回で現場のことを社員全員で共有できるようなデジタル利用の可能性が示され、さらに今現場でできるDXを検討した結果、KY活動の見える化に挑む機運が高まった、と計画が具体化されるまでの経緯が述べられました。
──そもそも御社はどのようにして、DXへの取り組みをはじめられたのでしょうか?
実は、ITC茨城との伴走事業がスタートする前から大曽根建設のDXははじまっていました。
そこで大きな役割を果たしたのが、元プログラマーという経歴を持つ経理課課長の山崎さんです。
「去年まで、弊社では紙の作業日報を月末に集計する形で給与計算をしていたんです。そのため、いちいちシステムに入力しなおしたり、回収したりするのに手間がかかっていました。そこで元々お付き合いのあるソフトウェア企業に依頼して、独自の勤怠システムをつくることにしたんです」(山崎さん)
元々ペーパーレス化などを意識していたという大曽根理一郎社長は、山崎さんの意見を採用。
その後、同アプリはアップデートを重ね、今では人員や車両の配置、アルコール検知の記録、現場管理などさまざまな機能が搭載されているといいます。「目の前の仕事をどうにか楽にできないか」という現場目線の発想から、DX化が進んだ好例といえるでしょう。
「‟こんなものか”で終わらせず‟改善したい”という思いを抱いた人が行動し、それをチームで進められる実働部隊がいらっしゃるのがポイントです」と長山さんからは、ITコーディネータだからこそわかる、大曽根建設の特性が語られました。
それを受けて、「山崎さんは弊社の貴重な頭脳ですから(笑)」と大塚さん。システム開発とは別のプロジェクトとして、中小企業・小規模事業者のITツール導入支援に向けて運営されているIT導入補助金の申請も山崎さん主導で進められたといいます。
この互いを尊重する姿勢が、DX推進に重要なチーム力を大きく後押ししていることが強く伝わりました。
山崎さんの発案から自社独自のシステムを開発し、DXの威力をすでに体感していた大曽根建設。しかし、山崎さんの守備範囲は経理や総務などを中心としたいわゆる事務領域。さらにDXを加速させるには現場への浸透が不可欠になります。そこに渡りに船とばかりに起こったのが、ITCコーディネータ長山さんとの出会いでした。
──KY活動報告システムは実際に、どのように導入されたのですか?
「現場で使っている紙の報告書をタブレット端末で撮影して共有することから、システムの活用をはじめました。その現場だけでなく、ほかの現場のメンバーや役員などもその内容を確認することが習慣化し、今ではあらゆる情報共有がシステム経由で行われつつあります」(照沼さん)
社員全員に見られているという意識が生まれたことで安全意識の向上につながり、さらに報告書の内容に対して大勢のフィードバック・アドバイスが受けられるようになったと坂本さんも現場の実感を語ります。
──実際に導入してみて気付いたことや変化などもあったのでしょうか?
「当初は報告書に対し、具体的な指示の形でフィードバックを行っていたのですが、それでは弊社の大切にしている人材育成につながらないと考えました。そこで、現場の人間が自分で答えを考えられるよう、オープンクエスチョンの形式でコメントを記入するようにスタイルを変更しました」(坂本さん)
今後、報告書に寄せられたコメントについてミーティングの場で議論するなど「より従業員が色々な意見を出し、自分の考えを持って行動してもらえるように活用の可能性を広げていきたい」と坂本さんは話します。あくまでもデジタル化そのものではなく、人を育てることを目的にした「人に即したDX」が、大曽根建設が向かっている目標なのです。
「現場の人間として、現場に負担をかけるようなことだけはしたくなかったんです」
土木部部長とともにDX推進計画リーダーを務める坂本さんはそう語ります。
高齢の従業員などデジタルデバイスに不慣れな人材もいるなかで、DXを成功させるには現場に施策を浸透させるための工夫が欠かせません。
そこで実施されたのが紙の報告書を撮影して、その写真を共有するという、従来のやり方とデジタル媒体を組み合わせた導入方法でした。それを半年続けることで目に見えて成果が出はじめているとのこと。
「正直なところ、最初にDXと聞いたときは現場に負担が増えると思いました。建設業界にDXは難しいという先入観があったんです」(大塚さん)
世代や個人によるデジタルスキルや教え方の違いがDXの課題となりやすいという点は、長山さんも認めるところです。そこで、重要なのがミッションや目標を定めることであり、大曽根建設では試行錯誤を通して、「現場に負担をかけない」「現場目線」「身の丈DX」といった方向性が定められたのでした。
「DXでやりたいことは色々ありましたが、現実問題としてどうすれば現場に定着するかを最優先に考えました。結局、現場で定着しなければ意味はありませんから」(坂本さん)
──これから、大曽根建設はDXで何に取り組もうとしていますか?
そう尋ねたところ返ってきたのが、iPadのさらなる活用や動画を使った技術継承といった目標です。現場で起きた問題をリモートで相談したり、図面をタブレットで確認したり、KY活動の実演例や技術指導を動画にしたり、実現したいイメージはさまざまに挙げられます。
「今、現場では失敗がなかなかできないんです」と、坂本さんは話します。
打ち合わせでできると思ったことが実際には不可能だったり、危険だったり、かつてはそうした失敗を繰り返すことで技術者としてのスキルや感性は育てられるものでした。その機会が失われつつある現代において、コメントや動画、デジタルツールを用いた人材育成が重要性を高めています。
「現場の問題を現場内だけで処理するよう求めると従業員の負担になります。昔のように‟見て覚えろ”だけが正解の時代ではありません。現場の気持ちを汲み取ってベテラン社員の技能や知識を共有できる選択肢を増やしていきたいですね」(坂本さん)
山崎さんが構築したDXの下地に総務の大塚さんや照沼さんが加わり、そこに現場の知見を持った坂本さんとITコーディネータの長山さんが参画し、と全員が共通のゴールを掲げて協力し合うことで大曽根建設のDXは一歩ずつ着実に前進しつつある、ということが今回の取材を通して実感できました。今後の進展がとても楽しみです。
大曽根建設では自分たちと同じようにDXに取り組んでいる企業と、ぜひ情報交換したいと考えているとのことです。チーム一丸となり、現場重視で改革に挑むこの志ある企業のスピリットをぜひみなさんも継承して、自社のDXを推進していきましょう。
聞き手:長山 努
1981年茨城県生まれ。通信会社で法人営業を12年経験後、ITコーディネータの資格を取得し、2021年独立。2022年より個人事業主としてTranslationを設立。現在、中小企業を中心にデジタルを通じて「やりたいコトをカタチにする」ため、その変革を一緒に推進していく「伴走者」、またITにおける「翻訳者」として活動している。
(テキスト:宮田文机/ディレクション・編集・撮影:データのじかん編集部 田川薫)
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