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ビックデータを最大限に活用! ニューヨーク市民の健康を支えるPCIP(Primary Care Information Project)とは?

         

8月のテーマはニューヨーク! そこで今月は、データ×ニューヨークをテーマにお送りします。

実はニューヨーク市は、データの利活用に積極的だということをご存知ですか? 特にPCIPと呼ばれるプロジェクトはデータ分析の先進的事例であり、データに関わっているすべての方に興味を持っていただけるのではないかと思われます。

今回は、PCIPとはどのようなもので、どんなメリットがあるのか、そしてどのような成果を挙げたのかなどについて迫ってみたいと思います。

PCIPとは?

PCIPとは、Primary Care Information Projectの略。マイケル・ブルームバーグ市長時代のニューヨークで、トーマス・フリーデン博士によって推し進められた予防医療プロジェクトであり、ビックデータを活用した医療費抑制政策です。

アメリカは日本と違って医療費が高く、病院を忌避する国民も多いため病気が重症化してしまい、結果として医療費を圧迫しています。そんな医療問題の解決策の一端として、PCIPプロジェクトは始動しました。クラウド型サービスを最大限に利用し、医療データのネットワーク化を実現しています。このプロジェクトにより、クリニックの電子化が進められ、医療ミスを減らすことにもつながりました。

PCIPのプロジェクト概要は以下の通り。

①外来予約管理(健診後の自動予約など)
②看護問診(予約患者が到着したことを個人別に通知)
③予防的診断(既往症を考慮した副作用などを検知・回避)
④検査・連携(血液・尿検査などの情報をラボとファイル連携)
⑤電子処方箋(処方待ち時間の解消)

患者にとってのPCIPのメリット

このプロジェクトでは、患者にも当然メリットがあります。PCIPが導入されたことで、患者はいつでもWebを通して自分の診療記録にアクセスできるほか、副作用情報に基づき、患者の既往症を考慮した処方箋を受けられるようになりました。

人種や年齢、健診データなどから生活習慣病予防や改善のアドバイスを受けることも可能です。

PCIP導入による成果

続いてPCIP導入による成果です。PCIPによって約10万人の高血圧に悩む患者の血圧低下と、8万人超の糖尿病患者の管理プログラムの改善、6万人近くの喫煙者を禁煙させるなど、大きな成果をもたらしています。

このプロジェクトでは、ニューヨーク市の300万人の患者を網羅しており(2013年2月時点)、患者一人あたり年間50ドル全体で1億ドル以上の医療費削減を実現しています。また、PCIPはインフルエンザによる休校の実施や、軽犯罪者の刑務所におけるHIV検査などにも応用されています。特に後者では、年間30億円の費用削減につながっています。特に後者では、年間30億円の費用削減につながっています(参考記事)。

PCIPが成功した理由

PCIPがプロジェクトとして成功したのは、プロジェクト開始時点でステークホルダーが受けられる恩恵を明確にしていたからです。

病院の業務効率化は、診察の混雑を解消するだけではなく、医療従事者の時間的余裕と診断の質を上げ、患者の満足度を高めることになります。このように、医療従事者・患者など利害関係者全員へのベネフィットが早い段階で理解された点も大きいのではないでしょうか。また、はじめからニューヨーク市全体に導入するのではなく、市内でも適切な医療サービスが行き届いていない地域に絞って少しずつ導入を進めた点も功を奏しました。

さらに、強力なリーダーシップが発揮されたことも大きな要因でした。データ分析チームの編成や、アメリカ政府に対するロビー活動において、プロジェクトリーダーたちの指導力がいかんなく発揮されました。PCIPが成功したのには、このようにいくつもの要因があったのです。

アメリカでビックデータが進んでいる理由

アメリカでは、パーソナルデータのビジネス利用を許可する法体系があります。これが、アメリカがビックデータ大国たるゆえんです。PCIPに関しても、医療分野のための個人情報ガイドライン「HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)法」と、同法をもとにIT利用のプライバシー規制を拡張した「HITECH(Health Information Technology for Economic and Clinical Health Act)法」に準拠して進められています。そしてなにより、市民が受けられるメリット(上述)が目に見えてわかるというのが大きいのではないでしょうか?

一方日本では、本来の目的以外にデータを利用することへの抵抗感もあり、データの2次利用が進みにくい雰囲気があります。法体系の整備はもちろんですが、2次利用に関して国民の理解を得られるよう、啓発していくことが重要です。

データのよりよい活用を

日本では、2018年5月15日に施行されたばかりの次世代医療基盤法により、二次利用運営機関は匿名化された臨床データや統計データを大学や企業に販売することが可能となりました。また、2015年に始まったEHRプロジェクトも今年で研究期間を終え、2019年からは事業化される予定となっています。

情報の安全な管理と運用は最大限の考慮が必要です。しかしながら、ビックデータを利活用することは国全体にメリットをもたらします。ビックデータを単なる「バスワード」で終わらせず、実際に社会のために利用していくことが求められているのです。

そのためには、PCIPのような事例が増え、ビッグデータの実用性がより多くの人に認識されることが大切なのではないでしょうか?

 参考文献:
 工藤卓哉『これからデータ分析を始めたい人のための本』(PHP研究所、2013年)

(安齋慎平)

 

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