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「そもそもDXって何?」「この次はどうしたらいい?」 どんな些細な相談もできる、それが「わかやま産業振興財団」

データのじかんでは、全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し発信している。「Local DX Lab」は地域に根ざし、その土地ならではの「身の丈にあったDX」のあり方を探るシリーズだ。今回は和歌山県。「新しい世界で飛躍する和歌山」「飛躍を支える基盤づくり」の2つの政策を柱に、和歌山の中小企業におけるDXを力強く支える(公財)わかやま産業振興財団・地域活性化雇用創造プロジェクトチームの方々に話を伺った。

         
 

──わかやま産業振興財団とはどのような団体様なのでしょうか、教えてください。

わかやま産業振興財団は、各都道府県に設置されている「中小企業支援機関」という位置付けになっています。私たちはDX支援のチームですが、それ以外にも経営改善などさまざまな支援をさせていただいていて、和歌山県内で今多いのは「事業承継」「事業再構築」といった内容ですね。その他、副業・兼業人材の活用や創業なども財団としてご支援しています。

今回のテーマ「DX」に関して言いますと、財団が和歌山県からプロジェクトの委託を受けて、中小企業のデジタルトランスフォーメーションの実現を支援しています。実際、中小企業が各自で支援策を探すというのは、非常に難しいところです。その状況でいざDXを始めようとしても、進むべき方向が正しいのか、どのようなツールを導入すべきなのかなど、次々と課題が現れ、結局実現されないまま終わってしまうことも少なくありません。そういった全ての段階において気軽に相談できるようDX推進員を置き、どんな些細なことも気軽に相談できる窓口の役割を担っています。

「D」から「DX」へ ― 6年間の集大成「AI・IoT・ロボット・FA 事例集」はこうして生まれた

和歌山県製造業 DXへの歩み AI・IoT・ロボット・FA導入事例集」では、DXを身近に感じて貰えるよう、県内中小製造業が取り組んだAI・IoT・ロボット・FA導入事例を25例をまとめている。

──和歌山県は、他の県に先駆けてDXに向けた事例集を制作されています。企業への支援やサポートに追われる中、あえて手間のかかる「事例集」の制作に取り組まれた理由やきっかけはどういったことだったのでしょうか。

今回のプロジェクトは、2022年から3年間DXを支援するというものですが、私たちはその前に6年間、AI・IoT・FA・ロボットを普及させるという活動をしていまして、事例集はそれらの集大成という形で去年のはじめに取りまとめたものです。そのため、中にはDXに近い内容もありますが、事例集としてはDXと言うよりも「D」、デジタル化にフォーカスしたものがほとんどです。

プロジェクトに登録されている企業は県内で600社ほどあるのですが、推進員1人で年間150社ほど回ります。とにかく現場に足を運んで社長さんの話を聞き、1時間くらいするとようやく色々悩みが出てくるので、その悩みを推進員が企業と一緒に解決するという形で伴走支援しています。その600社を回っている中で、繰り返し耳にするのは「東京や大阪の話を聞いても、実感が湧かない。」「都会だからできるんだろう。」という意見。「都会ではなく県内の身近な事例が欲しい」というニーズが非常に大きかったので、6年間に受けたさまざまな相談の中から、ある程度形になったものを企業の了解を得た上で事例集にまとめようとなったことがきっかけです。

地域活性化雇用創造プロジェクト DX推進員 田中 雅史 氏

──6年間活動されてきた中で、改善すべきと感じられた課題はありましたか。

すでに6年間活動してきて、事例集にあるようなさまざまな改善をしてきたのですが、やはりどうしても部分最適化で終わってしまうということが問題点です。それぞれの企業さんは便利になって喜んでくださるのですが、実際に企業の生産性が向上したかというと、そういう結果までつながっていないというのが実情です。それについては、このままではやはり産業の活性化は難しいだろうということで、去年の半ばくらいから県とも検討を重ねました。

和歌山県では、国と同じようにDXに力を入れたいということで、県内の企業さんの意識を変えていくための試みを行っています。今後は部分最適化で終わるのではなく、より経営的視点から全体最適化を考えることに重点を置くようシフトしていく必要性を感じ、今年度から本格的にDX推進にむけたプロジェクトが始動しています。

──これまでと2022年4月からとでは、大きく変わった点はありましたか。

「経営者の意識を変えていかなければならない」という視点が、最も大きく変化した点です。DXはデジタルを導入するだけではなく、「経営者がどうしていきたいのか」という経営者目線で進めていく必要があるので、より具体的なビジョンを描き、道筋を考えていかなくてはなりません。

ただ、経営者の多くが危機意識を持って「DXに取り組むべき」と思い始めている印象ではありますが、具体的な道筋を考えるのにはかなり時間がかかります。その間、何もせずじっとしているのではなく、まずは「DXを始めると決めたら、具体的なものが見えなくても基盤作りを始めましょう。」という方向性を示し、DXに向けた流れを滞らせることなく、社内のデータ整備から始めてデジタル化を進めつつ、経営者には先のことを考えてもらうというのが今の状況です。

──東京や大阪で導入されているような最先端の技術が、例えば田舎の小さい工場で使えるのか、といった意見もやはりあったのでしょうか。

和歌山には小規模企業も多いので、やはり「自分のところで何ができるの!?」「うちは小さい会社だから関係ない。」と仰るところも少なくありません。そこで事例集を制作して「お隣の会社でもAIやロボットを導入して、こんなに効果がありましたよ!」ということを具体的に示すことで、DXに対するイメージやハードルが下がると思いました。実際、今回の事例集を発表した後は中小企業からの反響が非常に大きく、問い合わせも増えましたね。

──事例集を拝見すると、それぞれの事例で大きな効果が得られた様子が見られました。具体的には、どのような手順でマッチングしていくのでしょうか。

私たちは、東京で開催される大きな展示会には必ず足を運びます。大手からベンチャーまでさまざまなソリューションがあり、技術の発展や価格などを含めて考えると、東京の展示会は圧倒的に情報量が多いんです。中小企業は大手の製品を導入できるところが多くないので、情報もバラエティーに富んでいる方がいいですし、選択肢も多くなります。「この製品は高額だがこれほどスケールがある。」「こちらは低価格で内容も限られるが、次につなげられる。」など色々な助言ができるのは東京の展示会で得た情報によるところが大きく、実際に訪れて最新の情報を入手してくるのが第一と考えています。

一方で、企業を回りニーズを常に把握しておき、そのニーズと展示会で見つけてきたものがマッチングできたら製品を紹介します。財団なので、当然紹介することで利益は得られませんが、紹介後は直接企業と業者で話し合ってもらい、うまくいけば製品を導入するという方法で進めています。本来なら企業が展示会に足を運ぶと1番分かりやすいのですが、展示会は規模が大きすぎて、1つのテーマを持って探し回るには極めて非効率です。そこで私たちのようなDX推進員が、複数のテーマを持って展示会に行くことで、非常に効率よくソリューションを見つけることができるのです。個々のニーズさえ的確に把握していれば、展示会に行くことでそれぞれに合うものが見つかるので、そこで得た情報や製品をどんどん紹介していって、効率的に企業の支援を行っているという形です。

──和歌山産業振興財団の方に相談に来られて、支援を受けて効果があった、飛躍的に効率が上がったというケースがある反面、中にはうまくいかなかったというケースもあるのでしょうか。

導入の事例から言いますと、DXをスタートした時からご相談いただいて、色々な支援策をDX推進員とともに検討した上で導入する企業ではそれほど大きな失敗はありません。ただ、そこに至るまでに自分たちで「とりあえず」という形で導入してみたものの、自社には合わない、思うほど生産性が上がらなかったという企業が多くあります。そういった企業が「では、次はどうしたらいいのか?」というご相談に来られますね。

一方、まだAIの技術が要求まで追い付いていなかったり、欲しい製品の価格が高すぎたりといった問題もあります。あと数年経てば必ず技術が追い付いてくるというのはありますが、企業の求めるものが高い、その一方で費用は限られている、そうなるとマッチングは難しくなります。そういった場合は、まず要求を少し落とすことを提案します。ロボット化で言えば、企業の中には「人を省いて全部ロボットにする」というような感覚を持たれているところもあります。しかし、今の技術ではやはり難しいので「5人の人手を必要としていたところをロボットの力で3人にしましょう」といった小さいステップからはじめていくよう提案したりしています。そのうちに、ロボットのスペックが上がり、価格も落ち着いてくるので、その時までうまく繋げていくようにサポートします。

中小企業のDX推進を左右するカギは中間管理職にあり

地域活性化雇用創造プロジェクト 事業統括 加藤木 健氏

──中小企業のDX支援を行っていく中で見えてきた課題というのは、具体的にどういったところにあるのでしょうか?

はっきり言ってしまうと中間管理職にありますね、とにかく頭が固いんです。社内では、社長はその気になっている、20~30代の若手も「そういう場があれば」と手ぐすねを引いて待っている状況です。そこで、中間管理職をどうやって打ち破るかというところが1番の課題のような気がしています。会社によっては、社長が若手を集めてDXチームを作らせ、そこで色々なアイデアを出すのですが、やはり現実はバイアスがかかっている中間層が引き戻してしまうんです。企業の規模には関係なく、社長の想いや経営者の理念を考えながら前へ進めていく、企画できるという層が薄く、一方でそういった人を育てるのも難しいのが現状です。そういう状況に陥った時、どのようにしてDX化を進めていくか、という事例がほしいところです。

中には「中間層が定年でいなくなるまでは難しい」という意見も聞かれます。世代交代するとうまくいく企業も少なくありませんが、それでもバイアスが強いことには変わりありません。経営者は危機感があり、若い世代はそこへついていこうとするのですが、どうしても動かないのが中間の少し上の層といったところでしょうか。中間層は管理職として「操業の安定」「品質の安定」「無災害」の実施に日々苦労しているため、「変革」に抵抗があるのは事実です。しかし、彼らも会社を良くしようという気持ちは強く持っているはずなので、必ず変革の必要性を理解できるはずです。単に「抵抗勢力」として切り捨てるのではなく、彼らの意識を変えることが必要です。

──バイアスのかかった中間管理職がDX化を踏み止まらせている現状に対し、今後の対応、あるいはその層の意識改革をされていく方法について、具体的に考えられていることはありますか。

怒りのマネージメントとして「アンガーマネジメント」が知られていますが、組織を変えようとした時に有効な手法を学ぶ学問として「チェンジマネジメント」というものがあると知りました。そのチェンジマネージメントを私たちも身に付けて、経営者の方とシェアするといい効果が生まれるのではないかと考えています。経営者が、強くバイアスのかかった層を相手にどう対応すべきか分からないといった状況に陥る、そんな時の対処方法やマネージメント方法についての支援方法を身に付けることが、今自分たちの中で課題となっています。

──強いバイアスは企業の規模に関わらず存在するものの、ここ数年で経営者の意識は少しずつ変わってきたと実感されていますか。

私たちは、参加者が100名を超えるセミナーを年4回程度実施していますが、東京の展示会でいろいろな方の講演を聞き、県内企業にシェアしたい情報があれば、その場で講師と名刺交換をし、セミナーでの講演をお願いしています。ですので、セミナーは毎回、最先端かつ県内企業に役立つ内容になっています。そのセミナーに参加していただいている経営者の方たちを見ていると、DXに対する関心が高まっている様子や、デジタルツールの導入だけがDXではないということを理解していただけている印象です。

人材育成と経営者の意識改革が和歌山県のDX化における課題

──DX化を推進するにあたり、和歌山県ならではの課題というものはありますでしょうか。

和歌山ならではというと難しいですが、一言で言えば「人材不足」ではないでしょうか。やはり「DX」の「X」の部分を積極的に進めていける人材がいないんですね。全国的に見ても不足していますが、とくに和歌山では少ないという印象があります。ただ、人がいないことを嘆くばかりで進まないので、社内で人材を育てていくための取り組みも合わせて進めているところです。
ただ、私的な見解なんですが、県民性としてあまり危機感を持っていない方も、未だ多いような印象を受けます。そのため、この和歌山でDXについていかに啓発していくか、ということに重点を置いてDX推進員の方では積極的にセミナーなどを開催して、経営者の意識を変えていくところから始めるべきだと考えています。

そもそも和歌山県内には製造業が全部で3,000社ほどある中で、プロジェクトに登録してくださっているのは600社くらいなので、残り2,400社ほどについては実態が分かりません。私たちとしては、企業の方が相談に来てくださって初めて支援を行うという形ですので、どんな小さな疑問であっても一度ご相談に訪れていただきたいと思います。

和歌山県のDXは伴走支援で進化中!

──和歌山県のDX化の今後の展望について、お考えがあれば教えてください。

現在、和歌山の主要産業である一次産業については六次産業化が進み、農家は自社で食品の加工から販売まで行い、Eコマースを手掛けるというところまで発展しています。また金属加工業については、下請けのままではやはり将来性が不安定なので、その対策として、3DCADなどを使った設計チームを作っていくというような動きも見られます。そういった動きを積極的に支援していきたいですね。日用品製造業では、これまでは100円ショップなど安価な方向に流れていましたが、今はどのように製造現場の国内回帰を行っていくかという正念場に差し掛かっています。将来を考えるのは難しいですが、試行錯誤しながらそれぞれが生き残る道を、一緒に考えていきたいというのが今の思いです。
DXに関して言うと、現時点で経営者も多くはDXの重要性には気付いている印象があります。ただ、岐路に立たされた時に具体的に道を示してあげること、それに加えて組織をどのようにまとめていくか、というところがポイントになります。企業の大きさに関わらず、組織の抵抗って必ずあるんです。一部を変えてうまく進めたとしても、組織のバイアスがかかって元に戻ってしまうというケースが少なからずあるので、どうすればそうした流れを止めずに経営者の思いを実現させられるかという点について、先ほどの「チェンジマネジメント」を含め、私たちも勉強していくことで新たな道が開けると思っています。

──和歌山県の事例集にあるような全国のデジタル事例を1ヶ所に集めるプロジェクトがあると伺いました。具体的にはどのようなものなのでしょうか。

全国で事例集をバラバラに制作している上に、検索もできない状態ではもったいないということで、各県の担当課にIDを与えて、全国のデジタル事例を一ヶ所に集めるプロジェクトが進んでいるようです。実は、今回制作した事例集は国会図書館に納められることになりました。事例集を制作するにあたり、中小企業さんにDXを導入する手軽さやその効果などをご理解いただいて、DXに対するハードルを下げたいという思いが根本にあったので、今後も自分たちの成果をお示ししていけたらいいなと思っています。


(取材・TEXT:TEXPERT編集部 編集・企画:野島光太郎)

 

 

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