年末の風物詩とも言える漫才の頂上決戦「M-1グランプリ(通称:M1)」。売れっ子芸人の登竜門でもあるこの大会への出場、そして優勝を目指し、多くの芸人が約4ヶ月間にわたる審査にのぞみます。
過去にも多くの芸人がM1によって「一晩で」スターダムを駆け上がる中、通算16回目となる今回もさまざまなドラマが生まれました。
2020年12月20日開催されたM-1グランプリ2020年大会の応募組数は過去最高の5,081組となり、開催前からその盛り上がりを予感させるものに。
そこで今回は2020年の M1のドラマを振り返りながら、 その結果をデータとしてじっくり見ていきます。
M-1グランプリ2020年大会を特に盛り上げたのが、過去の因縁です。
出場する芸人の多くが数年、場合によっては十数年をかけM1に挑む中、念願の決勝に出場できたものの審査員からの評価につながらず振るわない結果になってしまったという芸人も多くいます。
実際、今大会に出場した面々の中にも過去に悔しさとともに会場を去ったコンビの姿がありました。出場二回目となる「マヂカルラブリー」は3年前の決勝で審査員の上沼恵美子氏に「頑張ってるのは分かるけど、よう決勝残ったなと思って」と酷評され最下位に終わった経験が。また、昨年の決勝では「ニューヨーク」が松本人志氏に「ツッコミが好みじゃない」とバッサリ斬り捨てられていました。
そうした中で迎えた今大会、どのような結果になったのでしょうか?
M1の決勝戦では、決勝に残った10組に対し、複数名(2020年大会では7名)の審査員が1組ずつ得点(最高100点)を出します。そして審査員たちから得た得点の合計点が高かった3組で決選を行い、そこで審査員ひとりあたり1票を投票、得票数が高かったコンビが優勝となります。
まず、決勝10組の得点を見てみましょう。
コンビ名 |
得点 |
上沼恵美子 |
松本人志 |
サンド富澤 |
立川志らく |
ナイツ塙 |
中川家礼二 |
オール巨人 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
インディアンス |
625 |
93 |
90 |
89 |
89 |
85 |
90 |
89 |
東京ホテイソン |
617 |
92 |
86 |
91 |
89 |
85 |
88 |
86 |
ニューヨーク |
642 |
94 |
92 |
93 |
91 |
93 |
91 |
88 |
見取り図 |
648 |
95 |
91 |
92 |
93 |
93 |
93 |
91 |
おいでやすこが |
658 |
94 |
95 |
93 |
96 |
93 |
95 |
92 |
マヂカルラブリー |
649 |
94 |
93 |
94 |
90 |
94 |
96 |
88 |
オズワルド |
642 |
92 |
88 |
91 |
93 |
95 |
95 |
88 |
アキナ |
622 |
92 |
85 |
88 |
90 |
87 |
91 |
89 |
錦鯉 |
643 |
93 |
89 |
92 |
95 |
95 |
92 |
87 |
ウエストランド |
622 |
92 |
90 |
91 |
86 |
85 |
90 |
88 |
平均 |
636.8 |
93.1 |
89.9 |
91.4 |
91.2 |
90.5 |
92.1 |
88.6 |
出典:M-1グランプリ2020年大会(コンビの並び順は、漫才を発表した順番に従う)
今回決勝で658点を獲得し最高位となったのは、それぞれピン芸人として活動していたおいでやす小田氏とこがけん氏が2019年に結成したばかりのコンビ「おいでやすこが」です。癖のある「ニセ歌」で笑いを勝ち取り、大会に風穴を空けました。
また、次点となった「マヂカルラブリー」については以前苦言を呈していた上沼氏も「芸術」と絶賛するほどに。また松本氏に批判された「ニューヨーク」についても、松本氏の口から「ちょっと腹立つんですけどオモロかった」という言葉が聞かれ、過去の因縁を回収する形に。
優勝したよ
— マヂカルラブリー 野田クリスタル (@nodacry) December 20, 2020
最下位とっても優勝できたよ
本当にみんなありがとう pic.twitter.com/oSqzVJtXUX
最終的に決戦にすすむことになったのは「おいでやすこが」に「マヂカルラブリー」、そして3位の「見取り図」です。
そして、最終決戦を終えたあとの審査員投票の結果が以下になります。
審査員 |
投票コンビ |
---|---|
上沼恵美子 |
おいでやすこが |
松本人志 |
おいでやすこが |
サンド富澤 |
マヂカルラブリー |
立川志らく |
見取り図 |
ナイツ塙 |
マヂカルラブリー |
中川家礼二 |
マヂカルラブリー |
オール巨人 |
見取り図 |
出典:M-1グランプリ2020年大会
2018年大会決勝最下位に終わった「マヂカルラブリー」に3票入り雪辱を晴らす形で優勝となりました。
しかし、今大会終了後、審査員の上沼氏が大会について「これは難しいなとちょっと思ってました。何が難しいか? 番組的に盛り上がってないんじゃないかなと」とコメントしていました。
確かにミルクボーイが過去最高得点を叩き出して優勝を決めた昨年と比較すると印象に残る「記録」がないようにも見えました。実際データで見てみるとどのような特徴があるのでしょうか?
2001年から過去16回にわたる大会のデータと合わせて紹介いたします。
まず、大会の最高点、最低点、平均点をグラフ化したのが以下になります。
グラフの最低点を見ると過去16回の中で最高の85点と非常に高い水準にあることがわかります。
そこで数値の集まり具合をグラフとして可視化できる箱ひげグラフを用いて点数を可視化してみましょう。
なお、青い真ん中の箱はその年の得点の真中約50%が分布する領域。そして箱より上の細い線に上位約25パーセント、下の細い線には下位に約25%が分布しています。
今年度は過去の大会と比較し、最高点と最低点の差が最も小さく、また箱が線の中央辺りに位置し、外れ値などがないことがわかります。
つまり、今大会出場者は「総じてハイレベルであるが、審査員たちにとって特に傑出したコンビも、劣っていたコンビもいなかった」ということが見て取れます。
つづいて各大会における得点の接近度を見ていきます。
ここでの接近度は、分散(得点のばらつき具合)の逆数をとることで求めます。
その結果、時間経過を追うごとに、接近度は上昇する傾向があり、年々接戦になってきている様子が伺えます。
この背景には、応募組数の増加に伴う倍率の上昇が挙げられると考えられます。過去最多となった2020年大会では10組の枠に5,081組が応募、倍率は実に508倍になっています。これは、初回開催の160倍から実に3倍以上に伸びているということになります。
開催年度 |
応募組数 |
決勝組数 |
倍率 |
---|---|---|---|
2001年 |
1,603 |
10 |
160.3 |
2002年 |
1,756 |
9 |
195.1 |
2003年 |
1,906 |
9 |
211.8 |
2004年 |
2,617 |
9 |
290.8 |
2005年 |
3,378 |
9 |
375.3 |
2006年 |
3,922 |
9 |
435.8 |
2007年 |
4,239 |
9 |
471.0 |
2008年 |
4,489 |
9 |
498.8 |
2009年 |
4,629 |
9 |
514.3 |
2010年 |
4,835 |
9 |
537.2 |
2015年 |
3,472 |
9 |
385.8 |
2016年 |
3,503 |
9 |
389.2 |
2017年 |
4,094 |
10 |
409.4 |
2018年 |
4640 |
10 |
464.0 |
2019年 |
5040 |
10 |
504.0 |
2020年 |
5081 |
10 |
508.1 |
出典:M-1グランプリ2020年大会
その注目度から年々存在感を増すM-1グランプリ。今後も出場者たちの技術はさらに高まっていくことが予測されます。漫才師たちの技術がどんどん向上する一方で、つけられる点数が頭打ちになっており、今後、さらなる磨かれた才能があらわれたとき、どのように対応していくのか、が期待されます。
このままいくと、みんな100点で10組で決選投票!なんて年が生まれる可能性も、と考えると楽しくなりますよね。
みなさんもぜひ、漫才とともにデータを楽しんでみてください!
(大藤ヨシヲ)
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