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JRの臨時特急「まほろば」の利用価値は利便性?お得さ?それとも体験?データと取材で検証!–生情報取材班 vol.02

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今回、フォーカスするのは大阪~奈良間にJR西日本が運行する臨時特急「まほろば」という列車です。一般的にはあまり認知されていない列車が満たしている「需要」について、鉄道系作家の新田浩之さんがデータと乗車体験の両方からレポート。その魅力に迫ります。

         

臨時特急「まほろば」の概要

臨時特急「まほろば」は「臨時」とある通り、毎日ではなく土日祝のみ運航している。一般的には存在意義どころか、存在していることすらあまり認知されていない「まほろば」だが、利用者のメリットがあるからこそ2010年に登場してから現在も走り続けているのだろう。単純に考察するのであれば大阪と奈良を結ぶという点を考えると需要はありそうだが、各データを用いて周辺路線・周辺環境を考えると「別の一面」が見えてくる。

※筆者撮影

データで読み取れない部分の例をあげるのであれば、日本人が得意とする「おもてなし」だろう。臨時特急「まほろば」は乗車時間50分だが、利便性だけではなく乗務員による「おもてなし」が随所に垣間見られる列車なのだ。先述のとおり、臨時特急「まほろば」は「臨時」と銘打っており、毎日運行される定期列車ではない。JR西日本によると2024年3月16日~6月30日の運行日は土曜日・日曜日・祝日の計36日だ。「まほろば」は新大阪駅を経由し、おおさか東線を通る。おおさか東線の終着駅、久宝寺駅から大和路線(関西本線)に乗り入れ奈良駅に達する。停車駅は大阪駅(うめきたエリア)、新大阪駅、奈良駅のみだ。

ダイヤは1日1往復となり、奈良行きは大阪駅を9時58分に発車し、奈良駅に10時57分に着く。大阪行きは奈良駅を16時21分に発車し、大阪駅に17時15分に着く。大阪~奈良間の所要時間は奈良行きが59分、大阪行きは54分を要する。2024年3月16日から奈良駅発が50分繰り上げとなった。「まほろば」は比較的新しい列車である。2010年4月~6月に開催された奈良デスティネーションキャンペーンに合わせて土休日に運行されたのが始まりだ。運行区間は新大阪~奈良間であり、東海道支線(梅田貨物線)、大阪環状線経由であった。その後、しばらくは運行されなかったが、2019年11月に復活した。2023年春季には同年3月に開業した大阪駅(うめきたエリア)に乗り入れている。

さて、「まほろば」は利用価値のある特急列車なのだろうか。大阪~奈良間は大阪環状線・大和路線経由で「大和路快速」が設定されている。大阪~奈良間の所要時間は「まほろば」と変わらない約50分だ。「大和路快速」は大阪環状線ホームから出発する一方、「まほろば」はうめきたエリアから出発する。うめきたエリアは同じ大阪駅だが地下駅である。JR神戸線・京都線からうめきたエリアへは大阪環状線ホームよりも移動時間を要するため、奈良へ向かう人は「大和路快速」を選択するのが一般的だろう。

一方、新大阪駅から奈良駅への移動は意外と不便だ。新大阪駅から奈良駅へは2ルートが考えられる。一つ目はJR京都線で大阪駅まで移動し、大阪駅から「大和路快速」に乗り換えるルートだ。二つ目はおおさか東線・久宝寺駅から大和路線に乗り換えるルートだ。いずれも、乗り換えが必要となり、所要時間は約70分だ。運賃も確認しておこう。大阪駅から奈良駅までの普通運賃は820円だ。「まほろば」は全車指定席の特急列車のため、指定席特急券が必要となる。大阪駅から奈良駅までの指定席特急券(通常期)は1730円だ。ただし、2024年春季は「まほろばチケットレス特急券」が販売されており、料金は860円だ。

このように考えると、「まほろば」は大阪駅(うめきたエリア)からの多数の乗車はあまり望めない。一方、新大阪駅の場合、所要時間は「まほろば」の優位であり、乗換えも不要であることから、東海道・山陽新幹線からの乗り換え客が望めそうだ。

立ちはだかる近鉄特急

ここで忘れてはならないのが、近鉄が運行する特急列車「近鉄特急」だ。東海道新幹線沿線から奈良へアクセスする際は京都駅から近鉄特急に乗り換えるのが一般的だ。京都駅から近鉄奈良駅までは近鉄特急で約40分、運賃は特急券込みで1280円だ。急行でも約45分の道のりである。近鉄奈良行き特急はだいたい1時間間隔で運行される。また、京都駅・近鉄奈良駅共に利便性の優れた場所にある。京都駅は東海道新幹線京都駅に直結。近鉄奈良駅はJR奈良駅よりも中心地に近く、奈良公園へも徒歩数分だ。

一方、山陽新幹線沿線から奈良へは言うまでもなく新大阪経由が便利だ。「まほろば」奈良行きは新大阪駅を10時頃に発車する。参考までに新大阪駅に9時43分に着く「のぞみ6号」は博多駅発が7時15分、広島駅発が8時22分、岡山駅発が8時58分だ。

以上から、「まほろば」は山陽新幹線沿線からの観光客は取り込めそうだ。ただし、中国・四国地方から奈良県への観光客はそれほど多くない。奈良県観光局ならの観光力向上課が発表した「奈良県観光客動態調査報告書」(令和3年1月~12月)にある奈良県への来訪者発地割合によると、中国・四国地方からは日帰りは0.3%、宿泊は6.1%にとどまる。したがって、新大阪駅での「まほろば」への乗り換え客は存在はするが、多数には及ばないと予想する。現に「まほろば」は3両編成で運行される。乗車率は多くても5割くらいといったところではないか。

【乗車レポ】実際にまほろばに乗車してみた

筆者撮影

5月中旬の週末を利用して、大阪駅(うめきたエリア)から「まほろば」に乗車することにした。大阪駅(うめきたエリア)は2023年3月にオープンした地下駅だ。ここからは「まほろば」の他に、関西空港行き特急「はるか」、南紀白浜行き特急「くろしお」が発着する。また、おおさか東線の快速列車、普通列車も乗り入れる。

大阪駅(うめきたエリア)は関東で例えると東京駅京葉線地下ホーム、総武快速線・横須賀線地下ホームに似ている。大阪駅地上ホームからうめきたエリアまでの所要時間は徒歩10分くらいだ。「まほろば」は22番線から9時58分に発車する。9時50分に入線したが、両数はわずか3両。京阪神エリアを走る特急列車の中では最短だ。

車内は全車普通車指定席となり、自由席の設定はない。空席があれば座席に座れるが、大阪~奈良間の指定席特急券(通常期)は1730円もする。JR西日本の予約サイト「e5489」を利用した「まほろばチケットレス特急券」なら860円で済む。

筆者撮影

大阪駅(うめきたエリア)の発車時点では、筆者が乗車した1号車は筆者を入れても3人のみだった。ほどなくして新大阪駅に到着した。新大阪駅でも乗車はあったが、最終的な乗車数は3両合わせても30人くらいだった。ほとんどは観光客であり、訪日観光客も少なくなかった。乗車率は1~2割といったところだ。

おおさか東線は新大阪駅と久宝寺駅を結ぶ約20キロの路線だが、追い抜きができる駅は存在しない。そのためか、ノンストップとはいえスピードは出ない。10時32分に久宝寺駅で運転停車をした。新大阪~久宝寺間の表定速度は時速43キロである。

ところで、「まほろば」はサービス精神旺盛な特急列車だ。車掌が乗客ひとりひとりにお手製の「まほろば乗車記念証」を渡していた。また、奈良を案内する車内放送にも余念がない。このあたりはデータを見るだけではわからず、「まほろば」を盛り上げようとするJR西日本の心意気が伝わる。

筆者撮影

久宝寺駅からは大和路線を走る。大和路線に入線すると、一気にスピードを上げ、時速100キロに達する。10時57分に「まほろば」は奈良駅に到着した。日中時間帯において、奈良駅で特急列車を見かける可能性は低い。そのためか、ホームで「まほろば」を撮影する一般客を見かけた。

奈良駅は奈良公園や東大寺からは少し離れており、駅前のバスターミナルから路線バスに乗る。また、旧駅舎を利用した観光案内所も建つ。「まほろば」から奈良市内の観光名所へはスムーズに移動できる。

「まほろば」は認知度の低さもあり、まだまだ乗車率は低いように感じた。一方、中国・四国地方からの観光客を取り込める列車であることは間違いない。今後、中国・四国地方から奈良へ誘引する観光キャンペーンにおいて、「まほろば」は重要な足として機能するだろう。

著者・写真撮影:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
 

(取材・TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

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