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無駄づくり発明家が説く「ものづくりの本質」とは–Manufacturing Japan Summit 2024 イベントリポート

2024年2月13日、14日の両日、ホテル椿山荘東京において、Manufacturing Japan Summit 2024が開催された。2日目には、株式会社無駄代表取締役社長の藤原麻里菜氏が講演を行った。
藤原麻里菜氏は、「無駄なもの」をひたすらつくり続けているコンテンツクリエーターだ。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」などで自作した「無駄なもの」を紹介しており、その数は300を超えている。取り組みは世界的にも注目されており、2018年には台湾で「無駄づくり展」を開催し、2万5000人以上の来場者を記録。また、総務省のイノベーション助成金に採択され、『Forbes JAPAN』の「世界を変える30歳未満の30人」の1人に選出されるなど、作品と創作物、さらにはその「ものづくり」への考え方への評価は高い。毎日、「無駄」をつくり続けている同氏が、ものづくりの本質ともいえる楽しさと、創作のコツを語った。

         

株式会社無駄代表取締役社長の藤原麻里菜氏の講演は、オンライン中継で行われた

無駄なものをつくってお金をもらえる

藤原氏は「何かにぶつかるたびに悪態をつくヤンキー掃除ロボット」「スマホに装着して撮影すると指を出して写真を台無しにするインスタ映え防止装置」「Web会議画面にフリーズ状態を示すローティングサークル(実は画面前の工作物)を示してオンライン飲み会を抜け出せるマシーン」「ゴミを組み立てるプラモデル」など、ユニークな作品を3Dプリンタなどでつくり上げては動画にしている。

一見してお金には結びつかなさそうな活動だが、実際には企業から「無駄なものをつくってほしい」との依頼が舞い込み、会社として仕事になっているという。同氏は「無駄なものをつくってお金をもらえるという、資本主義の『バグ』がある」と言うが、もうけを目指したわけではなく、好奇心によって駆動される活動には、ものづくりの本質が潜んでいる。

ぶつかると悪態をつくヤンキー掃除ロボット「3ヶ国語でキレるルンバ」
https://www.youtube.com/watch?v=xwU8E6IUohc

スマホに装着して撮影すると指が映り込み、「インスタ映え」を台無しにする日本人発明家がインスタ映えから世界を救う【2/16 ニュースM特集】
https://www.youtube.com/watch?v=Z4Do7fGPiyM

オンライン飲み会中にスイッチを押すとロード中のようになり、画面フリーズを装える「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」
https://www.youtube.com/watch?v=HCKmMDwfBlQ

プラモデルとして組み立てる「ゴミ」「ゴミができあがるプラモデルを文字通り作る」
https://www.youtube.com/watch?v=J_GB430QFJ0

「無駄なものづくり」の原点と哲学

「無駄なものづくり」の原点について、藤原氏は次のように語る。

「テレビの『ピタゴラスイッチ』を見て、(ドミノ式に動きが展開する手づくりの仕かけが)簡単そうだし私にもできそうだと思い、しょうゆ差しをとってくれるマシーンをつくったのが始まり。それが19歳の時で、その年齢の人の作品とは思えない小学生の工作のような、ゴミのようなものができました。しかも1週間もかけて。なんて不器用なのかとショックを受けたが、それを失敗したのではなく、無駄なものが出来上がったのだから成功だと考え直し、『無駄づくり』という言葉がひらめきました」(藤原氏)

小学生のころは美術が好きだったが、自分の不器用さや大ざっぱさを自覚し、美術で身を立てることは考えられなかったという。そんな藤原氏が、いわば「開き直り」で堂々と無駄なものつくることを後押ししたのは、2人の偉人の言葉と行動だった。

経済学者で教育者のエイブラハム・フレクスナーの言葉に「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」がある。「フレクスナーは、価値やお金を(意識的に)追うのではなく、好奇心を育てていくことで新しい価値が生まれると説いています。私は美術が将来何の役に立つのかは分からなかったが、世の中には有用性だけが存在するべきではなくて、無駄なもの、役に立たないものだって同時に存在してもいいと思うようになりました」と藤原氏。

同氏自身は「無駄なものづくり」を始めて5年はアルバイトをしながら続け、その後はものづくりで「食べていけるようになった」と話す。「純粋な好奇心で、せめて自分の半径1メートルくらいの世界は良くなるかもしれない。そんな気持ちでものづくりをすることが、すごく大切なことだと思っています」(藤原氏)

もう1人、影響を与えた偉人は、作家・詩人・博物学者のヘンリー・デイヴィッド・ソローだ。著書『ウォールデン 森の生活』の中で、森の中での自給自足生活を描いている。

「その中で初めて籠を編んだことを描いていて、とても売り物にはならないが無価値ではないと言っています。私も販売する目的ではつくっていない。資本主義では売れることが価値のように感じてしまうが、たとえ売れなくても、それは無価値なのではなく、つくるという楽しみを最大限享受させてくれることが、私にとって大切なことだと思っています」(藤原氏)

今は無駄なものでも、未来は「価値」になる可能性がある

藤原氏を突き動かしているのは、好奇心とつくることの楽しさだ。それはものづくりの本質なのかもしれない。

「実は、無駄は無駄で終わることはあまりありません。無駄をつくるまでの過程には、『楽しい』『面白い』というプリミティブ(原始的)でポジティブな感情が湧く。それだけでも価値があります。また無駄をつくる過程では技術も得られる。出来上がったものは、無駄に見えても、視点を変えれば役に立つものもあります。私は『真の無駄』を生み出したいのですが、実際には何か価値が生まれてしまいます。松下幸之助も『この世の中に存在するものは1つとして無駄なものはない。無駄だと思うのは、その生かし方、使い方を知らないだけ』というようなことを語っています」(藤原氏)

さらに、無価値なものに価値を見いだした経験をこう語る。

「気持ちが落ち込んでいたとき、道端の石を拾ってずっと触っていたら、だんだん気持ちがポジティブになっていく経験をしました。もし今、この石が失われたら、金銭を払い手元に戻すだろうと思った。0円の石が私の中で値上がりしていのです。このように無駄に思われるものも丁寧に見つめて良さを見いだすことで、新しい価値は生まれるのかもしれません。一見無駄で価値がないように見えることでも、それがないと社会が楽しく愉快にならないと思っています」(藤原氏)

これまでに生み出した300を超える無駄。その着想のコツとは

藤原氏にとってアイデア出しは毎日のルーティンだ。奇抜な発想ばかりしているように思われるが、「私は本当に凡人です。常識にとらわれている自分を自覚して、視点を変えることで斬新なアイデアが生まれます」という。

同氏の場合、アイデアが生まれるのは機嫌がいいとき。気分が落ち込んでいないとき、しかも机でたくさん考えた後に「ぼーっとする時間をつくる」のがコツだと明かす。

藤原氏がつくる無駄なタスクを記した日めくりカレンダー「無駄こよみ」。「どうでもよいことしか書かれていないのに結構売れました」と語る

「自分の将来に何か役立つとかではなく、役に立たないかもしれないけど好奇心を刺激するような無駄なアイデアを毎日5分だけでもいいから考えてみてほしい」と同氏はアドバイスする。また「アイデアを出すときは、できるだけ頭を悪くする」ことを呼びかける。「頭を悪くする」とは、「実現性をあまり考えない」ことや「自分を冷笑的に見ない」ことだという。

「難しいことはあまり考えず、想像力を発揮させることが肝心で、最初から実現性を考えていては新しいものは生まれないし、考えている時にわれに返る瞬間(これが自分を冷笑的に見るということ)はアイデアの敵。なんでこんなに無駄なものをつくっているんだろうと、自分を冷笑的に捉えるとアイデアは出なくなります」(藤原氏)

アイデアを生むための具体的手順

では、藤原氏は具体的にどのようなステップでアイデアを生み出しているのか。同氏は「リサーチ」「接着」」「論理」の3フェーズが必要だという。

リサーチのフェーズでは主題を見つけ、それにまつわる調査を行う。例えば自動車でのイライラをなくすアイデアを考えるとき、まずイライラが起こりやすいシチュエーションを探す。それが「渋滞」「音楽が決められない」「助手席の人が寝て話ができない」というシチュエーションであれば、「渋滞でイライラしないためには?」「音楽選択の主導権を握るためには?」「助手席の人が寝ても、話し相手を得るためには?」というように考えを進める。

次に接着のフェーズでは、主題と何かをくっつける。「例えば、チューブ2個セットのアイス菓子(パビコ)を一度に2本食べるツールをつくったときには、まずパピコを1人で食べると1個余るというのが主題の発見になり、次に1人で両方を食べることができないか、あるいは余った分をどこに置くのかというように考えを進めた(これがリサーチ段階)。その一方で、実家で懐かしいものをあさっているとリコーダー(笛)が出てきた。その時、2個のチューブの吸い口に装着して、1つの吸い口に導くツールがあれば、2個を同時に1人が食べられるという考えが浮かびました(これが接着の段階)」(藤原氏)。

2個セットのアイス「パピコ」を一度に食べるツール「1人でもパピコが食べれるマウント」
https://www.youtube.com/watch?v=hVxsUHXsEkw

さらに論理のフェーズでは、どうやってつくるか、どういう形状にするかの設計をする。ここで最終的にどのようにすれば形になるのかを考えるわけだ。

拡散思考と収束思考を繰り返す

また、これら3つのフェーズをスムーズに行うためには、「拡散思考」と「収束思考」が必要だという。

「制限なく想像力の枠を取り払って、いろいろなことをたくさん考える。例えば、将来何になりたいかを小さい子に問えば、ヤギになりたいとかハリウッドセレブになりたいという答えが返ってくるように、制限なくアイデアが出てきます。そのように思考を拡散させることが大事です。しかしそれだけでは不足していて、拡散した思考のデータを1つにまとめてアウトプットするために論理的に考えことも必要です。拡散的思考と収束的思考を繰り返すことがアイデアを生むためにとても大切です」(藤原氏)

また、「リサーチ」フェーズの後には「温め期」を設けることも勧める。「主題が決まったら、そこから離れてランダムに情報を得る時間をつくるとよいでしょう。すると、接着するアイテムが見つかりやすい。周囲のノイズ的な情報の中で無意識な状態で主題と何かがくっつくことがあります」と藤原氏はアドバイスする。

さらに、「まずは興味関心のある主題を探して、その主題に対して新しい視点で見てみる、例えば小さくしたらどうなるだろうとか、問題に対して問題はあってもよいのではないかと開き直って考えてみたらどうなるだろうと考えると、主題は解決しないとしても面白いアイデアが生まれることがあります」と極意を説いた。

「雑につくる」ことが大事

最後に藤原氏が強調したのが「雑につくる」ということだ。同氏は、電子工作で著名な石川大樹氏、ギャル電氏との共著で『雑に作る 電子工作で好きなものを作る近道集』(オライリー・ジャパン刊)を出版している。この書籍はタイトルのセンセーショナルさからか、実際に読んでいない人から「ものづくりは雑にするな」と批判を呼んだという。しかし同書内では、電子工作に関する安全性について記述されており、藤原氏は「『雑』という言葉に、ネガティブなイメージが強く根付いてしまっています。でも、雑につくるからこそ、いろいろな技術を学ぶことができるし、さらにものづくりの楽しさを享受することができ、アイデアを加速することもできると思います」と語る。

図面上で試行錯誤するよりも、企画書を「盛る」よりも、雑であってもプロトタイプがあると説得力が増す。さらに、「眼の前に存在することでうれしくなることも重要な要素」だという。

「私がものづくりをしている理由の1つで、目の前に、頭の中に浮かんでいたものが存在するだけでテンションがすごく上がります。このプリミティブな『うれしい』という感情を大切にしてほしいと思います」(藤原氏)

藤原氏はまとめとして、実践しているアイデアを加速するものづくりの方法を共有した。

1. 気軽につくり始めること
なるべく思いついたら3日でつくる。設計は1時間くらい、材料は100円ショップ、ホームセンター、Web通販などで購入する。一からつくらず、既存の製品も大いに応用する。

2. 完成度は低くてもまずは完成させること
途中で諦めたり立ち止まったりせず、完成度は低くても完成させる。

3. 1つの傑作より、10の駄作をつくること
傑作をつくる意気込みも大切だが、それよりも継続が重要。駄作をつくることでハードルが下がり、いろいろなものをつくれるようになる。

4. 広く学ぶより、今必要な知識を学ぶ
「無駄なものづくり」でもARを利用したり、プログラムを書いたりしているが、その知識があったから応用できたのではなく、そのときに必要なことを学んでいった。

5. 1つの技術で10の作品をつくる
1つ技術を学んだら、それで10の作品をつくる。駄作でもいい。多数の作品をつくることで技術が定着する。

6. 雑をよいことと捉える
「雑ですけど、何か?」というマインドを持つと、ものづくりのスピードが早くなる。雑につくることはポジティブなこと。
 

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