モーメント(moment)──「瞬間」を意味する英単語です。
今や、日用品から大型バスまでほとんどのものをネットを経由していつでもどこでも購入したり、その下調べをしたりできる状況が整っています。Webマーケティングの重要性が高まりつづけるなかで、より精緻にユーザにアプローチするための手法が「モーメント分析」です。
本記事では、モーメント分析とは何か、マーケターはどのように取り入れればいいのかについて解説してまいります。
モーメント分析とは、消費者が「何かをしたい」と思いウェブを利用している瞬間(マイクロモーメント)ごとの状態を分析し、適切なアプローチを図るマーケティング手法を指します。
従来のデジタルマーケティングでは「20代/女性/東京都/既婚」など、消費者の属性をもとにアプローチする手法が主流でした。しかし、スマホやIoT、ECサイトなどが充実し消費者の行動データが以前とは比べ物にならないほど取得しやすくなった今、「〇〇について知りたい」「□□したばかりでリラックスしている」など、“この瞬間どういう状態なのか・どうしたいのか”に着目した「モーメント分析」が主流になりつつあるのです。
最近のみなさんの買い物を少し思い返していただきたいのですが、実に些細なきっかけが実際の購買行動につながったはずです。例えば筆者は最近、漫画を電子書籍でまとめ買いしたのですが、その背景には、引っ越しを控えているので紙の漫画の購入は控えたかったこと、作品の評判をSNS等で目にしたこと、仕事からの現実逃避として何かストレスなく楽しめる作品が読みたい気分だったこと、ちょうどまとめ買いキャンペーンでお得感が演出されていたこと……などなど、さまざまな理由があるわけです。最後の「まとめ買いキャンペーン」のバナーが適切なタイミングで目に入ったからこそ、私は「注文を確定する」ボタンを躊躇なくクリックしたのでしょう。まさにMomentの妙に私の財布の紐はだらしなく緩んでしまったのです!
また、新居のシーリングライトを購入するためにインターネットで相場を調べたうえで家電量販店に実物を見に行く、という体験も最近ありました。このように“実店舗に製品を買いに行く前にインターネット検索を通して下調べする”モーメントをGoogleはZMOT(Zero Moment of Truth:0番目の真実の瞬間)と名付け、マーケティングにおいて非常に重要なポイントと指摘しています。
今やネットであれリアルであれ、購入とインターネットは不可分であり、消費者とのタッチポイントは無数に存在します。「パルス型消費」のような新たな消費行動も当たり前のものとなりました。そこで、データを用いて適切なマーケティング活動に取り組む手法が「モーメント分析」なのです。
ZMOTについて詳細に解説された無料のe-book『WINNING THE ZERO MOMENT OF TRUTH(0番目の真実の瞬間における勝利)』(2011)では、Web時代のマーケティングにおける消費者の心理モデルは以下の4ステップで説明されています。
【1】Stimulus = 「刺激」
【2】ZMOT(Zero Moment of Truth:0番目の真実の瞬間)
【3】Shelf = 棚、転じて「購買」(First Moment of Truth/FMOT:1番目の真実の瞬間)
【4】Experience = 体験(Second Moment of Truth/SMOT:2番目の真実の瞬間)
私たちが何か商品の宣伝を見て「お、いいな!」と思う瞬間──これが「【1】Stimulus」です。次にその商品について口コミサイトやSNSで調べるのが、すでにご説明した通り【2】ZMOT。調査した結果、欲しい商品が見つかれば【3】Shelf(=棚)から商品を取り出し、リアル・あるいはバーチャル上での購買へ。そして最後に【4】Experience(=体験)でやっと商品が利用されることになります。
カスタマーサクセス時代、【4】のステップの後も消費者との関係は続きます。そこで、FMOT、SMOTを発見したP&G社は、顧客が商品を使い続ける中で、その商品やブランドのファンとなるかどうかをわける【5】番目のステップ「TMOT」も提唱しています。
【5】TMOT(Third Moment of Truth:3番目の真実の瞬間)
各「真実の瞬間」で商品を買うかどうか、あるいはこれから買い続けるかどうかが判断されることになります。モーメント分析を行うにあたっての基準として、上記の5つのステップは押さえておきましょう。
マイクロモーメントの発生源は消費者の「~したい」という欲求です。
Googleのマーケティングマネージャーを務めていた森島知恵氏は2016年の記事『マイクロモーメント Step2 生活者のマイクロモーメントに届ける〜求められている情報やひらめきはなんだろう〜』で、その欲求を以下の5つのカテゴリに分類しています。
1.何かを「知りたい」
2.不満や問題を「解決したい」
3.どこかに「行きたい」
4.何かを「買いたい」
5.アイデアやインスピレーションを「得たい」
マイクロモーメントは、「買いたい」という“買い物”に直接関連する欲求だけに由来するわけではありません。そのため、ZMOTが発生しない場合もあります。そこで、電通グループはマーケティングにおける購買やファン化といった重要な変化のカギとなるモーメントを「トリガーモーメント」と総称し、より広い視野でモーメント分析に取り組むことを提唱しました。
どのモーメントがトリガーモーメントとなるのかは、企業や商材によって千差万別です。自社サイトのデータだけでなく、SNS上の商品に対する投稿を時間や場所、気分といった基準で分析することで、適切なモーメントを抽出可能になるということです。
Googleのマーケティング担当執行役員 Matt Lawson氏は2016年に執筆した記事でマイクロモーメントを生かすために、モバイルでの主要検索ワードに注目するとともに、消費者調査、店頭インタビューといった多様なチャネルで気づきを探ることを提案しています。
瞬間を捉える虫の目で消費者を探るモーメント分析だからこそ、広い視点で考える鳥の目も忘れないことを意識してください!
【参考資料】 ・データマーケティングの新手法「モーメント分析」 -行動データの分析・企画活用術とは┃beBit ・新たなデータマーケティング手法「モーメント」とは?┃マナミナ ・森島 知恵『マイクロモーメント : 生活のさまざまなシーンで発生するマイクロモーメント』┃Think with Google ・森島 知恵『マイクロモーメント Step1 マイクロモーメントを見極める〜生活者が求めている瞬間に応えよう〜』┃Think with Google ・森島 知恵『マイクロモーメント Step2 生活者のマイクロモーメントに届ける〜求められている情報やひらめきはなんだろう〜』┃Think with Google ・Matt Lawson『マイクロモーメントを活かす 5 つのポイント』Think with Google ・Jim Lecinski『WINNING THE ZERO MOMENT OF TRUTH』┃Google ・西田 悟史『生活者の関与が高まる「瞬間(モーメント)」の効果的な抽出方法【電通 西田悟史】』┃Agenda note
(宮田文机)
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