About us データのじかんとは?
先般クラウドファンディング「READYFOR」で、あるプロジェクトが成立した。プロジェクト名は「データサイエンス学習者と学習コンテンツのマッチングを最適化したい!」で、出品者は、データラーニングギルドを運営する村上智之氏だ。
村上氏が運営する「データラーニングギルド」はデータ活用を中心に専門家同士の交流、スキルアップ、キャリア支援、コラボレーションや仕事が生まれるような仕組み作りを提供しているコミュニティ。支援者としてプロジェクトに参画するデータのじかんは、村上氏およびプロジェクトメンバーをお招きした座談会を開催。編集長の野島がデータサイエンティストたちの課題と、これから目指す理想郷について話を聞いた。
プロジェクトページはこちらから。
——最初に村上さんが運営する「データラーニングギルド」をご紹介ください。
村上:データラーニングギルドは、データサイエンティストが情報を交換したり、仕事を手伝い合ったりできるオンラインサロンのようなコミュニティです。普段はSlackのチャンネルを通じて活動しています。例えば、新しいツールがリリースされるとSlackの雑談チャンネルの投稿から情報が共有されたり、実務に関する素朴な疑問に経験者が回答したり。Slackには常時300人超が参加しているため、大抵のことには誰かしらが、役立つ返答をしてくれます。個人的な取組の中で作成した成果物に対する評価やフィードバックもここで得ることができます。
——今回お集まりいただいた皆さんはデータラーニングギルドのメンバーです。自己紹介も兼ねてギルドへの参加経緯を教えてください。
吉岡:私は日本で数理最適化エンジニアとして活動していたのですが、2019年に家庭の事情でタイに移住し、現在は日系企業のタイ法人で働いています。ただし日本人のデータサイエンティストが現地採用として東南アジアで勤務することはレアケースなようで、職場では他にデータサイエンティストがいません。そのため、データサイエンスに関する情報収集や相談をする相手がいなくて困っていたときにデータラーニングギルドと出合いました。ギルドを通じて情報交換したり、本業では積めない経験ができたりするため、重宝しています。
——データラーニングギルドには、企業在籍のエンジニアやデータサイエンティストも多く所属しているのですか?
村上:フリーランスもいますが、企業在籍も結構います。最近は、企業の中にDX推進チームが立ち上がるケースも多いですが、特に大手な企業でもないかぎり、大半は2〜3人程度の規模でチームが編成されると思います。その結果、会社の中にデータ周辺のことについて相談できる相手がいないということが常態化していると聞きます。データラーニングギルドは、そうした事情を抱える人の受入先にもなっています。
長谷川:私は企業在籍のデータサイエンティストで、化学メーカーでDX推進を担当しています。チームは数十人規模ではありますが、技術交流など社外との継続的な接点が少ないことを課題に感じていました。別の業界や技術領域のデータサイエンティストとの繋がりを求めていたところ、相互にやり取りができるコミュニティであるデータラーニングギルドに出会いました。
太田:私は吉岡さんや長谷川さんと違い、ギルド参加当時は初学者でした。もともとは半導体商社の技術営業職でしたが、仕事の中でデータ分析に興味を持ちました。そんな折に村上さんと知り合い、データラーニングスクール(株式会社データラーニングが運営するオンラインスクール)で1年間実務を学び、2021年にデータサイエンティストへ転身を果たしました。ギルドへの参加はスクールを入る時に勧められ、今に至ります。ギルドのコミュニティではその都度プロジェクトが立ち上がるため、普段は絶対に触れることのないような案件に触れることもあり、経験が浅い自分にとって貴重な学びの機会になっています。
——村上さんにとっては嬉しいコメントばかりだったと思いますが、改めて運営者として意識していることはありますか。
村上:活動を絶対に止めないことでしょうか。コミュニティは「生き物」ですから活動を止めた途端に死んでしまいます。そこで、Slack内を中心に常に何かしらの活動が動いていることを意識しています。
——データラーニングギルドの概要を聞いていると、データサイエンティストを「企業が抱える」のではなくデータサイエンティストのコミュニティを「企業が共有する」時代だと思いました。
村上:まさにその通りで、その目的意識もあります。現在は、2〜3年で転職することも一般的になっていますが、それで企業との関係が途絶えてしまうのは寂しいと感じていました。退職した元同僚とたまに飲みに行ったりすることもあるとは思いますが、仕事上の関係を保つのは容易ではありません。他に勉強会で知り合ったデータサイエンティスト同士の関係性みたいなケースでも、実際には懇親会で仲良くなったとしても、真面目な議論をする機会はなかなかなかったりします。ギルドでは「継続的なゆるい関係性」を維持していきたいです。
——他方、今回「READYFOR」で成立した「Data Learning Bibliography」を運営。これはどのようなプロジェクトなのでしょうか。
村上:データラーニングギルドには、太田さんのような初学者の人も数多く参加しています。彼らにとって常々の課題が「自分に合った適切な学習コンテンツをみつけること」です。自分がデータサイエンスの初学者だった数年前は、関連コンテンツが日本にほとんど存在しない状態でしたが、今は書籍やオンラインコンテンツが山ほどあります。
——選択肢が多いからこそ、自分の知りたいことに適したコンテンツを選びきれないという別の課題は発生しますね。
村上:その通りです。Slack上でも初学者の質問に対し「この書籍に載っているよ」みたいにレコメンドされることがありますが、回答までには少しタイムラグがあるし、コンテンツとして常設されているわけでもありません。また専門書を含むデータサイエンス関連コンテンツは「○○入門」などと謳いながら、実際は前提知識がないと理解できない類いのものがたくさんあります。
——そこでData Learning Bibliographyを立ち上げた?
村上:はい。プロジェクトページにも書きましたが、Data Learning Bibliographyは「学習コンテンツのレビュー、紹介を見ることができ、自分の学習したい領域に合った書籍を検索できるナレッジベース」です。具体的には、データ領域のコンテンツに関して、カテゴリー、必要となる前提知識、対象読者、書籍のレビューなどのコンテンツが、自分に適切なコンテンツなのか判断するための情報を整理した記事を蓄積するメディアサイトのような形態です。
——運営チームの編成はどのようになっていますか。
村上:直近のプロジェクト成立に向けた活動は、全員で遂行していました。プロジェクト成立後はコンテンツ制作チーム、(WordPressによる)システム開発チーム、マーケティングチームに分かれて活動しています。ここにいる3人も各々がタスクを抱えている状態です。サイト公開は年内を予定していますが、そのときまで50のコンテンツを作成する予定です。すでに予定の半分のコンテンツは仕上がりシステム開発も順調です。
——2022年7月15日、目標金額100万円を達成。達成後の反響をどう受け止めていますか。
村上:コミュニティからも多くの支援が集まりました。非常にありがたいですし、コミュニティの力を再認識しました。一方、企業からの支援は私のネットワークに限定されています。上場企業ともビジネス上のコラボレーションが可能になるよう、認知・理解を広げていきたいと考えています。
——リリース後のサービス形態・マネタイズはどのように想定していますか?
村上:今のところ考えているのは、一般公開されるメディアサイトです。会員登録型の有料サービスでなく、誰でも無料で必要な情報を得ることができます。リリース後のマネタイズはサイト内で紹介している書籍購入に伴うアフィリエイト収益を考えています。今回ご支援いただいた100万円の資金はコンテンツの執筆料金・編集料金、サイトデザインのデザイン料金などに充てられ、その枠の中で初回のコンテンツ制作費を賄います。リリース後の継続的なコンテンツ追加・更新については、これから詰めていきます。
——他の3人も他の仕事がある中でプロジェクトに参加していますが、参加のモチベーションはどこにあるのでしょうか?
吉岡:動機はシンプルで、やったことがないことで面白そうと思ったからです。昨今はパラレルキャリアや複業という言葉もありますが、1つの組織における経験しかできないことはもったいなく、同じ時間軸の中で複数のことを体験していけたら楽しいという価値観がベースにある気がします。
長谷川:私の活動ポリシーは「日本のデータサイエンティストが本当に活躍できる世界をつくりたい」ということです。しかし過去の自分、あるいは今の自分もそうであるように、良い教材や自分が知りたい情報にアクセスするのはとても難しい。このプロジェクトが特に若手データサイエンティストに対して、良い役割を果たせるのではないかと思いました。
太田:データサイエンティストにキャリアチェンジする中で実感したのは「学ばなければならない内容の多さ」でした。膨大な数の書籍を読むこともありますが、いざ読み進めていくと「あれ、この本ではなかった(求めていた情報がなかった)」なんてことがよくあり、無駄な時間を増やしていました。なお、1日のタスクには仕事もあるため、学ぶ時間も効率的に使う必要があります。そんな自分の体験から他の初学者がより効率良く学ぶ環境を作りたいと考え、このプロジェクトに共感して進めております。
——今日の総括として「これからデータサイエンティスト人材をいかに増やしていくのか」という課題に対しての考えをお聞かせください。まずは、初学者の太田さんも受講した「データラーニングスクール」を運営する村上氏は、どうですか。
村上:スクールは1年間のカリキュラムで、毎年30人ほどが受講しています。企業に勤めている現役のデータサイエンティストもいれば、太田さんのように転身を図る初学者もいます。データラーニングギルドのようなコミュニティをつくった理由は冒頭に説明しましたが、ギルドはスクールの1年間のプログラムで十分に習得できなかった人のためのセーフティーネットを兼ねています。スクールとギルドを通じ、学び続けられる環境をつくりたいと考えています。
——新規採用という側面だけではなく、今後は太田さんのように、リスキリングやアンラーニングを経てからデータサイエンティストになるケースも増えていくと思います。そうした方にとってはスクールとギルドの存在は心強いのではないでしょうか。
村上:ありがとうございます。ただ今回のクラウドファンディングのプロジェクトを単体で見ると、収益性という意味では完全にマイナスです。それでもやる価値はあると思っています。データサイエンスの領域には専門性を非常に重視する人も多く、初学者への間口が狭い傾向があります。Data Learning Bibliographyは、その間口を少しでも広げられるような媒体になると期待しています。同時に、今後はデータサイエンティストの教育・育成に関心を持つ人を巻き込んでいきたいと考えています。
——ありがとうございます。最後にデータサイエンティスト人材を増やしていく未来について、他の皆さんの展望や意気込みをお聞かせください。
長谷川:日本人は平均寿命が長く、一生涯における生産期間が長いという特徴があります。その意味でも、長いライフタイムの中でのリスキリングが注目されています。私は多くの日本人にとって、データサイエンスに関わること、新しいスキルとして学ぶことが「特別なこと」ではなく、「普通のこと」にしていく必要があると考えています。今回のプロジェクトでサービスを立ち上げたことにより、今後どのような反響があるのか自分にはまだ分かりません。ただインフラが未整備なところに新しいインフラを整備する活動にはワクワクしています。これをきっかけにデータサイエンスを学ぶ人達にとって良い流れをつくっていきたいです。
太田:この1年間データ分析に関わってきた中、お客さまのデータ活用に関する関心度の高さを日頃から感じております。しかし「いざ活用しようと思っても、データの使い方が分からない」という声も多く、たとえ分析のためのデータをいただいても形式が整っていないなんてことがたびたび起こります。私個人の目標としては、そうしたデータ活用に起こりがちな「遠回り」な状況を打破する人材になることだと考えています。
吉岡:少し切り口が変わりますが、今回、大変ありがたいことにプロジェクトは成立したものの、このサービスを本当に必要とする人には、まだほとんど届いていません。いくら作り手が「これは役に立つ」という想いでいても、ユーザーに届かなければ意味がありません。サービスの認知拡大に努めていきたいです。
——皆さんの活動はまさしく「データサイエンスの民主化」だと感じました。スクールとギルド、そして今回立ち上げるメディアサイトの歯車がかみ合えば、多様性・継続性を兼ねたデータサイエンティストのエコシステムが形成されるのではないかと期待しています。本日はありがとうございました。
吉岡 拓真(よしおか・たくま)氏|写真左
2016年株式会社構造計画研究所に新卒入社。数理最適化エンジニアとして従事。2019年妻ともにタイ王国へ移住、現地採用キャリアを歩み始める。現在は豊田通商システムズ(タイ)にてNoCode開発組織及びデジタライゼーション支援事業の立ち上げを主導。
村上智之(むらかみ・ともゆき)氏|写真中
株式会社ALBERTにてデータサイエンティストとしてキャリアをスタートし、機械学習やデータエンジニアリングに関する基礎を習得。株式会社イノーバでマーケティングオートメーションツールの開発やサービス企画の経験を積んだ後、澪標アナリティクス株式会社にて、大手自動車メーカーの分析チーム立ち上げに従事。2018年5月に株式会社データラーニングを設立。初学者に向けたデータ分析の教育事業とデータ分析の受託事業、データ分析人材向け有料職業紹介事業を展開。社員数数万人規模、売上数千億円以上の大規模企業からスタートアップまで、幅広い領域での分析コンサルティングを手がける。
長谷川 徹(はせがわ・とおる)氏|写真右
新卒で大手総合化学メーカーに就職したケミカルエンジニア。業務革新、生産プロセス開発等を経験。Kaggleに挑戦したことがきっかけでデータサイエンスを学び、現在はデータサイエンティストとして社内のデジタル変革を推進。
太田 雄(おおた・ゆう)氏|写真右上
部品メーカーの生産技術開発職、半導体大手商社の技術営業職を経験。データ分析に興味を持ったことをきっかけに、2021年にデータサイエンティストにキャリアチェンジを果たす。現在は、製造業の顧客に対してデータ解析・可視化・予兆管理システム構築支援を実施。
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