日本人の賃金が他国と比べて低いという話を耳にしたことがあるでしょうか?
その原因のひとつに「モノプソニー」があると指摘するのは、今年の3月に出版された『日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長』(デービッド・アトキンソン著、東洋経済新報社)です。
本記事ではその鋭い指摘を援用しつつ、日本人の賃金にまつわるさまざまなデータをご紹介します。
まずは日本の賃金が国際的にみてどれだけ低いのか、データをもとに見ていきましょう。
2019年のOECD加盟36カ国の平均賃金を比較した以下のグラフをご覧ください。色付けされたG7(※)のうち、最も平均賃金が低いのが青色に色付けされた日本(3万8,600USドル=2020年7月16日のレートで412万円程度)です。
※…アメリカ、ドイツ、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、日本
引用元:Average wages┃OECD
このデータには購買力平価(PPP)が用いられているため、インフレ率によらず各国の実態をある程度反映したものといえます。
さらに、1990年から2019年までの30年間のG7各国(ドイツは1991年~)の推移を見てみましょう。
引用元:Average wages┃OECD
ご覧のように、日本(青)とイタリア(黄色)はほぼ横ばい(日本:1.06倍、イタリア:1.04倍)でこの30年間ほとんど賃金に伸びが見られなかったことがわかります。
しかし、他国に目を向けると、1990年ごろ~2019年にかけて、アメリカは1.42倍、イギリスは1.48倍、ドイツは1.34倍、フランスは1.35倍、カナダは1.33倍、と平均賃金は伸びています。G7外ではエストニア(1995年から2019年で3.3倍)のように3倍になった国もあります。つまり、日本とイタリアは他国と比較して著しく賃金が伸び悩んでいるということです。
デービッド・アトキンソン氏はこの背景にモノプソニーの影響があると指摘しています。
モノプソニー(monopsony)は「1つの買い手が供給者に対して独占的な支配力を持つこと(※)」を意味する経済学用語です。転じて新モノプソニー論では「雇用側が労働者に対して相対的に強い交渉力を行使し、割安で労働力を調達することができる(※)」という状況を指し示す意味で用いられています。
モノプソニーの発生により人材が本来の価値よりも低い金額で働く状況は、昨今改善の必要性が叫ばれている“労働生産性”にも大きな悪影響を与えます。
日本は優秀な潜在能力を持つ人材を多く抱える国です。しかし、彼らはモノプソニーにより本来よりも、付加価値を生み出せないため賃金の低い──すなわち生産性の低い企業で働くことになります。
そんな状況では生産性の低い企業の淘汰が進みません。さらに低い賃金で優秀な人材が獲得できるため、生産性向上に対するモチベーションが企業に生じづらくなります。
その結果、 企業規模の拡大や設備投資、ICTの導入といった生産性アップに効果的な取り組みが進まず日本全体の生産性は一層落ち込むことになります。
このようにモノプソニーは個人の台所事情から日本経済全体にまで悪影響を及ぼす、まさに“日本の労働市場に巣くう病理”といえるのです。
※デービッド・アトキンソン『日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長 Kindle版』東洋経済新報社、2020、ロケーション4107の2102
※デービッド・アトキンソン『日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長 Kindle版』東洋経済新報社、2020、ロケーション4107の2102~2110
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