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IQが高いだけでは、幸せになれないのかもしれない−−
以前の記事で取り上げた「ペリー就学前プログラム」の成果を見ると、人生という旅を上手に楽しむには、IQで示される認知能力ではない「非認知能力」が重要なことが分かります。
非認知能力とは、感情をコントロールする能力、粘り強さ、周囲と上手に関わるスキルといった、IQでは測れない人間力のこと。最近では、IQが高くても非認知能力が低いと人生の満足度が下がってしまう、という見方が強まっています。
非認知能力の強化は、幼児期に取り組むのが最も効果が得られやすいとされます。日本でも2017年3月の学習指導要領改訂の際、非認知能力を強化するプログラムが導入され、保育所保育指針、幼稚園教育要領も併せて改訂されました。
では早速ですが、非認知能力とはなんなのでしょうか。文部科学省によると非認知能力とは下記を指します。
〜〜非認知能力は、意欲・意志、自覚し見渡す力、人と協力する力等を含む。乳幼児期・学童期・思春期を通して育つ。
〜〜非認知能力とは、主に意欲・意志・情動・社会性に関わる3つの要素(①自分の目標を目指して粘り強く取り組む、②そのためにやり方を調整し工夫する、③友達と同じ目標に向けて協力し合う。)からなる。特に幼児期(満4歳から5歳)に顕著な発達が見られ、学童期・思春期の発達を
経て、大人に近づく。気質差、個人差が大きい。自己をコントロールすることが基礎にあるが、認知と非認知の両面を必要とする。教育を通して育成可能性がある。
引用:文部科学省
上記に記載した通り、非認知能力とは数値では表すことのできないような人間的な力と言えます。また、上記より大きく3つの要素があるのもわかります。
この特徴は非認知能力の「3つの柱」とも呼ばれたりもします。さらに、OECDでは非認知能力を「社会情動的スキル」として紹介しており、下記のような力が関わるスキルと説明されています。
社会情動的スキルは、非認知スキル、ソフトスキル、性格スキルなどとしても知られるが、目標の達成、他者との協働、情動の制御に関わるようなスキルである
引用:OECD
文部科学省とOECDが紹介している通り、非認知能力とは大きく3つの特徴を持った能力といえます。
非認知能力が必要とされるきっかけは、1960年代にアメリカで行われた「ペリー就学前プロジェクト」です。このプロジェクトは、経済的に恵まれない3歳〜4歳のアフリカ系アメリカ人の子どもたちを対象にした教育プログラムの研究でした。
子どもたちはランダムにプログラムを受けるグループと受けないグループに分けられました。プログラムを受けたグループの子どもたちは、午前中には「子どもたちが主体となる学び方(アクティブ・ラーニング)」を取り入れた学校教育を受けました。
また、週に1回は先生が家庭訪問し、親子の関わり方についての指導を行いました。40年間の追跡調査の結果、プログラムを受けたグループの子どもたちは、受けていないグループと比べて認知能力に大きな差はありませんでしたが、学習成績が高く、より安定した社会生活を送り、犯罪率や生活保護受給率も低いことがわかりました。
この結果から、両者の差を生み出したのは、「認知能力以外の力」である可能性が考えられるようになりました。つまり、テストなどでは測ることのできない「非認知能力」が重要であり、この能力が社会での適応力につながり、子どもたちの人生を豊かにすると言えます。
現代の子どもたちが生きる社会は、国際化や多様化が進み、ますます変化に富んでいるため、今再び「非認知能力」が注目されています。
前述しましたが、非認知能力は数値で表すのが難しいため、種類としては幅広いです。具体的にイメージしづらいと思いますので、研究者によって定義づけされた例を紹介します。
名称 | 具体的なスキル |
自己認識 | やり抜く力・自信力・自己肯定感 |
忍耐力 | 粘り強く頑張れる力 |
自己制御 | 自制心・精神力・理性 |
メタ認知 | 客観的志向能力 |
社会的能力 | リーダーシップ・協調性 |
対応能力 | 応用力・楽観性 |
クリエイティブ力 | 創造力・工夫力 |
意欲 | 学習志向力・やる気・集中能力 |
上記からわかるように、非認知能力とは子育てをする上で聞いたこと・見たことがあるような能力ばかりかと思います。子どもを育てる上で上記の能力を育んであげたいと思うものが多いのではないでしょうか。
ここまで非認知能力の種類や必要性について紹介しましたが、認知能力との違いがわからない方がいるかと思います。
認知能力は、IQなどの数値で測定できる知的な能力を指します。このような能力は一般的に理解しやすく、大人が子供の能力を評価する際に参考にされることがあります。
一方、非認知能力は、数値化が難しい内面的なスキルを指します。具体的には、目標を立てて取り組む能力や意欲を示す能力、新しい発想をする能力、そして円滑なコミュニケーションをとる能力などが含まれます。
認知能力と非認知能力は、子どもが充実した人生を送る上で重要な能力となりますので、できる限り育んであげれるようにしましょう。
認知能力がIQ(Intelligence Quotient=知能指数)で表されるように、非認知能力は5つのQで表されます。
1. EQ(Emotional Quotient)
心の知能指数。感情をコントロールする力。自分の行動の結果や責任を想像する力。
2. SQ(Social Quotient)
社会的指数。人の気持ちや状況を想像する力。
3. CQ(Creative Quotient)
発想指数。創造力や発想力の強さ。
4. PQ(Physical Quotient)
身体的能力。忍耐力や継続力の強さ。いわゆる「グリッド」。
5. AQ(Adversity Quotient)
逆境指数。逆境にめげずに前進する力。
IQを測定するIQテストのように、5Qを測定するテストはあるのでしょうか?
子供の非認知能力を高めるには、子育ての中でどのようなステップを踏んでいけばいいのでしょうか?
子供の成長を脳の発達として考えると、以下のような段階を踏むのが理想的とされています。
0〜5歳 「生きるための脳」を育てる
規則正しい生活や運動習慣を通して健康な身体をつくる6〜14歳 「人間らしさの脳」を育てる
ルールのある複雑な遊び、勉強、技術の必要なスポーツなど、知性を伸ばす活動に取り組む10〜18歳 「社会の脳」を育てる
感情のコントロールや他人に対する思いやりを身につける早期教育や入学前教育と聞くと、英語学習や習い事を思い浮かべがちかもしれません。しかし小学校入学以前は知性教育よりも、十分な栄養と睡眠をとり、たっぷり身体を動かして遊ぶことで、「生きるための脳」を育てることが重要です。
健康な心身の基礎となる「生きるための脳」が未熟だと、CQ、PQに繋がる「人間らしさの脳」や、EQ、SQ、AQに繋がる「社会の脳」が育ちません。
また、非認知能力は乳幼児期から順調にステップを踏んで育くむのが理想的ですが、どこかの段階で失敗してしまった場合、何歳でも戻ってやり直しができると言います。
現在生きづらさを感じている人は、今からでも非認知能力を高めることで生き方が変わるかもしれませんよ
子供のためにできる非認知能力を育てるポイントを紹介します。
順に紹介します。
子どもが自分自身で興味を持ったり楽しんで取り組んでいることを積極的にサポートすることで、非認知能力が向上すると言われています。例えば、「危ないからやめなさい」とか「時間がないからやめておきなさい」といった理由で、子どもがやりたがっていることを止めることは避けましょう。
子どもの非認知能力を高めるためには、自分自身で決める・選択する経験が重要です。例えば、「○○ちゃんはどうしたい?」や「どっちを選んだらいいかな?」といった問いかけを通じて、子どもにできるだけ多くの場面で物事を自分で決めさせるようにしましょう。子どもが自分に決定権があることを感じることで、彼らは大切にされていると感じ、自己肯定感も高まっていくのです。
子供であろうとも、誰しもうまくいかなかったり失敗したりすることはあるものです。そのような場合に、子供を責めたりがっかりしたりするのは望ましくありません。代わりに、「もう一度やってみましょうか」「こうすればうまくいくかもしれません」という前向きな声をかけて、子供の挑戦する気持ちをサポートしましょう。
「えらいね」という褒め言葉だけでは、子どもにはうまく伝わらないこともあります。子どもの自己肯定感を高めるためには、単に結果を褒めるのではなく、その結果に至るまでの努力も褒めることが大切です。また、保護者の方からの「ありがとう」という言葉は、子どもにとって喜びとなり、やる気を引き出す力になります。
前章では非認知能力を育てるポイントを紹介しましたが、育む上で注意しなければいけないことが何点かありますので、本章では注意点として3つ紹介します。
順に紹介しますので、ポイントとともに押さえておいてください。
子供は大人が思っている以上に敏感です。もし保護者がイライラしていたり、失敗した時に大声で怒鳴ったりすると、子供は引っ込んでしまい、能力を伸ばすのが難しくなってしまいます。忙しい毎日でイライラすることもあるかもしれませんが、子供の成長のためには細かいことにこだわらず、柔軟に対応するように心がけましょう。
「失敗したらかわいそう」と思って、ついつい先回りしてしまうことはありませんか? しかし、失敗は成長の一環です。子どもたちは小さな失敗を通じて「失敗してもやり直せる」ということを学んでいくものです。もちろん、けがなどには注意が必要ですが、できるだけ子ども自身が自分の力で行動できるように見守ってあげましょう。
「○○ちゃんは上手にできたのに」という言葉をかけると、子どもは大きな劣等感を感じてしまいます。子どもたちはそれぞれ個性やペースがありますので、同じことができたりできなかったりすることを人と比べることは避けましょう。学研教室では、自然にチャレンジする力が身につくよう、さまざまな取り組みを行っています。もし子どもの非認知能力を伸ばしたい場合には、学研教室を活用してください。
非認知能力に関するよくある質問を紹介します。
それぞれお答えしますので、同じような疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください。
非認知能力を伸ばすには下記のような方法が挙げられます。
上記のような遊びや習い事が、非認知能力を伸ばすにはおすすめです。
非認知能力が高い子どもの特徴としては下記が挙げられます。
上記のような特徴を有している子どもは、非認知能力が高いです。
非認知能力をある程度可視化するテストと言えば、ビッグファイブが有名です。
様々な質問に回答することで、「開放性、外向性、勤勉性、協調性、情緒安定性」の5つの要素のポイントを測定します。基本的には、これらのポイントが高いほど人生への満足度が高いと言われています。
ポイント高 | ポイント低 | |
開放性(CQ) | 知的好奇心が旺盛、新しい物事にチャレンジしたがる | 保守的でマニュアル通りを好む |
外向性 | 外向的で社交性が高い | 内向的で社交性が低い |
勤勉性(PQ、AQ) | 粘り強い、計画性がある | 飽きっぽい、計画性がない |
協調性(SQ) | 周囲と協力するのが得意、思いやりがある | 単独行動を好む、自己中心的 |
情緒安定性(EQ) | リラックスしている、感情のコントロールができる | 神経症的、感情の波が激しい |
さて、成功者ならビッグファイブのポイントはまんべんなく高いと思いませんか? ところがある調査によると、資産100万ドル以上の資産家は協調性が顕著に低いそう。金銭的に成功するには、空気を読まないワンマン資質が必要なのかもしれません。
面白いのが、幸福度は年収約800万円を境に横ばいになるという研究結果。つまり年収8万ドルを超えると、その後はどれだけ稼ごうが幸福度には影響しないというのです。
そこでは、年収800万円に達したのちに金銭に変わって幸福度を高めるのは、家族や友人との良好な人間関係や社会への貢献だと言います。それには非認知能力の中でも協調性が重要になります。
人生の満足感を高めたいのであれば、資産家になれる可能性が低下しても協調性を育む方がいいのかも?
本記事では、数字で判断できない非認知能力を紹介しました。非認知能力は大きく分けて3つの要素からなっており、IQが高くても非認知能力が低いと人生の満足度が下がってしまいかねないので、鍛えるのが望ましいです。非認知能力の要素は下記の通り。
上記の力は幼児期に成長しやすいため、非認知能力の発達を促せるような遊びや習い事を積極的に挑戦させてあげるのがおすすめです。自身の子どもの非認知能力を育んであげれるよう、本記事を参考にしてみてください。
(佐藤ちひろ)
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