少子化高齢化が進む現代社会において、子育て世帯の経済的安定はますます重要なテーマとなっています。そうした中で、最近では、クラウディア・ゴールディン博士の研究のノーベル賞受賞が話題に。ゴールディン博士は、経済学者として、労働市場における男女格差の原因を探る研究により今回の受賞を果たしました。
社会において、女性の活躍の幅が広がる中、コロナ禍におけるリモートワークの広がりも働き方の変化を後押し、共働きの世帯も拡大しています。少子高齢化による社会不安と共働き世帯の拡大によって、子育て世帯の年収がどのように変容しているのか、その詳細を探ってみましょう。
厚生労働省が例年発表している「国民生活基礎調査の概況」の2022年度版が2023年7月に公開されました。
調査によると児童のいる世帯(=子育て世帯)の平均所得は785万円と、全体の平均平均所得545.7万円より240万円以上、実に1.4倍以上高くなっています。
この数値によって、所得が高い人じゃないと子どもが持てないのではないか、と一部で話題になりました。
「子育て世帯は所得が高い」というのは本当なのか、さらに詳しく見ていきましょう。
ここで「国民生活基礎調査の概況」から世帯の分類別に所得の経年変化を表とグラフにしたものが以下になります。
2012年 |
2013年 |
2014年 |
2015年 |
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2020年 |
2021年 |
|
全世帯(万円) |
537.2 |
528.9 |
541.9 |
545.4 |
560.2 |
551.6 |
552.3 |
564.3 |
545.7 |
高齢者世帯(万円) |
309.1 |
300.5 |
297.3 |
308.1 |
318.6 |
334.9 |
312.6 |
332.9 |
318.3 |
高齢者世帯以外の世帯(万円) |
610.2 |
615.2 |
636.4 |
638 |
656.3 |
653.2 |
659.3 |
685.9 |
665 |
児童のいる世帯(万円) |
673.2 |
696.3 |
712.9 |
707.6 |
739.8 |
743.6 |
745.9 |
813.5 |
785 |
こうしてみると、高齢者世帯の所得が300万円前半と低いことがわかります。一方で、高齢者世帯以外の世帯でみると2020年代には600万円台後半となっています。
そこで、全体の平均所得と児童のいる世帯の平均所得、高齢者世帯以外の世帯と児童のいる世帯の平均所得を比較すると以下のグラフのようになります。
平均と比較すると格差は急速に拡大しているように見えますが、高齢者世帯以外の世帯と児童のいる世帯の平均所得で見ると、格差は拡大傾向にあるものの、平均との比較より遥かに小さいものだとわかります。
同様の調査から、世帯構造ごとに世帯数の比率を出したのが以下のグラフになっています。
こうしてみると、単身世帯が急増しているのがわかります。この背景には高齢者世帯の増加もありますが、婚姻率の低下も要因として挙げられます。
従って、高齢者世帯以外の世帯において、単身世帯の割合が増えていることが推察されます。一方で子どものいる世帯は夫婦のいる世帯も多く、共働き世帯が増える中、その他の世帯と比較して構成員一人一人でみると所得が高い、と言い切るのは難しいのではないでしょうか?
ここまでの調査で、子育て世帯は全体の平均より1.4倍以上所得が高いことがわかりました。一方で、単身世帯が増加し、年金で生活する高齢者世帯も急増していることを考慮すると、所得が高くないと子どもを持つことが難しい、という印象は強くバイアスがかかったものであるといえます。
このように一つの数値だけで単純化すると過大な評価をしてしまいがちになるので、さまざまな数値と比較検討して、より実態に迫る必要があるのではないでしょうか?
(大藤ヨシヲ)
・2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 | 厚生労働省・生涯未婚率 男性は28.3%、女性は17.8%(2020年)| 日本経済新聞・ノーベル経済学賞にゴールディン氏、男女賃金格差を研究 初の女性単独受賞 | BBC News・年収は子どもを持つ条件の1つ?子育て世帯の年収が「全世帯平均」の1.4倍に | LIMO
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