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オンワードホールディングス(HD)は2024年7月4日、2025年2月期(2024年度)第1四半期の決算を発表した。売上高は514億円(前年同期比2.9%増)、当期純利益は40億円(同20.1%増)と好調だ。
アパレル不況に加え、コロナ禍で苦戦する業界他社が多い中、オンワードグループが大きく成長している。その要因は新規企画商品の好調にあるが、背景にはOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)サービスである「クリック&トライ」の利用拡大がある。オンワードグループのデジタル戦略を担うオンワードデジタルラボ代表取締役社長の山下氏は次のように説明する。
「『クリック&トライ』は、当社グループのオンラインストア『ONWARD CROSSET』のアイテムを実店舗に取り寄せて試着・購入できるサービスです。既存店舗の約60%に当たる404店舗が、このサービスに対応しています。また、この中の140店舗は、株式会社オンワード樫山が展開する複数のブランドを取り扱う『ONWARD CROSSET SELECT』(OCS)で、ブランドの垣根を越えた幅広いラインアップから買い物をお楽しみいただけます」(山下氏)
実際、経済産業省が2023年8月に公表した「電子商取引に関する市場調査」によれば、2022年の衣類・服装雑貨品のEC市場は2.5兆円程度、EC化率21.56%と、流通チャネルが店舗主体からECが常態化する状況となっている。また、オンワードが提供するメンバーシッププログラムであるオンワードメンバーズの会員(回答者 31,900名、回答数 52,467件)に実施したアンケートでは「ネット通販で購入せず、店頭で購入する理由は?」という質問に対して、42.2%が「実物を確認して購入したいから」、37.0%が「試着して購入したいから」と回答があり、ECが常態化する中でも、店舗における役割は大きいことが見て取れる。
第1四半期の決算によれば、「クリック&トライ」の導入店舗の前年同期比売上高は未導入店舗を17%上回り、OCS店舗はそれ以外の店舗の売上高を13%上回るという。このことからOMO戦略の成果が如実に表れていることが分かる。
山下氏はオンワード樫山に新卒で入社後、販売、営業を経て、2012年にEC部門へ異動。2020年にオンワードグループ全体のデジタル事業をサポートするオンワードデジタルラボに出向、2023年3月にオンワードデジタルラボの代表取締役社長に就任した(オンワード樫山のEC戦略グループ長を兼任)。
「デジタル業界では複数の会社を渡り歩いている人が多いと耳にしますので、私のようにずっと同じ会社というのは珍しいのではないでしょうか」と山下氏は語るが、販売や商品発注などを経験した後、草創期から十数年以上にわたりオンワード樫山のEC事業に携わってきた経歴を持ち、業界でもパイオニア的存在だ。
2019年3月創業のオンワードデジタルラボは、オンワードグループのDXを推進する会社で、グループのECプラットフォーム事業の他、デジタルマーケティングの支援などを行っている。また、「ONWARD CROSSET」以外にも、お取り寄せグルメ通販サイト「ONWARD MARCHE」(オンワード・マルシェ)、ファクトリーブランドの支援サービス「CRAHUG」(クラハグ)など、ショッピングサイトの運営も行っている。
「ONWARD MARCHE」は、全国の「ご当地食材」を販売するもので、「ライフスタイルを豊かにするという点では衣と食には共通点があります」と山下氏。「CRAHUG」は、CRAFTSMAN(職人)とHUG(触れ合う)を組み合わせた造語で、全国の工場・生産者などが独自に企画する商品の開発や販売を支援する。ライバル企業を手助けすることにもなりかねない取り組みだが、山下氏は「アパレル業界の発展のためには、競合と張り合うよりも、協業していく方がメリットがあると考えています」と意義を語る。
地方創生・地産地消という観点でも、「ONWARD MARCHE」や「CRAHUG」はオンワードグループが目指すサステナブル経営の一環といえる。「オンワードホールディングス代表取締役社長の保元(道宣氏)はよく、ジャッジ(意思決定)を早くすることが大事だと話しています。子会社化の狙いはそこにあります。ただし、そのジャッジのためには、現場感だったり、デジタルがどういう形で誰に使われるのかを知っておくことが必要だと、保元も言っています」と山下氏は説明する。
前述した「ONWARD CROSSET」および「ONWARD CROSSET SELECT」の取り組みも革新的なものだ。
「ONWARD CROSSETはオンラインストア、ONWARD CROSSET SELECTはリアル店舗という違いはありますが、どちらも、『23区』、『ICB』、『自由区』といったオンワードの複数のブランドを集めて展開しているのが大きな特徴です。これまでは、1店舗1ブランドという形態が通例であり、当社のお客様も複数のブランドの店舗を訪れて購入されていました。よりよい買い物体験を提供したいという考えから、このようなブランドの垣根を越えた店舗が実現しました」(山下氏)
また山下氏は、「クリック&トライ」が支持されている理由について、「当社のあるブランドが好きだとおっしゃっていただいているお客様でも、たまには違うブランドで冒険してみたいと思われることもあるでしょう。そのときに、いきなりECで買うのは勇気が要ります。また、冠婚葬祭やお子さんの入学式、卒業式などの『ハレの日』に着るものは、着心地や素材なども含めてしっかりと確認したいという方が多い」と分析する。
オンワードグループには「ONWARD MEMBERS」と呼ばれるメンバーシッププログラムがあり、現在530万人以上の会員を有する。「クリック&トライ」の利用も増加しているという。利用者および売上高が伸びている理由は、利便性だけではない。
「私も店舗の販売経験がありますが、1店舗1ブランドだと、店に在庫があるアイテムの中から提案するしかありません。しかし、『クリック&トライ』ができたことで、店舗にないアイテムも含めてオンワードのほぼ全てのブランドの中から提案することができます。販売員の提案の幅が格段に広がり、CX(顧客体験)の向上につながっています」(山下氏)
「クリック&トライ」は、取り寄せの場合でも首都圏の店舗では最短2日で試着することができるという。言葉にするのは簡単だが、これを実現するオペレーションの整備は容易ではないだろう。「お客様が購入に至らなかった場合は、商品が再び倉庫へ戻ってくることになりますから、再販売のスピードアップに向けた物流フローを、現場のオペレーション最適にもつながるように変更しました」と山下氏。現在もリードタイムの短縮など運用体制の強化を図るため、PDCAを回しながら常に改善しているという。
デジタルデータの活用はどのように行っているのだろうか。
「2020年にオンラインストアの大規模なリプレイスを行いました。その際に実施したのが、オンラインストアのデータとリアル店舗のデータの統合です。それまでは別々に管理していたため、お客様がオンラインストアで『お気に入り』に入れたアイテムをリアル店舗で購入された後に、オンラインストアから『お買い忘れはありませんか』と購入済みのアイテムのレコメンドメールが届くといったこともありました。データの一元化を行うことで、これらのちぐはぐな体験を解消できるようになりました。一方、リアル店舗でも、データを活用し、より良い接客ができるようになると考えています」(山下氏)
オンワードグループのDXは、店舗の販売員など従業員の働き方の改革にも及ぶ。「クリック&トライ」サービスの拡大やリアル店舗に限らずオンライン上でもお客様と接することができるようになった今、販売員の働き方も変化している。
「短期的な売り上げよりも、LTV(顧客生涯価値)の観点で、お客様に支持していただけることが大切です。この点においてまさにお客様のCXが重要になると考えています。販売員には、複数のブランドに対する知識が求められるようにもなりますが、『ブランドの縛りがなくなったことで、よりお客様に喜ばれる提案ができるようになった』という肯定的な意見が多く聞かれます」(山下氏)
アパレル業界では販売員の個々のスキルに売り上げが依存するところが多い。売れる販売スタッフとそうでない販売スタッフの差はなかなか埋められないともいわれる。
「デジタルデータの活用で、属人的な部分の定量化にも取り組んでいく計画です。例えば、あるお客様がゆったり目のフォルムが好きなのか、細身のスキニージーンズのようなシルエットが好きなのかは、販売員なら感覚的に分かるものです。ただしそれをデジタルデータに置き換えるとなると簡単ではありません。また、アパレルは主観に頼る部分が大きいのも特徴です。これを踏まえてどのようにアプローチしていくのかが、今後の大きなテーマになるでしょう。CXを向上するためにはどのような提案がふさわしいのか、AIなどのテクノロジーも活用しながら、感性をデータ化する取り組みを進めていきます」
DXはあくまでもCXのためであると強調する山下氏だが、その実行に必要なデジタル人材の育成について、どのように考えているのだろうか。
「社内(オンワードグループ)においてデータの活用は、もっと民主化されるべきだと感じています。データからさまざまなインサイトを導き出せるということを、私たちが広げていく必要があります。一方で、データ分析は大事ですが、それよりも大切なのは、ビジネスの課題をデータでどのように解決するかです。一見、相反するように聞こえるかもしれませんが、私はよく、『データを見ろ、信じるな』と言っています。データを見ているだけでは『真相』は分からないものです。『真』をつかむためには、顧客の生の声など、フィジカルなコミュニケーションが重要です。
データを一つの取っかかりにして、さまざまな確度からデータを見て、仮説を立て、検証していくことで、はじめてデータと現実がつながっていく。そうしていくことが、データをうまく使っていくということだと思います。自分たちのブランドの強みは何なのか、自分たちのお客様はどのような人なのか、ビジネスの根幹に対する理解がなければ要件定義もできません。あくまでもビジネスを行うためのデジタルです。その点を強く意識することで、オンワードグループならではのデジタル人財が育ってくると思います」(山下氏)
アパレル業界全体の変革にもつながる、オンワードグループの取り組みに引き続き大いに注目したい。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:渡邊大智 編集:野島光太郎)
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