日本で個人情報保護法が成立したのは2003年のこと。情報通信技術の進展とともに改正が進められ、近年の改正ではAI・ビッグデータ時代に即した内容の拡充や官民一元化に取り組まれています。
そんななかで注目を集めているのが「プライバシー・バイ・デザイン」という概念です。なぜ重要なのか、どのように実現すべきなのかなど情報セキュリティを高めるにあたって知っておくべきポイントをまとめてご紹介します!
「プライバシー・バイ・デザイン」(PbD:Privacy by Design)とは、”個人情報保護の仕組みをシステムやサービスの企画時点で設計し、組み込んでおくこと“を意味します。1990年代、カナダ、オンタリオ州の情報プライバシーコミッショナー、アン・カブキアン博士によって開発されました。
上記の動画でCBC News(カナダの公共放送)のインタビューに答えている女性がアン・カブキアン博士。カナダ・トロントで進むスマートシティ計画におけるAlphabet傘下の私企業Sidewalk Labsのデータの取り扱いにPbDの観点から懸念を覚え、要職を辞任した背景について説明しています。
日本でもスーパーシティ構想などスマートシティ計画が進められる途上にあり、防犯カメラやセンサーから取得したデータの利用に伴いプライバシー・バイ・デザインの重要性も高まるでしょう。
また、近年企業が保有する個人情報流出事件がたびたび問題になるように、民間企業もプライバシー・バイ・デザインの考え方を組み込むことは不可欠です。
プライバシー・バイ・デザインでは以下の7つの基本原則により、パーソナルデータの保護と適切な活用を実現することを提案します。
【1】事後的ではなく、事前的:救済的でなく予防的
【2】初期設定としてのプライバシー
【3】デザインに組み込まれるプライバシー
【4】全機能的:ゼロサムではなく、ポジティブサム
【5】最初から最後までのセキュリティ:すべてのライフサイクルを保護
【6】可視性と透明性:公開の維持
【7】利用者のプライバシーの尊重:利用者中心主義を維持する
出典:PdD 7つの基本原則┃総務省
【1】はプライバシーの“脅威が起こる前に対処しておく”という、まさにPdDの根幹と言える原則です。【2】は商慣行やITシステムなど個人情報を保護する仕組みがデフォルトの状態として設定されていることを意味します。【3】も同じく、サービスやシステムの設計自体にプライバシーの概念が組み込まれているということで、【4】はプライバシーとセキュリティを対立させず、両方を達成することを目指します。
【5】はデータ他のライフサイクル(最初の取得から破棄まで)のすべての段階でプライバシーが保たれることで達成されます。【6】はプライバシーを保つための仕組みを全ステークホルダーが確認できる状態にあり、機能していることが証明されうることを求めています。そして、【7】はサービスやシステムのプライバシー保護に取り組むうえで、ユーザーを中心に据え、その利益を最大限に維持することを指します。
セキュリティ・バイ・デザイン(SbD:Security by Design)は、プライバシー情報に限らないあらゆるデータやネットワーク上の脅威からの保護をプライバシー・バイ・デザインと同じく事前に構築し、サービスやシステムに組み込んでおくことを意味します。
内閣府サイバーセキュリティセンター(NISC)の資料では、物理的な設備や機器が情報ネットワークに接続されたIoT(モノのインターネット)において「セキュリティ・バイ・デザイン」の思想は不可欠であり、またコストや効果の高さという面でもメリットが大きいと説明されています。なんと、設計時にセキュリティ対策を行った場合と、運用時にセキュリティ対策を行った場合とではコストに100倍の差が生じるとの説明も。
とはいえ、資料が作成された2016年末段階では、「セキュリティ設計の歴史が浅く、上流工程の開発プロセスが定まっていない」「非機能要件であるセキュリティは企画段階で考慮されづらい」という問題があることも指摘されています。現在ではIoTやAIがより一般化したこともあり、当時よりセキュリティ・バイ・デザインの考え方は浸透しているはずです。
「データマネジメント」のバイブルと名高いDAMA InternationalのDMBOK(Data Management Body of Knowledge)がデータマネジメントで押さえるべき領域についてまとめたDAMAホイール図にも「データセキュリティ」という項目があります。データの全体像を把握し、機密度や重要度によってセキュリティレベルを定め、それに応じてデータを保護しつづける仕組みを設けることはもはやデータマネジメントにおいて当たり前のことなのです。
プライバシー・バイ・デザインを実現するための手段の一つにプライバシー影響評価(PIA:Privacy Impact Assessment)があります。PIAとは、“個人情報を取り扱うサービス・システムを構築する段階でそのリスクを評価し、管理体制や対応計画を事前に構築しておくこと”を意味します。一般社団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の資料によると、PIAは以下の8ステップで実施することができます。
ステップ1:PIAの必要性の決定
ステップ2:PIAの事前準備
ステップ3:アセスメント対象の説明
ステップ4:ステークホルダーのエンゲージメント
ステップ5:プライバシー安全対策要件の決定
ステップ6:プライバシーリスクアセスメント
ステップ7:プライバシーリスク対応の準備
ステップ8:PIAのフォローアップ
出典:プライバシー影響評価(Privacy Impact Assessment)〜ISO/IEC29134:2017 の JIS 化について〜 ┃一般社団法人日本情報経済社会推進協会
変化の激しいVUCA時代、事前に計画を固め過ぎずアジャイルに事業を進めることが重要だとされています。しかし、そんななかでも、プライバシー保護やセキュリティ対策については企画段階から組み込んでおくことは不可欠です。
プライバシー・バイ・デザインは、7つの原則にある通り、データをはじめに取得してから破棄するまでつづきます。新たなリスクに対し対策をアップデートすることも含めて、計画を進めていきましょう。
【参考資料】 ・個人情報保護法令和2年改正及び令和3年改正案について┃個人情報保護委員会 ・PdD 7つの基本原則┃総務省 ・セキュリティ・バイ・デザイン入門~看板倒れでない設計段階のセキュリティ対策とは~┃IPA(独立行政法人情報処理推進機構) ・ゆずたそ (著, 編集), はせりょ (著) 『データマネジメントが30分でわかる本 Kindle版』2020 ・プライバシー影響評価(Privacy Impact Assessment)〜ISO/IEC29134:2017 の JIS 化について〜 ┃一般社団法人日本情報経済社会推進協会 ・DXに必須!プライバシーガバナンス 第3回/全5回 プライバシー影響評価(PIA)の実践が企業のガバナンスを促進┃日経XTREND ・プライバシー・バイ・デザインの実務的な基本概念と重要性┃EY 新日本有限責任監査法人
(宮田文机)
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