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「ユートピア」や「ディストピア」を超えて: ケヴィン・ケリーが提唱する「プロトピア」という新しい未来のビジョン

少子高齢化、環境問題、経済格差、ジェンダーギャップ。これらの社会課題が深刻化する中、世界はパンデミックや終わりを見せない戦争、紛争の影響を受けています。多くの人々が未来に対して不安や悲観的な見方を持つ中、一方で「ユートピア」や「ディストピア」といった極端な未来のビジョンが語られることも。しかし、これらの枠を超えて、現代の課題に真正面から取り組む新しい未来のビジョンが提案されています。それが、ケヴィン・ケリーによる「プロトピア」という考え方。この記事では、プロトピアが示す未来への新しいアプローチと、それが私たちにどのような希望をもたらすのかを探ります。

         

少子高齢化が加速し、環境問題や、経済格差、ジェンダーギャップなどさまざまな社会課題が話題にのぼり、世界規模のパンデミックや終わらない戦争や紛争についてのニュースが飛び込んでくる昨今、未来について考えるとき、悲観的なビジョンを持ってしまう人は多いのではないでしょうか?

一方で、ベストセラーとなった書籍『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 』でも指摘された通り、データでみると、世界には少しずつですが確実に良くなっている側面も多々あります。

多くの場合、変化は急速ではなく、ゆっくりとじわじわと段階的に訪れるもの。そんな中で一直線にディストピアかユートピアかに至るのではなく、現状を定性、定量的に分析して得られた妥当な未来予測が必要になります。

そうした中で、「現実的な、良い未来」についてテックカルチャー・メディア『WIRED』の創刊編集長であり作家のケヴィン・ケリーが提唱したキーワードが「プロトピア(protopia)」です。

ケヴィン・ケリーが提案する「ユートピア」や「ディストピア」とは異なる「プロトピア」とは?

プロトピアとは、「前へ」「前方へ」というニュアンスを持つ接頭辞「pro-」に「架空の理想世界」という意味のユートピアを組み合わせた造語です。ユートピアとはつまり叶わない幻想であるわけですが、プロトピアとは幻の世界ではなく、手に入れられる現実の中で最も良い状態の場所、つまり現実的なゴールとなりうる場所という風に捉えることもできます。

プロトピアについてケヴィン・ケリーは以下のように語っています。


人間が目指すところは、ユートピアでもディストピアでもなく、あるいは現状維持でもなく、「プロトピア」だと思う。

プロトピアとは、ほんのわずかであっても、昨日よりも今日よりもよい状態である。プロトピアを視覚化することはきわめて困難だ。なぜならば、プロトピアは新しい利益と同数の新しい問題を含んでいる。このような有用と崩壊との複雑な相互作用を予測することは非常に難しい。

今日では、わたしたちは技術革新の否定的側面を十分に承知しているし、また過去のユートピアが約束したことにも失望している。だからプロトピア、すなわち明日は今日よりもよいということについても信じる気にはなれない。自分がそこで生活したいと思うような、何らかの未来を想像するのは非常に困難である。科学小説(SF)に描かれた未来で、妥当であって、しかも望ましいものをひとつでも挙げられるだろうか?


引用:テクノロジーの進化の先に、明るい未来が想像できないのなら:ケヴィン・ケリー | WIRED.jp

つまり、劇的な変化がなく、一進一退であっても、昨日よりも今日が、今日よりも明日が、「良くなっている」状態を維持した場合の未来予想図が「プロトピア」というわけです。

未来は一直線にやってこない。現実的で、今より良い未来を目指して

例えば、新型コロナウイルス感染症についても、感染を抑え込むことは難しく、何かしらの制限がある日々が続いています。ご存知の通り、パンデミックによって、映画で見るような人類滅亡の危機が訪れてもいませんし、あるいは、非常に効果的なワクチン、薬の開発でウイルスを打倒する、といっためでたしで終わりそうな解決には至っていません。

しかし、世界的なワクチン接種によって、重症化する割合が非常に少なくなっていたり、感染を抑制するためのテレワーク環境が整備された企業が増えたり、と少しずつさまざまなものごとは改善していっています。

未来を予想しようとすると極端な未来予想図を想定しがちですが、一直線に世界が変わってしまうような劇的な変化は現実ではなかなか起こりません。

そうした中で、わずかでも良いので、昨日よりも良い今日を、今日よりも良い明日を迎えるために、何が必要で何をしたら良いのか、に向き合わなければなりません。

そしてそのためには、データの収集や観察によって適切に昨日と今日の差分を評価する必要があるのです。

プロトピアとDX:VUCA時代の新しいアプローチ

VUCA時代とは、予期せぬ出来事が頻発し、未来が不透明で予測が難しい時代を指します。このような時代において、企業や個人が目指すべき未来を定義するのは容易ではありません。しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、この不確実性を乗り越え、新しい価値を生み出すための大きな変革の一手として注目されています。

DXの中心には、テクノロジーの活用がありますが、それだけでは十分ではありません。真の変革を実現するためには、人々の思考や行動、組織文化の変革が不可欠です。ここで「プロトピア」という概念が重要な役割を果たします。プロトピアは、劇的な変化を求めるのではなく、少しずつの改善を重ねながら理想の未来を追求する考え方を示しています。

このプロトピアの考え方をDXの取り組みに取り入れることで、組織やチームは共通のビジョンを持ち、一歩ずつ未来に向かって進むことができます。プロトタイピングを活用して、新しいアイディアやソリューションを迅速に試すことで、失敗を恐れずに変革を進めることが可能となります。プロトピアの精神とDXの力を組み合わせることで、VUCA時代においても持続的な成長と革新を実現する道が開かれるでしょう。

実現可能なより良い未来を目指して、まずは昨日より今日、何が良くなったのかを考えてみませんか?そしてそれを具体的に考える時に、「プロトピア」という概念はある種のヒントを私たちに与えてくれているのではないでしょうか。

(大藤ヨシヲ)

 

参照元

テクノロジーの進化の先に、明るい未来が想像できないのなら:ケヴィン・ケリー | WIRED.jp
Protopia — コロナ禍でも「現実的な良い未来」を目指して | EcoNetworks

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