2022年10月3日に開かれた第210回臨時国会にて岸田文雄首相は個人のリスキリングに対し、5年間で1兆円のパッケージで投資を行う指針を示しました。
ここ数年、「リスキリング」というフレーズを見聞きする機会は増加しました。「DX」や「人生100年時代のキャリア戦略」ともかかわりの深い概念であり、自分もリスキリングに取り組みたいと考える人も少なくないはずです。
本記事では、そんな方々にとって役立つリスキリング関連の用語やデータをご紹介します!
そもそも「リスキリング」とはどういう意味なのでしょうか? また、同じく最近よく聞く「リカレント教育」とは何が違うのでしょうか?
リスキリングとは、「新しい職業に就く、あるいは今の仕事で必要とされるスキルの変化に対応しキャリアを築くために必要なスキル・知識を獲得する・させること」です。
経済産業省の資料『リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―』において、リスキリングは「リカレント教育」とも「学び直し」とも違うものと説明されています。
「リカレント」(recurrent)は「周期的に起こる・循環する」という意味を持ち、「リカレント教育」は学校を卒業して就職した後必要に応じて再び教育機関に戻り、スキルを身につけて再び就職する……と学びを循環させることを指します。
リスキリングはキャリアを継続させながら、今後必要なスキル・知識を手にすることも含む点で異なります。
「学び直し」はキャリアにかかわらず個人が学びたいと思ったことを学習しなおすことを指し、実際、平成27年度の「教育・生涯学習に関する世論調査」(内閣府)で学び直したいことトップ3は「外国語に関すること」「医療や福祉(保育,介護など)に関すること」「日本や世界の歴史・地理に関すること」と、必ずしもキャリア形成にかかわるものばかりではありませんでした。
一方、リスキリングは「仕事で価値を発揮するために必要なことを学ぶ」ということを指向します。
リスキリングの関連用語には「アンラーニング」「アップスキリング」「アウトスキリング」などもあり、それぞれ以下のような意味を持ちます。
・アンラーニング:持っているスキルや知識のうち必要なくなったものを棄却し、新たに有効なスキル・知識を身につけること
・アップスキリング:現在と同じ領域でより高度な仕事に取り組むために必要なスキル・知識を身につけたり能力を向上させたりすること
・アウトスキリング:職業を失った人やそのリスクが高い人が、有効なスキルを身につけ新しいキャリアを形成できるよう支援すること
下記のグラフの通り、「リスキリング」の検索人気度は徐々に日本でも高まって来ており、第210回臨時国会が開かれた2022年10月頭には突出して検索されています。
※Googleトレンドを利用し、データ取得の上作成。期間は2020/10/25-2022/10/11/25。
リスキリングに対する注目の波が、岸田首相の発言を皮切りに一層高まったといえるでしょう。
リスキリングの意味や定義、注目度の高さについては理解できました。
それでは今、全体でどのくらいの割合の人々がリスキリングに取り組んでいるのでしょうか?
2021年11月、転職サイト「ビズリーチ」が発表した「リスキリングに関する調査レポート」によると、「現在リスキリングに取り組んでいますか?」という質問に「取り組んでいる」と回答したビジネスパーソンは54.8%でした。
「取り組んでいると回答した人」の内訳は、「個人で取り組んでいる」が40.3%、「勤め先を通じて取り組んでいる」が(9.4%)、「勤め先でも個人でも取り組んでいる」が5.2%です。
引用元:【リスキリングに関する調査レポート】即戦力人材の約5割が、既にリスキリングを実施 企業の9割以上が「年齢にかかわらず市場価値の向上につながる」と回答┃ビズリーチ
同じく転職サイトの『ミドルの転職』が2022年9月発表した「ミドル1700人に聞く「リスキリング」実態調査」で行われた同様のアンケートで「現在、リスキリングに取り組んでいる」と答えた人の割合はさらに低く、全体の31%となっています。
引用元:ミドル1700人に聞く「リスキリング」実態調査┃@Press
両アンケートで時期や数字に開きはあるものの、リスキリングに現在取り組んでいる人の割合は全体の3~5割程度というのはある程度確からしいと考えられるでしょう。
『ミドルの転職』の調査にて、現在リスキリングに取り組んでいる人々が回答した「リスキリングに取り組んでいる分野」を示すのが、以下のグラフです。
引用元:ミドル1700人に聞く「リスキリング」実態調査┃@Press
多く寄せられた回答トップ5は、1位「語学」(32%)、2位「ITリテラシー」(25%)、3位「データサイエンス・統計解析」(24%)、4位「デジタルマーケティング」(24%)、「AI・機械学習」(19%)です。
ザックリまとめると、「語学」と「IT」が現在のリスキリングの台風の目といえるでしょう。前述の経産省資料で、「DX時代の人材戦略=リスキリング」と位置付けられていることとも一致する傾向です。
ビズリーチの調査では「ITスキル」に絞った「身につけたいスキル」のアンケートが実施されており、そのトップ5は、1位「データ解析・分析」(62.5%)、2位「デジタルマーケティング」(34.6%)、3位「プロジェクトマネジメント(PM)」(31.8%)、4位「セキュリティ」(26.5%)、5位「プログラミング」(26.2%)でした。
引用元:【リスキリングに関する調査レポート】即戦力人材の約5割が、既にリスキリングを実施 企業の9割以上が「年齢にかかわらず市場価値の向上につながる」と回答┃ビズリーチ
「データサイエンス」や「デジタルマーケティング」が上位に位置づけられる傾向は両調査で一致しています。リスキリングがDX時代の人材戦略であるとするならば、データ人材やデジタルマーケターの需要がDX時代に高まっていることも納得ですね。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代において、企業の競争力を維持・強化するためには、従業員のスキルセットの再評価と更新が不可欠です。リスキリングは、この変革の中心に位置づけられます。DXの推進には、新しい技術やツールの導入だけでなく、それを活用する人材の育成が欠かせません。アンラーニング、アップスキリング、アウトスキリングとともに、リスキリングは、企業がDXの波に乗り、持続的な成長を達成するための鍵となります。
1兆円の投資により、今後ますます盛り上がることが予想されるリスキリング。まだまだ実際に取り組んでいる人が少ない今だからこそ、先駆けてはじめることをおすすめします!
「リスキリング」の定義や、実際にリスキリングに取り組んでいる人の割合、リスキリングで学ばれていることについてデータや政府資料にあたりながらご紹介してまいりました。
リスキリング時代の需要に応えて、語学やIT、データサイエンスにまつわる動画・テキストといった教材は無料のものも含めて充実してきています(たとえば以前書評した『データ分析のための統計学入門』もそのひとつ)。もちろん、本メディア「データのじかん」もその一助となるでしょう。
(宮田文机)
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